
★★★☆
本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。
製作:2018年 英国 上映時間:86分 監督:ポール・タンター
舞台は2037年。赤子の命を15秒で奪ってしまうウイルスが世界中に蔓延。そんな終末の世界を牛耳っているのは、なんとバイオコープという大企業なのであった。そして荒れ果てた地球の中でも、その社員だけは裕福な暮らしを謳歌していたのである。
そんな世界に不満を感じた二人の科学者がタイムマシンを開発し、2017年にタイムスリップする。そしてこの終末の原因を創ったバイオコープ社を破滅させて未来を変えようと画策する、というストーリー仕立てである。
決してストーリー自体は悪くないし、『意識を過去に転送して肉体を再構成する』という『マトリックス』的なタイムマシン原理もなかなか興味深かったのだが・・・。なにせストーリー構成が中途半端というか、出鱈目というかよく商品化できたなと唸ってしまうのだ。
オープニングでは、なにかこの作品自体が続編であるかのように、それまでに至る経緯が言葉だけでダラダラと説明される。だが余りにも映像展開を端折り過ぎているため、現状を良く理解出来ないままストーリーだけが進んでしまうのである。
そしてなんとなくそれまでの経緯が、ぼんやりと見えてきたかなと思ったらもう終盤であり、なんとラストシーンは『次回につづく』といったような、尻切れトンボな終わり方であった。
まさしく、上・中・下巻の中巻だけが発売されたような作品なのだ。または上映時間の短さから考えると、連続TVドラマの第何話なのかもしれない。だがそんな説明はどこにも記されていないし、ネット上にもそんな痕跡は見当たらないのだ。
一体どういうつもりでこのような中途半端な作品を創ったのか、いやもっと言えば、映画配給会社が商品として発売してしまったのだろうか?その真意を知りたいものである。
タイムトラベルファンのため、事前に中身をよく吟味しないまま、いきなり店頭でレンタルに飛びついてしまったことが悔やまれる。ただ『マトリックス』的なタイムマシン原理、という手法だけは唯一の収穫だったかもしれない。
評:蔵研人
★★★☆
著者:村山由佳
村山由佳がイラストレーターと創った絵本から、文章の部分だけを取り出して再構成した『絵のない絵本』である。子供向けで字数も少なく読み易いので、誰でもあっという間に読めるだろう。
収録作品は表題の『約束』をはじめ、『さいごの恐竜ティラン』、『いのちの歌』の三作で紡がれている。
この中で一番長いのが約80頁の『約束』で、4人の少年たちの友情をノスタルジックたっぷりに描いた『スタンド・バイ・ミー』もどきの小説である。その中で難病で入院した友達を助けるために、タイムマシン製作に夢中になってゆく3人の少年たちの涙ぐましい努力が実に微笑ましい。
『さいごの恐竜ティラン』は、肉食恐竜に子供を食われた草食恐竜が、その肉食恐竜の赤ちゃんを育てるというお話。また『いのちの歌』は、人間によって汚染された海の中に迷い込んでしまったくじらの母子の愛情物語である。ともにいのちの尊さと母性本能の深さを、しみじみと描いてジーンとくる短編小説に仕上がっている。
評:蔵研人
製作:2016年 米国 上映時間:113分 監督:ジェームズ・ボビン
2010年に製作された『アリス・イン・ワンダーランド』の続編である。監督がティム・バートンからジェームズ・ボビンに変わったが、主なキャストはジョニー・デップ、ミア・ワシコウスカ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン・ハサウェイと、全く変わらない。ただ前作では20歳だったアリス役のミア・ワシコウスカが、完全に大人の女性に成長してしまったことにだけ違和感を覚えた。
前作はルイス・キャロル原作の『不思議の国のアリス』をアレンジしたようなストーリー展開と、超美麗でファンタステックな映像に驚かされたものである。だが本作はさらに脚本が練り込まれたようで、超美麗な映像のままストーリーにも深みを感じた。またVFXも格段に進化し、まるで『ハリーポッター』を観ているような感があった。
前作は映画館で観て、本作はDVDで観たのだが、本作も映画館で観ればもっと素晴らしかったに違いない。またストーリーの核が『時間テーマ』であり、タイムマシンで過去に戻ったり、パラドックスと世界崩壊を描いているところが面白かった。そして「幸せと愛に溢れた」エンディングにも感動できた。ただ赤の女王の過去だけは、気の毒としか言いようがなかったね・・・。
評:蔵研人
製作:2014年 オーストラリア 上映時間:97分 監督:マイケル・スピエリッグ
ロバート・A・ハインラインの短編小説『輪廻の蛇』が原作のSFサスペンス映画である。携帯用タイムマシンを使って時空を往来し、犯罪者を取り締まる中年エージェントと、その仲間に誘われる男女両性を持つ青年との宿命的な物語と言えるだろう。主役を演じたイーサン・ホークとセーラ・スヌークの二人もぴったりのはまり役で、存在感たっぷりの味のある渋い演技だった。
小説のタイトル『輪廻の蛇』とは、自分で自分の尻尾を飲みこむ蛇のことであり、矛盾というか複雑なパラドックスと言う意味なのかもしれない。とにかくハインラインのタイムパラドクスは、しつこいくらい理屈ぽくて秀逸である。
本作はそのハインラインの絶妙な味とタッチを損なわず、不気味さを漂わせながら実に見事に描いているではないか。ただ内容について詳細を綴ると、その面白さが台無しになってしまうため、評論者泣かせの映画とも言える。従ってあとは観てのお楽しみと言うことで締めることにする。
評:蔵研人
★★★☆
製作:2013年 カナダ 上映時間:93分 監督:リッチー・メータ
12年前に出張したまま行方不明となってしまった父親。だが母親は夫は死んだのか、女と逃げたのか、生活を捨てたのか判別できず苦悩の末自殺してしまう。ところが大学教授の祖父は、娘の夫は失踪したのではなく、タイムトラベルしたまま事故に巻き込まれてしまったのではないかと推測していた。だがそんな荒唐無稽な話は娘に告げられず、天才的な頭脳を持つ孫のエロルにだけ教え、一緒にタイムマシンの開発をすることになるのである。
タイムマシンの話が出るまでは、父親の失踪の謎と、母親の苦悩を描いたサスペンスドラマのようであった。だがタイムマシンはなかなか完成しない。そしてエロルは過去を変えることにより、恋人との幸せな生活が消滅することを恐れて研究を止めてしまう。だがある出来事がきっかけとなり、見えなかった方程式が解けて、あっという間にタイムマシンが完成するのである。
そして父親がタイムトラベルした過去へ出発する。なにせタイムトラベルはこの一回だけである。そして父親に遭遇し感動のラストへ。となんとなく『オーロラの彼方に』と似たような展開だが、本作のほうが父親の存在感が薄いような気がする。
まあタイムトラベルものとしては、まずまずのストーリー構成だと思うのだが、なにせ主役のエロルを演じたハーレイ・ジョエル・オスメントがミスキャストだったのではないだろうか。彼は過去に天才子役と騒がれ「シックスセンス」や「A.I」などで、インパクトのある役柄をこなしていたことを知る人は多いはずである。
そのハーレイ・ジョエル・オスメント君も、20代後半となったのだが、なんとチビで小太りのうえ、似合わないヒゲ面で、誰が観ても天才大学生とは思えない風貌なのだ。これでこの作品の価値がかなり萎んでしまった気がする。主役のイメージは、恐ろしいほど映画全体の完成度に影響するものである。
もうひとつタイムマシンが余りにもチープ過ぎるのも悲しいね。ほかにお金をかけるシーンはほとんどないのだから、タイムマシンのセットとタイムトラベルシーンくらいは、もう少しましな創り方が出来なかったのだろうか。なぜプロの監督にそんなことが出来なかったのか、非常にもったいないし残念である。
