
★★★☆
本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。
著者:佐藤正午
アルファベットの「Y」というタイトルの意味は、人生の分岐点と考えて欲しい。つまりあの日あのとき、もし別の選択をしていたら、現状とは全く異なる人生を歩んだかもしれない、ということで言葉を変えれば「パラレルワールドの世界」ということになる。
1980年9月6日、井の頭線・渋谷駅のプラットホームで、ある青年がかねてより想いを募らせていた女性を見かけて、同じ車両に乗り込むところからはじまる。そして彼は車内で彼女に声をかけることに成功し、二人して下北沢で降りることになる。だが手違いが重なって、ドアが閉まる直前に、一度ホームに降りた彼女が再び車内に戻ることになってしまう。この電車はそのまま発車し、そして運悪く次の駅の手前で凄惨な事故に遭遇してしまうのである。
それから18年後の8月に、主人公の秋間文夫は自宅で不審な電話を受ける。声の主は北川健と名乗り秋間の高校時代の親友だと言うのだが、秋間には全く心当たりがなかった。戸惑う秋間だったが、北川の必死な願いを受けて、彼の代理人と名乗る女性から、1枚のフロッピーディスクと巨額の預金通帳を受け取ることになってしまう。そして18年前に井の頭線で起こった大惨事の顛末を知ることになる。
というような荒唐無稽でミステリアスな時間SFである。そして秋間文夫の現状の生活と、フロッピーディスクに記載されている北川健の過去の話が並行して語られてゆく。なんとこの創作手法もまた、ある意味でパラレルワールドなのであろうか・・・。
本作は作中でも言及されているとおり、18歳から43歳までの25年間を何度も生き直す男の話を描いた、ケン・グリムウッドの『リプレイ』が下敷きになっている。さらに北村薫の『リセット』、筒井康隆の『時をかける少女』、さらに映画『恋はデジャヴ』などを参考にしているようだ。
いずれにせよ「あの日あの時、ああすれば良かった」「あの時に戻ってやり直しをしたい」という人間の永遠のテーマを描いたストーリーはかなり魅力的だ。もし私自身が現在の記憶を持ったまま過去の自分に戻れるとしたら、小学生になりたての頃に戻りたい。そして沢山の失敗を正してみたいのである。そしてその結果と現在の自分とを比較してみたいのである。もしかすると失敗ばかりの現在の自分のほうが、幸せなのかもしれないことを確認するために・・・。
評:蔵研人
製作:2017年 日本 上映時間:93分 監督:加藤悦生
奇妙なタイトルであるが、三尺とは打ち上げ花火の大きさであり、主人公が花火職人といったところである。ではこの作品は花火職人の映画なのかというと、全く的外れで自殺願望の4人が花火の爆発で死ぬたびに、自殺直前に戻ってしまうというタイムループのお話なのだ。SFというにはスケールが小さ過ぎるのでファンタジーと言うことにしておこうか。
SNSの自殺サイトで知り合った4人が、何度もループを繰り返すうちに、タブーである本名を明かしたり、自殺の理由を打ち明けたりしてゆく。この4人の中には、一人だけ女子高生がおり、全員で彼女を説得するのだが、彼女の決意は固くなかなか説得に応じてくれない。
低予算映画であるが、アイデア・脚本・演技力がしっかりしているため、最後まで面白く鑑賞させてもらった。製作費の少ない邦画のお手本的な作品であった。こんな映画をもっと創って欲しいものである。
苦しいから、逃げたいから死にたい。それが冷静に考えたら違う事もあるかもしれない。やっぱり映画はハッピーエンドでなくてはね。それにしてもラストの幸福の連鎖とデジャブは実に見事だったね。
評:蔵研人
製作:2017年 米国 上映時間:96分 監督:クリストファー・ランドン
笑う坊やのようなマスクを被った殺人鬼に、何度も繰り返し殺される誕生日。あの名作『恋はデジャヴ』を、ホラー版に改変したようなタイムループ映画である。
毎晩飲んだくれて、いろいろな男とすぐ寝てしまう悪たれ女子大生のツリーが、二日酔いで目覚めると、見知らぬ男のベッドの中であった。彼カーターは、酔い潰れたツリーを親切に介抱してくれただけなのだが、彼女はお礼も言わずに不快感を抱いたまま帰宅する。
そしてその夜、誕生パーティーに出かけるのだが、途中でベビーマスクに襲われて殺されてしまう。その瞬間に、目が覚めるのだが、そこはまたカーターの部屋のベッドの中だったのである。
ツリーはなんだか奇妙な気分のまま、●父からの電話を無視 ●カーターの友人とドア前で会う ●サングラスの男と環境保護活動家に遭遇 ●スプリンクラーの吹き出す水 ●車のクラクションの音 ●集会で一人の男が倒れる ●ティムになぜメールの返信をしないのかと問われる ●家の前で女の子に挨拶される ●一階で友人に朝帰りを咎められる ●同室の女性に誕生ケーキを貰う
このあとやはり殺人鬼に別の方法で殺されるのだが、ここまでは生還したあとに何度も繰り返されるのであった。彼女に不快感を持っている者は数知れないが、なぜ殺されなくてはならないのか、犯人は一体何者なのか、またどうしてデジャヴのようにループが続くのだろうか。
興味津々の中、テンポよくストーリーが流れてゆく。そしてやっと犯人を探し当てて葬ったのだが、なんとあの忌まわしいループは終わっていなかった・・・。
そしてラストのどんでん返しに繋がってゆくのである。主人公は性悪女で感情移入し難いし、ストーリー的にもかなり雑な部分があり、突っ込見所も多い。だが・・・と言うより、だからこそテンポよく、お気楽に楽しめたのかもしれない。またホラーと言っても、コミカルホラーなので、ホラーが苦手な人でも安心して観ることができるだろう。
なお本作の続編『ハッピー・デス・デイ 2U』もDVD化されているようである。こちらはSF色が濃くなって、タイム・ループの謎も解明されるようなので、絶対にレンタルしてみたいね。
評:蔵研人
★★★☆
著者:静月遠火
どうも最近は読めない凝った名前や、男なのか女なのか分からん名前を名乗る作家が多い。本作の著者「しづきとおか」も、まさにその両方を兼ね備えた性別・年齢不詳の謎の人物といった雰囲気が漂う。
