
★★★☆
本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。
著者:ダイアナ・ガバルトン
訳者:加藤洋子
米国TVドラマ シーズン5まで全67話が放映済だがまだ続く予定
とにかく原作は大長編小説である。なにせ『アウトランダー』というタイトルはシリーズ名ということであり、『時の旅人クレアI~Ⅲ』『ジェイミーの墓標I~Ⅲ』『時の彼方の再会I~Ⅲ』『妖精の丘にふたたびI~Ⅲ』『燃ゆる十字架のもとにⅠ~Ⅳ』『炎の山稜を越えてI~Ⅳ』『遥かなる時のこだまI~Ⅲ』の23冊という大構成になっている。しかも一冊が平均500頁と分厚く、そう簡単には読めない。従ってここでは、既に放映済のTVドラマシーズン5までのうち1~3をまとめて簡単に紹介したい。
ストーリーは、第二次大戦終結直後、従軍看護婦だったクレアが、夫・フランクと一緒にスコットランドのハイランド地方で休暇を過ごすところからはじまる。そして不思議な言い伝えのあるストーン・サークルを訪れた彼女は、突如異様な感覚に襲われ、意識が混濁してしまう。気がつくと、古めかしい衣裳の戦士たちが眼前で戦いを繰り広げているではないか。なんと彼女は18世紀にタイムスリップしていたのであった。
ここからクレアが過去で体験する波乱万丈の物語が始まる。そのとき彼女は、過去の世界には存在しない薄物の服をまとっていたため、下着でうろついている娼婦と勘違いされてしまう。さらになんとこの時代で最初に遭遇したのが、フランクと瓜二つのイングランド軍のジャック・ランダル大尉だった。実は彼こそフランクのご先祖様で、顔こそフランクそっくりだが、性格は正反対でしつこいサイコ野郎なのだ。
また彼は、この世界でクレアの夫となるジェイミーとも悪い因縁を持っており二人に執拗に絡んでくる。つまりこの物語の前半では、ジャック・ランダル大尉が最悪の敵役を務めることになるのである。
主人公のクレア役を演じたのは、元モデルのカトリーナ・バルフで、長身でスタイル抜群のうえ、まるでベテラン女優のような存在感が漂っているではないか。またジェイミーとの濡れ場が多く、惜しげなくその美しい全裸を晒してくれるのだ。同様にジェイミー役のサム・ヒューアンも、美しい自然な筋肉美と全裸を十二分に披露してくれる。いずれにせよ、よくも素晴らしい主人公二人を見つけ出したものである。
また本作は映画を凌ぐほどのスケール感を誇り、過去の建物や衣装などはもとより、不潔・不衛生・危険が伴う時代考証も正確に描き切っているところが凄いのだ。
さて本作のジャンルは、基本的に「ラブファンタジー」と呼んでも良いだろう。また主人公のクレアとジェイミーは美女美男なのだが、ともに気性が激しく頑固で逞しい。そして時にはお互いを罵り合うのだが、逆にそのつど愛を深めていくのである。ただいつもクレアの頑固さが原因で、皆が迷惑を被ったり窮地に陥ってしまう展開にはかなりイライラされられてしまう。
そんなイライラ感が高じて、何度か嫌気が差してしまったことも否めない。ジェイミーが甘過ぎるのかもしれないが、クレアがもう少し素直になっても良いのだが…。
シーズン1では、ヒロインのクレアが、期せずして過去の世界にタイムスリップしてしまう。そこで彼女は、時代を無視した無謀さが原因で、スパイ容疑をかけられてしまう。その容疑から逃れるため、やむなく自分より年下の美男子ジェイミーと結婚する。
また当初は元の世界に帰りたかったクレアだったが、ジェイミーと躰を重ね、共に艱難辛苦を乗り越えながら生きているうちに、だんだん強い愛情が芽生えてゆき、彼の子を宿すことになる。
シーズン2では、パリへ逃げ延びたクレアとジェイミーたちが、歴史上大勢のハイランド人が虐殺された「カローデンの戦い」を回避しようと政治的にいろいろ画策する。だが結局は歴史を覆すことはできないどころか、ジェイミーもその戦いに参加せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。死を覚悟したジェイミーは、妊娠したクレアと胎児を守るため、彼女を無理矢理ストーン・サークルから現代にタイムスリップさせてしまう。