評:蔵研人
★★★☆
製作:2014年 米国 上映時間:106分 監督:ディーン・イズラライト
何度も過去へのタイムトラベルを繰り返しているうちに、段々と制御不能な事態を招いてしまう若者5人を描いたSFサスペンスである。またこの作品は、ファウンド・フッテージという手法を使い、私の大嫌いな手持ちビデオカメラで写したPOV形式の低予算映画なのだ。
ファウンド・フッテージとは、撮影者が行方不明などになり、それまで埋もれていた映像という設定の作品のことをいう。またPOV形式とは、カメラの視線と登場人物の視線を一致させるようなカメラワークのことを言い、『クローバーフィールド』、『クロニクル』、『プロジェクトX』などでも採用されている。
これにより臨場感抜群でリアルな映像を創生しているつもりなのだろうが、ともかく私自身はこの「ゆらゆら、ザラザラ」した映像を観ていると船酔い状態となり、吐き気を催してしまうので、途中で目を閉じるか席を立ちたくなるのだ。
そんな訳で、この映画も途中で気分が悪くなり、何度中座しようと思ったことか。ところがタイムマシンが登場すると、なんとか落ち着いて映像を見れるようになったのだから不思議なものである。そのタイムマシンが稼働するとき、空間を揺るがすようなエネルギーの暴発シーンがなかなか素晴らしく、一時的に低予算であることを忘れさせてくれたのが嬉しかった。
また何度も過去をやり直すのだが、何かを変えることにより別の何かも変わってしまう、という因果律に逆らうことが出来ない。なんとなくあの『バタフライエフェクト』を彷彿させられるような展開でそれなりに面白かったのだが、過去での行動が余りにも単純だし、いくつかの矛盾点が目立ったのも残念でならない。もう少し手直しすればかなり完成度があがったと思うのだが・・・。
評:蔵研人
製作:2013年 ロシア 上映時間:100分 監督:ユーリー・モロズ
タイムトラベルものには、不出来な作品が多いのだが、タイムトラベルマニアとしては作品の良し悪しよりも、とにかく観ることが優先してしまう。という訳で今回も衝動買い、いや衝動レンタルしてしまった。
ケータイ電話と謎のアプリの組み合わせで、たちまちインスタントタイムマシンが完成。これを使ったロシアのジャーナリストが200年前にタイムスリップし、ロシア軍と海賊たちとの戦いに巻き込まれてゆく。
SFアドベンチャーコメディーと言えば良いのだろうか。珍妙なロシア映画である。ただなぜタイムスリップする必要があったのかが、未だに良く判らない。またロシアの歴史に疎いため、かつて米国に実在したロシア領「ロス砦」についても初めて知ることになった。この映画を観る前に、その辺の事情を知っていれば、もう少し楽しく鑑賞することが出来たかもしれない。
評:蔵研人
製作:2013年 韓国 上映時間:98分 監督:キム・ヒョンソク
2007年に『TIME CRIMES タイム クライムス』というスペイン映画が製作されているが、本作はそのタイトルをパクったような韓国のタイムマシン映画である。
タイムマシンを開発したものの、24時間未来に行けるという確証を得ただけで、莫大な研究費用がかかるため、スポンサーから撤退の指示が出ることになってしまう。だがそれに納得出来ない研究室長のウソクは、仲間の反対を押し切って自ら実験台となり、タイムマシンに乗り込んで24時間後の世界に旅立つのだった。
ウソクが24時間後の世界で見たものは、廃墟となった研究所と、防犯カメラに写されていた不気味な映像であった。一体24時間の間に何が起こったのだろうか。なんとか元の世界に戻ったウソクは、危険なので早く撤退しようと反対する仲間を制して、必死で謎の解明に取り組むのだが、結局それが現実に起こるのを防ぐことは出来なかった。とにかくウソクの行動には一々納得しかねるし、フラストレーションがたまり過ぎたよね。
まさに序盤のストリーリー展開からタイムトラベルまでの流れは、心が躍りワクワクさせられたのだが、そのあとが全くいただけなかった。タイムマシンの稼働はたったの一回だけだし、仲間同士で殺し合いを始めたり施設の破壊が続き、退廃的で暗くて陰鬱な展開に終始してしまうのだ。これではタイムトラベルの持つ面白さ・摩訶不思議さ・どんでん返しの妙などの味が全くなく、全くカタルシスも得られない。
なぜそんな不愉快な流れになってしまったのか。またその引き金となった「研究所大爆発の直接原因」が余りにもバカバカしく説得力がない。せっかく立派なタイムマシンが登場するものの、これはSFというよりミステリー・ホラーという雰囲気がする。だがそれならばちっとも怖くないのも情けないではないか。要するにただただ、「24時間後の世界がパズルを解くように合成されてゆく」という作品に留まっているだけなのである。
またウソクと一緒にタイムマシンに搭乗したヨンウンの革スーツが、気絶している間に「とっくりセーター」に着替えられていたのが、何とも不自然で気に入らない。多分二人のヨンウンが同時に登場するため、それを区別するための手法だと思うが、着替えをする理由とそのシーンを挿入するべきではなかったか。
細かいことかもしれないが、こうした神経質な配慮があってこそ、荒唐無稽なSF話も成立するのである。逆に言えばそうした繊細さに欠けているからこそ、中途半端な作品にしか仕上がらなかったのかもしれない。
評:蔵研人
著者:アントニー・バウチャー 翻訳:白須清美
表題作を含んだ、以下12作を集めた短編集である。
1.先駆者
2.嚙む
3.タイムマシンの殺人
4.悪魔の陥穽
5.わが家の秘密
6.もうひとつの就任式
7.火星の預言者
8.書評家を殺せ
9.人間消失
10.スナルバグ
11.星の花嫁
12.たぐいなき人狼
著者のアントニー・バウチャーは、米国ではミステリ評論家としての地位を確立しているが、ミステリ、SF、ファンタジーなどの作品を創作する作家でもある。さらには翻訳家でもあり、なんと編集者としても多大な実績を残しているのだ。
表題作の「タイムマシンの殺人」は、45頁の中短編で42分前の過去にしか行けないタイムマシンを使って、巧みに殺人のアリバイ作りをするというSFミステリである。ただタイムマシンとかタイムパラドックスといった部分には余り拘りがなく、あくまでもミステリ小説として紡いでいるので、タイムトラベルものを期待しないほうが良いだろう。
評:蔵研人
★★★★
製作:2014年 日本 上映時間:95分 監督:八木竜一、山崎貴
藤子・F・不二雄生誕80周年記念作品として製作され、シリーズ初の3DCGで『ドラえもん』を再構築した作品である。従ってかつての名作を繋ぎ合せているため、ストーリーにオリジナリティーが欠けているという批判もあるようだ。
だが3DCGの映像は、まるで最近のディズニーアニメのように洗練されており、映画館の大スクリーンで観る価値は十分に高い。また見方を変えれば、つぎはぎなストーリーをよくここまでまとめて、大人の鑑賞にも耐えられ総括的な作品に創りあげたものだと評価しても良いだろう。さすが『ALWAYS 三丁目の夕日』の山崎貴氏が手がけた脚本である。
ただSFとしての発想がかなり甘い。そもそものび太の結婚相手を替えるために、曾孫がドラえもんを現代に送り込んだということ自体があり得ない。つまり結婚相手が替われば、その曾孫は誕生しないわけで、タイムマシンで過去に来ることも出来ないはずだからである。
また現代(と言っても昭和時代?)から15年後に街中空を飛ぶ乗り物だらけというのも飛躍し過ぎているではないか。せっかく大人にも楽しめる作品を目指したのだから、そのあたりの矛盾が起こらないような設定が必要だったのではないだろうか・・・。
まあいずれにせよ、ドラえもんのアニメを観てこれほど泣けるとは思わなかった。映画が終わって、隣に座っていた小さな子が、「面白かったね」と親に話しかけているのを聞いて、やっぱり良い映画だったんだと感じざるを得なかったのも確かである。
