タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

時間

夏へのトンネル、さよならの出口

夏へのトンネル、さよならの出口

★★★☆
アニメ 監督:田口智久

 長ったらしいタイトルだが、『夏へのトンネル』の部分は、多分ロバート・A・ハインラインの小説『夏への扉』のオマージュなのであろう。と言うことは、ぼくの大好きなタイムトラベル系のストーリーと言うことになる。だから小躍りしながら本作を鑑賞してみた。

 ウラシマトンネルに入ると、なくしたものがなんでも手に入るという。ただしトンネルの中と外の世界では時間の進み方が大きく違っている。まさに竜宮城から帰った浦島太郎が、未来の世界に来てしまったのと同じことが起きるのである。だからトンネル内ではウロウロしていられない、急いで欲しいものを探し、全速力で戻らなければならないのだ。

 主役は掴みどころがなくぼやっとしているように見え、いつまでも過去の事故を心の傷として抱える高校生・塔野カオルと、不愛想だが芯の通った態度を貫きながらも、理想像を求める女子高生・花城あんずである。
 まず駅での二人の出会いに始まり、転校生ながらいじめっ子の同級生に強烈なパンチを見舞うあんずの行動に度肝を抜かれだろう。そしてカオルがみつけた謎のウラシマトンネルにもドキドキしてしまう。

 ただそれ以外にほとんどストーリーが無く、というよりストーリー間の繋がりが見つけられず、いつも二人だけの世界に閉じこもっているため、余り深みを感じられなかったのが残念である。だから終盤になってウルウルしたものの、激しい涙の嵐には遭遇しなかった。そのあたりの修正と、ラストのどんでん返しを用意できたなら、もっと素晴らしい作品に仕上がったと思うのだが……。

評:蔵研人

タイム・ダイレイション-死のベッド-3

タイム・ダイレイション

製作:2016年 カナダ 上映時間:88分 監督:ジェフ・マー

 なんとなくタイムトラブル系を連想させる邦題だが、時間差のある電話ということを除けば、昔の呪いが込められた古いベッドの話と言うだけで、SF味はほとんどしないホラー作品であった。それなら原題の『BED OF THE DEAD』のままでよかったのに。
 なにやら騙された気分で少しムカムカする。また1996年に製作された韓国映画に『銀杏のベッド』という作品があったが、なんとなくそのパクリのような気がしたのは私だけであろうか。

 ストーリーは単純で、風俗宿で乱交パーティーを企んだ4人だったが、巨大な古めかしいベッドに横たわると、それぞれが次から次へと奇妙な幻覚を見て怪死してしまう。そして生き残った女性が携帯から警察に通報するのだが、電話を受けたのは彼女の時間とは2時間の時差があり、彼女は火災にあって既にベッドの上で死んでいるというのだ。というようなストーリーで、ほとんどがベッドの周辺で展開してゆく。

 まあB級ホラーと言ってしまえばそれまでだが、それほど怖くもなくエロ度も薄いので、彼女と観てもいいかもしれない。そしてあのラストシーンだけは、まさにB級ホラーの王道だね。ところでベッドは燃えたはずじゃなかったの……。
 
 
評:蔵研人

TENET テネット

テネット
★★★☆
製作:2020年 米国 上映時間:150分 監督:クリストファー・ノーラン

 突然ウクライナ・キーウのオペラハウスにおけるテロリストによる立て籠り事件が勃発するシーンから始まる。オペラハウスに集まっている大勢の観客たち、このエキストラ数だけでも驚かされるのにだが、いきなり舞台でドンパチが始まり観客全員がガスで眠らされてしまい、その後この巨大劇場は大爆破されてしまう……とにかく圧巻圧巻としか言いようがないオープニングなのだ。
 だがこれが何のために仕組まれたのか、一体首謀者は誰なのかもよく分からないまま、全く異なるシーンへ移動してしまう。今度は鉄道の操車場で椅子に縛られた男が拷問を受けている。ところが男は敵の目を欺き、自殺してしまうのだが……。なんと次のシーンでその男はベッドの上で目覚めているではないか。とにかく観客に次々に謎を振り撒きながら、どんどん次のシーンへとコマ送りされてゆく。

 そしてオープニングのオペラハウス襲撃の真相が、「プルトニウム241」を奪取したCIAスパイを暗殺するための偽装工作だったと解明されるのが上映50分後というサービスの悪さにも辟易してしまうだろう。
 そんなことはさておいて、超美麗な映像や景色に加えて、さらに激しいアクションシーンが続く。大型飛行機の暴走と爆発、消防自動車と大型トラックを絡め、逆走カーチェイスまで飛び出してくるのだ。だがこの映画を単純なアクション映画と思ってはいけない。

 じつはタイトルのTENETとは、第三次世界大戦を阻止する為の謎の存在であり、オペラハウスで奪ったプルトニウムの正体は未来人が作り出した時間逆行装置の「アルゴリズム」の1つなのだという理論物理学が散りばめられているのだ。また各所に大規模アクションシーンが織り込まれてはいるものの、登場人物の相関関係もよく分からないばかりか、ストーリー自体や本作を構成する世界観もいまひとつ理解できないまま、どんどん上映時間が消化されてゆくのである。