シーズン3では、クレアは現代で「カローデンの戦い」を乗り越えたジェイミーが、その後も生き延びたことを証明する資料を発見する。そして娘のブリアナが20歳になる年に、再び一人で最愛のジェイミーの住む過去へ旅立ってゆく。多分50歳を超えているクレアであるが、白髪がちらつく程度で相変わらず美貌を誇り、気性が激しく頑固なところも全く変わらない。
ざっとシーズン3までのあらすじを殴り書きにしてみたが、中身はずしんと重い。年を重ねたジェイミーはかなり丸くなっているのだが、クレアのほうは相変わらずの頑固者で、医師の資格を取ったためか、さらにプライドが高くなり無謀さ健在、まるで「迷惑の根源」のようだ。このあたりでイライラ感が、だんだんクレアに対する腹正しさに変化してゆくのは私だけではないはずである。
評:蔵研人
製作:1979年 米国 上映時間:100分 監督:フランク・デ・フェリッタ
日本版DVDは未発売だが、NHKで放映されていたものが、ユーチューブの書庫で見つかったのだ。画像の粗い小さな画面で9分割にされているが、もうここでしか観ることが出来ない。従って、こういうときのユーチューブは、本当にありがたいよね。
若い夫婦が、田舎の古い屋敷を借りるのだが、屋根裏部屋には古いドレスが飾ってある。妻がこのドレスを着ると19世紀末の世界にタイムスリップしてしまう。そしてその時代にこの家に住んでいた画家と出逢うのである。
浮気をした夫に対して、信頼感が薄れていたということも手伝って、彼女は過去の世界でこの画家と恋に落ちてしまうのだ。ぶっちゃけていえば不倫をしちゃたわけだ。
ところが彼女には、後ろめたさが全くなく堂々と恋をしているように見えた。これは過去の世界ということと、先に夫が浮気をしたという前提によるある種の錯覚かもしれない。
ノスタルジーの漂う世界感とタイムスリップという題材は、『ある日どこかで』を髣髴させられる。なかなか良質で素敵な作品であったが、やはりTVドラマであるためのチープさは完全に拭えなかった。
また日本語バージョンであること、ユーチューブの9分割だったのも残念であった。もしDVDでまっとうな映像を観ていたら、もっと評価が上がったかもしれない。また過去の画家によって描かれた絵が、タイムパラドックス的な要素を含みなかなか味わい深い作品である。
評:蔵研人
★★★★
製作:2018年 日本 上映時間:111分 監督:三木孝浩
幼いころに飛行機事故で同乗していた両親を亡くした木山慎一郎。奇跡的に助かった彼は成長し、自動車整備会社で真面目一筋に働いている。
ところが最近になって、死の近い人が透けて見えることに気が付き始めるようになっていた。そしてその能力を使って彼女や社長の命を救うのだが、その能力を使うたびに自分の命を縮めていることを知らされる。
それで透けて見える人たちを発見しても、何もせずにじっと我慢するようにした。だが真面目な慎一郎は、彼らの死が分かっていながら、何もできない自分に対してイライラし続け自己嫌悪に陥ってしまう。
そしてある日、幼稚園児たちが遠足で乗る電車が事故に遭遇し、全員死亡してしまうことが分かってしまうのである。もし彼等を救えば確実に自分も死ぬだろう。そうすると当然彼女とは結婚できなくなり、彼女を悲しませることになってしまう。
この二つのジレンマに挟まれ、慎一郎は悩みに悩み抜き、ある決断を下すのだが・・・。
原作は百田尚樹の小説でまだ未読なのだが、映画を見た限りではなかなかの秀作で、かなり凝ったストーリー展開だと感じた。是非とも小説のほうも一読してみたいものである。それにしても、あの終盤のどんでん返しは「皮肉」で塗りつぶされているように感じたのは私だけであろうか・・・。
またあのエンディングには賛否両論があるかもしれないが、私的にはなんとなく納得してしまった。まあいずれにせよ、総括すれば「ちょっと切なく心残りな、ミステリー風味のラブ・ファンタジー」ということになるだろう。
評:蔵研人
製作:2019年 日本 上映時間:87分 監督:蜂須賀健太郎
