タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

過去

ベル・エポックでもう一度3

ベルエポック
製作:2019年 フランス・ベルギー 上映時間:115分 監督:ニコラ・ブドス

 自分が望む過去を映画撮影セットで再現する、と言う『体験型サービス』に、はまった老人の人生模様を描いたロマンティック・コメディーである。と言っても、タイムトラベル作品ではなく、あくまでも映画セットと俳優たちで過去を再現するサービスである。発想的にはなかなかユニークなのだが、ジャック・フィニイの『ふりだしに戻る』という小説の過去に戻る手法を参考にしたのかもしれない。

 進歩した現在を否定し、あくまでも過去に固執する元・売れっ子イラストレーターのヴィクトルは、今は職を失い妻にも見放されてしまう。そんな彼に孝行息子が、莫大な金がかかる『体験型エンターテイメントサービス』の招待券をプレゼントしてくれる。そしてヴィクトルが選んだ過去とは、愛する妻と巡り合った1974年のカフェであった……。

 序盤はなかなか興味深かい展開だったのだが、中盤以降は急にテンポが悪くなり、やや中だるみ感が漂い始めたのが残念であった。たぶん息子の友人でこの体験サービス会社を立ち上げたアントニーと、彼の恋人である女優の絡みが平行描写されたため、ストーリーの目的が分かり難くなってしまったからかもしれない。あくまでも本作では、ヴィクトルとその妻にだけに焦点を絞ったほうが、もっと感動を呼び込めたような気がするのだが……。


評:蔵研人

キッド4

製作:2000年 米国 上映時間:104分 監督:ジョン・タートルトーブ

 ブルース・ウィリス演じるところの主人公ラスは、イメージ・コンサルタントである。彼は著名人にイメージ・アップのためのアドバイスをして、かなり裕福な生活を送っている。
 だが金儲けに走り過ぎる彼は、余り人に好かれない。ただ同僚のエミリーには少しだけ好感されているが、恋人とまではゆかない微妙な関係だ。

 そんな彼の元に、ある日奇妙な少年が現れる。その少年の名もラスで、何となくどこかで見たような顔つきなのである。いろいろ話してみると、なんと少年は30年前のラス本人であることが分かる。
 少年はラスに向かって「将来の自分が、望んだ職業にもつけず、結婚もせず、犬も飼わないとは最悪だ」と言う。どのような方法で、何の目的でラス少年が現れたのかは不明である。また常に大空からラスを監視しているような小型飛行機の存在も謎であった。

 少年時代に同級生からいじめを受け、母親の死も自分のせいのように罵った父親。それらの嫌な過去を全て忘れ、必死になって勉強して今日の富を築いたラスだったが、人間として何かかが足りない。
 そう夢や希望がないのだ。そのことを大人のラスが少年のラスに教えられるのである。ラストは感動の涙が止まらない。実にディズニーらしい映画なのかもしれない。心温まるハートフルな映画であった。

評:蔵研人

青天の霹靂 小説

★★★☆
著者:劇団ひとり

 それにしても劇団ひとりは器用な男である。もともとは漫才師にはじまり、お笑い芸人、作詞家、俳優、作家、監督、脚本家と何足ものわらじを履き続けている。
 この小説については、タレントだから出版されたのかもしれないが、それにしてもなかなか味があって面白かった。だからこそ本人が準主役で映画化され、脚本と監督まで手掛けているのであろう。

 映画のほうを先に観て、その解説用も兼ねてあとで小説を読んでみた。ストーリーは、ほとんど映画と変わらないが、映画のほうは小説の登場人物を少し絞ってシンプルに仕上げており、ラストもかなり説明不足のまま終劇となっていた気がする。
 ただ先に観た映画のほうが感動的だったのは、先手有利という定石なのであろうか。いずれにせよ、234頁とそれほど長くないし、気取らず分かり易い文章なので、誰が読んでもあっという間に読破してしまうことだろう。
 なおストーリーの概略については、映画のレビューの中で触れているため、ここでは省略することにした。もしストーリーを知りたければこちらの記事を覗いてみて欲しい。