 そしてなんと上映120分後に、やっと事態がはっきりと見えてくるのだ。ただ「時間挟撃」という概念を含むラストの戦闘には多くの観客がかなり混乱することは間違いないだろう。難解な世界観と派手なアクションとの融合ということでは、あの『マトリックス』を彷彿させられる。またストーリーのコアとなるものが結末となる構成というしかけでは『メメント』に近い作品とも言えるかもしれない。
 だがはっきり言って本作はストーリー自体に全く面白みを感じないし、理解すべく解釈論が余りにも面倒くさいのだ。まあ一部のマニアックなファンには賞賛されるかもしれないが、たぶん観客の90%以上は置いてけぼりを喰らったと思われる「超難解映画」であった。


評:蔵研人

かがみの孤城5

tt@nk

著者:辻村深月

 不登校の少年少女たちを描いた社会派小説なのだが、『不思議の国のアリス』を思わせるような鏡の中の世界が舞台になっているファンタジーのようなノリで本作を読み始めた。なお本作はすでに漫画化され、舞台公演も終わり、アニメ映画も上映され、なんと累計発行部数は200万部を楽に突破し、本屋大賞も受賞している大ヒット作なのだと付け加えておこう。

  中学1年生の女子・安西こころは、同級生からのいじめが原因で不登校が続き、子供育成支援教室にも通えず、ひとり家に引き籠もる生活を続けていた。そんな5月のある日のことである、突然自分の部屋にある大きな鏡が光り出し、その中に吸い込まれてしまう。
 そこはオオカミさまという狼面をつけた謎の少女が仕切る絶海の孤城で、自分と同じような悩みを抱える中学生リオン、フウカ、スバル、マサムネ、ウレシノ、アキの6人が集まっていた。そしてオオカミさまは、「この孤城の中に隠された『願いの鍵』を見つけた1人だけが願いの部屋へ入ることができ、どんな願いでも叶えられる」のだと説明するのだった。

 この孤城以外の現実世界では、いじめにあって不登校になっている少女・こころの心象風景を黙々と描いているのだが、なぜ突如として鏡の中の孤城というファンタジックな世界が出現したのであろうか。もしかするとこころの心の中で創造された世界なのだろうか、と考えていたのだがどうもそうではないようだ。
 またこころ以外の6人の少年少女たちは、なぜこの弧城に集められてきたのだろうか。だがどうして彼らは現実世界では会うことができないのか。それに6人は日本に住んでいるのに、なぜリオンだけがハワイに住んでいるのだろうか。
 また『願いの鍵』と『願いの部屋』は孤城のどこにあるのだろうか。さらには本当にどんな願いも叶うのだろうか。それにあのオオカミさまはなぜ狼面をつれているのか、そして彼女の真の正体は……といろいろ謎がバラ撒かれていて興味が尽きない。

 そしてエンディングでは、全く予想外のどんでん返しが用意されており、これらの謎がすべて解明される。それだけではない、涙・涙・涙の三度泣きで感動の渦に巻き込まれてしまうのだ。とにかく震えが止まらないほど見事なエンディングであり、ファンタジー・ミステリー・社会派ドラマ・愛情物語の全ての要素を取り込んだ素晴らしい小説だと絶賛したい。


評:蔵研人

ぼくは明日、昨日のきみとデートする3

ぼくは明日、昨日のきみとデートする

著者:七月隆文

 この小説を読む7年前に、すでに映画のほうを先に観ている。配役は福士蒼汰と小松菜奈でピッタリと息の合った演技をしていたと思う。その後この原作本を購入したのだが、どうした訳かタイミングが合わず、7年間も書棚に置き去りしたままだった。

 映画を観たときはかなり感動して涙が止まらなかったのだが、なぜか原作のほうは全く涙腺を刺激されなかったのだ。文章がやさしく読み易いのだが、「時間が逆行している」というイメージがどうしても浮かばないからかもしれない。
 逆に映画のほうはその難問を巧みに映像でカバーしていたのである。つまり小説は心理的な部分の描写に長けているが、説明的な部分の描写は映像のほうが長けていると言うことなのだろうか……。
 そうしたことからも、まさにこの小説こそ映画向きだったのかもしれない。いずれにせよ、だいぶ前に観た映画なので、もう一度観て確認したくなってしまった。

評:蔵研人

イニシエーション・ラブ

イニシエーション・ラブ [レンタル落ち]
★★★☆

著者:乾くるみ

 イニシエーションとは「通過儀礼」のことである。従ってタイトルの『イニシエーション・ラブ』とは永遠の恋ではなく、大人になる前の一時の恋ということになるのだろうか。また本書はバリバリの恋愛小説だと思っていたのだが、実は「必ず二回読みしたくなる」と絶賛された傑作ミステリーであった。
 本書の裏表紙にある内容紹介文には、「甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説----と思いきや、最後から二行目(絶対先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。」と綴られているのである。

 これは一体何を意味しているのだろうか、ネタバレになるのでここでは解説は避けることにするが、いくつかのヒントだけ紹介しよう。第一のヒントはこの小説のタイトルである。そして第一章、第二章という区分ではなく、かつてのカセットテープのようなside-Aとside-Bという区分も意味深ではないか。さらにside-Aではしつこいくらい細かくじっくりと丁寧な描写に終始しているのだが、side-Bではテンポの速い展開に変化しているのだ。
 また本作はタイムトラベル系の小説ではないのだが、時系列をゆがめて描いているため、二度読みが必要だということ……。まだほかにも矛盾することがいろいろあるのだが、これ以上記すとネタバレになってしまう恐れがあるのでこのへんで止めておこう。