タイムトラベル小説の御大である梶尾真治の作品が原作となっている。
住島重工の開発部門に勤務している吹原和彦は、毎日通勤時に通りかかる花屋で働いている蕗来美子に淡い恋心を抱いていた。ところが来美子の働く花屋の前で、タンクローリーが衝突して大惨事を引き起こす。そして悲しいかな、彼女もその事故に巻き込まれて死亡してしまうのだった。
その頃、吹原が勤務する開発部門では、時間軸圧縮理論を採用して物質や生物を過去に送ることが可能なタイムマシン「クロノス・ジョウンター」の実験を行っていた。この実験はほぼ成功したものの、過去に送ったはずの物体などが現在に戻るのに、数分間のタイムロスが発生してしまうところが問題であった。
そのタイムロスが起こる理由や法則は全く不明であったが、吹原は来美子を救うため過去に跳ぶ。だが実験で解明されていなかったタイムロスによって、一定の時間しか過去には存在できず、その反動でずっと先の未来に跳ばされてしまうのだった…。
ネットの評価はそこそこ高いのだが、原作を読んでいる私には今一つ感情移入ができなかった。その最大の原因は、あまりにも低製作費であることだろう。そのため肝心のクロノス・ジョウンターがちゃちいこと、吹原が跳んだそれぞれの未来の時代考証がほとんど描かれていないこと、友人の風貌が全く変わっていないこと等であろう。
さらにラストのハッピーエンドは、原作と乖離しているだけでなく、かなり科学的に無理があった。ともかく、SF映画はガンガン金を使い、いかに嘘を本物らしく見せるかが勝負なのである。またそれなりに納得できそうな理論体系を構築しておかないと、バカバカしくなってしまうものである。このあたりが邦画にSFものが少ないない原因なのであろうか。
評:蔵研人
製作:2017年 日本 上映時間:93分 監督:加藤悦生
奇妙なタイトルであるが、三尺とは打ち上げ花火の大きさであり、主人公が花火職人といったところである。ではこの作品は花火職人の映画なのかというと、全く的外れで自殺願望の4人が花火の爆発で死ぬたびに、自殺直前に戻ってしまうというタイムループのお話なのだ。SFというにはスケールが小さ過ぎるのでファンタジーと言うことにしておこうか。
SNSの自殺サイトで知り合った4人が、何度もループを繰り返すうちに、タブーである本名を明かしたり、自殺の理由を打ち明けたりしてゆく。この4人の中には、一人だけ女子高生がおり、全員で彼女を説得するのだが、彼女の決意は固くなかなか説得に応じてくれない。
低予算映画であるが、アイデア・脚本・演技力がしっかりしているため、最後まで面白く鑑賞させてもらった。製作費の少ない邦画のお手本的な作品であった。こんな映画をもっと創って欲しいものである。
苦しいから、逃げたいから死にたい。それが冷静に考えたら違う事もあるかもしれない。やっぱり映画はハッピーエンドでなくてはね。それにしてもラストの幸福の連鎖とデジャブは実に見事だったね。
評:蔵研人
★★★☆
製作:2019年 米国 上映時間:100分 監督:クリストファー・ランドン
前作『ハッピー・デス・デイ』の完全続編である。だが前作の説明は一切ないため、これを初めて見た人はかなり戸惑うはずである。また前作は、タイムループホラーという珍しいジャンルだったのだが、本作はSF色とコメディ色が強くなり、タイムループよりもパラレルワールド風味に染まっている。それにホラー要素はかなり薄められているので、なにか物足りないのだ。
そしてタイムループの原因は、理工学部で学ぶライアンたちが開発した量子冷却装置(SISSY)だというのだが、なんとなく無理矢理こじつけた感があり余り共感できない。またこの装置を再起動するための方程式を、ヒロインがタイムループを繰り返して解析するくだりもよく理解出来なかった。
ヒロイン役の必死の演技には脱帽するが、本作が前作より評価が高いのは不思議でならない。やはり今どきの若者たちには、お笑いが必須なのであろうか…。また更なる続編3の製作が噂されているのだが、本作と同じようなパターンなら、もう観たいとは思わない。
評:蔵研人