評:蔵研人

X-MEN:フューチャー&パスト

★★★☆

製作:2014年 米国 上映時間:132分 監督:ブライアン・シンガー

 基本的にシリーズものは余り観ないことにしているのだが、本作はサブタイトルが示す通り、タイムトラベルを扱っているので早速映画館で観ることにした。今回の主役も一応は、ウルヴァリンを演じるヒュー・ジャックマンなのだが、若き日のプロフェッサーを演じるジェームズ・マカヴォイと、ミスティークを演じたジェニファー・ローレンスも主役と言っても間違いないだろう。というよりウルヴァリンの活躍はかなり控え目だったような気がする。
 
 つまり現状の危機を打破するために、不老不死のウルヴァリンが過去に跳ばされて、過去の歴史を変える旅に出るのだが、そこで鍵を握るプロフェッサーとミスティークに遭遇すると言う設定なのである。さすがにタイムトラベル仕立てなので、いろいろと捻った展開になり易い。特にシリーズを通して観ていないとちょっと分かり難いのが、現在のマグニートーが味方であるのに、過去のマグニートーは敵に回ってしまうと言うことであろうか。

 暗い未来戦争や過去に戻ってそれを阻止しようとする展開には、なんとなく『ターミネーター』の臭いを感じたのは私だけであろうか。だんだんスケールが大きくなり過ぎて、ちょっと食傷気味だった本シリーズだったが、ラストでは全てがリセットされ、これからまたX-MENたちの個性を生かした新たなる活躍が期待出来るかもしれない。

評:蔵研人

パラレルライフ4

製作:2010年 韓国 上映時間:110分 監督:クォン・ホヨン

 リンカーンとケネディとは、かなり多くの共通点がある。まずリンカーンが初めて下院議員に当選した年は1846年で、ケネディは1946年と、ちょうど100年の違いなのだ。 さらにリンカーンが大統領に選ばれたのが1860年で、ケネディは1960年とこれも100年違いである。

 また二人とも黒人の人権問題と戦争に深く関わりがあった大統領でもある。そして二人とも金曜日に、銃で背後から頭を撃たれて暗殺されているのだ。またリンカーンが撃たれた場所はフォード劇場で、ケネディが狙撃された時に乗っていた車はフォード社製のリンカーンというダジャレのような真実。またダジャレといえば、リンカーンは暗殺される1週間前にメリーランドのモンローにいたし、ケネディのほうは、暗殺される1週間前にマリリン・モンローと一緒にいたという。そして二人とも妻の目の前で撃たれたのである。

 さらにリンカーン、ケネディともに、暗殺後に大統領を引き継いだのが、ジョンソンという名の副大統領だった。そしてそのジョンソン氏だが、リンカーンの後を引き継いだアンドリュー・ジョンソンは1808年生まれで、ケネディの後を引き継いだリンドン・ジョンソンはちょうど100年後の1908年生まれなのだ。さらにさらに、アンドリュー・ジョンソンはリンカーンの死の10年後に死亡し、リンドン・ジョンソンはケネディの死の10年後に死亡するという奇跡的な偶然が続く。

 さらに驚くべきことに、リンカーンの秘書の名はケネディで、ケネディの秘書の名はリンカーンなのだという、まるで嘘のような事実もある。そのうえリンカーンを暗殺したジョン・ウィルクス・ブースは1839年生まれで、ケネディを暗殺したリー・ハーヴェイ・オズワルドは1939年生まれと、こちらもぴったり100年差なのだ。
 まだまだある、暗殺後、ブースは劇場から逃走して倉庫で捕らえられ、一方のオズワルドは、倉庫から逃走し、劇場で捕らえられたという。さらにブースもオズワルドも、どちらも裁判が行なわれる前に暗殺されたのである。そのほかにもいろいろな共通点が存在しているという。

 前置きが長くなってしまったが、リンカーンとケネディのように奇跡的な偶然が重なり、まるで周期的に同じことが繰り返されるということが、この作品の骨格的テーマになっている。だがSFチックなタイトルとは全く異なり、スリラー仕立の韓国映画なのである。ちょっと分かりづらい部分もあるが、質の高い映画に仕上がっていると言えるだろう。ここでストーリーは余り語らないことにするので、まずは予備知識なしでこの作品をじっくり観てもらいたい。
 30年前の過去と現代の事件を結ぶ衝撃の結末に、暫くは放心状態が続くはずである。それにしても、この映画どこかで観たことがあるような気がする。それともデジャヴなのであろうか・・・。

