タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

時空

伝書鳩クロノスの飛翔4

著者:中村弦

 クロノスという愛称の報道用伝書鳩が、50年の時を飛び越えて昭和36年と平成23年を繋ぐ。そしてその奇跡の飛翔が、日本の危機を救うことになるという、ファンタジックなサスペンス小説である。

 本作は時をテーマにしているが、時の流れを超えることが出来るのはクロノスだけであり、主役である昭和の坪井永史と平成の溝口俊太は、時を超えることは出来ない。彼等はただ自分たちが存在している世界で、必死になってその役割を遂行するだけである。
 そして彼等だけではなく、多くの協力者たちがクロノスの奇跡を信じ、最後まで諦めずにひたすら前向きに行動することによって日本は救われることになる。

 前半はやや読み辛いと感じたのだが、永史が拉致されるあたりからサスペンス風味が強くなり、俄然その成り行きが気になってくる。そしてラストの収束が実に見事であった。
 謎の人物の正体、明和新聞社の旧館が取り壊されなかった理由、クロノスの剥製などが、巧みに循環して繋がってゆくのである。だから読み終わった後に清々しさが残るのであろうか。

 さらに昔は新聞社で情報伝達手段として伝書鳩を使用しており、どの新聞社の屋上にも鳩小屋があったということを初めて知った。そして鳩たちは記事や写真を足や背中に付けて、新聞社の鳩小屋までの何百キロもの距離を飛んだらしい。
 もちろん近年は通信機器の発達により、伝書鳩の役割は終わってしまった。だがかつて彼等が命がけで特ダネを運んでいたのかと考えると、実に感動的な話ではないか。

評:蔵研人

刻謎宮4


著者:高橋克彦

 なんと新選組の沖田総司が死後に蘇生され、時空を超えて古代ギリシャに跳び、そこでアンネ・フランクやヘラクレスらと出会い、ギリシャ神話の世界を創造してゆくという、とてつもなく荒唐無稽で壮大な幻想歴史ファンタジーである。

 余りにもハチャメチャな展開なので、読む人によってはアレルギーを起こすかもしれない。だがマンガやSFや映画の好きな私にとっては、思わず夢中になるくらい面白い作品であった。また今後ギリシャ神話に触れる折にも、沖田総司が扮したアポロンなどを重ねてみると楽しさが倍加するはずである。

評:蔵研人

かたみ歌4

著者: 朱川湊人

 東京の下町、アカシア商店街に起きた摩訶不思議で心暖まる7つの物語を、芥川龍之介似の古本屋店主を狂言回しに仕立て全編を紡いでゆくオムニバス小説である。
 
 時代背景は昭和30年から40年代で、西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」をはじめとして、「シクラメンのかほり」、「愛と死をみつめて」、「好きさ好きさ好きさ」、「モナリザり微笑み」、「ブルーシャトウ」、「いいじゃないの幸せならば」、「世界の国からこんにちは」、「圭子の夢は夜ひらく」、「瀬戸の花嫁」、「心の旅」などの懐かしい歌謡曲が全編に流れている。
 さらには、もう死語になっているトランジスタラジオやメンコ、そしてエイトマン、忍者部隊月光、鉄人28号、少年探偵団、ハレンチ学園、タイガーマスクなどのテレビ番組も登場する。とにかくこのあたりの時代で青春を送った者たちには、涙が出るほどなつかしいもののオンパレードなのである。

 まさに朱川ワールドとも呼ぶべき、独特の作風で小説としての完成度もかなり高い。ちなみに収録されている7作品を並べてみると次の通り。
「紫陽花のころ」
「夏の落とし文」
「栞の恋」
「おんなごころ」
「ひかり猫」
「朱鷺色の兆し」
「枯葉の天使」
 冒頭に記したとおり、これらの全てが摩訶不思議で心暖まる秀作なのであるが、私的には時空を超えた切ない恋を描いた「栞の恋」が一番気に入っている。それから締めくくりの第7話「枯葉の天使」では、全編に登場する古本屋店主の正体が明かされることになる。

評:蔵研人

フィッシュストーリー 映画4

製作:2009年 日本 上映時間:112分 監督:中村義洋  原作:伊坂幸太郎

 1975年に、先取りし過ぎてヒットしなかったパンクバンド「逆鱗」の、最後の曲が『FISH STORY』。この曲の途中には約1分の空白があり、その空白の中で女性の叫び声を聞いた者は、将来世界を救う英雄になるという。

 1982年には、お人良しで気弱な大学生が、合コンで知り合った霊感女に、いつか世界を救うと予言される。そして帰りの車中で、『FISH STORY』を聞き、曲の空白の部分で女性の叫び声を聞く。奇妙に思い車外に出ると、近くの暗闇で意外な出来事に遭遇してしまう。

 そして2009年、小さい頃から「正義の味方」になる訓練を続けていた青年と、女子高生が船上で知り合う。そこでいきなりシージャックに巻き込まれ、女子高生は犯人にピストルを付きつけられるのだった。

 いよいよ運命の2012年、彗星と地球の衝突まであと5時間と迫る。人類は確実に滅びるはずだ。ただ唯一残された希望は、5人の正義の味方の登場と心を打つ音楽だという。

 そしてこの4つの時空がリンクし、見事な結末を迎えることになるのだ。荒唐無稽な発想と、各所に散りばめられた謎、そしてラストにそれらを全て巧みに収束させる。まさに伊坂ワールド全開の、巧妙な脚本と演出ではないか。
 ちなみに『フィッシュストーリー』とは、「魚物語」ではなく、「ホラ話」という意味である。まさに本編そのもの!。

評:蔵研人

天然理科少年4

著者:長野まゆみ

 表紙の写頁は、吉田美和子さん製作の「美少年人形」である。とても清楚で幻想的で、この小説のイメージにピッタリだと思う。なお各章の扉には、ノスタルジックな詩と、コメント付きの美しい写真も飾られている。

 さてわずか147頁の薄っぺらな文庫本なのだが、なかなか丁寧に創ってあり、とても気分が良いのだ。
 放浪癖のある父親と二人で生活し、短期間に転校を重ねる少年が、ある田舎町で遭遇した不思議なお話を描いたファンタジー小説である。その淡々として瑞々しい人物描写と、センチメンタルな郷愁に、なんとなく昔読んだ『つげ義春』のマンガを思い出してしまった。

 また小柄な賢彦少年との巡りあいが、「バナナ檸檬水」というのも、古めかしさの中にお洒落な香りが漂っている。さらに父の名が「梓」で、少年の名が「岬」とは、二人ともなんと優しくロマンチックな名前ではないか。
 そしてこの名前の由来と父の心が、時空を越えて見事に繋がり、そっと宝石箱を開くように、煌びやかに過去が解き明かされてゆく。それはなんとも、心地良い締め括りであろうか・・・。

評:蔵研人

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