製作:2017年 米国 上映時間:96分 監督:クリストファー・ランドン
笑う坊やのようなマスクを被った殺人鬼に、何度も繰り返し殺される誕生日。あの名作『恋はデジャヴ』を、ホラー版に改変したようなタイムループ映画である。
毎晩飲んだくれて、いろいろな男とすぐ寝てしまう悪たれ女子大生のツリーが、二日酔いで目覚めると、見知らぬ男のベッドの中であった。彼カーターは、酔い潰れたツリーを親切に介抱してくれただけなのだが、彼女はお礼も言わずに不快感を抱いたまま帰宅する。
そしてその夜、誕生パーティーに出かけるのだが、途中でベビーマスクに襲われて殺されてしまう。その瞬間に、目が覚めるのだが、そこはまたカーターの部屋のベッドの中だったのである。
ツリーはなんだか奇妙な気分のまま、●父からの電話を無視 ●カーターの友人とドア前で会う ●サングラスの男と環境保護活動家に遭遇 ●スプリンクラーの吹き出す水 ●車のクラクションの音 ●集会で一人の男が倒れる ●ティムになぜメールの返信をしないのかと問われる ●家の前で女の子に挨拶される ●一階で友人に朝帰りを咎められる ●同室の女性に誕生ケーキを貰う
このあとやはり殺人鬼に別の方法で殺されるのだが、ここまでは生還したあとに何度も繰り返されるのであった。彼女に不快感を持っている者は数知れないが、なぜ殺されなくてはならないのか、犯人は一体何者なのか、またどうしてデジャヴのようにループが続くのだろうか。
興味津々の中、テンポよくストーリーが流れてゆく。そしてやっと犯人を探し当てて葬ったのだが、なんとあの忌まわしいループは終わっていなかった・・・。
そしてラストのどんでん返しに繋がってゆくのである。主人公は性悪女で感情移入し難いし、ストーリー的にもかなり雑な部分があり、突っ込見所も多い。だが・・・と言うより、だからこそテンポよく、お気楽に楽しめたのかもしれない。またホラーと言っても、コミカルホラーなので、ホラーが苦手な人でも安心して観ることができるだろう。
なお本作の続編『ハッピー・デス・デイ 2U』もDVD化されているようである。こちらはSF色が濃くなって、タイム・ループの謎も解明されるようなので、絶対にレンタルしてみたいね。
評:蔵研人
製作:2019年 米国 上映時間:129分 監督:ティム・ミラー
ターミネーター映画は、度重なる権利の移動が続き、連続性を欠きながらも、人気シリーズのため何とか延命してきた推移がある。ただし生みの親であるジェームズ・キャメロンは、これを良しとせず第1作から2作へと引き継がれてきた世界観を引き戻すため、本作をキャメロン版第3作として位置付けて製作に携わったという。
そして舞台は米国からメキシコへと移り、未来から来たターミネーター「REV-9」が、メキシコシティの自動車工場で働いている21歳の女性ダニーに襲い掛かる。このダニーは未来において活躍する大切な女性の一人だったのである。
危機一髪の状況で彼女を救うのが、やはり未来から送られてきた強化型兵士のグレースであった。だが一度は危機を脱出したものの、絶対に破壊されない「REV-9」が、執拗に二人を探し当てて追いかけてくる。
とにかくすごい迫力だ。もしかするとシリーズで一番のド迫力かもしれない。だが第2作・T2とほぼ同じようなストーリー展開なので、大好評だったT2のような驚きは全くなかった。
またシュワちゃんのターミネーターが年を取ったのは、それなりに理屈があるようなのでそれは良いとしても、家族をもって人間のように暮らしている姿はアンバランスな感がある。それから年取ったリンダ・ハミルトンが、再びサラ・コナー役を演じる必然性も全く感じない。大した活躍も出来ないわけだし、彼女は単なる客寄せパンダだったのだろうか。
何となくT2をバージョンアップしたような作品で、その製作意図がいまひとつ理解できない。もしマッケンジー・デイヴィス演じるグレースが登場しなければ、★はひとつ減らしただろうな…。
評:蔵研人
★★★☆
製作:2016年 日本 上映時間:125分 監督:松山博昭