評:蔵研人

エロス もう一つの過去4


著者:広瀬正

 アダルトなイメージを彷彿させられるタイトルだが、決してエロ小説ではないので念のため。タイトルは歌の題名なのである。
 著者の広瀬正氏は、タイムトラべルテーマにとりつかれた作家だつたが、残念なことに、1972年に、40代で鬼籍に入ってしまった。生前はジャズバンドのリーダーをしたり、オーディオに凝ったり、クラシッカーの製作を手がけたりと、多才な文化人だったという。

 彼の代表作は、タイムマシンがテーマになっている、『マイナス・ゼロ』というほのぼのとしたユーモアSFで、当時直木賞の候補にもなった。本作はSFといえるかどうか、わからないが、「もしあの時、こうしていれば、こういう別の過去があった」というお話で、これを『パラレルワールド』と考えれば確かにSFと呼べるかもしれない。

 ストーリーはかなり地味だが、いつもながら昔懐かしい、心暖まる昭和ラブストーリーだった。ある意味『マイナスゼロ』のサイドストーリーといっても良いだろう。
 確かに時代背景と場所と一部の登場人物は、『マイナスゼロ』と全く同じだった。それに少年時代の作者自身まで登場するので笑ってしまう。これら一連の流れも、一種の『広瀬流循環作用』なのだろうか。 

 もしあのとき、そうしていれば人生が変わっていたとは、誰もが一度は考えるに違いない。本作でも主人公の橘百合子(赤井みつ子)が、もし映画を観に行かなければ、歌手になれずヌードモデルになっていたというのである。それで現在・過去・現在・もう一つの過去・現在・過去…と小刻みに話が揺れ動いててゆく。もうひとつの過去のほうで、『マイナス・ゼロ』のタイムマシンで跳んだ時代と場所がリンクし、大工のカシラ一家と出会うことになるのだ。

 『マイナス・ゼロ』でも言えることだが、本作の見どころは、過去の分岐だけではなく、昭和初期の様子を余すところなく書き連ねていることだろう。それにしても広瀬正という人は、几帳面というか凝り性というか、当時の有名人から物価まで、念入りによく調べあげたものである。
 当時の市電やタクシーの状況、ラジオや初期の自動車、TVの開発、東京の家賃、ヒットした映画など生活に密着したデーターが満載。さらに阿部定事件から、二・二六事件、支那事変、東京オリンピック中止騒動など、次々と有名な事件が描かれてゆく。

 もちろんストーリー的にも十分面白いのだが、知らず知らずに「昭和東京史」の知識が身に付いてしまうのである。過去に『マイナス・ゼロ』の映画化が企画されたが、余りにも製作費がかかり過ぎるということで没になったという。今なら、『三丁目のタ日』のスタッフ達で映画化することも可能だろうが、知名度の点で実現はちょいと難しいだろうな・・・。
 ちなみに、主人公・橘百合子のモデルになった大物女性歌手とは、たぶん「淡谷のり子さん」なのではないだろうか。

評:蔵研人

イフ・オンリー 4

イフ・オンリー

製作:1998年 英国、スペイン 上映時間:92分 監督:マリア・リポル

 タイムトラベル専門ブログを主宰しているしょーすけさんの『浮浪雲のように』で知ったイギリス映画である。かなり面白い作品なのだが、なぜかDVD化されていない。あれこれ探した結果、運良くオークションで入手することが叶った。

 浮気したことをうっかり恋人のシルヴィアに告白し、即彼女に三行り半をつきつけられたヴィクター。終焉した恋を絶ち切れない彼は、シルヴィアの結婚式の前日、泥酔してゴミ箱の中で寝てしまう。
 それから不思議なゴミ収集人が現れて、魔法の呪文を唱えると、ヴィクターはシルヴィアと別れる直前の過去に戻っていたのだった。そこで彼はもう一度やり直し!。今度はシルヴィアを大切にし、浮気もやめるのだが・・・。

 時間の繰返しによって自分の人生をリセットする作品としては、『恋はデ・ジャヴ』や『タイムアクセル12:01』などがあるが、この作品でのやり直しは、たったの一回である。またとくにタイムパラドックス等にも言及していない。過去に戻るというのは一つの手法であり、どちらかといえば「人生をリセットしたらどうなるのか?」というテーマが主目的のようである。