タイトルの『R&R』は、Rock and Roll(ロックンロールの略)ではないし、Rest and Recuperation(慰労と休養の略)でもない。実はReset(やり直し)とRepeat(繰り返し)の意味のようだ。
そう本作は、廻谷千瀬という高校1年生の男子が、5月6日を何度も繰り返すのである。そしてその都度、新海百音という初見の先輩女子高生と逢い、この繰り返し状況を解除する方法を話し合うというストーリーなのだ。
本作の中でも語られているが、まさにあの名作映画『恋はデジャブ』とそっくりな展開と言えば、タイムトラベルファンならピンとくるであろう。ただこの毎日の繰り返し状況は、映像にすれば面白いのだが、小説として書くのはかなり難しいのではと考えていた。
ところが本作はその難題を見事にクリアし、細部に亘るまで巧みに練り込また展開に終始している。またそのテンポの良さと、ミステリー、恋愛、青春、ファンタジーを少しずつブレンドした風味に酔いしれてしまうだろう。ただ残念なことにエピローグだけは、急ぎ過ぎたような、こじつけたような、無理矢理感が鼻を突いてしまった。
それにしてもこの作家は、ペンネームも読みづらいが、登場人物の名前も読みづらいものが多いよね。例えば主人公の廻谷(めぐりや)とか、女子高生の外木(とのぎ)とか、わざわざ読みにくい苗字を使うのは、読者に対して不親切ではないだろうか。
評:蔵研人
製作:2017年 日本 上映時間:90分 監督:新房昭之 武内宣之
いやに長ったらしいタイトルなのだが、岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』を基にしたアニメ映画である。そして中学生たちの、「花火を横から見ると丸いのか?平べったいのか?」という疑問が狂言回しの役割を担っているようだ。
最近のアニメの特徴なのだが、背景は写実的に描いて、人物はマンガチックに描かれている。ただ私的には、本作の瞳の大きい少女漫画風の人物は苦手であり、それだけですでにストーリーの中に惹き込まれなくなってしまった。
またタイムループものとしても全くありきたりで、あっさりし過ぎているし、ドキドキ感も湧かず、どんでん返しも見当たらない。さらに主人公が余りにも子供じみている割に、ヒロインのほうは大人びていて、ちぐはぐ感を拭いきれなかった。そのうえ心理描写が希薄だったのも致命的だったかもしれないね…。
評:蔵研人
★★★☆
著者:法条遥
リライト(Rewrite )とは、基本的には「書き直す」または「書き換える」といった意味の英語である。IT用語としては、既存システムの枠組みは維持しつつ使用言語(プログラミング言語)を改めることを指す。
また編集用語では、著者以外の人が文章に手を入れて書き直すことを言う。もちろん高名な小説家に対しては、失礼になるため手直しはできない。どちらかと言えば、文筆家以外の人が書いた実用書などの文章を読み易くするために、無名のライターがおおもとを変えずに文章を手直しする作業を言う。
ただ本作のタイトルである『リライト』の意味は、なかなか一筋縄では説明できない。まず目次を見れば分かるのだが、2002年と1992年を何度も繰り返している。そしてその都度「私」の視点が異なっているのだ。
つまり同じ出来事なのに、それぞれ別人が主人公として描かれているということなのである。最初はそれに気付かないため奇妙に感じるのだが、その種明かしは終盤の同窓会二次会の中で明かされることになる。この繰り返しパターンを『リライト』と考えることも出来るのだが、単純に作家の高峰文子が書いた私小説『時を翔ける少女』の改竄のことを指しているのかもしれない。
過去は絶対変わらない・・・はずだったのだが。西暦1992年夏。中学二年生の桜井美雪は、旧校舎に突然現れた転校生の園田保彦と出会う。ラベンダーの香りとともに現れた彼は、西暦2311年からやってきた未来人だった。
なんとなく筒井康隆の『時をかける少女』に似ている。いや似ているというより、『時をかける少女』をより難解にアップデートしたオマージュ作品なのだろうか。いやいやもしかすると『時をかける少女』のリライトかも(笑)。
いずれにせよ一度読んだだけでは、その意図がよく理解出来ない作品であろう。事実私自身も完全に読み解けないまま、本書の評を記しているという情けなさ・・・。だがよく理解できないながらも、本書がそこそこ味わい深く、楽しめる作品であることは否定できないのだ。
評:蔵研人
製作:2017年 韓国 上映時間:90分 監督:チョ・ソンホ
主人公の有名な医師が、旅客機に乗って娘に逢いに行くところからはじまる。ところがその娘は、交通事故に遭遇し死亡してしまうのである。だが次の瞬間、医師は旅客機の座席で目覚めるのだ。そして見たことのある風景と出来事が続く。つまり目覚めると、何度も同じ一日を繰り返すのである。
そして目覚めるたびに娘が事故に遭わないように奔走するのだが、どうしても上手くいかない。そこに突如同じ事故で妻を亡くして、何度も同じ一日を繰り返している男に出逢うことになる。
本作は私の大好きなタイムループ作品であり、この手のテーマがお得意の韓国映画ということで、かなり期待し過ぎてしまったようだ。もちろん駄作ではないし、伏線もしっかりしていてアイデアも秀逸である。だがストーリー展開にかなり無理があり、どんでん返しや感動的なシーンも無く、いまひとつのめり込めなかったのが残念であった。
評:蔵研人
★★★☆
著者:鮎川 歩
普通の人間なら、人生は一回限りでやり直しがきかないのだが、本作の主人公は何度でもやり直しができる能力を持っている。つまり死んでも再生可能ということなのだが、事前にセーブしておくことが必要となる。そうすることにより死後に再生する時間と空間が、セーブした時点からのやり直しで済むことになるのだ。
セーブそのものはただ頭の中で念じるだけなので、脳に針を突き刺すような感覚が一瞬走るだけなのだが、死ぬときの痛みと恐怖感は半端ではない。それでも主人公は何度も何度も自殺を繰り返して再生しているのである。その感性は余り理解できないし、主人公の暗くてドジではっきりしない性格も好きになれない。