原作は石井あゆみの描いたマンガで、第57回小学館漫画賞少年向け部門を受賞している。その後テレビアニメと実写テレビドラマを経て、実写映画化されたものである。
ただ本作映画版はTV実写ドラマの続編として製作されているため、出来れば先にTVドラマを観ておいたほうが馴染み易いだろう。また原作がいまだ連載中のためか、アニメは10話で途中終了している。
さらに映画のほうは完結したものの、原作とはキャラの個性や性格がだいぶ異なっている。原作が終了していないため何とも言えないのだが、もしかすると結末は原作とは違っているのかもしれない。
前置きが長くなったが、あらすじを簡単にまとめると次のような展開になる。
小栗旬が扮する歴史が苦手な高校生サブローが戦国時代にタイムスリップし、織田家を逃げ出した本物の信長と遭遇。二人はまるで双子のように瓜二つだったため、信長の希望で入れ替わることになる。
あとは歴史通りのストーリーをコミカルに描いて行くのだが、明智光秀と羽柴秀吉の扱い方が歴史とは大きく異なってくる。またサブローのほかにも、未来からタイムスリップした男が数人登場する。それが誰なのかは映画を観てのお楽しみとしておこうか。
本作は歴史ものとしてはやや物足りないし、突っ込見所も多かった。だが、のほほんとしたお人好しの信長をはじめとして、歴史観とは一風異なるキャラの性格づけが楽しい作品と言えるだろう。
評:蔵研人
★★☆
製作:2013年 日本 上映時間:108分 監督:李闘士男
高校生の男女三人と女教師の4人が、幕末の時代にタイムスリップするSFコメディーである。なお幕末と言っても、彼等がタイムスリップしたのは、ちょうど勝海舟と西郷隆盛が話し合いをする前の数日前で、戦争か江戸開城かの選択を迫られている歴史的瞬間であった。
こう記すと、いかにも格調高いストーリーのようだが、実は勝海舟はギリギリまで何もしない怠け者だった。そして西郷隆盛と話し合えるのかダメなのか、ギリギリまでイライラさせる展開を、おバカタッチで大真面目に描いている。
主な出演者は勝海舟に玉木宏、西郷隆盛に佐藤浩市、女教師に石原さとみ、その他千葉雄大、川口春奈、柄本明、伊武雅刀、石橋蓮司などそうそうたる俳優陣を配している。また江戸のCGや武家屋敷のセットなどもしっかり揃えてあり、それなりの製作費を消費した跡が見受けられる。
ところがなぜか全然面白くないのである。まずおバカを前面に出し過ぎたためか、人物像が薄すぎて全員がバタバタしているだけなので退屈感が拭えない。またおバカなら、おバカに徹すればよいのだが、真面目とおバカが調和せず中途半端で空回りしているのだ。
そしてせっかく未来からタイムスリップしてきたのに、車も一切使わないし、歴史にも触れないので、全くタイムスリップの意味がないし、どんでん返しらしきものもほとんどなかった。結局は脚本の大失敗なのだが、実にもったいない創り方をしたものである。
評:蔵研人
★★★☆
製作:2017年 スウェーデン、デンマーク・フィンランド 上映時間:88分 監督:マックス・ケストナー
珍しい北欧発のタイムトラベル系SF映画である。未来社会は薄暗いし全般的に地味で難解な映画なので、ハリウッド系のSF映画を期待すると失望するかもしれない。だが海に浮かぶタイムマシンや、未来に残る者と過去に跳ぶ者に分身するという発想は、いまだかつてなかったので新鮮に感じた。
2095年。海面上昇で大陸は海に飲み込まれている。動植物は塩病にかかり絶滅していた。真水はぜいたく品である。今や時空移動が可能な時代。ただし実行できるのは量子網分離官(QEDA)だけである。彼らは2人に分裂でき現在と移動先とで繋がり合うのだ。
という前置きでこの物語は始まる。主人公のファン・ルン大尉は、国防省の科学防衛の責任者である。時空移動を廃止するのが彼の任務だったが、秘密裏に量子網分離官(QEDA)となりふたりに分裂し、その一方が2017年へ時空移動を行った。その目的は海水を淡水化する研究データを持ち帰り世界を救うことであった。