 よくある手法ではあるが、人生は一筋縄ではゆかないのか、運命という定めには逆らえないのか、単純にハッピーエンドに終らないところに含蓄を感じてしまった。ラストシーンは皮肉めいているが、ある意味優しさを感じる展開でもある。またペネロペ・クルスのたどたどしい英語と、初々しいルックスも必見である。

評:蔵研人

シャッフル3

製作:2007年 米国 上映時間:96分 監督:メナン・ヤポ 主演:サンドラ・ブロック
 

 二人の娘と最愛の夫と共に、郊外の素適な家に暮すリンダ(サンドラ・ブロック)は、幸福の絶頂にあった。ところが出張中の夫(ジュリアン・マクマホン)が交通事故で急死し、いきなり不幸のドン底に叩き落されてしまう。
 突然の事態にパニック状態となり、疲労感でぐったりとなった彼女だが、不思議なことに翌朝目を覚ますと、死んだはずの夫がキッチンで朝食の支度をしていたのだ。夫は何もなかったかのように振舞っているし、子供たちも夫が生きていることに何の疑問も抱いていないのである・・・。

 あの事故は夢だったのかと思ったのも束の間で、翌朝目覚めると夫の葬式が待っていた。これは一体何事なのかと、彼女には事の成行きが信じられない。
 こうして目覚めるたびに夫が生きたり死んだりする。果して夢なのか誰かの仕組んだいたずらなのだろうか。結局のところ、一週間のうち毎日が順番に過ぎてゆかず、まるでカードをシャッフルしたように不規則に次の日が訪れるのだった。

 『恋はデ・ジャブ』や『タイムアクセル12:01』は、同じ毎日が繰り返され、『メメント』は過去から現在へと時間が繋がってゆくが、この作品では過去と現在がシャッフルされながら、時間は過去から現在へと流れてゆくのである。
 このように変則的に時間流を動かしてゆく作品は珍しく、なかなか楽しかったのだが、やはり前述した作品群の亜流に過ぎない。というのも、ストーリーそのものに深みがなく、主張したいテーマも感じられず、シャッフルというアイデアしか見えてこないからである。あえて言えば、「幸福も不幸も自分自身が生み出すもの」という教訓だろうか。

 またサンドラ・ブロックが適役だったかも疑問で、大味な彼女よりもメンタリティーな雰囲気を醸し出す女優は、他に大勢いると思うのだが・・・。さらにラストの展開は、余りにも正直過ぎるのではないか。もっとネットリとした恐怖感と、もうひと捻りが欲しかったな。大好きな時間テーマものだけに少し残念な気がするのである。

評:蔵研人

ターミネーター44

製作:2009年 米国 上映時間:114分 監督:マックG

 衝撃の『ターミネーター』が製作されたのが1984年。それ以降『ターミネーター2』、『ターミネーター3』と、いずれもアーノルド・シュワルツェネッガー主演であったが、いずれも第一作を超えることは出来なかった。
 本作ではシュワルツェネッガーは、主役ではなくCGでのチョイ役に過ぎない。また舞台もターミネーターが製造された2018年になっている。つまり過去の作品で断片的に描かれていた核戦争後の未来世界でのお話なのだ。

 当然主人公になるのは、人類の救世主となるジョン・コナー(クリスチャン・べイル)なのだが、時代背景は、コナーがまだ小隊のリーダーとして活躍している頃である。従って本作では、彼はまだ完全な主人公とは言えないし、余り魅力的な人物にも描かれていない。
 どちらかといえば、今回はサイボーグのマーカス・ライト(サム・ワーシントン)のほうにスポットライトが当たっていたようだ。そしてのちにジョンの父親となるはずの、カイル・リースとのからみがキーポイントとなる。

 シリーズものといっても、毎回味の異なる展開を繰り広げてきたターミネーターシリーズだが、とうとう未来編に突入し、これまでとは全く別作品のようなストーリーが始まった。
 本作ではバイクロボの「モトターミネーター」や、巨大ロボの「ハーヴェスター」、水中ロボの「ハイドロボット」など多数のマシンが登場しする。またアクション映画というよりは、戦争映画そのものといった趣きである。