 なお本作はなかなか映像化し難い部分があるのだが、なんとそれを巧みに凌ぎながら2015年に映画化されているようである。ちなみに監督は堤幸彦で、主演は松田翔太と前田敦子になっている。機会があったら是非観てみたいものである。

評:蔵研人

心にとって時間とは何か2

心にとって

著者:青山拓央

 興味深いタイトルとデビュー作『タイムトラベルの哲学』が読み易く面白かった印象が強かったため、有無を言わず本書を手にしたのだが…。残念ながら本書はかなり読み辛く、内容についても「抽象論」に明け暮れ、「今」についての執拗な解釈論を展開するばかりで全く引き込まれないのだ。また残念ながら、タイトルの匂いを感じるような文章は、最後の数ページにしか見当たらなかった。

 さて『タイムトラベルの哲学』は、著者がまだ大学院に在籍時に「哲学をブレンドしたタイムトラベル論」を、気取らずのびのびと記したためか、実に分かり易く面白かった。ところがそれから17年後に本書を記した頃は、結婚し京都大学の准教授となり、かなり驕りや気取りが見え隠れしている感がある。それが本書をつまらなくしている最大の原因かもしれない。

評:蔵研人

不思議の扉 時間がいっぱい

★★★☆
編者:大森望

 翻訳家・書評家でとくにSFに造詣の深い大森望氏が選んだ「時間テーマ」ものの短編小説7編が収録されている。その中身を並べると次のようになる。

「しゃっくり」著者:筒井康隆
 時間が何度も繰り返すお話なのだが、一人だけではなく全員の記憶が残っているところがユニークである。ただ1966年に発表されたものなので、やや陳腐化してしまった感が否めない。

「戦国バレンタインデー」著者:大槻ケンヂ
 ゴスロリ少女が戦国時代にタイムスリップし、そこで同年代のお姫様と意気投合という軽くてポップなお話である。

「おもひで女」著者:牧野修
 幼い頃の記憶の中に恐ろしい女が立っている。その女は時間の中を少しずつ現在に向かって近づいてくる。といった恐ろしい記憶ホラーの傑作であり、本書の中では一番面白かった。

「エンドレスエイト」著者:谷川流
 本書の中では一番長く、他の短編の2倍以上あるのだが、正直一番退屈であった。内容はタイトルの如く夏休みの8月17日から31日までを1万回以上繰り返す話なのだが、読者にはその感覚が全く伝わらず著者だけの独りよがりな感がある。

「時の渦」著者:星新一
 時間が過去に向かって空転しながら、人間だけを回収するという摩訶不思議なお話。初出は1966年だが、全く古くささを感じない。さすがショートショートの名手である。

「めもあある美術館」著者:大井三重子
 摩訶不思議な美術館での出来事を綴った児童文学の名作。

「ベンジャミン・バトン」著者:フィツジェラルド
 産まれたときは老人で、だんだん若くなり最後は赤ちゃんから無にというベンジャミン・バトンの生涯を駆け足で描いた小説。どちらかと言えば、ブラッド・ピット主演の映画のほうが印象的である。

評:蔵研人

時間は存在しない3

時間は存在しない

著者:カルロ・ロヴェッリ 翻訳:冨永星

 下記のような丁寧な構成になっていて、読み易いのだが、読めば読むほど難解になってきて、ほぼギブアップ状況のまま無理矢理完読してしまったかもしれない。

もっとも大きな謎、それはおそらく時間
第一部 時間の崩壊
 第1章 所変われば時間も変わる
 第2章 時間には方向がない
 第3章 「現在」の終わり
 第4章 時間と事物は切り離せない
 第5章 時間の最小単位
第二部 時間のない世界
 第6章 この世界は、物ではなく出来事でできている
 第7章 語法がうまく合っていない
 第8章 関係としての力学
第三部 時間の源へ
 第9章 時とは無知なり
 第10章 視点
 第11章 特殊性から生じるもの
 第12章 マドレーヌの香り
 第13章 時の起源
眠りの姉
日本語版解説
訳者あとがき
原注

 著者はイタリア生まれの理論物理学者で、現在はフランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で量子重力理論の研究チームを率いている。
 本書では、「時間はいつでもどこでも同じように経過するわけではなく、過去から未来へと流れるわけでもない」という驚くべき考察を展開している。だがそれにもかかわらず、私たちが時間が存在するように感じるのはなぜなのか。
 その答えを物理学ではなく、哲学や脳科学などの知見を援用しながら論じているところがユニークである。だがその辺りが本書を難解にしている源なのかもしれない。

評:蔵研人

初恋ロスタイム3

製作:2019年 日本 上映時間:104分 監督:河合勇人

 仁科裕貴の同名小説を原作にしたファンタジーロマンス作品である。主人公:相葉孝司は、ある日突然時間が止まるという現象に遭遇してしまう。ところが公園内で自分以外にもう一人、時間の動いている女子高生:篠宮時音に出会うことになる。時間が止まるのは、いつも12時15分から1時間だけであり、二人はこの1時間を『ロスタイム』・・・おまけの時間と命名した。

 そもそも孝司は何事にも消極的で、すぐに諦めてしまう無気力浪人生なのだが、時音と出逢ったことで少しずつ気持ちが変化してゆく。だが時音と逢えるのは、いつも時間が止まった1時間だけだった。それで孝司が「時間の動いている時にも逢おう」と提案すると、なぜか時音はあっさり断ってしまうのだった。そしてもう逢えないというのである。