2017年で海水を淡水化する研究をしていたのは、モナという女性だった。ところが、なんと彼女は「ファン・ルンの妻の曾祖母」であった。そして彼女は飛行機事故に巻き込まれ、研究データも消えてしまうことになっていた。それでその前に、研究データの在り処を見つけて、それを未来に送るためにファン・ルンの分身がやって来たのだ。
分身はそれなりに成果を上げるのだが、約束の時間を過ぎても未来に戻ってこないし、連絡も取れなくなってしまう。それに焦れたファン・ルンは、上司の反対を無視して、自らが2017年に時空移動をするのである。そこで彼が知ったことは・・・。
なかなか見応えのある瑞々しい作品なのだが、一つだけはっきりしない部分がある。2017年に住む女性研究者モナのことである。本ブログでは、あえて彼女を「ファン・ルンの妻の曾祖母」と記したのだが、ネット評論の大半はなぜか「ファン・ルンの祖母」と説明しているのである。78年前だから、主人公とモナが同年代とし、約80歳の年の差があると考えれば、曾祖母と考えたほうがノーマルであろう。
また映画の中では主人公がモナを見て、「お前のひいひいばあさん」とつぶやいているのだが、これも辻褄が逢わない。そしてお前のの、「お前」とは「妻よりも自分自身」を指しているように取れるので、モナのことを「ファン・ルンの祖母」と勘違いした人が多いのだろうか。
ただそれだとモナとその娘が亡くなった瞬間にパラドックスが生じて、ファン・ルン自身も消失してしまうはずである。ところがファン・ルン自身はそのまま生き残り、自分の娘が描いたタトゥーだけが消えたのである。
ということは、モナは「ファン・ルンの妻の曾祖母」でなければおかしいということになる。またラストシーンで、主人公が帰る場所がないと嘆いている。つまり帰りを待つ妻も娘も存在しないからである。
さらにもしモナが自分自身の祖先なら、性的関係を結ぶはずもない。もしかすると「お前のひいひいばあさん」という字幕は、翻訳ミスだったのかもしれないね・・・。
評:蔵研人
製作:2018年 日本 上映時間:108分 監督:森義隆
原作となった東野圭吾の小説を読んだのは、もう20年以上前である。従って覚えているのは、冒頭での京浜東北線と山手線が並行して走るシーンだけなのだが、かなり面白く読ませてもらった記憶だけが残っている。
だがなぜ今頃になって映画化されたのだろうか。と思いながらも、やはり好印象だった小説への想いに押されて、本作が観たくてたまらなくなったのである。
ところが残念ながら、映画のほうはかなり期待外れだった。と言うよりは、なんだかよく分からないまま終盤に突入し、余りにも当たり前すぎる結末に拍子抜けしてしまったと言うべきかもしれない。やはり映像では単調になりがちで、小説だから面白かったのだろうか。或いはミスキャストによる消化不良だったのだろうか、はたまた私自身の感性の激変なのだろうか。それらを確認するには、もう一度小説を読み直してみるしかないよな・・・。
評:蔵研人
製作:2016年 韓国 上映時間:130分 監督:オム・テファ
母親が事故死して義父と一緒に離島で暮らすことになった小学生少女スリンは、新しい学校に馴染めず変人扱いされていた。ただ両親を亡くし施設に入所している少年ソンミンとだけは心を通わせることが出来た。
ある日ソンミンの友達と一緒に立入禁止区域内にある洞窟に潜入し、そこで奇妙な卵のようなものを見つけるのだが・・・。スリンが洞窟から戻る前に、3人の少年たちがそれを割ると時間が止まってしまうのであった。
数日前にやはり時間が止まってしまう『初恋ロスタイム』という邦画を観たばかりである。しかしながら、映像の美しさ、時間が止まった風景、綿密に練り込まれた脚本と、どれをとっても本作のほうが断トツに優れているではないか。
さらに本作では時間を取り戻した後の「浦島太郎状態」がメインテーマであり、ファンタジーでありながら、世間での現実的かつ常識的な対処と主人公とヒロインの葛藤を巧みにブレンドしている。まさにこの分野では、韓国映画の面目躍如と言ったところだろうか。ただ穏やかでリリカルなラストシーンも悪くはないのだが、余りにも切な過ぎて感動の涙を流せなかったことだけが心残りである。
評:蔵研人