タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

マンガ

我妻さんは俺のヨメ

我妻さんは俺のヨメ
★★★☆

原作:蔵石ヨウ 漫画:西木田景志

 ルックスはそこそこだが、学力ゼロでスポーツ音痴のさえない男子高校生の青島等。学校一の美少女で学力抜群で水泳部のエースであり、かつ性格の良い学園マドンナ我妻亜衣。全く正反対で、全然釣り合いの取れないこの二人……。
 ところがある日、青島が10年後にタイムスリップする能力を得て未来を覗くと、なんと自分とあの我妻さんが結婚しているではないか!! これが全13巻に亘るこのストーリーのはじまりなのだった。
 ただし状況の変化によって未来は変化することがあり、あるときはハーフ美女の「下妻シルヴィア」、またあるときは漫画家を目指す美少女「伊富蘭」、さらにあるときは、美人教師の梶先生と結婚しているのである。これはパラレルワールドなのだろうか、それとも実はタイムスリップではなく、青島の単なる妄想なのかと勘繰ってしまうのだ。

 この青島という主人公、さえないさえないと言われながら、実はかなりモテまくっているではないか。それにひっついたり離れたり、妄想とかタイムスリップといった展開はなんとなく江川達也原作の『東京大学物語』の前半と似ているような気がしたのは決して私だけではないはずである。ただ『東京大学物語』のようなエロっぽいくだりは殆んどなく、童貞まっしぐらのおバカで品の悪いギャグマンガといったところであろうか。

 また原作者の蔵石ヨウ氏の年齢は不詳なのだが、登場人物たちの名前を見た限りではかなり年配なのかな……。だって青島等とは、青島幸男と植木等のドッキングだし、DX団のメンバーも、小松正男=小松政夫、伊東志郎=伊東四朗、中本高次=仲本工事、小野靖史=小野ヤスシだものね。もっと言えば女子三人組の葉隠メンバーだって、伊富蘭=伊藤蘭、藤村美紀=藤村美樹、田中良子=田中好子という元キャンディーズのパクリじゃないの、ははは。
 まあ少なくとも男性読者には面白いマンガだと思うが、タイムトラベルものとして期待するのはやめたほうが良いかもしれない。あくまでも「青島の妄想」をタイムスリップに置き換えたおバカストーリーなのだと解釈したほうがよいだろう。

評:蔵研人

君と僕のアシアト3

君と僕のアシアト
著者:よしづきくみち

 サブタイトルが「タイムトラベル春日研究所」と記されているように、本作はタイムトラベル系のマンガである。ただタイムマシンで過去や未来に自由に跳び回るのではなく、春日市内に固定された「脳内タイムトラベル」であり、過去20年間に収集したデーターを利用するため、タイムトラベル範囲は過去20年間に限定されているのだ。

 主役は脳内タイムトラベル春日研究所所長の風見鶏亜紀という美女だが、脳内タイムトラベル装置を発明したのは彼女の亡父である。この脳内タイムトラベルサービスを利用するには1回40万円かかるのだが、荒唐無稽で信じる人が少ないためか、宣伝が行き届いていないためか、利用客は極端に少なく破産寸前といった状況なのである。

 たまに訪れる客の悩みと脳内タイムトラベルの話がいくつか続いて行くというパターンでコミック誌に連載されていたのであるが、「死んだ妹が実は生きているのでは、それどころか姉まで存在していた」といったテーマとも繋がっているのだった。結局はタイムトラベルだけではなく、パラレルワールドも絡んでくるのだが、だんだん複雑になってきてラストはなんだかよく分からないまま終わってしまった。
 それにしても著者のよしづきくみちの画風は丁寧で美しい。ことに美少女の絵が実に美麗である。やはりイラストレーター出身だからであろうか……。

評:蔵研人

マンガで読むタイムマシンの話2

マンガで読むタイムマシンの話
画:秋鹿さくら

 過去に物理学者の都筑卓司がブルーバックスで著した『タイムマシンの話』をマンガ化したものである。そのご本家都筑卓司氏の『タイムマシンの話』はかなり昔に読んだことがあるのだが、かなり難解だったのでマンガ版なら分かり易いだろうと思って買ってみた。

 ところが残念ながら肝心のタイムトラベル理論の部分になると、マンガと言うよりは図説のオンパレードとなり、ご本家の原作本の図をそのまま転用しているだけに終始しているのだ。また余計なマンガストーリーが組み込まれているばかりか、ページ数もかなり省エネ化しているため、大幅に省略された内容に成り下がっていた。

 これでは逆に、ご本家の原作本のほうが分かり易いではないか。もっとも難しいものを易しく解説するということは、それなりに難しい作業であり、十分な知識を有している必要がある。それを銀杏社構成とされているものの、物理学素人の漫画家に委ねること自体に無理があったのかもしれないね。読者に易しく分かり易く説明するという使命より、マンガなら売れるだろうという安易な発想が残念であった。


評:蔵研人
 

ヴィルトゥス3

ヴィルトゥス

著者:信濃川日出雄

 西暦185年の古代ロ-マ帝国では、暴君第17代皇帝・コンモドゥスが格闘技に明け暮れ、ローマ帝国は荒廃しつつあった。その行く先に憂いる側室・マルキアは、時を操る秘術を使い、失われたローマ人の魂『ヴィルトゥス』を抱く男を未来より召還する。その男こそ2008年に住む柔道世界一の日本人・鳴宮尊であった。
 
 本作のテーマは、未来より召喚された鳴宮尊が、悪政を続けるコンモドゥスを暗殺することだと思っていたのだが、どうも雲行きがおかしい。そもそも召喚されたのは鳴宮だけではなく、彼と同じ刑務所に収監されていた男たち数名なのだが、その半数以上は召喚されてすぐ殺害される。
 さらに鳴宮はじめ生き残った者たちも、強制的に奴隷闘士にさせられ、ギリシャの孤島にある悪名高い興行主ガムラの養成所に送られてしまうのであった。そしてコンモドゥス暗殺どころか、この孤島での訓練や鳴宮の過去についての話などに終始するばかりなのだ。
 またコンモドゥス暗殺は歴史通り元老院議員達によって実行されるのだが、裏切りなどが絡んでうまくゆかない。そして突然中途半端な形で、全5巻をもって終了してしまうのである。