評:蔵研人
★★★☆
著者:スーザン・サイズモア
歴史学者のジェーンは、若き天才物理学者ウルフが発明したタイムマシンに、無理やり押し込まれ十三世紀のイングランドへ送られてしまう。そしてそこで修道院へ入る予定だったのだが、聖務停止命令が出されていて、それが無理だと知ることになる。
偶然若くて優しい城主ステファンに助けられ、荒れ果てた城の整備や切り盛りを任せられることになる。若いステファンはジェーンに好意以上のものを抱いてしまうのだが、以前より男爵の一人娘シベールと婚約することになっていた。またジェーンは、ステファンの友人で、国王の騎士であるダフィッドという逞しい男を紹介され、彼を恐れながらも惹かれはじめてしまうのだった。
前半は不潔で恐ろしい中世の世界が刻々と描かれている。床は泥だらけで蚤や虱の巣窟であり、いたるところに動物の糞尿が巻き散らかされており、部屋の隅にはネズミがチョロチョロしている。また外に出れば、野党や無法者の群れが襲ってきて、女たちは無理やり陵辱されてしまう。
さらには国王や兵隊たちさえも油断が出来ない。ちょっとでも隙を見せれば、衆人環視の中で女たちは無理やり手篭めにされてしまうのである。なんて厭な時代なんだと思いながら読み進んでゆくうち、ジェーンは何度も危機一髪の状況を、ダフィッドに助けられることになる。
そして中盤以降は、ジェーンとダフィッドのラブロマンスが始まり、二人のセックスシーンも克明に描かれてゆく。このあたりから少し安心して読めるようになるのだが、終盤になると思ってもいなかったどんでん返しが待っていた。
果たして二人は、幸せに結ばれるのだろうか、そしてジェーンは現代に戻れるのであろうか。その結末を知りたければ、是非ともこの小説を手にとってもらいたい。
評:蔵研人
★★★☆
著者:レイ・カミングス/川口正吉訳
作者のカミングスは、1887年ニューヨーク生まれのSF作家であるが、なんとあの発明王エジソンの秘書を5年間務めたという。本作は1929年に書かれた古典SFである。
「時の塔」と呼ばれる塔の形をしたタイムマシンで未来からやって来た少女が、悪人ターバーの病院に監禁されてしまう。それを主人公のエドと親友のアラン、そしてその妹のナネットが救い出すのだが、その代償にナネットがターバーに捕まってしまう。
なぜかターバーもタイムマシンを所持しており、地球征服の野望に燃え、以前からナネットと結婚しようと目論んでいたのだ。ところが主人公のエドとナネットは相思相愛の仲であり、ナネットを取り返すべくエドとアランの長い旅路が始まるのであった。
はじめはSFというよりも、こじんまりとした冒険小説のような佇まいであった。ところが太古の時代から超未来へ、そして未来でのターバーとの戦いが始まると、俄然スケールが大きくなってくる。映画にしても良いのではと思ったが、現代では古典SFとなってしまい、かなり古臭いストーリー展開なので、現代風にアレンジする必要があるかもしれない。
またタイムトラベルものとしても、まだまだ単純でタイムパラドックスなども考慮されてあらず、単に冒険を広げるためにタイムマシンを利用しただけに留まっている。まあこの時代のSFなので仕方がないと言えばそれまでであるが、タイムトラベルファンには、ちょこっとばかり物足りないかもしれない。
評:蔵研人
著者:スーザン・ブロックマン
科学者のチャックは、自らが発明したタイムマシンに乗って七年前の過去に遡る。それは七年後に起こる大規模テロを阻止し、愛する女性マギーを救うためであった。だがなんとテログループたちも、別のタイムマシンを駆使して追いかけて来るのだった。
七年後に起こるテロを撲滅させるには、まず自分自身がタイムマシンを発明しないことが必要であり、それを過去の自分自身に伝えて実行させるには、どうしてもマギーの愛が必要であった。というより、それよりほかに方法が無かったのである。そのためにはもちろんマギーの理解と協力が必要であり、彼女を危険に晒してしまうリスクも覚悟しなければならないという、矛盾の渦の中で計画は実行されるのだった。
本作では未来の自分と過去の自分が並存して、お互いに顔を合わせる訳であるが、未来から来た主人公をチャックと愛称で呼び、過去の主人公の方をチャールズと呼ぶことによって同一人物の二人を区別している。苦し紛れかもしれないが、この方法はなかなか見事で、面白いアイデアだと思った。自分がこの手の小説を書く場合の参考にしたいね。また二人の自分と恋人との三角関係という設定や、過去の自分が新たに経験したことでも、未来の自分に記憶として引き継がれると言う理論もなかなか面白いではないか。
約300ページの長編であるが、テンポが良く二人の主人公とマギーの愛し合うシーンが、とても巧妙かつエキサイティングに描かれているため、あっという間に読了してしまった。そしてSFとサスペンス、アクションとロマンスが見事に絡み合い融合し楽しい作品に仕上がっている。まさに映画向けの小説であり、是非近いうちに映画化して欲しいものである。
評:蔵研人
製作:1979年 米国 上映時間:112分 監督:ニコラス・メイヤー
約40年位前の映画である。いまは主流となったCGもなければ、大した特撮も使っていない低予算映画なのだが、なかなか味のある良い作品だった。
ストーリーは、小説『タイムマシン』の著者であるH・G・ウエルズが、本当にタイムマシンを作って、50年後の現代へやって来るというお話である。そして過去から逃げて来た「切り裂きジャック」を追いかけながら、現代のキャリアウーマンと恋に落ちるという荒唐無稽を繋ぎ合わせたような設定なのだ。
もうこれはSFというよりは、ラブコメといったほうが良いかもしれない。それにしても、史実を上手に繋ぎ合わせた展開は見事である。本家H・G・ウエルズ作の『タイムマシン』よリもずっと面白い作品だと思ったね。(笑)
また偶然なのか故意なのか、ウエルズが現代で恋に落ちる女性を演じたのが、のちに製作された『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』でドクの恋人役を演じたM・スティーンバージェンなのだから実に面白いよね。
評:蔵研人
製作:2010年 米国 上映時間:99分 監督:スティーヴ・ピンク
この長ったらしいタイトルこそ、実は2007年に公開された邦画『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式 』の完全パクリである。そして中身は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をテイストにした『ハング・オーバー』という感じのドタバタコメディであった。
終始おバカなオヤジ三人が騒々し過ぎて、そのうえ下品な展開が多く、かなり不快な気分にさせられた。だがほぼ予想通りではあっても、あのラストの落ちはなかなか良かったな・・・。
話が前後してしまったが、とりあえず、あらすじを簡単に紹介しておこう。
とあるスキー場のリゾート地で、突然ジェットバスがタイムマシンとなり、三人の冴えないオヤジとオタク青年が、24年前にタイムスリップし、アホらしいドタバタ珍騒動を繰り広げた挙句、ラストにはまた現代に戻ってくるというお話である。
このタイムトラベルには、「オタク青年の父親は一体誰だったのか?」と「ホテルのボーイは片腕をどのようにして失ったのか?」という謎解きが含まれている。そして何といっても最大の見所は、オヤジたちが、もしあのときこうしていれば、自分の未来はどう変わったのかという『バタフライ・エフェクト』効果である。
とりあえず下品で不潔な部分には目をつぶりながら、過去のタイムトラベル映画のパロディを楽しむことは出来た。タイムトラベルファンなら、見逃す手はないだろう。
なお最近続編が製作されたようだが、ネットの評価がかなり低いので、観ようか観るまいか迷っているところだ。
評:蔵研人