 ターミネーターは、旧式のTー600型やシュワちゃんでお馴染みのTー800型が登場するが、『ターミネーター2』や『ターミネーター3』で登場した新型マシンはまだ製造されていない。
 今回はコナーがカリスマへの道を歩み始める迄を描いているだけなので、少なくともあと2作位の続編が製作されることは間違いないだろう。
 カイルが過去の世界へ行くこと、そしてターミネーター達がコナーの存在を抹殺しに過去へ跳ぶくだりで、過去の作品とどのようにリンクさせるのだろうか。そしてこの超大作をどのような形で収束させるのか。興味深々でゾクゾクする。続編が待ちどおしくて我慢できないぜ。

 その後シリーズ5作目として、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』が2015年に公開された。ところが、年老いたシュワちゃんが再びターミネーターとして登場するという以外は余り見所がなく、前作までのスタンスとは全く異なる作品となってしまった。
 ただ2019年11月には、シリーズの生みの親であるジェームズ・キャメロンが製作に復帰し、新作『ターミネーター:ニュー・フェイト』が公開されるので、なんとか期待を繋ぎたいものである。

評:蔵研人

八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。3

著者:天沢夏月

 舌を噛みそうな長ったらしいタイトルだが、まさに主人公の心象風景を全て吐露し尽くしているではないか。本書はSFというよりは、バリバリの学園恋愛小説である。ところが彼女が死んだ4年後に、過去の交換日記の空白に、新しい返事が綴られているのだった。そしてそこから再び『彼女との不思議な交換日記』が再開する、というファンタジックなお話なのである。

 もしかして彼女は死んでいなかったのか、それとも霊界からのメッセージなのだろうか。いやいややっぱり彼女は死んでいて、この交換日記は過去との「タイムメール」なのだろうか・・・。だとするとあの韓国映画『イルマーレ』そのものである。
 果たして主人公はこの交換日記で過去を変え、彼女を死から救うことが出来るのであろうか・・・。いろいろな疑惑と期待の中で、ストーリーは過去と現代を交互に紡ぎ始めるのだ。

 高校2年の夏休み直前、図書室で知り合った背の低い女の子は、主人公より先輩の3年生。しかも心臓が弱くて1年留年しているため、実際は2歳年上のお姉さんだった。ペースメーカーを装着している彼女は携帯を持てない。それで二人は昔ながらの『交換日記』を始めるのである。そして夏祭りの日に主人公が彼女に愛を告白し、二人はつきあい始めることになるのだった。

 それから二人にとっては、甘辛いラムネソーダのような40日間が流れてゆく。そして夏休みが終わる直前に、彼女が「海に行きたい」とはじめて我がままをいう。それが運命の別れ道となってしまうのだ。・・・・それから4年後、主人公はあのとき海に行ったことを、ずっとずっと後悔し続けていたのである。

 甘く切ないラブファンタジーである。もう少し私が若かったら★★★★☆でも良かったのだが・・・。だから少なくとも20歳以下の若い人たちなら、大感動するに違いないだろう。

評:蔵研人

マルホランド・ドライブ 4

製作:2001年 米国 上映時間:146分 監督:デヴィッド・リンチ 主演:ナオミ・ワッツ、ローラ・ハリング

 田舎町のジルバ大会をトリミングした、オープニングシーンが面白い。ちょっと太めの女の子がシャカリキになって踊りまくる。飛んだり跳ねたり、逆さまに飛びついたり、パンツが見えそうで見えない。
 このポジティブなダサさが、これから始まるネガティブな本編に繋がる入口かと思うと、とてつもないアンバランスさを感じる。だがそれこそが、デビット・リンチ監督の持味なのだろうか。

 マルホランド・ドライブとは、ハリウッドの街を見下ろす峠道のことである。ここで美貌の女性が急に車を止められ、車外に引きずり降ろされようとした瞬間、突然二台の暴走車が激突する。
 生き残ったのは、美貌の女性一人だけだった。彼女はフラフラしながらも、ハリウッドに向かって丘を下ってゆく。くたくたになってやっと辿り着いた街の標識を見ると、「サンセット大通り」と書いてある。そして彼女は人目を避けるため、おもわずある家に侵入してしまう。