 なんだなんだこの話は、と思ったら実はこの5巻までは第一部であり、 第二部としてタイトルを『古代ローマ格闘暗獄譚SIN 』と変更し、主人公を第一部ではいじめられっ子だった神尾心に替え、さらに掲載誌も週刊誌から月刊誌へ移行しているのだ。なぜこのような数々の変更がなされたのかは不明であるが、第二部は余り面白くなかったし全6巻で完結となっている。
 第一部と二部を通算しても僅か11巻にしかならないのだから、本来ならわざわざ大袈裟に二部構成にする必要もないはずである。もしかすると第一部の描き方などに何か問題が生じたのかもしれない。いずれにせよ原因不明のまま第一部は終了してしまったのである。

評:蔵研人

アゲイン!! 全12巻

アゲイン
★★★☆

著者:久保ミツロウ

 著者の作品の多くは本作も含めて『週刊少年マガジン』へ連載しているし、名前も男名なのでてっきり男性漫画家だと思い込んでいた。ところがよくよく調べてみると、本名が久保美津子という48歳の女性だったのだ。また著者はかなりの遅筆で作品数も少ないのだが、代表作の『モテキ』が大ヒットし、TVドラマや実写映画化されている。

 本作は、3年間の高校生活を友達も出来ず部活にも入らず自堕落に生きてきた今村金一郎が、卒業式の日に急階段から転がり落ち、3年前の入学式の日にタイムスリップしてしまい、もう一度高校生活をやり直すというお話である。まあ最近ではよくあるストーリーなのだが、応援団員として活躍するというところがユニークかもしれない。
 さらにそのときの応援団長が美女だと言うところも珍しい設定である。と思ったら、よしづきくみちが本作より以前に『フレフレ少女』という女応援団長を描いたマンガを発表していたんだね……。

 もちろん応援団だけの話では退屈してしまうので、野球部の話や演劇部の話を絡めながら応援団の内情などを描いてゆく。画風は一見シリアス気味なのだが、あの『鬼滅の刃』同様、おバカなギャグ絵を織り込むという最近流行りの手法を用いている。
 登場人物も個性的でユニークなキャラばかりなので笑いながら読んでいるうちに、あっという間に読了してしまった。ただ最終回の話が分かり難く、中途半端な締めくくりだったのは残念だったな。
 またアゲイン後の今村が、余りにもモテモテで一体誰と結ばれるのかが興味深いのだが、なんとなく「なぜそんなにモテるんだ!」といった不自然感が湧いてきたことも否めなかった。たぶんある意味で『モテキ』の亜流作品なのかもしれないね。

評:蔵研人
 

鳥類学者のファンタジア3

鳥類学者のファンタジア

原作:奥泉光 画:望月玲子

 不可思議な音階がジャズピアニスト・希梨子を時空を超える冒険に巻き込んでいく。……謎の音階を探して、現代から第二次大戦中のドイツへと時空を超える旅を描いたマンガなのだが、とにかく音楽と宇宙の蘊蓄が脈絡もなく混在し難解で、凡人の私には理解しがたい内容であった。

 それもそのはず、原作が芥川賞作家・奥泉光の小説だったのである。原作は未読であるが、マンガでさえ理解不能なので、小説はさらに難解なのだろうか、いやたぶんマンガには不向きの原作なのかもしれないね。……ごめんなさい、いずれにせよもうこれ以上は、評論を書く元気も喪失してしまったようだ。あーあ、マンガを読んでこれほど疲れたのは、生まれて初めてかもしれない。

評:蔵研人

すばらしきかな人生4

すばらしきかな
原作:北原雅紀 作画:若狭星

  『素晴らしき哉、人生!』は1946年に製作された米国の名作映画であるが、本作はその名作映画のオマージュ版コミックといったところだろうか。
 もしもあの時に戻ることができたら、今の自分はこんな不幸にはならないはずだ……。と誰もが一度は考えたことがあるだろう。それを実現してくれるのが、バ-『ボレロ』のマスター・坂巻友郎である。
 ただしその代償は10年の寿命と引き換えだというのだ。仏のような顔付をしているマスターだが、果たして彼は天使か悪魔か死神なのだろうか……。

 本作はこのマスター・坂巻友郎が、藤子不二雄Aの『笑ゥせぇるすまん』のような狂言回しを務めるオムニバス方式を採用している。第一巻には『あの日に帰りたい』ほか9作が収められており全3巻の構成になっているのだ。全ての話がなかなか良くできているのだが、どうしても似たような話になり、オチが読めてしまうところが弱点かもしれないが、読み応え十分なことは間違いないので安心して欲しい。

 いずれにせよ、絵は綺麗だし、原作ものなので一つ一つの話は分かり易くしっかりしているし、全三巻という手ごろな構成なので誰にでも楽しめるだろう。ましてやタイムトラベルファンは必読かもしれないね。

評:蔵研人

時間島3

時間島

原作:椙元孝思 作画:松枝尚嗣

 本作の舞台になっている『時間島』と呼ばれる『矢郷島』は、三重県の無人島という設定になっている。なんだか本当に存在するのかとグーグルマップで調べたら、似たような形をしている『大築海島』が見つかった。
 ただしその大築海島は、昔からずっと無人島であり、かつての鉱山や廃墟などは全く存在しない。むしろ鉱山や集団ビルの廃墟なら、先ごろ世界遺産に登録された長崎県の『軍艦島』そのものであろう。まあ実在の島を舞台にはし難いので、島の形は『大築海島』で廃墟は『軍艦島』をモデルにしたのであろう。

 本作のオープニングは、この時間島にある地底湖に落ちると、一瞬にして5年間が跳び去り、戻ったときはまるで「浦島太郎現象」を引き起こすという話から始まる。それで断然ボルテージがアップするのだが、残念ながらこの地底湖に絡むのは、主人公の佐倉準がそこに公用のケータイを落としてしまうという絡みだけなのだ。
 その後落としたケータイから佐倉が持っている私用のケータイにメールが着信し、そのメールには謎のミイラ男からの動画が添付されていた。そして彼は5年後の未来からメールを発信しているのだと言い、まもなく大地震が起こり、全員が殺されてしまうと警告するのだった。

 タイムトラベル絡みと言えばこのあたりの展開だけで、あとは殺しの犯人探しとミイラ男の正体に興味が集中するのだが、いまひとつ殺人の理由が納得できない。さらにミイラ男の正体と最後のどんでん返しにも、それほど説得力がなかったのが残念である。決して駄作ではないのだが、ストーリー展開にもう少し味付けが欲しかったね。まあ一巻完結なのでやむを得ないのかもしれない。