製作:2005年 フランス 上映時間:105分 監督:ミシェル・ゴンドリー
なかなか興味を惹くお洒落なタイトルで、かつ内容もこのタイトルに十分に凝縮されている。2005年製作のフランス・イタリア合作映画で、監督・脚本は、あの『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリーである。そして主演は『私だけのハッピー・エンディング』のガエル・ガルシア・ベルナルと、問題作『アンチクライスト』での大胆な熱演が話題になったシャルロット・ゲンズブールなのである。
またこの作品の内容をひとことで言ってしまえば、シャイで臆病な青年とクールで知的な女性の恋愛模様を、青年が見る夢と現実を交錯させながら描くロマンチック・ラブストーリーということになる。
青年の夢と現実がゴチャゴチャになっているため、ちょっと分かり辛いが、夢のほうは背景がクラフト創りになっている。ただ余りにも青年の奇行が続き過ぎるのが難点。純粋な心を持っているのだと思うのだが、結局彼は、最後まで病的な夢想癖から抜け出せないのである。
このあたりの展開が、ちょっとモタモタし過ぎて物足りない。『一秒タイムマシン』をもっと活用すれば、もっと面白くなったかもしれないが、全く別の映画になりそうだ。いずれにせよ、この監督は、一体何を表現したかったのだろうか・・・。悪くない映画だと思うのだが、つかみ所のない映画とも言えるだろう。
評:蔵研人
作者:岡崎二郎
一話完結型のショートストーリーなので、毎回登場するのは狂言回しを務める『時の添乗員』だけである。2000年から約1年間にわたりビッグコミック増刊号で掲載されている。その後コミックスとして発売されたのだが、「第1巻」の表記があるものの、なぜか第2巻以降は発売されていないのが残念である。
内容はつぎの短編で構成されている。
第1話/あの日への旅立ち 初恋の人を訪ねて
第2話/消えた証拠 犯人の正体を捜して
第3話/交換日記 日記の隠し場所は
第4話/藤子像 裸婦像の真実は
第5話/結婚指輪 消えた指輪を探して
第6話/恩人 本当の恩人とは
第7話/赤富士の赤 父親の優しさとは
第8話/時を旅する者 時の添乗員の正体は
どのお話も『時の添乗員』が300万円で、「行ってみたい、戻ってみたい過去」に、タイムマシンで連れて行ってくれるという展開なのだが、その全てが心温まる優しさに溢れている。時の添乗員はどこで「雇い人」と遭遇したのか。そして彼にタイムマシンを与えた「雇い人」とはいったい何者なのか。謎が解かれないままで終わっているのは、良いのか悪いのか・・・。
全般的に柔らかいタッチの絵が、ストーリーの優しさに共鳴していて、ほんわりとした雰囲気を醸し出している。ただ登場人物のどの顔も同じような絵柄なのは、ちょっぴり残念かもしれない。また今更絶対に無理な注文だと思うが、第2巻以降の発売を期待したいものである。
評:蔵研人
著者:黒武洋
タイムトラべル小説なのだが、今だかつて読んだことのない展開であった。ある意味、罪と罰の根源を問うクライム・サスペンスともいえるだろう。従ってタイムトラべルファンではなくても、十分に読み応えのある重厚な作品に仕上がっている。
背景は2040年。死刑制度が廃止になるのだが、すでに死刑執行が決定していた死刑因たちの処遇が宙に浮いていた。そこで政府は、すでに完成しているタイムマシンに模範死刑因を乗せて過去へ跳び、死刑因自身に過去の自分を説得するよう命じる。そして過去の凶行を未然に防げれば、死刑囚の罪は消えると言うのだった。
かくして3台のタイムマシンが、それぞれ死刑因と監視員の2人ずつを乗せ、35年前の世界へと時空を跳び立ってゆくのである。ストーリーはこの三人の死刑因達の行動を、それぞれ角度を変えて描くオムニバス形式になっているが、ラストの帰還編とエピローグで見事に一つの話として繋がってゆく。実に興味深い話ではないか。
また、この小説を原作にしたデジタルコミックもネットで発売されている。こちらのほうはまだ未読であるが、近藤崇氏の現実的な中におどろおどろしさを併せ持つ、魔化不思議なタッチの画が気になってしょうがない。こちらも是非一読してみたいものである。
評:蔵研人
著者:リチャード・マシスン
実はキャメロン・ディアス主演の『運命のボタン』という映画を観て、どうもボタンを押した後の成り行きとか結末がはっきりしないのでリチャード・マシスンの原作を読むことにしたのである。ところがこの原作は、僅か17頁の超短編であり、結末も赤の他人ではなく自分の旦那が事故で死ぬのだ。しかも100万ドルではなく2万5千ドルの生命保険が手に入るという皮肉。さらに「知らない人が死ぬと言ったじゃないの!」と抗議すると、「あなたはほんとうにご主人のことをご存知だったと思いますか?」と問われる超皮肉。
実にシンプルなのだが、だらだらとおかしな方向転換をしてしまった映画よりずっと出来が良い。そりゃあ原作だから当たり前か・・・。
さてそんなわけで超短編の原作は、わずか10分程度で読み終わってしまったのだが、この『運命のボタン』以外にもマシスンの短編・中篇が以下の通り12篇収録されている。
『針』、『魔女戦線』、『わらが匂う』、『チャンネル・ゼロ』、『戸口に立つ少女』、『ショック・ウェーヴ』、『帰還』、『死の部屋の中で』、『子犬』、『四角い墓場』、『声なき叫び』、『二万フィートの悪夢』
ほとんどがホラーまたはSFであり、どの作品もなかなか面白かった。その中で偶然タイムトラベルものが一作見つかったのである。タイムトラベルファンとしては嬉しくて小躍りしてしまった。『帰還』という作品である。
愛する妻を残して、タイムマシン(時間転移機)で500年後の未来に跳び立つ男の話だが、ちょっとしたミスから安全ベルトが外れてしまう。しばらくして気が付くと500年後の世界にたどり着いているのだが、そこの住人に元の世界には戻れないと言われる。だが彼はもう一度愛妻に逢いたくて、無理やり元の世界を目指すのだった。
といったお話であり、その後マシスンは同じ設定のタイムマシンを使った連作中篇シリーズを思いつき、『ショック・・・・・・』、『旅人』などを書いたという。なんとなく梶尾真治の『クロノス・ジョウンターの伝説』みたいだな。是非この二作も読んでみたいのだが、絶版なのかなかなかみつからないのが残念である。
評:蔵研人
製作:2005年 デンマーク 上映時間:80分 監督:カルステン・マイラルップ
まさにお子様ランチとしか言いようのないほど、安上がりなデンマークのファンタジー作品であった。オープニングでは、少女ジョゼフィンがタイムマシンで、少年時代のキリストに会い、友達になったとナレーターが告げるのだが…。
そしてまた悪魔のタイムマシンを使って、BFのオスカーと一緒に過去の世界へ旅立つ。このタイムマシンは、ただのペンダントで、これを身につけて過去の時代の品物に手を触れると、その品物が存在していた時代に跳んでゆけるという魔法のような代物である。また現代に戻るには、単にペンダントに触れればよいという、非常にシンプルで便利なタイムマシンなのだが三回しか使えないのだ。
さて果して前作があったのか不明だが、少なくとも本作では、キリストと友人になったという前置きは、全く意味を持たない。それにしても、TVドラマ並の低予算で雑な脚本なのだが、タイムトラべルファンなら、一応タイムパラドクスも設定されているので、そこそこ楽しめるだろう。
タイムスリップした場所は、オスカーの祖先が住んでいた場所であり、そこで病死したはずの少女を救ってしまうのだ。歴史を改編してしまったために、現代に戻るとオスカーの祖父が生まれていない事になってしまった。当然オスカーも生まれるはずがないので、彼の姿がだんだん消え始めるのだ。ここいらは、完全にバック・トウ・ザ・フィーチャーのパクリだろうね。
それでもう一度過去に戻るのだが、今度は現代の薬を持ちこんだジョゼフィンが魔女裁判にかけられ、火あぶりの刑に処せられることになってしまうのだ。さてジョゼフィンの運命やいかに…。