ただ唯一の協力者である「超能力研究会」の常盤夢乃先輩のキャラだけは、なかなか好感が持てるし、染谷の漫画チックなイラストもなかなか良い味を漂わせている。
ストーリーは、幼馴染の女の子を救うために、主人公が何度も自殺と再生を繰り返して別の結果を導こうとするのだが、ドジで非力で弱虫のためなかなか思うような結末にならない、といったループものにはよくある展開なのだ。そして終盤になって致命的なミスを犯してしまうのだが、それが通常のゲームと違い平行セーブできないという弱点であった。
いずれにせよ新鮮さやストーリーの緻密さにはやや欠けるものの、読み易さという面ではかなり評価できるかもしれない。なにせ超・遅読症の私でも、350ページ近い本作を、僅か3日間で読了してしまったのだから…。
評:蔵研人
製作:2013年 英国 上映時間:124分 監督:リチャード・カーティス
過去にだけタイムトラベルが出来る能力を持つ青年が、その能力をフルに使って意中の女性のハートをつかむというSFラブコメである。監督はあの『ラブ・アクチュアリー』でラブコメには定評の高いリチャード・カーティス。
タイムトラベル能力を駆使することにより、何度もやり直しが聞くので彼女の好みを知った上で再度チャレンジ。このパターンは、1993年に製作されたビル・マーレイとアンディ・マクダウェルの『恋はデジャ・ブ』とそっくりだ。
もちろんそれを期待して、やっとこの作品の上映館であるミニシアターを探し出して朝一で観たのである。だが残念ながら『恋はデジャ・ブ』を観たときのような衝撃と面白さは沸いてこなかった。
ただ彼女と知り合った日より前にタイムトラベルしてしまうと、彼女との出会いはなかったことになり、彼女の連絡場所を書いたメモが消えてしまうとか、子供が生まれた日より前にタイムトラベルすると別の子供が生まれてしまうなどの障害が発生するというパターンは目新しくて面白かった。
ところが父親の説明では未来には行けないはずなのに、 過去から現在に戻ることは可能なのだろうか。そのあたりがかなり曖昧で分かり難いし、ご都合主義的なところが、ちょっと引っかかってしまったな・・・。
評:蔵研人
★★★☆
著者:桜坂洋
この舌を噛みそうな英語のタイトルは、1967年7月にビートルズが発表した15枚目のオリジナルである「All You Need Is Love」をもじっているのだろうか・・・。またストーリー構成や固有名詞のネーミングから、著者が元システムエンジニアで、コンピュータゲームオタクであることが、それとなく臭って来るようである。
先日トム・クルーズ主演の映画を観て、なかなか面白かったので、原作本であるこの小説を読んでみることにした。原作ものの場合、通常は映画を観たあとに、よく分からなかったシーンや主人公の心象風景などを確認するために、原作の小説を読むというパターンが多いはずである。
もちろん本作もその原則を踏襲するつもりで、先に買った小説はあえて伏せておき、映画を観た後で読んでみた訳である。ところが、「近未来に起こる宇宙人との戦争を舞台に、時間のループにはまるうち、だんだん戦闘能力をアップさせてゆく主人公の成長と運命を描いた物語」という基本的なポリシー以外は、映画とはかなり異なるストーリーだった。
原作の主人公はまだ20代であるが、映画のほうはトム・クルーズが主演のため、かなりの年齢差がある。そこでその年齢に会った役柄に変更して、脚本も大幅に書き直したらしい。しかしながら今回はその脚本変更が大正解で、映画のほうが原作を凌いで、大勝利を収めてしまったような気がする。
というのも、小説を読んでもかなり読み辛い文章であること。最近の日本SFにありがちなカタカナ表記が多く、また注意して読まないと、誰が喋っているのかよく分からない会話が多用され過ぎているため、珍しく映画のほうが分かり易くなっているからである。
さらには、なんと映画ではハッピーエンドだったのに、原作のほうはかなり悲壮感の漂う文学的な終わり方をしている。そして何といってもループの論理とそのシチュエーションが全く異質であり、小説のほうはよく読み込まないと理解出来ない難解さを伴っている。いずれにせよ、近年の日本SF小説は、年配のおじさんにはだんだん理解し難くなってしまったな・・・。
評:蔵研人
製作:2014年 米国 上映時間:113分 監督:ダグ・ライマン
なんと桜坂洋のSF小説『All You Need Is Kill』が、トム・クルーズ主演のハリウッド映画になって逆輸入されてしまった。当初主演はブラッド・ピットが予定されていたが、最終的にトム・クルーズが選ばれ、彼の年齢に合わせるため、ジョビィ・ハロルドによって脚本が書き直されたという。
近未来の地球お話である。エイリアンの侵略とその激しい攻撃を前に、もはや人類の軍事力では太刀打ちできなくなっていた。なにを間違ったのか、そこに戦闘経験ゼロの広報担当将校ケイジが無理やり送り込まれてくる。兵器の使い方も知らない彼は、戦場ですぐに死亡してしまうのだが、その瞬間また基地に送り込まれた前日に戻ってしまうのである。
そしてこれを何度も繰り返すタイムループにはまっているうちに、だんだん戦闘能力が向上してゆくのだった。そんな中で、英雄的な女性戦闘員リタと巡り合い、彼女も過去にタイムループを繰り返していたことが判明する。
いずれにせよ、『恋はデジャ・ブ』にはじまって、『タイムアクセル12:01』、『リバース』、『トライアングル』、『ミッション:8ミニッツ』など、タイムループ系の映画には目のない私であるが、そのほとんどの作品に外れがない。その中でも本作はかなりの良品であると言って良いだろう。
ことにケイジが最初は軟弱兵士だが、タイムループを繰り返しながら、何度もリタに鍛えられて少しずつ頼りがいのある兵士に変貌してゆくというパターンが、『恋はデジャ・ブ』と似ていて、私にはかなり心地良く感じられた。また主演のトムもぴったりのはまり役で、圧倒的なCG映像にも負けず劣らずの大熱演であった。