  
評:蔵研人

廻り暦

廻り暦

★★★
著者:鈴木有布子

 鳩居八幡宮の片隅でひっそりと売られていた『廻り暦』とは、1年間毎日欠かさずに一日ずつめくると、その人が希望する日に行けるという。この暦の値段は買う人が自由に決められるが、1年の途中で最後のページを見ないこと、その日のページをめくり忘れないこと、最終ページを暦売りに渡すことが条件となっている。
 従って本作の暦売りは、『すばらしきかな人生』のマスター・坂巻友郎ように10年の寿命と引き換えるような要求はしない。ただ受け取った最終ページを空中に投げたとき、なにが起こっているのかは不明なので、もしかすると日めくりした人の寿命を食っているのかもしれないね……。

 本作は一巻で完結しているが、5つの話が収められている。その中の1~3話まではまあまあ面白いのだが、4~5話はつまらないというより、いまひとつ理解しにくかったかな。それに暦売りの正体も明かされないままなので、途中で連載打ち切りだったのだろうか。まあいずれにせよ1巻で終了ということは、それほど人気が湧かなかったのかもしれないね。

評:蔵研人

時のむこうのきみの星

時のむこうのきみの星
★★★☆

著者:浦川佳弥

 鹿王院高校の此ノ花繭子は、ラグビー部の森下先輩に憧れ、チアリーディングで応援している。そんなある日、東伊理弥という転校生に暴走族の突進から救われる。なんと彼は小さい頃から時々夢に現れていた青年とそっくりだったのである。そのうえ彼には、まゆの事を知っている様な雰囲気が漂っていた。

 タイムトラベルものなので、すぐに謎の青年・東伊理弥の正体に思いあたった。ある意味でドラえもんの世界であったが、少女漫画として明るくかつ切なく描かれているところに惹かれてしまうだろう。
 著者の浦川佳弥は、中学生の頃から手塚治虫の大ファンで、サイン会で手塚に見せたカットを褒められたことが忘れられなかったようだ。SF作品はほとんどないものの、本作は少なからず手塚治虫の影響を受けて描いたようである。

評:蔵研人

隊務スリップ

隊務スリップ
★★★☆
著者:新田たつお

 あの108巻に亘る大長編マンガ『静かなるドン』の新田たつおが、2014年から2016年にビックコミック誌に連載した作品である。
 舞台は日本国憲法第9条が撤廃された近未来の日本が舞台なのだが、自衛隊は軍隊に昇格しあたかも昔の軍国主義が復活したように描かれているではないか。これは当時、安倍晋三が「憲法を改正して自衛隊を国防軍に」という発言をしたためだと言われている。

 それにしても新田たつおの作品は、シリアスなストーリーにギャグを織り交ぜ、主人公は一見弱々しく見えるが実はかなり強いというお決まりパターンなのだろうか。だがその奇妙な味わいが堪らないという読者も多いようだ。
 本書の主人公・青乃盾も、熱海の饅頭屋に勤務し、「人類最弱」とあだ名される虚弱体質の持ち主なのだが、何かの拍子に目覚めると神的な超能力を発動するのである。

 近未来、東京は核テロに見舞われてしまう。そしてそれをきっかけに、日本では再び軍が台頭する。日本国軍はアフリカに派兵したが、現地でテロ国家相手に苦戦を強いられていた。そんな中、精鋭の職業軍人の犠牲を避けたい軍の意向と、余剰人員を軍に押し付けたい財界の意向とが一致し、政府は密かに徴兵制の復活を企んでいた。

 主人公以外の主な登場人物は、悪知恵の塊のような饅頭屋の主人・五代目饅頭屋宗兵衛、頭脳明晰で切れ味抜群の龍騎玄一郎大佐、謎のテロリスト九条直道などだが、そのほか首相や米国大統領、政財界の黒幕たちなどが続々登場する。
 そしてだんだんスケールが大きくなるのだが、序盤の戦闘訓練所での話が一番面白かった。そしてあれよあれよという間に終盤に突入し、無理やり終わってしまうのだ。著者が息切れしたのか、あるいは不評で打ち切られたのかどちらかであろう。それほど余りにも端折り過ぎで、あっけない結末だったのである。
 それにして何が隊務(タイム)スリップなのだろうか、と思っていたのだがオーラスになってやっとその意味が分かった。

評:蔵研人

漂流教室


★★★☆
著者:楳図かずお

 大地震の発生により、突如小学校ごと、砂漠化して文明が荒廃した未来へ跳ばされた少年少女たちのサバイバルマンガである。
 砂漠化して水も植物も存在しない世界。そしてミイラ、巨大な虫、怪物化した新人類などが登場して、少年達に襲いかかる。さらには大雨と洪水、地割れなどの天災や疫病との遭遇と、苦難の連続で休む暇がない。

 だが何と言っても一番怖いのは、パニック状態に陥った人間であろう。まず大人と子供達との争いにはじまり、女番長の反乱、仲間同士の確執などなど、次から次へと全く手が付けられない。
 それにしても主人公であり、皆をまとめるリーダーになるのが、普段勉強の出来ない学校嫌いの少年・高松翔と言う設定が面白い。また身障者の女の子を通して、未来と現在の通信を行うという発想もユニークである。そして予想を裏切られたラストの大逆転は、実に切なくて感度的ではないか。

 本作は1972年から1974年に『週刊少年サンデー』で連載されたマンガであり、青少年向けであり、かつすでに50年近く経過しているため、やや陳腐化している感もある。だがタイムスリップした少年達のサバイバル生活と、彼等は現代に戻れるのだろうか、という興味と疑問に惹かれて、きっと誰もが夢中で頁をめくってしまうはずだ。

評:蔵研人

ルート2253

原作:藤野 千夜 漫画:志村 貴子

 『ルート225』は、藤野千夜が芥川賞受賞後に書き下ろした長編小説であるが、その後多部未華子主演で映画化され、さらに志村貴子が描く漫画にもなっている。私は何れも読んだり観たりしているのだが、何と言ってもかなり昔のことで、ほとんどあらすじを忘れてしまった。
 覚えていたのは弟を探しに行った姉が、やっと公園で弟を見つけるのだが、なかなか家に帰ることが出来ない。…と言うような出だしの部分と、映画での多部ちゃんがまさにぴったしカンカンだったということだけであった。このたびたまたま本棚の隅っこでこの漫画版を見つけ、漫画ならすぐに読めるだろうと考え再読することにしたのだ。

 まずタイトル 『ルート225』の意味は、単純に数学の√225=15で、ヒロインの年齢ということになる。また同時に弟が見つかった公園に面した国道、つまりパラレルワールドの入口を指すのだろうか…。
 さて15歳と言えばまさに反抗期である。今まで仲の良かった友達になんとなくちぐはぐ感を覚えたり、ことに両親に対してはかなり煩わしい存在に思えてくる年令であろう。だからと言ってまだ生活力がないため、渋々親の言うことにも従っている。