評:蔵研人
著者:時羽 紘
実に長ったらしいタイトルなのだが、なにげにタイムトラベルファンの気を引くタイトルでもある。主な登場人物はたった4人の学園ラブファンタジー、映画ならさしづめB級作品と言う趣だろうか。
主人公の九條楓は高校一年生で、心優しく自分の言いたいことをはっきり主張できない女の子。大好きな1年先輩の伊波潤と付き合っている。そんなある日、雨宮奏という未来からやって来たという不思議な男の子と遭遇。彼のタイムマシンで10年後の世界に跳ぶと、見知らぬ美人女性と伊波潤が結婚式を挙げているところだった。
そして再び現代に戻ると、なんと伊波潤と同クラスに10年後に彼の花嫁になる野村みな子がいるではないか。そして彼女は伊波潤に告って断られたにも拘らず、しつこく潤に付きまとっているのだった。
そしてことあるごとに、楓と潤の邪魔をしてくるのだ。そうこうしているうちに楓と潤の二人に誤解が生じて、ぎくしゃくした関係に陥ってしまうのである。結局タイムマシンで覗いた未来通り、潤は楓と別れてみな子と結婚してしまうのだろうか・・・。
登場人物も少なく物語の幅も狭く、ただただ潤を慕う楓の想いと二人のすれ違い、そしてみな子の意地悪に終始するだけのお話なのだが、年甲斐もなくドキドキして楽しく読ませてもらった。また謎の少年・雨宮奏の正体については、途中で何となく想像できるようになるのだが、なぜ彼がああすることになったのかはちょっと無理があるかも・・・。いずれにせよ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の逆転バージョンといった味がしたことは否めないね。
評:蔵研人
製作:2007年 スペイン 上映時間:88分 監督:ナチョ・ビガロンド
登場人物がたった4人という、超低予算のスペイン映画で、日本の劇場では未公開なのだが、なかなかアイデアが面白く見応えがあった。
邦画で『サマータイムマシンブルース』という珍品があったが、似たような味わいがある。流石にプロの目は鋭く、すでにD・クローネンバーグ監督によるハリウッド版のリメイクも決定しているという。
スト一リーはいたってシンプル…郊外に引っ越してきた小太りオヤジが、二階の窓から向かいの森を双眼鏡で覗くと、裸の美少女が写るのである。気になって仕方がないオヤジは、妻が外出するのを待って森の中に入ってゆく。
そして森の中でスッポンポンの少女を見つけて近づくと、いきなりピンクの包帯を卷いた怪しい男に襲われるのだ。驚いたオヤジは必死で森の奥にある研究所に逃げ込む。
そして研究員に言われるまま、白いマシンの中に身を隠すのである。このマシンこそ研究中のタイムマシンで、オヤジは1時間前の過去へ戻されてしまうのだ。
このあと過去の自分を発見し、何度か同じことを繰り返すうち、今まで謎だった出来事が、序々に解明されてゆくのである。ストーリー自体はシンプルなのだが、自分が何人も登場したり、メビウスの輪のように捻れた構成なので、よく観ていないと意味が判らなくなるので注意しよう。
それにしても、この精密なパズルのような作品をよく考えたものである。また主人公のオヤジのとぼけた行動が、なかなかいい味を出していたと思う。
評:蔵研人
著者:瀬名秀明
古いプラネタリウムを使って、過去にタイムトラべルするお話。確かにプラネタリウムは、その神秘的でメカニカルな形状が、まるでタイムマシンのようだし、天空を写し出すのだから、時空も操作出来るような気分になってしまいそうだ。
世界初の光学的プラネタリウムの開発を行ったのが、ドイツのカール・ツァイス社であることや、その性能とマニュアルの素晴しさと、整備・調節の判り易さを述べている。また日本におけるプラネタリウムの歴史についてもかなり詳細な記述がある。
我国の第1号機は、昭和12年に大阪市立電気科学館(大阪市立科学館)に設置されたカール・ツァイス社製の23号機であり、当時はアジアで唯一のプラネタリウムとして、大阪の象徴的存在でもあった。
東京での最初のプラネタリウムは、翌昭和13年に、有楽町の東日天文館(毎日新聞社)に設置されたカール・ツァイス26号機だという。だがこの26号機は、昭和20年に米軍の空襲により焼失し、東京でプラネタリウムを楽しむには、戦後の昭和32年に渋谷に五島プラネタリウムがオープンするのを待たねばならなかったのだ。
当時この五島プラネタリウムは大人気で、小学生の校外授業などにも使用されていた。だが残念なことに、東急文化会館取り壊しとともに、平成13年にその姿を消してしまったのである。
そのほかにも、プラネタリウムに関するメカニカルな記述が詳細に述ベられている。薬学博士号を持つ著者ではあるが、それにしても、プラネタリウムに対する熱烈な愛情がなければ、これほどの知識は得られないだろう。
物語のほうは、渋谷のプラネタリウム閉館式の後に不思議な少年が現われ、主人公のプラネタリウム技師を、過去の世界へ誘うというメルヘンチックな中編小説である。
織田作之助をはじめ、懐かしい著名人の実名がバンバン登場する。これはもう、SFとかタイム卜ラベルと言うより、五島プラネタリウムへのオマージュであり、昭和ノスタルジーへの回想録と言ってもいい作品である。ある意味で「ムード小説」とでも呼ぼうか。なんとなくこれが、長野まゆみの『天然理科少年』とか、マンガ家・谷口ジローの『遥かな町へ』などと雰囲気が繋がるんだな…。
評:蔵研人
著者:笠原哲平
原案はシンガーソングライターユニットの『Goose house』のアルバムである。また著者の笠原哲平は劇団TEAM-ODACの専属脚本・演出家であり、本作は青山円形劇場にて公演されている。どちらかというと小説というより脚本のような本である。
引きこもり高校生が、事故で死んだ兄に会うためタイムマシンを創って過去に跳ぼうと決心するお話である。そこに兄の恋人、カフェの女主人、商店会理事長の娘、工場勤務のおじさんなどが協力者として関与し、なんとなく群像劇ぽいのだが、あまり深く追求せず、あっさりかつ淡々と話は展開してゆく。
文字が大きく文章も平易で237頁程度の中編なので、あっという間に読破してしまったのだが、とうとうタイムマシンは完成せずに終了してしまった。過去へのタイムトラベルを期待していたためか、なんだか裏切られたようで拍子抜けしてしまうのだ。
ただよく考えてみれば、これはあくまでも舞台劇用の脚本であって純粋な小説ではない。まあそう考えれば、そこそこ面白かった訳だし、腹も立たないであろう。
評:蔵研人
著者:梶尾真治
タイムトラベルファンタジーの名手である梶尾真治の短編集である。書き下ろしではなく、既に発表されたものを集めたので、梶尾ファンなら読了したものが数編混ざっているかもしれない。
全部で11作だが、得意のタイムトラベルものは、表題の「時の”風”に吹かれて」と「時縛の人」だけである。だがそれ以外の9作も、それぞれ独自の味がしてなかなか楽しめた。
以下に11作について、簡単なレビューを書いておこうか。
1.時の”風”に吹かれて
尊敬していた画家の叔父が遺した、白藤札子という美しい女性の絵。叔父が生涯独身を通したほど愛した女性でもあった。だが残念ながら、彼女は昭和36年のデパート火災で一命を落している。
そして彼女は、主人公の恭哉にとっても、憧れの女性であったのだ。友人がタイムマシンを開発したことを知り、彼は昭和36年に戻って白藤札子を救おうと決意する。
著者が得意とするリリカルな作品であり、11作の中でも一番心に残る作品であった。
2.時縛の人
これもタイムマシンものであるが、前作とは全く異なる作風である。時間は瞬間の積み重ねという哲学の名句から、タイムマシンは「だるま落とし」の基本原理を使って過去に移動する。
ところがその「だるま落とし」理論に見落としがあったため、過去に遡った途端に大変な問題に遭遇するのだ。
3.柴山博士臨界超過!