評:蔵研人
製作:2016年 日本 上映時間:116分 監督:月川翔
時間をさかのぼることが出来る不思議なレコード。これを使って事故死した幼馴染の葵海(miwa)を何度も助けようとする陸(坂口健太郎)だが、どうやっても彼女を救うことが出来ない。
その葵海はもうすぐ米国へ留学してしまう。そんな事情の中で、1年前に時間を戻して二人は幼馴染から恋人同士に昇格するのだった。そして最後のコンサートのあと、陸は果たして葵海を事故から救い出すことが出来るのだろうか。
なかなか私好みの興味深いテーマなのだが、なぜ何度過去に戻っても葵海を事故から救い出せないかの説明が全く無いところが残念でたまらない。また陸が急にギターの名手になる種明かしも、米国映画の『恋はデジャヴ』のパクリではないか。
そして少なくとも泣けると思ったラストも無感動だし、どんでん返しも全く無い平凡な締め括りにも失望してしまった。もっと言えば脚本の未熟さだけではなく、製作費不足のせいかキャスト陣もいま一つだっと感じたのは私だけであろうか。大好きな時間ループテーマだっただけに、残念を通り過ぎて悔しい気持ちで一杯である。
評:蔵研人
著者:朱川 湊人
家に帰ると、ついきっきまである公園で一緒に遊んでいた親友が、交通事故にあって死んでしまったという連絡を受け、遠藤少年は呆然としながらも信じられない気持ちでいっぱいであった。傷心の遠藤少年は、翌日になって、ぼうっとしながら図書館に行った帰り道のことである。あの公園に入るとそこには、昨日死んだはずの親友が元気に遊んでいるではないか。
その親友は幽霊ではなく、実は遠藤少年がこの公園に入ると昨日にタイムスリップしてしまうのであった。そのことに気付いた少年が、親友が事故に遭わないような手だてを講ずるのだが、残念ながら親友は別の事故で死亡してしまうのだ。がっかりした少年だが翌日になって、またあの公園に入ると、またも親友が声を掛けてくるのだった。
どうもこの公園に入ると何度でもタイムループが起こって、昨日に戻ってしまうようである。喜んだ少年は今度こそ親友が事故に遭わないように、いろいろと画策を施すのだが、やっぱり親友は別の事故に遭遇して死んでしまうのだ。何度繰り返してもダメだった。それどころか事態はだんだん酷くなり、親友だけではなくその家族たちにも被害が拡大していってしまうのである。
というような展開で話は進んで行く。短編小説であるが、次の展開にうずうずしながら、あっという間に読破してしまった。ただ最近このようなお話は決して珍しいものでもなく、小説や映画で何度も読んだり観たりしているため、あっと驚くような斬新さはない。とはいうものの、ラストの切ないシーンには泣かされるし、なかなか完成度の高い作品であることは否めないだろう。
なお本作は2006年に、堂本光一主演でテレビドラマ化されているようである。また原作者の朱川 湊人は、出版社勤務を経て、2002年年に「フクロウ男」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビューし、2005年に『花まんま』で直木賞を受賞している。なお本作は短編のため、他の作品と併せて『都市伝説セピア』というタイトルで文春文庫から出版。その中には新人賞受賞の『フクロウ男』のほか、『アイスマン』、『死者恋』、『月の石』の五作が収められており、どの作品も素晴らしいので是非ご一読されたい。
評:蔵研人
製作:2009年 英国、豪州 上映時間:99分 監督:クリストファー・スミス
ヨットクルーズを楽しんでいた男女六人のグループに、突然嵐が襲い掛かってヨットが転覆し女性1人が遭難してしまう。この絶望的な状況の中で、運良く豪華客船が通りかかり、彼等は助かったと安堵するのだが・・・。この豪華客船は誰も乗っていない幽霊船だったのである。そして彼等が広い船内をウロウロしていると、不気味な覆面を被った者によって次々に殺されて行くのだった。
ここまでは良くありそうなホラー話なのだが、このあとからストーリーが急転回してゆく。つまり全員が死亡すると、また時間が戻ってヨットで漂流しているシーンからはじまるのである。これが何度も果てしなく続いてゆく。一体何のために、どうしてこんなことが起きるのか、観客の興味を嘲笑うかのように、またシーンが一転してオープニングでヒロインが息子を叱っているシーンにたどり着く。そして当然のようにラストは存在しない。
まるでメビウスの輪のような展開である。これまでにもタイムループを描いた映画は、『恋はデジャブ』、『タイムアクセル』、『ターン』 、『リピーターズ』、『NEXT -ネクスト-』、『ミッション: 8ミニッツ』 など数多くあるが、本作のようにホラー仕立てのものははじめてである。
やや理解しがたい部分もあるが、低予算映画としてはかなり完成度の高い作品だと感じた。また主演のメリッサ・ジョージの抜群のプロポーションと、情緒不安定ママという役割とのアンバランスさが、この作品にはぴったりと染み込んでいてとても良かった。
本作をDVDで観るときは、余り予備知識がないほうが楽しめると思うので、ネタバレレビューは読まないこと。また一度観ただけでは良く分からないシーンもあるので、あとで二度三度とDVDを戻して確認するのもいいだろう。
評:蔵研人
製作:2010年 カナダ 上映時間:85分 監督:カール・ベッサイ
毎日が何回も繰り返されるお話で、『恋はデジャブ』、『タイムアクセル12:01』と同じパターンである。だが本作は全体的に暗いイメージで、タイトルが複数形になっている通り、時間を繰り返すのが三人の男女になっているのだ。
なぜ彼等三人が時間ループに巻き込まれてしまったのか。その原因として考えられるのは、三人とも問題を起こしていて、それを解決出来ない状況にあるということだろう。
ただそれだけの理由では、ちょっと単純だし、物語の背景やストーリー展開にも深みが感じられない。また三人のうち一人だけが、急に殺人鬼に変貌してしまったのも納得出来ないよね。
