タイムトラべラー
★★★☆
著者:天沢夏月
21グラム(3/4オンス)とは、人の魂の重さといわれている。それは1907年にマクドゥーガル博士が実験結果を学術誌に発表し、それを「The New York Times」が大々的に取上げたため、世界中に広く知られるところとなったものである。
しかしながらやはり学術界では疑問視する声が多い。またヒトは死ぬ瞬間に肺で血液を冷やせなくなるため、急激に体温が上昇しスッと熱が引く現象が起きる。その際に発汗する量が21gなのだ。という説も囁かれているのだが、その真偽はいまだ藪の中である。
21グラムの由来はそれくらいにして、つまり本作のタイトルは『魂(幽霊)のタイムトラベラー』をもじったものであろう。まず主人公の石崎すばるが、小学校の近くに咲いている紫陽花の中で美しい女性の幽霊に出会うところからはじまるのである。その幽霊は未来からやってきた大学生の相原琴奈だった。そして彼女は「今日転校してくる小学生の相原琴奈と仲良くしてはいけない」と言う。
二人が仲良くすると、結局は二人とも不幸になると言うのである。その理由は教えてくれないのだが、二人が成長するごとに少しずつ小出しに明かされてゆく。そして22歳の梅雨がはじまり、全ての謎が解明されるのである。
そして時間が巻き戻されて、今度は転校するために母親と小学校の近くを通る相原琴奈が、紫陽花の中で幽霊の石崎すばるに話しかけられるのだ。大学生の彼はこう言うのだった「今日、石崎すばるしいう男の子に出会うから、仲良くして欲しい。そして苦しいことがあったら一人で抱え込まないで、遠慮なく彼を頼って欲しい」
エピローグは僅か4ページだが、実に感動的なのだ。このエンディングを記したいがために、延々と小学生時代から大学生時代までの二人の純愛を綴ったのだと言っても過言ではないだろう。実に見事な締めである。やはり不幸になるより幸せになったほうが泣けるよね。小説を読んで久々に大粒の涙を流してしまった。
評:蔵研人
製作:2017年 米国 上映時間:89分 監督:ディエゴ・ハリヴィス
タイムトラベルファンは弱いよね。このありふれた邦題に捕まって衝動的にレンタルしてしまった。
原題は『CURVATURE』で湾曲とかひずみという意味で、こちらのほうが内容とマッチしているのだが、日本的な発音がしにくく馴染みのない言葉なので分かり易い邦題に置き換えたのだろう。
しかし未来の自分自身が現在に入り込んでいるという設定なのだが、二人は遭遇することもなく、やっとラストにタイムマシンらしきものがチラリと登場するだけという、インチキ臭い邦題であった。
まあそれでもストーリーが面白かったり、複雑なタイムパラドックスが絡み合ったり、ラストのどんでん返し等があればなんとか楽しめるのだが、全てないない尽くしで情けない。どうしてタイムトラベル映画は駄作が多いのだろうか。きっとアイデアだけで製作費をかけなくてよいため、安易に創られてしまうからなのだろうね。いつもながら詐欺に遭ったような悲しい気分に襲われてしまった。
評:蔵研人
著者:本木治
「人生どこからやり直す」というサブタイトルで、どうやら過去に何度もタイムスリップして人生をやり直すという『リプレイ』のような小説のようだ。そう聞いてタイムトラベルファンの私は、どうしてもこの小説を読みたくなってしまった。
ところがなぜか現在アマゾンでは扱っていないのである。それに出版元が文芸社なので、半分自費出版のような扱いなのだろうか。
そんな疑問を感じつつも半ば諦めていたのだが、ひょんなことからセブンイレブンのネットショップで購入できることが分かった。それで早速購入したのだが、なんと100ページにも満たない超薄い文庫本だった。従って超遅読者の私でも、あっという間に読破してしまったのである。
本作の目次を見ると次のような構成になっている。
Ⅰ.序
Ⅱ.ナオコ
Ⅲ.マサコ
Ⅳ.ナオコとマサコ
Ⅴ.マサコ
この中の序章は、まさに著者自身のことを書き綴っているようである。そしてその後のタイムトラベルは、著者の願望なのだろう。
著者は貧しい家に生まれ育ったが、ハンサムで頭脳明晰で女性たちのあこがれの的だったという。ただ家が貧しく私立校には行けなかったため、必死で勉強ばかりしていたことと、吃音だったため内に籠り易く「強迫性障害」を患わってしまった。そのために望む職業にもつけず結婚もできず、50歳を超えて生活保護に頼るだけのただのデブおじさんになってしまったのだという。
そんな現状を嘆きながらも、もし過去に戻ることが出来たら、もう一度人生をやり直したいと、考えながら自転車を漕いでいるとき、なんと脇道から急に飛び出してきた自動車に跳ねられて意識を失ってしまう(死んだ?)、という寂しく悲しい現状を嘆いているのである。