 ここまで観て、これは面白そうな映画だと直感したのだが、残念ながらその後の展開が実に退屈であった。彼女が逢えないと断った理由は、ウィルソン病という難病に侵されて、あと半年しか生きられないからだったのである。
 なんとこの辺りから急にファンタジーロマンスが、難病ラブストーリーにチェンジリングしてしまったのだ。難病ものと言えば古くは、『愛と死を見つめて』、『ある愛の詩』、『世界の中心で、愛をさけぶ』などなど、もうお腹が一杯でこれ以上は食べたくないのである。

 また時々登場する竹内涼真が演じる青年医師の正体が、孝司が成長した姿なのかと思い込んでいたら全く別人であり、何気に拍子抜けしてしまった。そして彼と彼の妻は、孝司や時音と同じく「時間が止まる経験」をした過去を持っているというのだ。だこの青年医師:浅見一生は、映画だけのオリジナルで原作には登場していない。そして登場している意味も余り感じられなかった。

 それからせっかく時間が止まっているのだから、それを利用した出来事がトラックの事故回避だけだったのも淋しいよね。また私の好みかもしれないが、ヒロインがもう少し可愛いくて、逆に主人公がイケメンでなければ、もう少しのめり込むことが出来たであろう。だから本来大泣きするはずのラストシーンでも、なぜか一滴の涙も流れなかったのであろうか。

評:蔵研人

時の罠

★★★☆
著者:辻村深月、万城目学、米澤穂信、湊かなえ

 『時』をテーマにした4人の作家によるアンソロジー、と聞いて飛びついたのだが、私が期待したタイムトラベルものではなかった。初出誌はいずれも『別冊文藝春秋』で、タイムカプセルがらみの作品が2つ重なっているし、どちらかと言えば『時間の経過』をテーマにしたような話ばかりだった。

 まあだからと言ってつまらなかった訳ではなく、そこそこ楽しめたのでここにその四作の内容を簡単に記しておきたい。
タイムカプセルの八年  著者:辻村深月
 四作の中では本編が一番長編で、かつ一番出来が良かった気がする。さすが人気の辻村深月である。テーマのタイムカプセルよりも、いつまで経っても大人になり切れない『人見知り・事なかれ親父』の心情と家庭の事情を、面白おかしく上手に描いている。
トシ&シュン  著者:万城目学
 縁結びの神様が学問の神様の手伝いをするという荒唐無稽なお話。それの何が時間テーマに繋がるのかと言うと、神様と人間の時間間隔の違いと言うところかな・・・。
下津山縁起  著者:米澤穂信
 下津山の大規模土地開発にからむ出来事を2000年間に亘って語り紡いでゆくお話。出来が悪いわけではないが、四作の中では一番短編なのだが退屈だった作品でもある。
長井優介へ  著者:湊かなえ
 本作もタイムカプセルがらみの作品なのだが、主人公の耳が悪くて三秒後にしか相手の声を聴くことが出来ない。それが原因で相手に誤解を与えてしまい、いじめにあったこともある。だがある人にもらった『お守り』のお陰で無事成長することが出来た。その『お守り』とは一体何だったのか。実はタイムカプセルの中に封印してあったのだ。さすが実力派の湊かなえである。辻村深月作品といい勝負だね。

評:蔵研人

タイム・トラップ

★★★☆
製作:2017年 米国 上映時間:87分 監督:マーク・デニス  ベン・フォスター
 
 数十年前に失踪した両親を捜すため、考古学のホッパー教授が、『若返りの泉』があるという秘密の洞窟の中に侵入する。だが彼もまた、そのまま消息を絶ってしまうのである。
 その教授を探すために、ゼミ生であるジャッキーとテイラーは、友人のカラと少年少女2人を伴って、洞窟を探索することになる。だが彼等もまた教授同様、ミイラ取りがミイラになってしまうのだった。
 
 その後カラが一人でなんとか崖をよじ登って、洞窟の外に這い出すことが出来る。ところが周囲の風景は、見たこともない異常風景で空気が汚れているし、SOS用のGPSビーコンも全く通じないのだった。この間約30分経過、それで彼女は仕方なく洞窟内に戻るのだが、洞窟内部では2秒しか経過していないという。

 つまり洞窟内部は時間がゆっくりと流れていて、外の世界では数百年の時が流れ、地球滅亡寸前の未来に変化していたのである。そして彼等がその事実に戸惑っていると、宇宙服のようなものを身にまとったプレデターのような者が洞窟内に降りてくる。びっくりして洞窟の奥に逃げると、今度は原始人が襲って来るのだった。

 とまあこのあたりの展開は、もうハチャメチャで何が何だか分からない。結局、浦島太郎になってしまった彼等であるが、ラストは何の説明もなく意味不明のまま、なんとか全員無事でハッピーエンドを迎えることが出来る。だが果たして、本当にめでたしめでたし、なのかは誰にも分からないのだ・・・。実に奇妙な作品であるが、上映時間が短かったせいか、途中飽きもせずなんとか最後まで観ることが出来たのは幸せであった。


評:蔵研人

時をめぐる少女3

著者:天沢夏月

 本作は筒井康隆の『時をかける少女』とは、全く異なる話であり、そのオマージュでもない。ただあるとき時間の流れの中をさ迷ったことのある女性の日記帳のようなものである。

 本作は次の4つの章で構成されている。
1. 9歳(小学生)の私
2.13歳(中学生)の私
3.21歳(大学生)の私
4.28歳(社会人)の私

 9歳の時、近所の公園で、銀杏並木の奥にある「とけいじかけのプロムナード」という広場を見つける。そこで時計回りに歩くと未来に行き、逆に回ると過去に行くという。でもそれはいつでも誰でも経験できることではなく、私も通算4回しか経験がない。