どうせ時間が繰り返して、翌朝になれば全てがチャラになるからと言っても、ただ無意味な殺人を繰り返す必然性がない。このあたりの描き方が安易過ぎて、なかなかストーリーにのめり込めなかった。大好きなテーマだけに、非常に残念である。
評:蔵研人
製作:2009年 米国 上映時間:90分 監督:セス・グロスマン
第1作目が秀作であったため、いつの間にかシリーズ化されてしまったが、第1作目以外は全く別のコンセプトを感じる。第2作は罵倒され、本作はやや持ち直しとのレヴューが多いが、第2作も第3作もともに期待外れであることに変わりがない。
本作はSFとかファンタジーではなく、スプラッターホラーに成り下がってしまった。またエログロはいただけないし、全く必然性も感じられない。単に監督の好みなのだろうか。
それから、タイムスリップするためのインフラも、初めはバスタブとコードとパソコンが必要だったのに、いつの間にかバスタブと氷だけになり、最後は何もないところでタイムスリップしてしまうのだ。一環性が全くなく、ラストも夢落ちのような、ホラーのラストシーンのようなあいまいな幕の引きだった。
第1作のネームバリューだけに頼って、レべルの低い続編を出し続けられるのも、多分もう一回だけだな。私はもうこれでこのシリーズは見納めにしたい。といいつつも、結局もう一回位は観ることになるのだろうか。
評:蔵研人
製作:2006年米国 上映時間:92分 監督:ジョン・R・レオネッティ
かなり評価の低い作品であることは判っていたが、前作『バタフライエフェクト』には大感動したことだし、熱狂的タイムトラベルファンとしては、この続編を外すことが出来なかった。そして当然ながら、間違いなく評判どおりの駄作であり、もしかするとという耳かき程度の期待は、無残にも打ち砕かれてしまった。
映画を観ているという実感が湧かないのだ。のっぺらとした捻りのない展開はTVドラマそのもので、感動もなければ驚きもない。また見知らぬ俳優達にも、全く魅力を感じなかった。
ストーリーのほうは、絶望的な事故に遭遇しながらも、奇跡的に生還した主人公が、過去に戻って事故を防ぐのだが、結局は別の不幸に見舞われるという展開だ。何度も過去に戻ってやり直すのだが、事態はだんだん悪化するばかり。
不幸という神の意思はどうしても回避出来ないのだ。それでついに、その神の意思を利用することに気付き、不幸な事態を収束させる決意をする。このラストの展開だけは、なるほどと妙に納得してしまった。
評:蔵研人
製作:2004年 日本 上映時間:98分 監督:内田けんじ
2005年カンヌ国際映画祭評論家週間で4賞を受賞した話題作。だが自主製作映画という趣きの低予算作品で、無名の俳優と僅かな映画館での上映に限定されていたため、DVD化されるまでは、ほとんどその存在さえ知らなかった。話の内容は、どこにでもいる平凡なサラリーマンの一晩の体験という、シンプルな異色コメディーだ。
ところが、ところがである。これがとてつもなく面白かったのだ!。男に捨てられた女、女に逃げられた男、探偵をしている親友、逃げた女の愛人であるヤクザの組長、そして逃げた女。この5人それぞれの視点でストーリーは時間を遡ったり、パラレルに進んだりしながら、がっちりと一つの輪のように繋がってゆく。
この異なった視点とフラッシュバックによって、それまで謎めいていた事象が少しずつ解明されゆくのだ。玉手箱を開けたようなその道筋が楽しいし、それまでの恐怖感が苦笑に変わって、一人ほっとしたりする。
なんと素晴しいアイデアと脚本力ではないか!。低予算でもこれだけの作品が創れるのだから、やはり映画は金だけじゃないということを再認識させられた。
それからラストは、エンディングクレジットが終わるまでしっかり観よう。いかにも終了したかのような仮エンドがあり、そのあとに気になっていたシーンが入るからだ。 この本当のラストシーンは、たぶん賛否両論で、評価が真二つに別れるだろう。僕的には良かったのではと思う。
・・・と言うのも、あのラストシーンの彼女の行動は、二つの理由が考えられるからである。具体的に言うとネタバレになるので、はっきり書けないのが辛いのだが、是非DVDを観て確認して欲しい。
本作は正当なタイムトラベル映画ではない。だが同じ時間の同じ場所なのに、視点を変えて見るだけで全く違って見えるものだ、ということを映像表現しているパズル的作品なので、ある意味でタイム・ループ的な位置づけと考えてみたのである。
評:蔵研人
製作:1998年 ドイツ 上映時間:81分 監督:トム・ティクヴァ
ドイツで大ヒットになったゲーム感覚のハイテンションなアクション・ラブ・ストーリーといったところか。いずれにせよ、従来観たこともない風変わりな映画である。
またア二メを多用した荒唐無稽なオープニング映像は、なんとなくタランティーノ風味。思わず『キル・ビル』を想像してしまったが、内味は全く異なるアイデアがびっしり。
午前11時40分。ローラの家の電話が鳴る。相手は裏資金の運び屋をしている恋人のマ二からである。
ローラのバイクが盗まれて、彼を迎えに行けなかったため、彼は10万マルクを地下鉄に置き忘れたという。そしてその金はホームレスに盗まれてしまった。12時までに金を用意しないとボスに殺されるというのだ。
12時といっても、あと20分しかない!ローラは、恋人を助けるためにべルリンの街を走る走る走る、まずは父親の勤務する銀行に向かって走りまくる。
ところがローラの行動は全て裏目に出て、最後は警官に撃ち殺されてしまうのだ。これでジ・エンドかと思ったら、すぐにリセットされて第2ラウンドが開始され、途中までは前回と同じ行動が続く。
なぜリセットされるのかは分からない、もしかしてこれはゲームの世界のお話なのかもしれない。だから上手く行くまで何度でもリセットボタンを押すことが出来るのだろう。
そういえば、ローラの紅い髪にしても軽快な服装にしても、ゲームのキャラそのものじゃないか。やっとこれが擬人化されたゲーム映画なのだと気がついた。
なかなか面白い発想と視点である。ただ主人公ローラのオバさん顔が余り好みではない。もう少し可愛い女の子を使えなかったのだろうか。それだけが心残りである。