4.月下の決闘
5.弁天銀座の惨劇
3~5の3作とも、筒井康隆風味のドタバタナンセンス調が気に入らない。既に古い感性のSFで、どちらも僕の好みではなかった。
6.鉄腕アトム/メルモ因子の巻
鉄腕アトムのオマージュであろうか。まるで手塚治虫の鉄腕アトムが、そのままマンガから小説の世界に入り込んだようだ。巧い!思わず手を叩きたくなる梶尾アトムだった。
7.その路地へ曲がって
別世界のような路地裏に住んでいる年をとらない母に巡り合う息子の話。心の中に潜むノスタルジーを呼び起こすような珠玉のストーリーだ。
8.ミカ
ある日突然、飼い猫が人間の女に見えてしまう哀れなお父さんのお話。家族に対する苛立ちが産んだ妄想なのだろうか。
9.わが愛しの口裂け女
結婚した女が、実は口裂け女だったのだが、死ぬまで彼女を愛し続けた父親の話。とてもいい話なのだが、ラストにもう一工夫出来なかったのだろうか。
10.再会
11作の中で、唯一SF味のしない作品である。ゼンちゃん存在がファンタジックではあるが、純文学風のあっさりとした味わいがあった。
11.声に出して読みたい事件
3頁程度のショートショートだからしかたないが、ちょっと馬鹿にされたようなお話だったね。
評:蔵研人
製作:2004年 米国 上映時間:77分 監督:シェーン・カルース
2004年度サンダンス映画祭で、審査員大賞を受賞した作品だという。この賞はインディペンデント映画に、ビジネスチャンスを与えてくれる。従ってこの作品が、大学の映画部で製作したようなチープな超低予算映画であっても文句はつけない。
ストーリーのほうだが、べンチャービジネス志向の青年二人が、ある研究途上で偶然タイムマシンを発明してしまう。彼等は急上昇した株式銘柄を調べ、マシンに乗って過去へ行き、その株を買って儲けることを実行する。
ここまでは良くあるお話なのだが、過去に戻ったときに、過去の自分に遭遇してしまうのだ。そして現在に戻るのだが、それをまたかつての自分が遠くから見ている。
この循環が延々と続き、映画を観ているほうは、一体誰がオリジナルなのか、ダブル(分身)なのかさっぱり判らない。
同じシーンが何度か続くのだが、ほとんどヒントになるものがなく、話の順序さえ見失ってしまう。ニューヨークタイムス紙で、この映画は5回以上観る必要があると掲載され、何度かチャレンジしたマニアックな人もいる。だがその人達をしても、いまだ完全には判らないという。
果たして本当に答があるのか。まあどちらにしても、この作品を何度も観るほど辛抱強くはない。
僕はタイムパラドックスを扱った作品が大好きだが、こんな判り辛い作品を観たことがない。難解という訳ではなくただ不親切なのだ。たまたまこのテーマが好きだから、ある程度楽しめたものの、このテーマに興味のない人にはお勧め出来ない。
小説ならともかく、映画は情報量に限界があるし、観客は基本的に一回しか観ないのだ。ことに商業べースにするのなら、そこを考えてもう少し判り易く創らなければ、一発屋の単なる自己満足で終わってしまうだろう。
タイムトラべルやパラドックスについて話を始めたら、夜を徹しても終わらない。だからここでは、その議論を飛ばしたい。
もしかすると、この映画の真のテーマは、タイムパラドックスではなく、米国のベンチャー企業家たちの野心と葛藤と猜疑心だったのだろうか。
評:蔵研人
著者:友乃雪
児童向けの小説なのだが、大人が読んでもそこそこ楽しめるのが嬉しいので、子供に読ませる前に一読してみてはいかが。また本作は2008年に第25回福島正実記念SF童話賞大賞を受賞している優れモノなのだ。
ある日突然、ぼくの部屋の壁に黒い渦巻が発生し、その中から小さいぼくと大人のぼくが飛び出してくる。小さいぼくは過去の世界から、大人のぼくは未来からやってきたのだった。
未来では大変なことが起きている。それを修正するために未来からぼくはやって来たのである。そしてぼくたち三人で協力して、盗まれた父さんの発明品を奪還し、未来を救う行動に出るのであった。
子供向けで大きく見やすい文字に、全ての漢字にフリガナがふってあり、僅か80頁なので30分くらいであっという間に読破してしまうだろう。もちろんラストはパッピーで単純、大人にはやや物足りないが子供には喜ばれそうである。
評:蔵研人
製作:2006年 米国 上映時間:127分 監督:トニー・スコット 主演:デンゼル・ワシントン
海兵隊員とその家族達が、続々とフェリーに乗りこんでくる。ミシシピー川でお祭りでもやるのであろうか。女の子がデッキの上から、人形を落としてしまう。可愛そうな人形は、海の中へ吸い込まれしまう。
やがてフェリーは定刻に出発し、ブラスバンドの奏でる派手なマーチと、カーステレオから流れる古い音楽が重なり合う。そしてクレセント・シティ橋に近づいたとき、突然フェリーが大爆発する。この悲惨なテロ行為により、なんと543名の命が犠牲となってしまうのだった。
長いオープニングである。その後、捜査員役のデンゼル・ワシントンが登場して、やっと本編が始まるのだから・・・。
路面電車の走る街に、渋味がかった映像。音楽も効果的だし、ストーリー展開もスピーディーで小気味良い。サイコロジカルなサスペンスが似合いそうだが、実はテクノロジカルなSFだった。
ストーリーが急展開し、「タイム・ウィンドウ」という、102時間前の過去を写し出す装置が出現する。まるでグーグルアースのように、地図上で場所を指定して、拡大し3D表示してゆく。さらにこのシステムでは、家の中の映像まで覗き見出来てしまうのだ。
なにか現在の衛星監視システムを思わせるようであり、かなり気味が悪い。実際に我々も、衛星で私生活を覗かれているのだろうか。ただしこのシステムで覗くのは、過去の映像なのである。それがリアルタイムに、まるで現在の出来事の如く写し出されてゆく。
ところでこれは一種のタイムトラべルであり、なかなか斬新で面白いアイデアではないか。思わずその後の展開に期待してしまったが、メモを過去に送るところから、どこにでもあるタイムマシンに成り下がってしまったのがやや残念だ。
また可視範囲が限定していることと、ゴーグルの存在には全く説得力がない。たぶんアクションシーンにこだわり、ゴーグルを使ったカーチェイスシーンを挿入するための方便だったのだろう。このサーカスまがいのカーチェイスは、全く必然性がないばかりか、ストーリー全体のバランスを崩してしまった。
またラストの展開は、思った通り再びあの長いオープニングシーンに繋がる。まさに最初のオープニングで、デジャヴを見たと言えるだろう。
映画を観ている途中では、なぜラストで犯人がフエリーに戻ったのかが良く判らなかった。あの車を観て戻ったこと。逮捕されたとき、いやに落ち着いて「運命は変えられない」とほざいていたこと。
もしかして、犯人も別のシステムを使って、未来から跳んできたのだろうか、あるいはデジャヴ能力を持つ超人だったのかもしれない。
評:蔵研人
これではインチキ見世物小屋に、騙されて入ったようなものである。中途半端なアクションはどうでもいいから、もっとB級に徹して、タイムマシンでいろいろいたずらして欲しかったんだが。