 小学生の時は父と離婚して、転勤による引っ越しを繰り返す母との確執に悩む。また中学生の時は、転校生同士の葛藤により生涯の親友となった新田杏奈との交友を描く。
 大学生になると、上手くゆかない就職活動に悩み、恋人となる月島洸との出会いと戸惑いが描かれる。そして社会人となって、やっと落ち着いたかと思ったら、月島洸からの結婚申し込みによって、再び少女時代のような憂鬱が襲いかかって来るのだった。

 本作は一見タイムループ的な作品であるが、9歳と28歳の時に2度ずつ少しだけ時間の流れの中をさ迷っただけであり、本質は主人公の悩みと成長に主眼が置かれているのだ。従ってSFでもファンタジー作品でもなく、若い女性の手記を脚色するための道具立てとして、時をめぐるというメルヘン的なシーンを盛り込んだに過ぎない。

 まあ同年代の女性たちにはそこそこ受けるかもしれないが、少なくとも我々おじさんたちは、全く共感が湧かないであろう。ただ読み易かったので、それほど苦痛ではなかったのが救いであった。

評:蔵研人

メッセージ4

製作:2016年 米国 上映時間:116分 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

 原作はテッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』である。この小説はだいぶ以前に購入していたのだが、いまだ読まないうちに映画のほうを先に観ることになってしまった。追っかけ早速小説のほうも読んでみたいと思う。

 ストーリーは巨大な球体型宇宙船が全世界の12か所に降り立ち、世界中が不安と混乱に陥ってしまう。人類はエイリアンたちと接触して、来訪の意図を探るのだが、お互いの言語構成に大きな違いがあり、なかなか理解することが出来ない。そしてついに業を煮やした中国がエイリアンに宣戦布告し、全世界もそれに追随しようと決断してしまうのだった。
 何日間もエイリアンたちと接触し、彼等の言語を理解しようと必死に勤めてきた言語学者のルイーズが、やっと彼等の意図を理解出来たのだが、時すでに遅しの状況である。果たしてこのまま宇宙戦争に突入してしまうのだろうか。

 前半はあのスピルバーグ監督の名作『未知との遭遇』と似たような雰囲気が堪らなく懐かしかったのだが、後半になってだんだん哲学的なムードが漂ってくる。さらにはオープニングや時折流れる娘の回想シーンとの関連が全く理解出来ず、ますます難解さを深めてゆく。だがその難解さの謎がこの映画から一瞬たりとも目を離せなくしてしまうのである。SF映画ながらあのアカデミー賞にノミネートされた理由がやっと判ったと言いたい。

評:蔵研人

ぼくは明日、昨日のきみとデートする4

製作:2016年 日本 上映時間:110分 監督:三木孝浩

 長ったらしいが、なにげにタイムトラベル系のストーリーを彷彿させられるタイトルである。原作は七月隆文のファンタジー小説なのだが、タイムトラベルものに敏感な私にしては、うかつにもまだ未購読・未読であった。
 ただタイムトラベルものと言っても、タイムマシンなどで過去と現在を行き来すると言うような展開ではなく、時間が逆行する男女のラブストーリーというユニークな設定なのだ。

 こうしたお話は、余り詳しく紹介するとネタバレになって感動が薄れてしまうため、レビューを書くのはなかなか難しい。もっとも韓流ドラマにはよく似た話がありそうなのだが、邦画としては珍しい展開である。
 それにしても、主人公の福士蒼汰と小松菜奈はなかなかいい雰囲気で、びったしカンカンの配役だったね。だから荒唐無稽なストーリーにも拘らず、かなり共鳴してしまい涙が止まらなかった。

 ただやはり時間の逆行という現象にはなかなか馴染めず、なんとなくしっくりこなかったのだが、ラストの逆行シーンでやっとそれを体感したような気がした。ここでまた涙・涙・涙となる。近いうちに是非、原作の小説を読んでみたいものである。


評:蔵研人

君の名は。5

製作:2016年 日本 上映時間:107分 監督:新海誠

 ほとんど予備知識なしでこのアニメを観た。単なる学園ラブコメかと思っていた。それではじめは敬遠していたのだが、「10日間で動員290万人、興収38億円を突破」という凄まじい人気で、連日マスコミが騒ぎ立てると言う異常事態が勃発。
 その超人気に煽られて、とうとう私も重い腰を上げることになってしまった。通常はジブリ作品以外のアニメなら、観客はオタク風の若者が多いのだが、なんと本作に限ってはかなり年配の観客が多いではないか。これも私同様マスコミの報道に煽られて、ゾロゾロとやってきた人達なのであろう。
 それにしても8月に公開されてから、既に3か月目になるというのに、まだまだ空席が少ない状況なのだ。一体どこまで興行収入が伸びてゆくのだろうか。

 高校生の男女の心と体が入れ替わるという、大林宣彦監督による『転校生』のような展開なのだが、彼等はお互いに見知らぬ者同士、というところが『君の名は』の君の名はたる所以なのである。そして男子は東京で女子のほうは田舎町に住んでいるという設定だ。
 さらにはこの田舎町に、東日本大震災を彷彿させる大災害が突然勃発し、町は壊滅状態となってしまうのである。だがこの大災害が起きたのは3年前であった。と言うことは、二人の入れ替わりに3年間の時間がねじれていたのである。だから二人が逢おうとしても。絶対に逢えないのだった。過ぎた過去はもう取り戻せないのか。だが唯一取り戻せるパワースポットのような場所が存在していたのだ。