評:蔵研人
製作:1993年 米国 上映時間:94分 監督:ジャック・ショルダー
かなり以前に1度観た映画だが、その後タイムトラベルファンになって、もう一度観たくて堪らなくなってしまったのである。ところがいくらDVDを探しても見当たらない。そこでやむなく映像が悪いのは我慢して、レンタル落ちの中古ビデオを購入してしまった。
本作は『恋はデジャ・ブ』同様、ある1日の繰返しが延々と続く。『恋はデジャ・ブ』は、美人プロデューサーの女性をくどくために、何度も1日を繰り返す男の話だった。本作は惚れた同僚女性を、殺し屋から守るために何度も1日を繰り返す男の話である。
繰返しを続ける原因は、どちらも女性のためなんだね。違うところは、本作の時間循環ほうが、やや理論的だということである。いずれにせよ、双方よく似た作品である。だがどちらの作品も、1993年製作なので、どちらかがパクッたということはないだろう。それにしても、偶然の産物にしては似過ぎているよな・・・。
『恋はデジャ・ブ』には一歩譲るものの、本作の出来映えもなかなかである。とにかく面白いし、よく練られたストーリー構成である。そしてヒロイン役のヘレン・スレイターがとても知的でキュートだ。
若かりし日の彼女が『スーパーガール』だったと知って、驚きの中に懐かしさが溢れてくるようであった。ところで彼女もあっという間に50代半ばになってしまった。最近はほとんど映画出演はなく、フォークやジャズの歌手をしたり、TVドラマに出演しているらしい。
評:蔵研人
著者:香納 諒一
西澤保彦の『7回死んだ男』というミステリーがあるが、本書では主人公の斎木章が10回も死ぬのだ。基本はSFミステリーだと思うのだが、どちらかというとハードボイルドタッチでもある。
死んでしまうと、また過去に戻ってやり直しが出来るのだが、何時間前に戻るのか判らないうえに、だんだん過去に戻る時間が短かくなってゆくのだ。従って取り戻せない失敗も発生してしまう。それがこの繰り返し小説を、飽きずに読ませる仕組みなのだろう。
過去への繰返しを描いた小説の代表は、ケン・グリム・ウッドの『リプレイ』と、北村薫の『ターン』であろう。また映画では、何といってもビル・マーレーとアンディ・マクドウェルの『恋はデジャ・ヴ』の右に出るものはないだろう。
ただ本作のようなハードボイルド系の繰返し作品は初めてであり、非常に楽しく読ませてもらった。また緻密に計算され尽されたスト一リー展開も見事である。
だがやはり、10回もミスを犯して死んでしまう主人公にはイライラが募る。なんだかしつこい気もする。それに、せっかく美女が二人も登場するのに、濡れ場が全くないのも淋しいじゃないの・・・。
繰返しのほうは10回ではなく、せめて5~6回位で十分である。もしかして、西澤保彦の「7回」に張り合って、10回に引き伸ばした訳ではないだろうな。
評:蔵研人
著者:恒川光太郎
この本には三つの話が詰め込まれている。タイトルの『秋の牢獄』のほか、『神家没落』、『幻は夜に成長する』の三篇である。
著者の恒川光太郎は2005年に『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞し、いきなり直木賞候補となった脅威の新人である。そのじっとりした美しい文体から繰り出す、ノスタルジックな世界観はやみつきになりそうだ。
さて三つの話は、全く関連性のない別の話である。しかし全ての作品には、「監禁される」というテーマが根底に流れている。
『秋の牢獄』は、映画の『恋はデジャ・ブ』や北村薫の『ターン』と同様に、同じ毎日が繰り返されてしまう話である。ただこの奇妙な世界に迷い込んだのは、主人公1人だけではなかった。
そこには同じ状態の漂流者が何人も存在し、彼等はグループを形成していた、という設定が前述の映画や小説と異なる展開である。11月7日から翌日に行けないということから、ある意味11月7日の中に監禁されていると考えることができるだろう。
『神家没落』に登場する古い家は、誰かが残らない限り、一度入ると絶体に外に出られない。そして代々誰かが犠牲になって、この家を守ってきた。外の人々は、その住人を神と呼ぶ。もちろん、これこそ監禁以外の何物でもないよね。
『幻は夜に成長する』は、三作の中では一番もの悲しい作品だ。祖母から超能力を与えられた少女が、ある宗教団体の生き神様として、監禁されて生きるようになった過程を描く。きっと読者たちには、少女の不安と孤独と絶望感がひしひしと伝わってくるはずである。
それにしても、本書の著者である恒川光太郎の力量は計り知れない。既存の作家にはない独特の感性とパワーバランスに酔いしれてしまった。1973年生まれと、まだ若いのでこれからが楽しみな作家である。
評:蔵研人
製作:1993年 米国 上映時間:101分 監督:ハロルド・ライミス
私の「生涯べストシネマ」のうちの1本である。最近レンタルアップしたビデオテープを購入し、約20年振りに改めて鑑賞してみた。この作品を観るのはこれで4回目だが、飽きない、陳腐化しない、何度観てもワクワクして爽やかである。
主演はビル・マーレイと私の憧れの君、「アンディ・マクダウェル」である。まあそれだけでも嬉しくなるのだが、ストーリーがとても面白いのだ。
ビル・マーレイ扮する、イヤミで自己中な天気予報士フィルは、とある田舎町の聖燭節を取材に、アンディ・マクダウェル扮する美人プロデューサーのリタと同行する。
ところが急に大雪になり、町から出られなくなってしまうのだ。そして翌朝ホテルで目覚めると、「昨日」に逆戻りしているではないか。しかもその状況が毎日毎日、エンドレスに繰り返されるのであった。
フィルはこの退屈な繰り返しを、女性をくどいたり、悪ふざけをして楽しむことにした。やがてそれらに飽きた彼は、美人だが真面目でお堅い、リタを口説くことに専念する。
彼女の好みを毎日調べあげて、手を変え品を変えアタックするのだが、あと一歩というところで巧くいかない。さてさて二人が、それからどうなるのかは、観てのお楽しみ!