この映画、なんだかこのラストシーンのためにだけあるような感じだ。これでは観客の心を掴めるはずはないよね。
たまたま僕の好きなテーマで、アイデアが面白かったので、エコヒイキして★ひとつ大おまけである。もう少しストーリーを捻って、続編を創ってくれないかなあ。
評:蔵研人
製作:2006年 日本 上映時間:116分 監督:馬場康夫 主演:阿部寛
1990年のバブル崩壊を阻止するため、洗濯機型のタイムマシンに乗って、17年前の東京にタイムスリップするというSFコメディー。
バブル全盛期のディスコやワンレン・ボディコンなど懐かしい映像が楽しめるが、いささか極端な描き方をしている。ギャング達とのおマヌケなアクションには興ざめしたが、全搬的に楽しい映画だった。
広末涼子の芸者姿は、いやに色ぽいね。もともと瓜ざね顔なので和服と日本髪が良く似合う。今後は時代劇に出演してみたらどうだろう。
阿部寛のメイクは上出来で、17年間の顔と雰囲気の使い分けが見事だった。思わずバック・トウ・ザ・フューチャーの、父親役のメイクを思い出してしまった。邦画のメイク技術も進歩したものである。
一番印象に残ったシーンは、ディスコシーンではなく、建造中のレインボーブリッジを見上げながらの、東京湾クルーズである。船内で踊り狂う若者達を尻目に、突然現代のステップで踊り出す広末涼子。それを見た若者達が一瞬ハッとして、全員踊るのを止めてしまうシーン。あの一瞬の空気感は何とも言えなかったね。
タイムマシンものとしては、突込み所も多いが、バブル時代のファッションや芸能人達、街の風景や流行などなど、懐か楽しい雰囲気が盛り沢山である。余り深く考えずに、バブルに戻って楽しもうじゃないか。
評:蔵研人
製作:2006年 米国 上映時間:107分 監督:フランク・コラチ 主演:アダム・サンドラー
『クリック』という原題もつまらないが、この邦題もちょいと誤解を招き易いタイトルだ。つまり何度も昨日をやり直す、『ターン』あるいは『恋はデジャヴ』のようなストーリー展開なのかと勘違いしてしまうからである。
この映画の流れは、仕事と家庭サービスの板挟みになったアダム・サンドラーが、ひょんなことから『人生万能リモコン』を手に入れ、人生を操るつもりが、実は操られてしまうという仕組みなのだ。
この『人生万能リモコン』は、リモコンを向けた先が、TVであろうがガレージであろうが、はたまた動物でも人間でも何に対しても効力を発揮するのである。
例えば、犬の声がうるさければ、リモコンを犬に向けて「消音ボタン」を押せば、犬の泣き声が聞こえなくなる。また面倒な事態が生じたら、「早送りボタン」を押せば、猛スポードで面倒な事態がスッ跳んで行くのだ。
さらにはリモコンを自分に向けて「巻戻しボタン」を押せば過去に戻る事も出来る。まるでドラエモンの「ポケットタイムマシン」である。
ただし未来には行けるものの、過去に戻るほうは、過去の映像を観ることしか出来ない。だからタイトルのように、昨日を選ぶ事は出来ないし、やり直しも利かないのだ。これがこの映画の最大のポイントになるのだから、冒頭で邦題のつけ方がおかしいと言ったのである。
まあ・・・だからといって、この映画がつまらないわけではない。どちらかと言えば、かなり面白い映画だしリモコンのアイデアも見事である。
また前半はコメディで、中盤のリモコンを使いまくる派手なシーンは、ジムキャリーの『マスク』を髣髴させられるだろう。そして後半はややシリアスタッチに変って、かなり泣かされる事になる。涙あり笑いあり、多彩な音楽にアクションとスピード感も満点と、まさにエンターティンメントの王道のような映画なのだ。
そしてエンディングクレジットを観ながら、誰しもが主人公の人生を、自分の人生に重ね合わせ、しみじみとした気分になるであろう。ただ難を言えば、余りにも大味でご都合主義のアメリカンタッチである事と、家族全員が皆良い人ばかりなのが鼻につくかもしれない。
評:蔵研人
著者:方波見 大志
第一回ポプラ社小説大賞を受賞したSFジュヴナイル。ミステリアスな展開もあり、大人が読んでも十分楽しめる作品に仕上がっている。
主人公は小学生なのだが、いやに老成している感がある。ブログを運営したり、株の売買をしたり、好きな異性に告ったりと、まさに高校生も顔負けなのだ。
それとも僕が遅れているだけで、最近の小学生達は、実際にこれほどマセコケてしまったのだろうか。TVやネットの影響を考えると、そうであっても不思議ではないがね。小学生達の実態を知っている方がいたら、この際に是非教えて頂きたいものである。
さてこの小説で大活躍する削除マシンは、過去の一定時間を削除してしまうという、一種のタイムマシンである。だが過去を削除すると、タイムパラドックスにより現在も変わってしまう、という大きなリスクが伴うのだ。
またタイトルの「0326」とは、削除マシンで削除出来る最大時間「3分26秒」のことを指している。だがマシンを使っているうちに、この時間もだんだん短かくなってくるのだ。その短い時間設定は、話の拡散と矛盾の坩堝にはまらないための安全装置なのだろう。
あえて結論を出さずに終幕となってしまったのだが、読者に結末をバトンタッチする手法は、決して間違ってはいないはずである。342ページの厚い本ではあるが、会話が多く読み易いので一気読みしてしまった。
評:蔵研人
著者:梶尾真治
クロノスジョウンターとは、簡単に言えば「タイムマシン」のことである。命名したのは梶尾真治だが、クロノスとは時間の神であり、ジョウンターは、A・べスターのSF『虎よ虎よ』に書かれたジョウント(瞬間移動)をもじっているらしい。
ストーリ一は、このクロノスジョウンターに試乗した4人の軌跡を、オムニバス風に4つの短編に分割して描いている。クロノスジョウンターは、タイムマシンであるが、過去に行くには限界がある。そして過去に滞在している時間が限られており、時間がくると自動的に未来に飛ばされてしまうのだ。
また過去に行くほど、その反動が強くなり、より遠くの未来に飛ばされる仕組みになっている。それがこの物語を面白くしている最大要因であろう。だから背景は同じでも、どの作品にも独特の雰囲気があり、どれもが同じくらい面白いのだ。
一作目は、一目惚れした女性を救うために、1時間前にタイムスリップする男の話。
二作目は、取り壊されてしまった骨董品的な古い旅館を観るために、5年前に戻る男の話。
三作目は、少女時代にあこがれた青年の命を救うために、完成された薬を持って過去へ戻る女医の話。
そして最後の四作目は、他の三作とはやや異なり、『クロノス・コンディショナー』という、過去の自分の体に心だけが戻る、というマシンを体験した女性の話で、外伝扱いとなっている。
どれもがファンタジックな恋愛物語で、しかもどの作品を読んでも、心がハッピーになれるのが嬉しい。
最近、昔の時間テーマアンソロジーを読んだが、ほとんどがドタバタタッチの短編SFでうんざりしてしまった。ところが梶尾真治の時間テーマものは、SFというよりファンタジーの香りが強い。そしてリリカルでロマンチックである。もちろん好みの問題であるが、僕はそんな味が大好きなのである。