 人物は普通のアニメなのだが、CGを駆使した背景が実に美しい。そしてこの意外な展開にも驚かされ、ちっぽけな学園ドラマが、一挙にスケールの大きな宇宙的なファンタジーと化してしまうのである。人によっては少し戸惑うかもしれない。だからリピーターが多いのだろう。まあそれはそれとして、この映画をより詳しく理解したい人には、新海誠監督の著した同名の小説があるので、そちらのほうも読んでみようではないか。

評:蔵研人

アデライン、100年目の恋

★★★☆

製作:2015年 米国 上映時間:113分 監督:リー・トランド・クリーガー

 アデラインは29歳の時に自動車事故で川に転落。低体温症で心臓が止まった瞬間、車に雷が落ちて再び心臓が動き始めるのだ。そして落雷による電磁圧縮作用で老化が止まってしまうのだった。
 だから中年になっても、老年になっても外見は29歳のまま変わらないのである。まるで魔女かバンパイアのようであるが、本作はSFとかホラーではなく、多少ファンタジックな純愛作品なので、妙な期待は抱かないで欲しい。

 タイトルが示す通り、アデラインが100歳を超えたときに巡り合う運命の恋を描いているのだが、なんとその恋人の父親(ハリソン・フォード)が昔恋に落ちた相手だったというおまけ付きなのだ。また100年も生きていれば当然だが、娘がまるで祖母のように老けていたりするところがなんとなく涙ぐましい。
 ラストの展開はほぼ予想通りで、ハッピーに締めくくられたのは良いとしても、もう少し捻りがあってもよかったと思うし、アデラインの孤独な人生をもっと強調してもよかった。また落雷一発で不老体質になったという設定も単純過ぎるし、それについての追及とか解説がほとんどないのも残念である。
 ただ主演のアデラインとその恋人エリスを演じた二人が、まるで絵画から飛び出してきたような知的な美女と美男であり、この作品の雰囲気にぴったりと染まっていたことが、この映画を引き締めてくれたような気がする。

評:蔵研人


パラドックス134

著者:東野圭吾

 いかにも私好みのタイトルだったので衝動買いしてしまったのだが、相変わらずの読書不精で1年以上も積読状態のまま本棚の隅っこに放置したままにしていた。だが読み始めると、この562頁の分厚い文庫本を、一気に読み耽ってしまったのである。
 さてタイトルの13とは何を意味するのだろうか。3月13日13時13分13秒、突然街から人と植物以外の生物が消えてしまう。だが無人のはずだった東京には、なんと境遇も年齢も異なる13人の男女だけが生き残っていたのである。そして首相官邸で見つけた『P-13現象』を記す機密文書には、13秒間の空白の謎が・・・。つまりタイトルの『パラドックス13』とは、全てが13に係ってくる大いなる謎と矛盾を意味しているのであろう。

 この小説を読むほどに、東京中心を襲う直下型大地震の恐ろしさを思い知らされる。飲料水や電気が供給されなくなるのは当然だが、首都圏を縦断する一級河川が氾濫して洪水となる。網の目のように広がる地下鉄によって道路が陥没し、地獄行きの暗黒トンネルと化してしまう。もちろん食べ物も、腐敗したり流されたり消費して徐々に消失してゆくだろう。
 またこの小説の世界では、13人しか存在しないので、誰も救援に駆けつけてくれない。だから13人全員が一体となって力を合わせて、なんとか凌いでゆかねばならないが、それも限界があるし、そもそも13人全員の心が一つになれるはずもないであろう。

 こうして物語の大半は、物語中の天候と同じように暗くくすんでほとんど救いようがない展開に終始する。僅かに冬樹と明日香の淡い恋心だけが唯一の救いなのだが、それもこうしたパニック状況下では成就するはずもない。そして一人死に二人死に、生存者が10人以下になった時、全員が失望しながらも、僅かな希望の灯りを求め仲間達は分裂してゆくのである。さて彼等は一体どうなるのか、謎の13秒間とは一体何なのか。極限状態の中で彷徨う人間の真理を追究した意欲作と言えよう。

評:蔵研人

天使のくれた時間5

製作:2000年米国 上映時間:125分 監督:ブレット・ラトナー

 すでに10年以上昔に観たこのファンタジー映画。かなり感動した記憶だけが脳裏に残っている。最近になってTVで放映され、録画をしたままになっていたのだが、本日やっと鑑賞する運びとなった。オープニングシーンとラストシーンだけはしっかり覚えていたのだが、その他のシーンは大部分忘れていたためか、またまた感動の涙を流さずにはいられなかった。

 主演のニコラス・ケイジも若くて魅力的なのだが、何と言ってもヒロインを演じた若き日のティア・レオーニがとてもキュートで可愛い。この映画では、まさに理想的な可愛い妻像を演じていたのがとても印象的であった。
 空港で引き止める恋人ケイトを振り切り、成功を夢に描いてロンドンへ旅立つジャック。そして13年後のジャックは、大金融会社のトップとして、優雅な独身生活を満喫していた。
 クリスマス・イブのことである。仕事以外に興味のないジャックに、なんと13年前に別れたケイトからの電話があった。だが彼はその電話を無視。仕事に疲れ、帰宅途中のコンビニで奇妙な黒人と関わることになる。そして彼はその黒人に、自分は何でも持っており、欲しいものは何もないと答えるのだった。
 その夜、自宅マンションで眠りについたジャックが、目覚めると、なんとそこは郊外の家で、ケイトと我が子2人に囲まれた家庭人ジャックになっていたのである。当面は変わってしまった環境に対応出来なかったジャックだが、可愛い子供たちと何年経っても魅力的なケイトに惹かれ始めるのだった。