 このあたり展開は1950年に上映された、『サンセット大通り』を彷彿させられる。さらにこのあとハリウッド映画界の実態を、赤裸々に描いてゆくスタンスも同様である。きっとこの映画は、『サンセット大通り』のオマージュとして製作されたのだろう。
 それにしても謎の多い映画である。おそらくこの映画を一回観ただけで、完全に理解出来る人はほとんどいないはず。従ってネットの中でも多くの解析ブログが出回っている。

 それらのいくつかを読んで、さらにDVDでその回答を検証し、やっとこの映画の全体像がみえてきた。一度謎が解けると、何の脈絡もないと思われていた幾つかのサイドストーリーも見事に繋がってくる。
 この映画を難解にした最大原因は、なんの断りもなく時間軸を逆転させたことにある。だが『メメント』のように細切れに裁断して逆行させている訳ではない。
 あの「ブルーボックス」を開けた瞬間に過去に遡ってしまうのだ。つまりここを境に時間が逆転する。ただ一筋縄でゆかないのは、時間だけではなくヒロイン二人の人格も逆転してしまうからであろう。

 現実と妄想、あるいは生と死と考えればよいのか、我々は知らぬ間にリンチの術中にはまってしまう。
 30年前に処女作の『イレイザーヘッド』を観たときには、その混沌たる映像と精神世界に驚愕したものである。この作品にはそこまでの異常性はないが、クラブ・シレンシオの描写には『イレイザーヘッド』に通ずる世界観を感じるはずだ。
 それにしても、ナオミ・ワッツの飽きれるほど抜群の演技力と、小ぶりだが美しいバストには、完璧に魅せられてしまったね・・・。

評:蔵研人


20世紀少年 全22巻+別巻2冊3

著者:浦沢直樹

 本作をタイムトラベル系の作品として紹介するのは、やや躊躇いがあったのだが、妄想的に過去と現代を行ったり来たりしているので、一種のタイムリープと考えてここで紹介することにした。

 それにしても浦沢直樹氏は、一体ポケットをいくつ持っているのだろうか。『YAWARA!』、『MASTERキートン』、『MONSTER』、『PULUTO』、そして本作『20世紀少年』と、全く毛色の違ったヒット作を、次々と書き続けている。天才というのか、感性豊富というベきか、あるいは努力家なのだろうか。
 ほぼ共通しているのは、登場人物が多く謎を小出しにし、しつこくそれを追いかけるというパターンであろう。あとローマ字のタイトルが好きだということかな・・・。それから長編物に限れば、話をどんどん広げてしまい、最終回になって急にボルテージが下ってしまう悪いクセもある。

 本作にもその傾向が現れていて、主人公と思れる人物が何人も登場する。つまり群像劇なのだ。最初はケンヂ、次がオッチョで、カンナへと繋いでゆく。そして時々「ともだち」が顔を出す。そんな具合で、最後は誰が主人公なのか判らなくなってしまった。
 そしてストーリーは、少年時代と現在をいったり来たり・・・。このような手法は、白土三平の『カムイ伝』そのものであり、浦沢氏も多分その影響を受けているのだろう。

 また『鉄人28号』もどきのロボットが登場するところから、ここで描かれている少年時代とは、昭和30年頃と推測される。浦沢直樹氏の年令からすると、まだ彼が生まれて間もない頃である。後に描かれる『PLUTO』も、『鉄腕アトム』のオマージュだから、同じく昭和30年頃のマンガの影響を受けているのだ。団塊の世代であれば分かるのだが、なぜもっと若い彼が、この時代に興味を持つのか聞いてみたいものである。
 この時代の東京は、車も少なかったし、土地も安かった。それであちこちに空地が沢山あり、三角べースの野球をしたり、キャッチボール等をしたものである。
 このマンガの主人公達も、そんな原っぱの空地で、隠れ家ゴッコをしていた。そしてそこで生まれた荒唐無稽な空想が、大人になって次々と実現されてゆくという展開なのだ。

 まず先に述べた『鉄人28号』もどきのロボット、細菌による世界壊滅、東京での万博開催などなどが、次々と現実のものとなる。これらの事件の主犯と思われるのは、「ともだち」と呼ばれる新興宗教の教祖で、ケンジたちの少年時代の友人なのである。だから少年時代に謎を解く鍵があり、それを現在起こっている事件と結びつけてゆく。
 少年時代の描写は、まるで『スタンド・バイ・ミー』の世界であり、自分の少年時代とも重なって、懐かしさが竜巻のように蘇ってくる。ちょうど同じ頃『三丁目のタ日』などのレトロブームが起こり、団塊の世代たちが小躍りしたマンガであろう。