 そんなヒロインの心理状況がパラレルワールドを産み出してしまったのだろうか。だがやはり異世界には馴染めず、弟と二人で必死に元の世界に戻ろうとする。またあんなに鬱陶しかった両親にも逢いたくなる。そしてそんなもう一つの自分の心にも気付いて行く。パラレルワールド自体については、なぜこの世界に迷い込んだのかとか、なぜ自分たちと両親だけが存在しないのかとか、いろいろ突っ込見所が多い。だが本作をSFではなく純文学として捉えれば、その辺りをあまり突っ込んでも意味がないだろう。ただラストがいまひとつ解り辛いので、もう一度小説を読んで確認してみたいと思う。

評:蔵研人

アレックス・タイムトラベル3

著者:清原なつの

 タイトルの『アレックス・タイムトラベル』シリーズは、長編の少ない著者が初めて挑んだ連作長編マンガであり、『真珠とり』と並ぶ著者の代表的なSFマンガ である。本書には次の5篇が収録されている。
 「未来より愛をこめて」、「秘密の園から」、「ロゼ」、「ローズガーデンの午後」、「思い出のトロピカル・パラダイス」。これらの主なテーマは管理社会からの脱出、青いバラの秘密、時間を超えた逃避行、避けられない核戦争、タイムパラドックスなどで、正統派SFマンガと言ってもよいだろう。

 そのほか短編として以下の4編も収められている。
「流水子さんに花束を」   驚異の記憶力を身につけてしまったら
「聖バレンタインの幽霊」  亡くなった彼氏と瓜二つの男が現れたら
「カメを待ちながら」    戦死した恋人を待ち続けていたら
「飛行少年モッ君の場合」 目覚めると背中に天使の翼が生えていたら

 どの作品も愛がテーマの少女漫画タッチなので、SFマンガとしては今一つ物足りない。まあ「SF初心者の女性向き」といった趣きであろうか・・・。
 
評:蔵研人

時の添乗員4

作者:岡崎二郎

 一話完結型のショートストーリーなので、毎回登場するのは狂言回しを務める『時の添乗員』だけである。2000年から約1年間にわたりビッグコミック増刊号で掲載されている。その後コミックスとして発売されたのだが、「第1巻」の表記があるものの、なぜか第2巻以降は発売されていないのが残念である。

 内容はつぎの短編で構成されている。
第1話/あの日への旅立ち  初恋の人を訪ねて
第2話/消えた証拠       犯人の正体を捜して
第3話/交換日記      日記の隠し場所は
4話/藤子像       裸婦像の真実は
第5話/結婚指輪      消えた指輪を探して
第6話/恩人        本当の恩人とは
第7話/赤富士の赤     父親の優しさとは
第8話/時を旅する者    時の添乗員の正体は

 どのお話も『時の添乗員』が300万円で、「行ってみたい、戻ってみたい過去」に、タイムマシンで連れて行ってくれるという展開なのだが、その全てが心温まる優しさに溢れている。時の添乗員はどこで「雇い人」と遭遇したのか。そして彼にタイムマシンを与えた「雇い人」とはいったい何者なのか。謎が解かれないままで終わっているのは、良いのか悪いのか・・・。

 全般的に柔らかいタッチの絵が、ストーリーの優しさに共鳴していて、ほんわりとした雰囲気を醸し出している。ただ登場人物のどの顔も同じような絵柄なのは、ちょっぴり残念かもしれない。また今更絶対に無理な注文だと思うが、第2巻以降の発売を期待したいものである。

評:蔵研人

地球の放課後(全6巻)4

作者:吉富昭仁

 奇妙なタイトルだが、なんとなくそそられるタイトルでもある。日常系終末ストーリーというジャンルだというのだが、タイムトラベルの要素も含んだSFマンガとも言えるだろう。
 突如『ファントム』と呼ばれる謎の生命体が現れて、人類のほとんどが消滅してしまう。ところが何故だか分からないまま、数学に長けた4人の少年少女だけが残される。

 従ってこの物語の登場人物は、この4人だけに絞られるということになる。そして彼等の日常生活を淡々と描いてゆく。そして退屈しのぎのように、たまにファントムが現れるだけといった流れである。
 だが回を重ねるごとに、過去の回想やタイムトラベルなどが絡んできて、少しずつ登場人物も増えてくる。そして新たなる謎を提供しながらも、かつての謎を解明するという手法を使って話を膨らませてゆくのである。

 残された4人とは、高校生の正史のほかは、やはり高校生の八重子、早苗と小学生の杏南というハーレム状態。と言っても、このマンガはある意味健康的であり、水着や入浴シーンは頻繁に描かれるものの、セックスシーンは皆無である。そのあたりの展開については、もの足りない人もいるかもしれないが、安心する人もいるだろう。

 著者の吉富昭仁は、挿絵画家としてデビューしている。従って清楚で丁寧で美しい筆力を感じるのだが、逆に言えば癖がなく特徴のない画風と言えるかもしれない。だから女の子の顔が皆同じように感じてしまうのであろうか。
 まあそこいらは好き嫌いの分かれるところかもしれないが、私自身は極端に個性化された画風よりはまだ見やすいので良しとしたい。著者の代表作は本作ではなく『EAT-MAN』、『RAY』などの横文字タイトルらしいのだが、私自身は本作以外は読んだことがないので、機会があったら他の作品も読んでみたいと思う。

 さて謎の生物ファントムは宇宙人なのか、はたまた妖怪なのか、なぜ4人だけは切り刻まれなかったのか。その疑問は第6巻で全て解明されるのだが、「コティヤール予想」とか「シュバルツシルト面」という理論は全く理解できなかった。もう少し丁寧な解説をして欲しかったかな・・・。

評:蔵研人

時の行者 全三巻4

作者:横山光輝

 戦国時代末期から江戸時代中期にかけて、10年ごとに変らない風貌で現れる謎の少年。この少年は未来からのタイムトラベラーで、その目的はなかなか明かされないのだが、ラスト間近になってやっと明確にされる。
 少年は高熱線銃やバリヤー発生装置を身に着けているため刀や鉄砲などが通じず、昔の人々にはまるで超能力を駆使する行者に見えてしまう。ただ反撃を行う際には、一時的にバリアーを解除しなくてはならないし、長時間バリアーを張っていると窒息するという弱点がある。そのため二度不覚を取ってしまい、捕まって拷問にかけられてしまう。