 あの日あの時、人生の岐路に立った時、もし違った選択をしていたらどうした人生を歩んでいただろうか。誰もが一度ならず何度も、自分の中で反芻することだと思う。だが現実の人生は一度きりでおしまいだ。映画だから叶う、夢のようなファンタジーであり、実に心温まる作品に仕上がっている。最近はアクションものが多いニコラスだが、昔はこうしたラブファンタジーの似合う男優だったのである。

 それにしても、莫大な富と生きがいのある仕事に生きるのが良いのか、それほど豊かではなくとも、愛する家族に囲まれた人生のほうが良いのか。結論は各自それぞれの価値観によって異なってくるのだが、実はこのことは男たちにとっては、結論なき永遠の命題なのかもしれない。
 いずれにせよ、人は自分を必要している人や理解してくれる人が、出来るだけ多く近くにいる、ということが最大の幸せなのだろう。

評:蔵研人

妖魔ヶ刻4

 井上雅彦が編集した「時間怪談」の傑作選で、2000年に徳間文庫にて出版されている。同じ編者による似たようなアンソロジーの『時間怪談』が1999年に廣済堂出版から出版されているが、こちらとは全くの別物である。つまり『時間怪談』が書き下ろしであるのに対して、本作は過去に発表され、評価の定まったものや、埋もれた作品を募集・選別したものである。

 収録された作品は14点で、2点のマンガを含む下記の構成となっている。
 1.制 服       安土  萌
 2.ねじれた記憶    高橋克彦
 3.フェイマス・スター 井上雅彦
 4.迷宮の森      高橋葉介 マンガ
 5.骨董屋       皆川博子
 6.骨         小松左京
 7.時の思い      関戸康之
 8.サトウキビの森   池永永一
 9.時の落ち葉     田中文雄
10.二十三時四十四分     江坂  遊
11.長い夢       伊藤潤二 マンガ
12.天蓋        中井英夫
13.昨日の夏      菊池秀行
14.老人の予言     笹沢佐保

 いずれも劣らぬ傑作ではあるが、個人的にはともに切なくノストラジーを感じさせてくれる『ねじれた記憶』と『時の落ち葉』の二作を絶賛したい気分である。

評:蔵研人

トランス・ワールド4

製作:2011年 米国 上映時間:90分 監督:ジャック・ヘラー

 人里離れた森の中で、ガス欠となった車で夫を待つサマンサという女。いつまで待っても戻ってこない夫を探して森の中を彷徨っていると、小さな小屋を見つけるのだが、そこで同じように車が故障して立ち往生しているトムに遭遇する。さらに暫くすると、たしか冒頭シーンで強盗をしていたと思われるジョディと名乗る女が現れるのである。

 はじめはギクシャクしていた三人だが、時間の経過とともに次第に打ち解けあい協力して森の中から脱出しようと試みるのだが、森の中を歩いていると、いつの間にかまたこの小屋の前に辿り着いてしまうのだ。さらに不思議なことに、三人それぞれの生きていた西暦が全く異なっているのである。そのうちどこかで銃声が聞こえ、ドイツ兵と思われる人物が侵入してくるのであった。

 登場人物が少なく、場所もほとんど森の中だけという超低予算映画であり、なんだかTVドラマの『ミステリーゾーン』を観ているような気分だ。ただアイデアと企画がしっかりしているので、単調なシーンを観ていても退屈しないし、次はどうなるのかとゾクゾクしながら楽しんで鑑賞することが出来た。
 またトムを演じた俳優が、若き日のクリント・イーストウッドに似ているなあと思ったら、なんとスコット・イーストウッドという名で、クリント・イーストウッドの息子だという。似ているはずだよなあ。いずれにしても、ちょっと「掘り出し物」だね、と言っても良い超B級映画であった。

評:蔵研人

黄昏のカーニバル4

著者:清水義範
 本作は1990年前後に、今は途絶されてしまった『SFアドベンチャー』誌に掲載された清水義範の短編小説をまとめた文庫本である。その中味は次の7篇のSF作品で構成されている。

1.外人のハロランさん・・・子供の頃に出会った外人の正体は?
2.黄昏のカーニバル・・・某国が発射した核による世界終末の空しい話
3.唯我独存・・・世界の全ては僕が創成したもの
4.嘉七郎の交信・・・宇宙人とコンタクトする爺さんの話
5.デストラーデとデステファーノ・・・時間が逆流する世界
6.21人いる・・・未来の自分が20人登場する話
7.消去すべき・・・全てを消去する自分とは何者

 いずれも懐かしき良き時代の読み易い短編SF小説で嬉しくて堪らない。また現役でこのようなアイデア重視で、わくわくするノスタルジックSFが書ける人は、本作著者の清水義範氏や梶尾真治氏ぐらいだろうか。