・・・といった展開のラブコメであり、最後まで画面から目が離せなかった。
ただ中盤、フィルが何度も生き返るシーンだけは、ちょっとしつこ過ぎるかな。一番のハイライトは、彼がけなげに何度もピアノレッスンに通って、パーティーで実力を発揮するシーンだね。
本当にあれは良かった。最初は何故レッスンを受けているのか理解出来なかったが、後で「なるほどそんな遠大な計画だったのだ!」と感心しちゃったね。そして感動の余り、思わず涙ぐんでしまった。
僕がアンディ・マクダウェルにメロメロになったのは、実はこの映画がきっかけなのである。
評:蔵研人
製作:2000年 日本 上映時間:88分 監督:三原光尋 主演:吹石一恵
ちょっと古い映画で、福山雅治と結婚した吹石一恵が主演の女子高生を演じている。
従ってこの映画を観たのも20年近く前なのだが、そのとき「今時の高校生は、女子のほうから男子に「告白」するのかねぇ~」と感じたものだが、今ではそれも当たり前の時代になってしまった。世の移り変わりは俊足極まりないものである。
騒がしい女子四人組と、田舎の町がなんとなくアンバランスな感じだ。空手部の先輩に恋心を告白する主人公の吹石一恵。その瞬間に振られてしまい失意のどん底へ。
ところがそのとき、ブドウ畑で不思議な少女と出会うと、次の日にはまた前日に逆戻り。再度告白方法を変えてチャレンジするのだ。さてさてこの恋は成就するのだろうか。
まるでビル・マーレイとアンディー・マクドウェルの名作『恋はデジャヴ』そのものである。だが残念ながら、完成度は『恋はデジャヴ』には、遠く及ばなかった。
まず音楽がマッチしていないし、時間が戻るシーンにドキドキ・ワクワク感がないのだ。本来なら★★☆程度なのだが、自分の大好きなテーマなので、ついつい甘い評価点になってしまった。
ただ喜怒哀楽を上手に眼で演技していた吹石一恵と、サバサバとした先輩役の沢木哲には好感を持てるだろう。またブドウ畑の不思議な少女については、すぐに正体が判ってしまったが、それでもラストの写真にはホロリとしてしまった。吹石一恵ファンやタイムトラベル好きの人なら一度鑑賞する価値はあるだろう。
評:蔵研人
著者:綾崎隼
なんと超遅読者の私が、4冊に及ぶこの長編小説の全巻を、僅か1週間で読破してしまったのである。通常なら1冊だけでも1か月位かかって、のらりくらりと読み続けているだろうから、もの凄いスピードで読み抜いてしまったということになる。
登場人物も背景も限定的なのだが、この小説には麻薬のような中毒性が含まれているようだ。そうでなければ、こんな超人的な速読が出来るわけがない。
一番大切な人が死ぬと、激しい時震(地震と違い、物は揺れず、身体だけ揺れる)が起こり、過去にタイムリープしてしまうのであるが、次のようなルールが存在していた。
●過去に戻るのだから、死んだ一番大切な人は元に戻っているのだが、その引き換えに二番目に大切な人が消失してしまう。
●消失した人は5年前に突然消えてしまったことになり、5年前以降の存在は誰の記憶にも残っていない。だがタイムリープした人にだけは、全ての記憶が残されている。
●消失した人は基本的に元に戻らず、2回目のタイムリープが起こると、今度は三番目に大切な人が消失してしまう。3回目、4回目以降のタイムリープについても同様なので、タイムリープを繰り返すとどんどん大切な人が消失してしまう。
●タイムリープは無限にできる訳ではなく、時間の歪みによって生じた余剰時間分が限界となる。
●タイムリーパーは複数いるのだが、自分以外の人がタイムリープした場合は、通常人と同様記憶が残らない。
それにしても、よくこれだけいくつもルールを創り、それに合わせて物語を複雑かつ緻密に展開させたものである。改めて作者・綾崎隼の力量に脱帽する次第である。
さて本作が4巻で構成されていると前述したが、タイトルは全て『君と時計と嘘の塔』ではないのだ。「君と時計と」までは同じなのだが、正確には『君と時計と嘘の塔 第一幕』『君と時計と塔の雨 第二幕』『君と時計と雨の雛 第三幕』『君と時計と雛の嘘 第四幕』の4冊となっている。ただコミックスのほうは『君と時計と嘘の塔』で統一され1~3巻で発売されているのでご注意!。
主な登場人物は、主人公の杵城綜士のほか草薙千歳、織原芹愛、鈴鹿雛美の4人であるが、タイムリープできるのは杵城綜士、織原芹愛、鈴鹿雛美の3人の高校生であり、草薙千歳は天才的能力を持つ先輩である。またタイムリープする3人が、相互にいろいろな感情で縛られているところが興味深い。さらには前半は織原芹愛がヒロインだったのだが、実は全く眼中になかった鈴鹿雛美がヒロインに変ってゆく過程がかなり感動的なのである。またラストの大団円も、実に見事に決めているではないか・・・。
ああこれ以上書き続けていると、ネタバレになる恐れがあるのでここらで筆をおきたい。最後に一言、本書ではタイムリープが頻繁に起こるのだが、ただ過去に跳ぶだけではなく、何度も過去をやり直すことになるので、正確にはタイムループものと分類しても良いだろう。
評:蔵研人
作者:ももち麗子
少女マンガであるが、よくあるラブストーリーではなく、イジメがテーマのタイムスリップ・ストーリーなので、男性にも読み易いかもしれない。
親の離婚が原因で、東京から引っ越すことになり、仙台の女子高に入学することになった村咲みどり。はじめはクラスの仲間たちと上手くいっていたのだが、イジメに遭っていた幼馴染の氏原あかりを助けたことにより、影のボスである伊集院エレナの反感を買ってしまうのである。そしてイジメの対象も、あかりからみどりへとターゲットが変わってゆく。
みどりに対するイジメは、あかりの頃よりもずっと酷くなり、ロッカーに閉じ込められたまま階段から突き落とされたり、トイレで恥ずかしい写真を撮られたりと、どんどんエスカレートしてゆくのであった。