 主な登場人物は、織田信長、豊臣秀吉、石田三成、後藤又兵衛、徳川家康、本多正純、徳川忠長、天草四郎、由井正雪、堀田正信、徳川吉宗、天英院、徳川吉通、大岡越前、紀伊国屋文左衛門、徳川宗春、徳川家重など錚々たる歴史上の人物が多い。また関ヶ原の戦い、大坂の役、宇都宮釣り天井事件、島原の乱、生類憐みの令、享保の改革、天一坊事件、宝暦の一揆などなど歴史上の重大事件を扱っているので、歴史入門書としても役に立つかもしれない。
 ただタイムトラベルものとしては、タイムパラドックスも発生せず、タイムトラベル手法についても今一つはっきりしないため、時間系のSFとしては少々物足りなさを感じてしまうだろう。まあ忍者を未来人に置き換えた『伊賀の影丸』だと思って読めば、かなりのめり込めるかもしれないね。

評:蔵研人

20世紀少年 全22巻+別巻2冊3

著者:浦沢直樹

 本作をタイムトラベル系の作品として紹介するのは、やや躊躇いがあったのだが、妄想的に過去と現代を行ったり来たりしているので、一種のタイムリープと考えてここで紹介することにした。

 それにしても浦沢直樹氏は、一体ポケットをいくつ持っているのだろうか。『YAWARA!』、『MASTERキートン』、『MONSTER』、『PULUTO』、そして本作『20世紀少年』と、全く毛色の違ったヒット作を、次々と書き続けている。天才というのか、感性豊富というベきか、あるいは努力家なのだろうか。
 ほぼ共通しているのは、登場人物が多く謎を小出しにし、しつこくそれを追いかけるというパターンであろう。あとローマ字のタイトルが好きだということかな・・・。それから長編物に限れば、話をどんどん広げてしまい、最終回になって急にボルテージが下ってしまう悪いクセもある。

 本作にもその傾向が現れていて、主人公と思れる人物が何人も登場する。つまり群像劇なのだ。最初はケンヂ、次がオッチョで、カンナへと繋いでゆく。そして時々「ともだち」が顔を出す。そんな具合で、最後は誰が主人公なのか判らなくなってしまった。
 そしてストーリーは、少年時代と現在をいったり来たり・・・。このような手法は、白土三平の『カムイ伝』そのものであり、浦沢氏も多分その影響を受けているのだろう。

 また『鉄人28号』もどきのロボットが登場するところから、ここで描かれている少年時代とは、昭和30年頃と推測される。浦沢直樹氏の年令からすると、まだ彼が生まれて間もない頃である。後に描かれる『PLUTO』も、『鉄腕アトム』のオマージュだから、同じく昭和30年頃のマンガの影響を受けているのだ。団塊の世代であれば分かるのだが、なぜもっと若い彼が、この時代に興味を持つのか聞いてみたいものである。
 この時代の東京は、車も少なかったし、土地も安かった。それであちこちに空地が沢山あり、三角べースの野球をしたり、キャッチボール等をしたものである。
 このマンガの主人公達も、そんな原っぱの空地で、隠れ家ゴッコをしていた。そしてそこで生まれた荒唐無稽な空想が、大人になって次々と実現されてゆくという展開なのだ。

 まず先に述べた『鉄人28号』もどきのロボット、細菌による世界壊滅、東京での万博開催などなどが、次々と現実のものとなる。これらの事件の主犯と思われるのは、「ともだち」と呼ばれる新興宗教の教祖で、ケンジたちの少年時代の友人なのである。だから少年時代に謎を解く鍵があり、それを現在起こっている事件と結びつけてゆく。
 少年時代の描写は、まるで『スタンド・バイ・ミー』の世界であり、自分の少年時代とも重なって、懐かしさが竜巻のように蘇ってくる。ちょうど同じ頃『三丁目のタ日』などのレトロブームが起こり、団塊の世代たちが小躍りしたマンガであろう。

 このマンガは、全22巻でやっと終了した。ところがその終わり方が、夜逃げをしたようで、すこぶる評判が悪いのだ。どうみても、無理やり店じまいをしたとしか思えない。
 新作『PLUTO』に早く乗り換えたくなったとも噂されている。これだけ引っ張ったのだから、ラストにはもっと感動的な「再会シーン」を用意して欲しかったよね。

 殊にこのマンガの大きな謎である「ともだち」の正体が、不明のまゝ終了した事には、強い疑念と不快感を表明したい。売れっ子マンガ家の悲哀というのか宿命というのか、浦沢氏に限らず強引に引き伸ばしたと思ったら、急に打ち止めという長編マンガが多いよね。
 せっかく楽しく読ませてもらっても、これでは水の泡である。大体10巻位で終了するような構成が一番艮い。そういう意味では、岩明均の『寄生獣』を見習って欲しい。このマンガは引き延ばそうとすれば出来たものを、きちっと無理なく10巻で完結させているではないか。

 また出版社側も営業第一だけではなく、もう少し読者と作品を大切にする心を育んでもらいたいものである。そういった不満が多かったせいか、その後別巻の上巻が発行された。これを読む限り、なるべく読者の不満を解消しようとする気配を感じた。
 ああ良かったと思ったのだが、そのあとに発行された下巻を読んだところ、まだ奥歯にものの挟まった状態に逆戻りなのだ。どうして浦沢直樹という人は、もったいぶるのが好きなのだろうか。彼は何のための上下巻追加発行だったのかを、全く理解していないようだね。それともこれが彼の限界なのだろうか。

評:蔵研人

柳生十兵衛死す 全五巻3

作者:石川賢

 柳生十兵衛が、パラレルワールドから攻めてくる魔人達を、バッタバッタと斬り捨ててゆく荒唐無稽な時代劇である。しかも敵の総大将は、徳川家康なのである。原作はあの山田風太郎であるが、なんと95%以上を石川賢流に大胆アレンジしてしまった。こうしたアレンジでは、夢枕獏の小説を自分流のマンガに変えてしまった、板垣恵介の『餓狼伝』があるがそれ以上の超改編アレンジなのだ。

 未来と江戸時代が同居し、そこに超人・魔人が入り乱れて、戦争さながらの大活劇が始まる。それを石川賢が、例のグログロでド派手なタッチで描くのだから堪らない。時は忍者たちが支配する世界で、徳川家康はもちろんのこと、秀忠や家光さらには本多忠勝や佐々木小次郎まで忍者なのだ。
 それにしても柳生十兵衛が、メチャメチャ強い。強いとなると、限りなく強くしてしまうのが石川流である。心理描写なんてどこにもない。ただひたすら強いだけなのである。それが永井豪を超えられない理由の一つかもしれないね。