それから映画用ということで、この『クロノスジョウンターの伝説』を大幅に書き直した作品が、ノベライズの『この胸いっぱいの愛を』であることを付け加えておこう。
評:蔵研人
著者:梶尾真治
梶尾真治の短編はかなり好評である。ただ彼の書く短編には、二通りの風味がある。一つは筒井康隆流のドタバタ味、いま一つは叙情詩のようなリリカル味だ。私の好みは、断然後者のリリカル味であり、幸い本作はその代表作でもある。
本作は未来だけに一方通行する航時機(タイムマシン)に乗ってしまった恋人を、外から何十年も見つめ続ける女性の切ない恋心を見事に描いている。このお話の中では、彼女が彼にもらった『真珠』の存在がキーになっているようだ。そしてラストのどんでん返しも、この『真珠』によって表現されているのである。
なんと切なく美しい小説なのだろう。だがこのラストの描写の中で「七色に輝く真珠は殖え続けていたのです。」という記述が、何度読み返してもどうしても理解出来なかった。航時機の中での時間の経過が異常に遅いので、落ちてゆく真珠の残像がそう見えるのだろうか。自分の貧弱な読解力に、ちょっと悲しくなってしまった。
本作は短編集『美亜へ贈る真珠』に収められているが、その中に本作と似た味がする『詩帆が去る夏』も掲載されている。こちらはタイ厶テーマではなく、愛する女性のクローンを育てる話だが、本作よりも判り易くもっともっと切ないお話だった。
評:蔵研人
著者:二間瀬敏史
相対性理論を非常に判り易く解説してくれているのだが、物理オンチの私には今一つ理解出来ない。だが読み易い本なので、2日間で一気に読み終ってしまった。
さて現在の理論では、光より早く進む物体はあり得ないと考えられている。光速に近づくと質量が膨張してしまうからであり、質量の増加に伴って、速度が落ちるからだという。
また双子のパラドックスやウラシマ効果という言葉を知っているだろうか。つまり、静止しているものよりも、動いているものの時間のほうがゆったりと進むのである。
結局、相対性理論では未来には行けても、過去に戻ることは出来ない。過去に戻るためには、光速を超えるか次元を曲げるしかないという。机上の理論では、ワームホールとか、タキオンを利用することによって可能だという。だが現在の科学では、これらを利用するための空間やエネルギーが得られず、当面の間は、とうてい実現不可能であろう。
また、そもそも未来に行けるといっても、テープの早送りと同じで、過去をスキップしているに過ぎないのだ。バック・トゥ・ザー・フューチャーのように未来の自分に逢ったり、現在に戻って来たり出来ない限り、タイムトラベルしたとは言い難いだろう。
それほど古くない本なので、もう少し新しい理論の発見などを期待したのだが、結局判り易く書き直しただけで、数10年前の理論から一歩も出るものではなかったのが残念である。
評:蔵研人
製作:2005年 日本 上映時間:107分 監督:本広克行 主演:瑛太、上野樹里
ある程度の内容がわかっていて、かつタイムトラべルに興味がある人でないと、全く見向きもしないB級映画だ。多分興行成績は、惨澹たるものだったろうな・・・。それを乗り越えて、この映画を作った人は実に偉い!
前半は途中で画面が真っ暗になるシーンがいくつかあり、受けの悪いドタバタギャグが続くので、うんざりしてしまった。ただこの真っ暗になるシーンが、後半に種明かしされる「問題の事件」があった部分なのだから仕方ないのだが・・・。
ところが中盤にタイムマシンが登場してから、この作品は俄然面白くなるので、それまでは絶対投げずに我慢して観ていて欲しい。しかしこのタイムマシンに乗って、25年後の未来からやってくる田村君のなんとダサイこと。着ている服もへアースタイルも、未来人というより、逆に一昔前の人のようなのだ。しかし、彼のほのぼのとした人柄と、このダサいスタイルがマッチして、この作品ならではのいい味を出していたと思う。
また未来人のくせにデジカメでなく、アナログの古いカメラをぶら下げていたのも変な感じなのだが、これはラストの「落ち」に繋がる小道具ということで、納得するしかないだろう。
それにしても自転車のようなタイムマシンを使って1日前に戻るだけのお話なのだが、この中にはタイムパラドックスや、時間流のねじれ現象などが、面白おかしく見事に描かれているので、なかなか見応えがあるのだ。
この作品を作った人は、H・Gウェルズの『タイムマシン』と、ロバート・A・ハインラインの『時の門』、広瀬正の『マイナスゼロ』が、きっと大好きな人なのだろうなと確信してしまった。
特に「昨日と今日の瑛太」と「カッパの謎」と「リモコンの時間旅行」は、なかなか凝ったアイデアだ。ひとつ理屈が合わなかったのは、ラスト近くに屋上で別れたはずの田村が、どうしてタイムマシンごと部室に戻ったのかということ。
本来なら、タイムマシンで屋上に戻ってから、歩いて部室へ行かねばならないのだが、それでは格好がつかないので、あえてああいう形をとったのだろうか。このあたりのシーンには、バック・トゥ・ザ・フューチャーの影響を感じるね。
製作費の少ない、コミカルでファンタジックな作品ではあるが、今までに余り観た事のない珍しい、そして面白い映画だった。あっ、そうそう言い忘れたが、上野樹里ちゃんが、いつもよりずっと可愛く感じたのは何故だろうか。
評:蔵研人
著者:広瀬正
オールドジャズファンなら記憶の彼方に残っているかもしれないが、著者は『広瀬正とスカイトーンズ』のリーダーであり、テナーサックス奏者として鳴らしたことがあるという。残念なことに43才の若さで他界しているが、存命中は『マイナスゼロ』、『ツィス』、『エロス』と連続三回も直木賞候補にノミネートされている。
また著者はタイムマシンに異常な執着心を持っており、故人となった彼の棺には「タイムマシン搭乗者 広瀬正」と書かれた紙が貼られていたという。
さて『マイナスゼロ』の主人公は、タイムマシンに乗って、現在(昭和38年)から昭和7年へタイムトラベルするのだが、登場人物や出来事については、タイムパラドックスを回避すべく、用意周到でかつ綿密に伏線が準備されている。そして始めから終わりまで、息もつかせぬスピーディー感のある面白いストーリー構成。
さらに全編に趣味の良いパロディー風味が漂い、ラストにはなんとどんでん返しが3度も続くのだ。またその全ての事象が寸分の狂いもなく、驚くほど緻密かつ完璧に収束されてしまうのである。
とにかく唸るほど見事な職人芸である。この安心できる爽快感が、最高のカタルシスへと導いてゆくのだ。まさに本作こそ、和製タイムトラベル小説の金字塔と断言しても許されるだろう。
また本作は、時間テーマSFなのであるが、丹念に描写された古き良き時代の東京風物詩や、ミステリー風の謎解きもブレンドされており、余りSFに馴染みのない読者にも口当たりの良い印象を与えるものと確信する。とにかく呆れるほど凄い小説なのである。
評:蔵研人