 このマンガは、全22巻でやっと終了した。ところがその終わり方が、夜逃げをしたようで、すこぶる評判が悪いのだ。どうみても、無理やり店じまいをしたとしか思えない。
 新作『PLUTO』に早く乗り換えたくなったとも噂されている。これだけ引っ張ったのだから、ラストにはもっと感動的な「再会シーン」を用意して欲しかったよね。

 殊にこのマンガの大きな謎である「ともだち」の正体が、不明のまゝ終了した事には、強い疑念と不快感を表明したい。売れっ子マンガ家の悲哀というのか宿命というのか、浦沢氏に限らず強引に引き伸ばしたと思ったら、急に打ち止めという長編マンガが多いよね。
 せっかく楽しく読ませてもらっても、これでは水の泡である。大体10巻位で終了するような構成が一番艮い。そういう意味では、岩明均の『寄生獣』を見習って欲しい。このマンガは引き延ばそうとすれば出来たものを、きちっと無理なく10巻で完結させているではないか。

 また出版社側も営業第一だけではなく、もう少し読者と作品を大切にする心を育んでもらいたいものである。そういった不満が多かったせいか、その後別巻の上巻が発行された。これを読む限り、なるべく読者の不満を解消しようとする気配を感じた。
 ああ良かったと思ったのだが、そのあとに発行された下巻を読んだところ、まだ奥歯にものの挟まった状態に逆戻りなのだ。どうして浦沢直樹という人は、もったいぶるのが好きなのだろうか。彼は何のための上下巻追加発行だったのかを、全く理解していないようだね。それともこれが彼の限界なのだろうか。

評:蔵研人

時間街への招待状4

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著者:亀和田武

 なんとロマンチックで、ファンタジックな響きを持ったタイトルなのだろうか。絶版になってしまった古い本だが、是我非でも読みたいという欲望に駆られてしまった。
 そこであちこちの古本店を探したが、なかなかこの本に巡り逢えない・・・。諦めかけていたとき、偶然ブック・オフでこの本を見つけた時は、思わず小踊りしてしまった。

 著者の亀和田武は、かなり昔に『劇画アリス』というエロ漫画雑誌の編集長をしていた時期がある。当時この雑誌は、自販機販売という画期的な販売方法を取り入れ、エロ御三家としてマニアの間では評価の高いエロ漫画雑誌だった。
 それらは、全て若かりし日の亀和田の手腕と人脈によるものだという。その後彼は、当時流行していたSF作家になり、その後ワイドショーのコメンテーターのような仕事もしていたようである。

 彼の作品は、ほとんどが短編であり、幻想的でシリアスなタッチと、荒唐無稽なドタバタ調の二つの味がある。シリアスなほうは、まるで文学青年が書いた私小説ような感じがして、とても清々しい味がする。それでなんとなく彼が寡作だった意味も分かった。
 さて本書は、わずか281頁の手軽な厚さであるが、その中には超短編も含めて、15編の作品が掲載されている。そのうち時間テーマSFと呼べるものは、『1966年冬、ハートブレイク・ホテル』、『時の因人』、『嫌われ者のルーツ』、『時間と街路』の4作だけである。

 『時間街への招待状』というタイトルから、全ての作品が時間テ一マSFだと思い込んでいたので、期待を外されてしまった。しかしながら、時間テ一マ以外の作品にも、かなり傑作が含まれていたので許すことにしよう。
 ことに、『海獣島』、『目覚めよと呼ぶ声あり』、『ア・ロング・バケーション』が、私のお気に入りである。時間テ一マのほうは、『時の因人』、『嫌われ者のルーツ』が、ドタバタ調で、『1966年冬、ハートブレイク・ホテル』、『時間と街路』がロマン私小説風という感じだ。
 私の趣味は、後者の二作のほうである。ともに青春時代に失った彼女への思いが、現在に繋がってくるお話だが、ストーリーとして優れている『時間と街路』より、むしろ『1966年冬、ハートブレイク・ホテル』のほうを選びたい。前者は切なくて心を打たれるものの、後者の「これから何かが変わりそう」な結末が好きだからである。

評:蔵研人

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