 ストーリーはだんだんエスカレートしてゆき、いよいよ御大・家康の出番かと思わせておいて、いきなり途中で終了してしまった。最近納得いかないまま終了してしまうマンガが多いのだが、このマンガは本当に話の途中で終ってしまったのである。
 なにしろこれだけ大風呂敷を広げるだけ広げておいて、「あとは知らないよ」はないだろう。出版社の都合なのか、作者の都合なのか知らないが、全く失礼このうえない。読者をバカにするのもいい加減にしろと言いたい。
 ところがこの作品、ネット上では熱烈な支持を受けている「魔化不思議な幻の作品」なのである。ただ現在絶版になっているため、どうしても読みたければ、中古本を購入するしかないだろう。

評:蔵研人

総理を殺せ4

原作:森高夕次 劇画:阿萬和俊

 とんでもないタイトルに一瞬ひいてしまう人もいるかもしれない。だがこれでも、れっきとしたタイムトラベル系のマンガなのである。
 30年後に日本と中国の間で戦争が勃発、総理大臣が核のボタンを押し、中国に原爆を発射する。そしてその報復攻撃として、中国からも東京に原爆が落とされるのだった。
 体に衝撃を受けると過去へタイムスリップしてしまう体質の主人公は、なんと原爆の爆発によって30年過去にタイムスリップしてしまうのである。

 そこで主人公は、未来に原爆のスイッチを押した総理大臣にを抹殺する決心をする。そうすれば30年後に核戦争が起こらないからである。日本いや世界を破滅に導いてしまうその総理の名は『剣崎裕太郎』。彼は軍事増強を図り、いつの間にか徴兵制と核保有を宣言・実行してしまうのだった。

 まずこの時代の若かりし剣崎裕太郎を探し出さねばならない。そして彼を抹殺することが自分に与えられた使命なのだと確信する。というような、ハラハラドキドキのアクションがらみの異色タイムスリップ作品なのである。
 とにかく過去の社会背景や大事件を利用しているところが面白いし、ラストの捻りもなかなかだ。また全二巻というシンプルさもお手軽で、あっという間に読破してしまう。もしかするといずれは映画化されるかもしれないね。ただ後味の悪さだけは、覚悟しておかねばならないだろう。

評:蔵研人


トモダチごっこ3

作者:ももち麗子

 少女マンガであるが、よくあるラブストーリーではなく、イジメがテーマのタイムスリップ・ストーリーなので、男性にも読み易いかもしれない。
 親の離婚が原因で、東京から引っ越すことになり、仙台の女子高に入学することになった村咲みどり。はじめはクラスの仲間たちと上手くいっていたのだが、イジメに遭っていた幼馴染の氏原あかりを助けたことにより、影のボスである伊集院エレナの反感を買ってしまうのである。そしてイジメの対象も、あかりからみどりへとターゲットが変わってゆく。

 みどりに対するイジメは、あかりの頃よりもずっと酷くなり、ロッカーに閉じ込められたまま階段から突き落とされたり、トイレで恥ずかしい写真を撮られたりと、どんどんエスカレートしてゆくのであった。
 とうとう耐え切れなくなったみどりは、校舎の屋上から飛び降り自殺をするのだが、その瞬間に一年前にタイムスリップしてしまうのである。最初は夢かと思っていたみどりであるが、持っていたケータイに記録されていた未来の日記を読んで、タイムスリップしたことを悟る。そして二度と同じことを繰り返さないと固く決意するのであった。

 過去の人生を繰り返すというタイムループ系のストーリーであるが、この作品では一年前の人生を一度だけ繰り返すという展開なので、何度も繰り返すことはない。一応過去での失敗を避けようと、過去とは別の行動をとるのだが、なかなかうまくいかない。それで最終的には実力行使に出てなんとか納まるのだが、それならなぜはじめからそうしなかったのだろうか。それとその後になぜエレナの報復がなかったのか。最後のまとめ方にはかなり違和感を感じざるを得なかった。

 またタイムスリップものとしての道具の使い方については、かなり勉強不足の感があるが、女子高でのイジメは迫力があったし、乙女心の描き方にも説得力があったと思う。やはり作者はSFマンガ家ではなく少女マンガ家なのだと改めて実感した次第である。

評:蔵研人

僕はビートルズ4

作者:かわぐちかいじ

 イージス艦と自衛隊員が太平洋戦争の最中にタイムスリップし、偶然救助した日本軍の将校に未来を知られてしまう。そのためにその将校によって、アメリカに先駆けて日本軍が原爆を創り、それを戦艦大和に積んでアメリカへ出航することになってしまう。・・・というような展開に終始し、なんと全43巻にも亘る大長編となったかわぐちかいじ氏の『ジパング』というマンガがある。

 本作は21世紀の日本で、ビートルズのコピーバンド、ファブ・フォーとして活動していた若者4人が、ビートルズがデビューする直前の昭和30年代の東京にタイムスリップするのである。そしてビートルズの曲を自分達の曲だと偽って発表してしまうのだ。お陰で当然のように、彼等は日本で爆発的なヒットを飛ばし、やがて英国のメディアにも進出して行くのである。

 その頃デビュー直前のビートルズが、この曲を聴いてショックを受け、演奏活動を休止して行方不明となってしまうのだ。果たしてビートルズは復活できるのか、またファブ・フォーは、このままコピー活動を続けて行くのか・・・。
 なんと戦争と音楽との違いを除けば、前述した『ジパング』とそっくりである。未来のものである「原爆」と「ビートルズの曲」をめぐり、その可否を問う展開となっているからである。そして結末もほぼ同じように推移する。
 両作品とも、かわぐちかいじ氏が描いたマンガなので感覚的に同じような展開を目指したのかもしれないが、なんと本作には別途原作者がおり、この原作の審査委員だったかわぐちかいじ氏が、自ら希望して作画を担当したと言ういきさつがあるらしい。

 いずれにせよ、ビートルズが創った曲を完全盗作してしまうのだから、ビートルズファンには非常に不愉快な作品だったようである。それでかわぐちかいじ作品としては、全10巻という以外に早くあっけない幕切れで終了してしまったのだろうか。ただ過去へのタイムスリップという展開で、未来の知識を利用して成功するという話であれば、結局はビートルズに限らず、やることなすこと全てが、未来からの盗作?ということになってしまうことになる。