とうとう耐え切れなくなったみどりは、校舎の屋上から飛び降り自殺をするのだが、その瞬間に一年前にタイムスリップしてしまうのである。最初は夢かと思っていたみどりであるが、持っていたケータイに記録されていた未来の日記を読んで、タイムスリップしたことを悟る。そして二度と同じことを繰り返さないと固く決意するのであった。
過去の人生を繰り返すというタイムループ系のストーリーであるが、この作品では一年前の人生を一度だけ繰り返すという展開なので、何度も繰り返すことはない。一応過去での失敗を避けようと、過去とは別の行動をとるのだが、なかなかうまくいかない。それで最終的には実力行使に出てなんとか納まるのだが、それならなぜはじめからそうしなかったのだろうか。それとその後になぜエレナの報復がなかったのか。最後のまとめ方にはかなり違和感を感じざるを得なかった。
またタイムスリップものとしての道具の使い方については、かなり勉強不足の感があるが、女子高でのイジメは迫力があったし、乙女心の描き方にも説得力があったと思う。やはり作者はSFマンガ家ではなく少女マンガ家なのだと改めて実感した次第である。
評:蔵研人
製作:2003年米・英国 上映時間:92分 監督:ローランド・ズゾ・リヒター
ケン・グリムウッドの小説『リプレイ』が映画化された訳ではなく、全く違う作品なので間違えないように。どちらかというと、『メメント』風味の記憶パズルゲームといった趣向の映画である。
交通事故に遭ったサイモンは、一時的に心停止状態となるが、懸命の措置を受け奇跡的に回復する。だが2年間の記憶を失ってしまった。そして彼の前には、妻を名乗る見知らぬ女性が登場し、サイモンが浮気をしていることや、兄のピーターが2年前に死んでいることを告げるのだった。
どうしても消えた記憶に納得のいかないサイモンが悩むうち、MRI検査を受けるときに何者かに襲われ、突如として2年前の病院に逆戻りしてしまう。そこで彼の前に現れた看護師は、さきほど妻を名乗ったアナであった。
兄の死、妻のアナや恋人クレアとの関係、担当医でなぜか小児科医のニューマンの存在など、なんだかよく分からないことだらけなのだ。2年前を行ったり来たりし、観客を翻弄するような、この時間軸パズルを解き明かすことは出来るのだろうか。もし一度観ただけで、このパズルを完璧に解ける人がいたら大天才であろう。
本作では主人公が、過去と現代を行ったり来たりする。そして自分の責任で引き起こした兄の死の原因を、過去に遡って修正しようと試みるのだ。このあたりの展開は、この直後に創られた『バタフライエフェクト』に、かなりの影響を与えているような気がする。
またこの作品は、『マルホランド・ドライブ』、『ドニー・ダーコ』などのダークな雰囲気を好むマニアにはお勧めかもしれないが、かなり好き嫌いの分かれる作品かもしれない。私自身はちょっと後味が悪くて、何でもありの夢落ち風ラストにも今一つ乗り切れなかった。
評:蔵研人
全12巻 著者:今泉伸二
ケン・グリムウッドの小説『リプレイ』の版権を持つ新潮社が、主人公を日本人に変え、ストーリーも大幅に改編して、今泉伸二に描かせたコミックである。
本家であるケン・グリムウッドの『リプレイ』は、冴えない主人公が43才になると死亡し、記憶を持続したまま25年前の自分の体に、タイムスリップしてしまうというお話だ。そしてこの死亡とタイムスリップの繰り返しを、約10回も行うのである。
未来の出来事を記憶しているわけだから、賭け事や株で大儲けし、好みの女性も思いのままである。しかし結局のところ、それでは本当の満足感が得られず、何度も何度も人生をやり直す。そしてあるとき自分同様のリプレイヤーと巡りあい、本当の恋をする・・・。
~とざっとこんなストーリーなのだが、コミックの『リプレイJ』では、何度も繰り返しリプレイする人生は描いていない。小説同様やはりショボイ40男が、新入社員時代に戻るのだが、1度目のリプレイで、やりたい事をほぼ全て完遂してしまう。だから回を重ねるごとに段々スケールが大きくなり、ついには日本はおろか世界中を席巻してしまうのである。
しかもほとんどが、歴史的実話で構成され、登場人物の名も本名をモジっただけで、顔は本人そのものなのだから笑っちゃう。
これなら絶対に面白い・・・はずである。ところがこのコミックには、不思議といまひとつのめり込めない感がある。
一言でいえば、細かい絵を追うのが疲れるのだ。そう、今泉伸二が描く絵は、細部に渡り美麗極まりないなのだが、まさにイラストであり動きが全くないのである。原作もののマンガを描く人には、このようなタイプの画風が実に多いね。
それが唯一の欠点であり、残念だがマンガとしては最大の欠陥とも言える。まあ人それぞれなので、こういう絵が好きならば、文句なく楽しいマンガと言えるだろう。
評:蔵研人
著者:ケン・グリム・ウッド アメリカの小説なのだが、ケン・グリム・ウッドの『リプレイ』を読んだであろうか? 北村薫の『ターン』が毎日の繰り返しであるのに対して、この『リプレイ』は一生の繰り返しなのである。主人公は43才になると突然死んでしまい、18才の若者時代の自分に過去の記憶を失なわずに戻るのだ。
そしてまた43才になると死亡してしまい、再び18才の若者時代戻るということを繰り返すのである。つまり何度も人生をやり直せるため、大きなギャンブルや株式などは、その結果を記憶している限り大儲けも出来るし、美女も思いのまま!といった痛快なお話なのだ。
ただ余りこれを繰り返しても退屈してしまうのだが、程よい時期に同じようにリプレイを繰り返す美女と出合う。そこから新展開を迎えるため、ストーリーは俄然お面白くなり、一体結末はどうなるのか非常に気になり始めてしまう。
同じ新潮社から日本版にリメイクされたコミック『リプレイJ』も出版されているが、やはり原作本には遠く及ばない。470頁に及ぶ長編小説であるが、あっという間に読破してしまうほど面白いので、興味があれば是非一読してみよう。自信を持ってお勧めしたい。
評:蔵研人