まあここまでは良いとして、その後のやり直し人生については、K・グリムウッドの『リプレイ』のように複雑ではなく、学生時代に知り合った二人の女性と上手く付き合うということだけに絞った単調な展開なのだ。だから100ページに満たない薄さなのである。
それにしても、もう少し複雑な展開やタイムパラドックス、どんでん返しなどを期待していた私には、かなり物足りない内容であった。まあだからと言って決してつまらない話でもなく、読み易くて楽しく読ませてもらったことも否めない。いま一つの展開と工夫があればと、残念さが身に沁みるような作品なのである。
評:蔵研人
製作:2012年米国 上映時間:86分 監督:コリン・トレボロウ
『私と一緒に過去に行ってくれる人を募集します。安全は保証しません。』という新聞広告に興味を持った雑誌記者のジェフは、出版社でインターンとして働くダリアスとアーナウを連れて、このおかしな広告の真相を探るため、広告主が住んでいると思われる田舎町へと取材に向かう。
この広告主は、町のスーパーで働いているケネスと言う変人で、常に何者かの追跡に怯えたり、狂言ぐせのある難物であった。同じくちょっと変人で暗い女性のダリアスが、ケネスに近寄り広告応募者を偽ってその真相を探ることになる。はてさて本当にタイムマシンはあるのだろうか。
低予算のB級映画であり、タイトルから推測するようなSF的な要素は全くなく、どちらかと言うとちょっと風変わりなラブコメと言った趣であった。この取材旅行で仕事をしているのは、ダリアスだけであり、ジェフは昔の彼女とのデートに夢中。もう一人のインド人アーナウは、童貞のオタク青年でただパソコンをいじっているだけなのだ。
タイトルに引きずられて期待してしまうとがっかりすることになるが、はじめから別のジャンルの作品だと覚悟して観れば、それなりに楽しめるし、ラストシーンもので腹も立たないだろう。それにしても最近やたら期待を煽るような派手な邦題をつける洋画が多くて困っている。ちなみにこの作品の原題は『SAFETY NOT GUARANTEED』であり、広告文に記載されている『安全は保証しません』なのである。
評:蔵研人
製作:1991年 米国 上映時間:99分 監督:デヴィッド・トゥーヒー
かなり評価が高く、タイムトラベル映画の名作だということで、期待していろいろなレンタルビデオ店を探し続けた。そしてやっとその内容を観ることが叶ったのである。
あらすじは、完璧世界から来た未来人が、退屈感から過去の大災害見物のツアーにやってくる、という不謹慎な設定になっている。
ただ未来社会についての説明不足、製作資金不足もあり、肝心のタイムパラドックについても安易な設定なので、安もののTVドラマを観ている気がして堪らない。
また死んだ妻の設定にも必然性がないまま終わってしまったのも、納得出来ない。せめて過去に遡って、妻の死因を取り除いて、妻が死ななかった世界に変えてしまうくらいの展開があっても良かったのではないだろうか。
期待が大きかったせいか、かなり拍子抜けしてしまった。残念だが私の中では、この映画の名作伝説が崩れてしまったのは否めないだろう。
評:蔵研人
著者:越谷オサム
広告会社に勤務する奥田浩介は、クライアントの担当者との顔合わせで、偶然にも中学の幼馴染である真緒と10年振りで再会する。
中学時代は少し頭の足りない少女だった真緒は、バリバリ仕事をこなす立派社会人に成長していた。大変身した真緒を目の当たりにした浩介は、次第に惹かれてゆき、ついには彼女の虜になってゆく。
最初から最後まで、これでもかと言わんばかりの甘いムードと、イチャイチャの連続に、読んでいるほうが恥かしくなってしまう。だが主人公同様読者のほうも、少しずつ彼女の謎めいた行動が気になってくる。
裸で町を歩いていたという少女時代の噂。里親に引取られる前の中学以前の記憶が全くないこと。あれほど低能だったのに、東大をめざすほど優秀になったこと。などなどまた浩介と結婚した後も、次々と不可解な行動をする真諸…。
一体彼女は何者なのだろうか。異星人なのか、タイムトラべラーなのか、それとも何か特別な事情があるのか。中盤くらいまでは彼女の正体と、この小説の括り方に大いに興味を持った。
だが結局は『鶴の恩返し』だったのだ。表紙をみればすぐ判るし、タイトルもそのことを示唆している。これでは余りにも素直過ぎるじゃないの、もう少し捻りの効いたエンディングを期待していたのにね。
でも恋する嬉しさ、楽しさ、切なさ、哀しさがひしひしと伝わってくる、青春時代が甦る心温まるお話であることは確かである。このお話を読んだ読者は、きっと妻や恋人が愛しくなるはずである。
評:蔵研人