
製作:2020年 台湾 上映時間:119分 監督:チェン・ユーシュン
本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。
著者:藤崎翔
著者の藤崎翔はお笑い芸人だったが、6年間活動した後にお笑いコンビを解消。その後バイトをしながら小説を執筆し、様々な文学賞に応募を続ける。そして4年後の2014年にはじめて書いた長編ミステリー『神様の裏の顔』で第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞して小説家デビューを果たす。 という苦労人タイプの小説家である。
本作は勉強嫌いでおっちょこちょいな笹森陽太と、学力抜群の相沢がコンビを組んで犯人探しをする学園ミステリーである。そしてストーリーは笹森の「俺」という一人称視点の軽いコミカルタッチで、まるで高校生の日記の如く飾り気なしにテンポ良く進んでゆく。なんとなくお笑いコントネタを小説にした感があるのだ。
さて主人公の笹森は、勉強も出来ないしスポーツもダメで、気が弱くていつも便利屋としてこき使われているのだが、ある日自分に特殊能力が秘められていることに気付く。その特殊能力とは、なんと「ひょっとこのような変顔をし、息を止めている時だけ時間を止めることが出来る」という信じられない超能力だった。
ただこんな動作は長続きしないため、時間を止めると言ってもせいぜい30秒くらいだ。だから時間を止めて、誰にもバレないうちに出来ることは殆どなかった。せいぜい女の子の後ろに回って時間を止めて、ちょこっとだけオッパイをもみもみする程度だけだろう。そう考えた笹森はさっそく意中の女子2人に対してもみもみ作戦を開始するのだが・・・。いずれにせよ、時間停止能力がつまらないことばかりに使われていて、もう一捻りが足りないところが非常に残念であった。
評:蔵研人
製作:2016年 韓国 上映時間:130分 監督:オム・テファ
母親が事故死して義父と一緒に離島で暮らすことになった小学生少女スリンは、新しい学校に馴染めず変人扱いされていた。ただ両親を亡くし施設に入所している少年ソンミンとだけは心を通わせることが出来た。
ある日ソンミンの友達と一緒に立入禁止区域内にある洞窟に潜入し、そこで奇妙な卵のようなものを見つけるのだが・・・。スリンが洞窟から戻る前に、3人の少年たちがそれを割ると時間が止まってしまうのであった。
数日前にやはり時間が止まってしまう『初恋ロスタイム』という邦画を観たばかりである。しかしながら、映像の美しさ、時間が止まった風景、綿密に練り込まれた脚本と、どれをとっても本作のほうが断トツに優れているではないか。
さらに本作では時間を取り戻した後の「浦島太郎状態」がメインテーマであり、ファンタジーでありながら、世間での現実的かつ常識的な対処と主人公とヒロインの葛藤を巧みにブレンドしている。まさにこの分野では、韓国映画の面目躍如と言ったところだろうか。ただ穏やかでリリカルなラストシーンも悪くはないのだが、余りにも切な過ぎて感動の涙を流せなかったことだけが心残りである。
評:蔵研人
製作:2006年 英国 上映時間:102分 監督:ショーン・エリス
現在はもう閉館になっているが、当時東京でこの作品を上映していた映画館は、渋谷QーAXシネマだけであった。この映画館は、カフェスタイルの飲食店が同居し、2つのスクリーンを持つユニークな映画館だったのだが、残念ながら僅か数年で閉館となってしまった。
理由は定かではないが、駅からやや遠いこと、周囲にラブホテルが多いことなどが難点だったのかもしれない。しかし小綺麗でお洒落な雰囲気と、音響・映像においては、当時最高水準のTHXを採用していたようである。
さて本作上映時には、264席ある館内は、ほぼ満席であった。これはこの作品に対する注目度なのか、映画デーの特別割引のお陰なのか、単館上映だったためなのかは不明である。
そもそもこの作品は、2006年のアカデミー短編実写賞にノミネートされた18分の短編作品だった。それを商業べースで上映するために、102分に引き伸ばして再製作したのだという。
当初の短編映画を観ていないので、比較は出来ないものの、やはり多少違和感を感じてしまった。
おそらくスーパーの店員たちの「おふざけドラマ」や「少年時代の回想」などが追加シーンなのであろう。「少年時代の回想」はともかくとして、店員たちのドタバタシーンがなければ、この映画はもっと芸術的かつ幻想的な作品に仕上がっていたはずである。
失恋のショックで不眠症に陥り、時間の概念にひずみが生じる。そしてあるとき、スーパーマーケットの中で、自分以外の時間が止まってしまう。
そこまではとても秀逸な発想であり、時間が静止したときの映像も、二次元世界のようで幻想的だ。フォトグラファーである監督の手腕が、十分に発揮されたシーンであった。
そして、最初はレジのおばさんにしか見えなかったシャロンが、だんだん美しくなってゆく。主人公の心の動きと、観客の視線を同調させたテクニックは実に見事である。
だが、ファンタジーを、エロティックコメディーへとチェンジしてしまった感性はいただけない。ところどころで少数の人が、大声で笑うのだが、観客のほとんどはしらけ切っていた。
ラストになって、今度はロマンチックなラブストーリー仕立てに軌道修正し、そこで観客の冷めた気持ちを温めて、ジ・エンドとなる。
なんだか狐につままれた気分だが、「良い映画だったな」と満足して帰路につく観客たち。だが冷静に考えると、やはりなにか歯車が絡み合わない気がするのだ。
評:蔵研人