 さてこの中で一番興味深く読んだのは、「この世の全ては自分自身の想像力で創成されている」という唯我論をテーマとした『唯我独存』である。まあ唯我論について解説すると長くなるので後日に譲るとして、タイムトラベルファンとしては、プロ野球と時間逆転の『デストラーデとデステファーノ』と、押し入れから出てきた20人の未来の自分の謎を探る『21人いる』も、見逃せない短編であることは間違いないだろう。

評:蔵研人

タイム Time3

製作:2011年 米国 上映時間:109分 監督:アンドリュー・ニコル

 近未来のお話である。遺伝子操作により、人は25才までしか生きられない。だが時間の売買が可能であり、一部のセレブたちは時間をたっぶり保有しているため、25才の容貌のまま何百年でも生き続けているのである。
 時間がお金の代わりという設定はなかなか面白い。ただ寿命が短い人種は、フィリップ・K・ディックの『未来医師』の中でも描かれている。ただしその小説に登場する種族は、15才までしか生きられない。映画のほうに登場する超セレブの男性の名が、フィリップというところがなかなか微妙である。

 この映画は近未来を描いているのだが、建物も車も現代そのままで、余りSFという感覚が沸かない。また25才の容貌にしては、おじさんぽい人も登場しているし、ちょっと安っぽい感がある。
 そしてスラム生まれの主人公が、セレブから時間を強奪する方法もいやに簡単過ぎるよね。どうも腑に落ちないことが多いのである。予告編では大作のような雰囲気があったが、どう見てもB級映画だな。

 それから奪った時間を、石川五衛門よろしく、貧民たちにバラまくのもどうだろうか。セレブのフィリップが言うように、百万年あっても、百万人にバラまけば、一人につきたった1年寿命が伸びるに過ぎない。良い悪いは別にして、単に秩序を乱して人々を混乱に導いているだけではないのか。
 まあ、『赤ずきん』で主役を演じたシルビア・ワイスが可愛いし、余り深く考えずにマンガだて思って気楽に観れば、それなりに楽しめるだろう。
 
評:蔵研人
 

失われた七日間4

製作:2006年 韓国 監督:ムン・ヨンジン 主演:ユン・サンヒョン

 韓国のTVドラマで、主演は韓国のキムタクことユン・サンヒョンである。タイトルのイメージから、記憶喪失を題材にしたドラマのように感じるが、一週間が逆に過ぎてゆくというミステリアス・ファンタジーなのだ。

 毎日が繰り返すという設定の作品は幾つかあるが、毎日が逆に進んでゆくというのは初めてである。あらゆる種類のドラマで氾濫している韓国ならではの、苦肉のアイデア作品なのであろう。それにしても上手に明日から今日へ、今日から昨日に繋がるストーリー展開が、良く出来ているので感心してしまった。こうした作品は、いつの間にか韓国のお家芸になってしまったようである。

評:蔵研人

ときのかけら 4

著者:君島孝文

 わずか180頁足らずなのに字が大きく、かつシンプルなお話なので、あっいうまに読み終えてしまった。はじめは、図書館の『時・特設コーナー』に展示していたことと、そのタイトルからタイムトラべル系のファンタジーかと思った。
 だがどちらかというと、大人も楽しめる青春ラブストーリーといったところか。タイトルの「時間」とのかかわりは、オープニングとエンディングだけなのだが、このちょっとした配慮がなかなか洒落ているんだな。

  そもそも時間とは不思議な存在だ。楽しいときの時間は、あっという間に過ぎてしまうし、辛いときは嫌になるほど長く感じてしまう。この感覚はたぶん誰もが共有している事実であろう。
 だから、冒頭で著者が言っているように、時間が不要な人の時間を保存して、使いたい人へ分け与えられたら効率的だとは思う。また時間の速度や方向をコントロールできたら面白いだろうなとも考える。それらが実現したら、全ての人々は苦悩も後悔もない極楽のような人生をおくれるのだろうか・・・。

 僕は決してそうは思わない。もちろん初めの頃は、嬉しくて楽しくてしょうがないだろう。だが、全てが予測出来てかつ変更出来る人生なんて、いずれは飽きてしまうに違いない。苦があるから楽があるように、初めは見えないものが見えるようになるから面白いのだ。・・・とは言ってみても、一度くらいは時間をコントロール出来たら嬉しいことも確かである。

 この小説がSFやファンタジーでないことは前述した通りだが、時間とのかかわりが重要なモチーフになっていることは確かである。「貴史が別れて淋しそうだったから、あたしも別れたの」という幼馴染み理香子の言葉が、最後まで胸に突き刺さって離れない。優柔不断だが優しい貴史の気持ちは判るようで判らない。でも最後には誰でも暖かい気持ちになれるのでご安心を。

評:蔵研人

時間泥棒3

著者:ジェイムズ・P・ホーガン

 時間を盗むエイリアン?により、ある条件下での時間がだんだん歪んでくる。そしてその犯人を、主人公である警察官が捜査するというストーリーである。
 日本のSFだったら、なんとなく筒井康隆あたりが書きそうなテーマだが、たぶん彼が書けば、荒唐無稽のドタバタ劇になってしまうだろう。ところが本作品は、ある程度のユーモアを香辛料としながらも、時間についての物理学上のハードな考証にも、決して力を緩めていないところが素晴らしい。

 時間が歪む謎について解明するために、霊能者、物理学者、神父たちと次々にインタビュ一するのだが、一番関係のなさそうな神父さんが一番役立つのは、以外であり皮肉ぽくって愉快だった。この作品は小説としては面白いが、映画化して好評を得るのは、かなり難しいかもしれないね。
 
評:蔵研人

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