 あと過去の人物と現在の人物の比較をしてもあまり意味がない。五輪を観ても分かるが、ほぼ全ての競技において過去の記録よりも現代のほうが優れているはずである。これは決して過去より現在が優れているというのではなく、現在の技量は、過去の技量と努力の積み重ねに過ぎないからなのだ。
 だからビートルズとファブ・フォーの技量を比較しても意味がないのである。こうしたことも含め、少なからずもビートルズファンの一人として、ファブ・フォーのコピー活動には、なにかやり切れない想いを抱きながら、このマンガを読み続けていた。だがタイムトラベルファンとしては、それなりに楽しめた作品だったことも否めない。

評:蔵研人

タイムスリッパー -YUKIの跳時空ー4

作者:野部利雄

 1984年から、2008年にタイムスリップしてきた女子高生の由希。24年前の彼女は、清純で超ボインの美少女だった。そして過去の彼女が現代にタイムスリップすると同時に、現代の中年由希お母さんは別の次元に消えてしまう。
 つまりタイムパラドックスが起こらないよう、同人人物が同じ時空に留まることは出来ず、中年由希が美少女由希と入れ替わったことになる。

 従って当然だが、美少女由希は24年前の記憶しか持っておらず、中年由希とは別人格の存在なのである。現代の世界では、結婚して高校生の娘がいるし、未来世界なのだから、美少女由希は全てに戸惑うばかり。もっとも警官である夫も女子高生の娘も、はじめはその成行きが信じられない。

  作者の野部利雄は、地味な漫画家で知らない人も多いと思うが、あの浦沢直樹がアシスタントをしていたこともある。その絵柄は丁寧で美しい。実をいうとこの漫画を買うきっかけになったのも、タイムトラべルものということと、表紙を飾る清楚で美しい女子高生の絵に惹かれたからである。

 読み始めた頃は、タイムスリップを利用しただけの学園マンガなのかと思った。だが読み進めて行くうちに、タイムパラドックスなどについても、きちっと描いている正当なタイムトラべル作品であることに気付いた。
 そして話をダラダラと引き伸ばすこともなく、全3巻できっちり完結している。アシスタントだった浦沢直樹は、引き伸ばし名人だが、地味でも流石師匠は一流である。潔くて好感が持てるね。

評:蔵研人

地平線でダンス4

作者:柏木ハルコ

 この作者の作品は、いつも悪女の存在がしつこいのと、主人公と思われる人物の主張がなかなか実現されないというイライラであろう。だからいつまでもストレスが発散出来ないのだが、次の展開が気になって続きを読みたくなるという矛盾した麻薬的な力を持っている。

 さてこのコミックのストーリーは、ワームホールを利用したタイムマシンの実験で、間違ってマシンに搭乗し、肉体は消滅したものの、心だけが末来に跳んでしまう女性研究員のお話である。
 この話の中で興味深かったのは、過去へのタイム卜ラベルは不可能というパラドックスを崩したことである。つまりタイムマシンで過去へ行けるなら、なぜ今まで未来人がタイムマシンでやって来なかったのか?という疑問が残る。
 その他よく言われる「親殺しのパラドックス」や、本人との遭遇などについては、無限にあるパラレルワールドの存在を認めることによって解消出来る。だが「なぜ今まで未来人が来なかったのか」の回答にだけは窮していたのである。

 ところが本作のタイムマシンは、過去と未来のワームホールの間しか移動出来ない。だから過去に行くにも、初めてワームホールが作られた日より以前には跳べないのである。
 これで「なぜ今まで未来人が来なかったのか」の回答が可能になるのだ。つまりタイムマシンもワームホールも、現状では発明されていないからだということである。いやはや簡単明瞭に解決したものだ。もし著者が考えたのなら大天才だが、多分どこかで仕入れた理論なのであろう。
 タイム卜ラベル・パラドックスが大好きな私にとって、このことだけで十分にこのマンガを読んだ価値があった。あとは読んでのお楽しみ。全5巻なので読み易くて気に入っている。

評:蔵研人

遥かな町へ5


作者:谷口ジロー

 48歳の会社員中原博史は、京都出張が終わって、真直ぐに東京の自宅に帰るつもりだった。ところが無意識のうちに、フラフラと故郷・倉吉へ向かう特急列車に乗ってしまう。そして変わり果てた倉吉の街中を、トボトボと歩いているうちに、いつの間にか亡き母の菩提寺へ来てしまった。そして亡母の墓前で、昔のことをあれこれと考えていた・・・。
 彼の父は彼が中学生のときに、母と自分と妹の三人を残して、突然謎の失踪をしてしまったのだ。その後二人の子供と体の弱い祖母を抱えて、母は一人で夢中になって働き、子供達が独立するのを待っていたかのように、過労のため若くして亡くなってしまったのである。

 母の墓前で昔のことを思い出しながら、うとうとして気がつくと、博史は心と記憶が48歳のまま、14歳の中学生に変身していたのだ。信じられないことだが、町に戻るといつの間にやら、そこは懐かしい34年前の故郷の風景に戻っていて、無くなってしまったはずの実家も復活しているではないか。もちろん家には父も母も祖母も妹もいた。つまり34年前の自分の体の中に、48歳の自分の心がすっぽりとタイムスリップしてしまったのである。

 この手の展開はケン・グリムウッドの『リプレイ』と全く同じ手法である。ただ『リプレイ』の場合は、未来の記憶を利用して博打や株で大儲けし、美女を思いのままにしたり、という派手な展開であった。そしてある年齢に達すると、再び青年時代に逆戻りを何度も何度も繰り返すというパターンなのだ。
 本作『遥かな町へ』は小説ではなくマンガであるが、『リプレイ』のような派手な展開や時間ループはなく、じっくりと、ほのぼのとしたノスタルジーを喚起させてくれる大人向けの作品なのである。さて中学生に戻った博史は、実務で鍛えた英語力と落ち着いた雰囲気で、高嶺の花だった長瀬智子に好意を持たれて、彼女とつき合い始めるようになる。

 そして優しく美しい母、働きもので誠実な父、明かるくオテンバな妺、父母の巡り合いを教えてくれる祖母たちとの、懐かしい生活が続くのだった。そんな楽しい中学時代を過ごしていくうちに、いよいよ父が失踪した日が近づいてくる。
 人は皆、もう一度人生をやり直せたらと、考えたことが必ずあるに違いない。でもそれは現在の記憶を持ち続けると言う事が条件だろう。そうでなければ、結局はただ同じ事を繰り返すだけで、全く意味がないからである。

 しかしながら赤ん坊のときから、以前の記憶を持ち続けてしまったら、きっと化物扱いされるだろうし、自由にならない身体にイライラしてしまうに違いない。だからこの手のストーリーは、ほぼ示し合わせたように、青年時代あたりに戻るのであろう。
 もし自分も同じように、現在の記憶を持ったまま過去に戻るとしたら、どうしようか・・・だがそれは無しにしたい!。古い懐かしい思い出は、美しく改竄されたまま、そっと心の中にしまって置きたいし、再びふりだしに戻って生きてゆくことが、とても面倒な年令になってしまったのであろうか。

評:蔵研人

ジパング4

作者:かわぐちかいじ

 2002年に第26回講談社漫画賞一般部門を受賞した戦記マンガである。と言っても、単なる戦記物ではなく、自衛隊のイージス艦が隊員を乗せたまま、第二次世界大戦の真最中である1942年にタイムスリップしてしまうところから始まるのだ。
 レーダーやミサイルという現代兵器を搭載しているイージス艦にしてみれば、当時の米軍戦艦や戦闘機など物の数ではない。ところが自衛隊員たちには、自衛のため以外の戦闘はしてはいけないという戒律が沁み込んでいるため、積極的な攻撃は全く出来ないのであった。

 また自衛隊員に救助され、歴史のからくりを覗いてしまった帝国海軍の草加拓海少佐は、原爆による日本の敗戦を知ってしまう。だが彼は歴史をねじ曲げても大日本帝国を守り、新しいジパングを目指すことを決意する。そして米国より先に原爆を創り上げ、それを戦艦大和に乗せて米国軍へ向かうのであった。
 だがそれを阻止するのは米軍ではなく、未来から来た自衛隊員という皮肉。その結果として歴史は大きく捻じ曲げられることはなかったのだが、それと引き換えのように、たった一人の隊員だけを残し、全ての自衛隊員は死亡して、歴史から抹殺されることになってしまうのである。

 なかなか興味深いストーリーであり、歴史上の人物も数多く登場するので大いに勉強になるのも嬉しい。従って全43巻という大長編にも拘らず、あっという間に読破してしまった。
 だが何となく物足りない。自衛隊員が余りにも保守的過ぎて、ほとんど米軍を攻撃しないどころか、歴史を守るために逆に米軍を守るという結果になるのが歯がゆいのだ。

 どうせマンガなのだからと言っては失礼だが、この際歴史なんぞどうでもいいじゃないの。いずれにせよタイムスリップしたこと自体が荒唐無稽なのだから、米軍を完璧に叩き潰し日本軍を勝利に導いてくれたほうが溜飲が下がるというものだ。
 そして変貌してしまった未来、つまり歴史に存在しない『ジパング』の姿を紹介し、パラドックスで捻じりながら締めくくって欲しかった、という気分で一杯なのである。まあ43巻の大作なので仕方がないものの、ちょっと真面目過ぎたのか、或は気取り過ぎたのではないだろうか。

評:蔵研人

JIN-仁-5


作者:村上もとか

 いきなり2000年の現代から幕末の時代にタイムスリップしてしまった脳外科医・南方仁の活躍を描いたマンガである。僅かながらだが、現代の医療器具を持っていたことと、主人公南方仁の近代医療知識のお陰で、彼は一躍幕末時代の天才医師となってしまう。

 単行本は全20巻の大長編マンガで、その医療知識も豊富で的確である。また2011年5月には、第15回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞している。
 勝海舟、坂本龍馬、西郷隆盛など、歴史上の重要人物も大勢登場するが、タイムパラドックスが起こらないように上手く配慮されたストーリー構成になっている。

 本作では近代医学知識を駆使する南方仁が、医療設備のない幕末時代で、当時の難病をどのように克服してゆくのかが注目の的になる。また彼と美少女・橘咲の淡い恋心と、その行方にもかなり心が惹かれてしまうのだ。
 さらに三隅俊斉という悪医師が、かなりしつこく最後まで主人公を抹殺しようと企む展開にもハラハラ・ドキドキさせられてしまった。そしてラストの見事な収束やどんでん返しには、思わず拍手喝さいを送りたくなってしまうだろう。

 また本作はTBS系の「日曜劇場」枠(毎週日曜日21:00 - 21:54)で、第一期が2009年10月11日から12月20日まで放送され、第二期は2011年4月17日から6月26日まで放送されている。主人公の南方仁役は大沢たかお、橘咲役に綾瀬はるかという豪華キャストであった。視聴率20%超えを果たすなど、もしかするとマンガよりTVドラマのほうが有名かもしれない。

評:蔵研人

リプレイJ3

全12巻 著者:今泉伸二

 ケン・グリムウッドの小説『リプレイ』の版権を持つ新潮社が、主人公を日本人に変え、ストーリーも大幅に改編して、今泉伸二に描かせたコミックである。

 本家であるケン・グリムウッドの『リプレイ』は、冴えない主人公が43才になると死亡し、記憶を持続したまま25年前の自分の体に、タイムスリップしてしまうというお話だ。そしてこの死亡とタイムスリップの繰り返しを、約10回も行うのである。
 未来の出来事を記憶しているわけだから、賭け事や株で大儲けし、好みの女性も思いのままである。しかし結局のところ、それでは本当の満足感が得られず、何度も何度も人生をやり直す。そしてあるとき自分同様のリプレイヤーと巡りあい、本当の恋をする・・・。

 ~とざっとこんなストーリーなのだが、コミックの『リプレイJ』では、何度も繰り返しリプレイする人生は描いていない。小説同様やはりショボイ40男が、新入社員時代に戻るのだが、1度目のリプレイで、やりたい事をほぼ全て完遂してしまう。だから回を重ねるごとに段々スケールが大きくなり、ついには日本はおろか世界中を席巻してしまうのである。
 しかもほとんどが、歴史的実話で構成され、登場人物の名も本名をモジっただけで、顔は本人そのものなのだから笑っちゃう。

 これなら絶対に面白い・・・はずである。ところがこのコミックには、不思議といまひとつのめり込めない感がある。
 一言でいえば、細かい絵を追うのが疲れるのだ。そう、今泉伸二が描く絵は、細部に渡り美麗極まりないなのだが、まさにイラストであり動きが全くないのである。原作もののマンガを描く人には、このようなタイプの画風が実に多いね。
 それが唯一の欠点であり、残念だがマンガとしては最大の欠陥とも言える。まあ人それぞれなので、こういう絵が好きならば、文句なく楽しいマンガと言えるだろう。

評:蔵研人

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