
★★★☆
製作:2023年 日本 上映時間:119分 監督:山下敦弘
台湾映画『一秒先の彼女』を日本の風土に移し替えたリメイク作品である。物語の大きな流れはオリジナルを踏襲しているが、主人公が女性から男性へと置き換えられたことで、作品の温度感や視点が微妙に変化している点が興味深い。
イケメン郵便局員のハジメは、第一印象こそ良いものの、何事も人より“ワンテンポ早い”性質のため、恋愛が長続きしない。そんな彼が、路上ミュージシャンの桜子の透明な歌声に心を奪われ、花火大会でのデートを約束する。しかし、バスに乗っていたはずのハジメは、気がつくと自宅で目覚めており、花火大会はすでに終わっている。彼の一日は、まるで誰かに切り取られたかのように忽然と消えていた。
やがてハジメは、この“消えた一日”の謎を、郵便局に毎日のように現れる「ワンテンポ遅い」女性・レイカが握っていることに気づく。二人の“時間のズレ”が、物語の中心に静かに据えられていく。
見どころの一つは、時間が静止した世界を描くシーンである。だが注意深く観察すると、近くの人物の衣服は風に揺れ、身体もわずかに動いているのに対し、遠景の人々は写真のように完全に静止している。この差異は、近景では俳優が静止を演じ、遠景では静止画を合成しているためだろう。もちろん、こうした技術的な粗さは物語の本質を損なうものではないが、時間停止という幻想的な瞬間にわずかな現実の綻びが覗く点は、観客によって好みが分かれるかもしれない。
リメイクゆえに結末の驚きが薄れてしまうのは避けがたいが、その代わりに本作は、男女を入れ替えたことで生まれる新たな情緒を獲得している。岡田将生の繊細な佇まいと、清原果耶の静かな強さを湛えた演技は、作品全体に柔らかな光を与え、二人の“時間の距離”が縮まっていく過程に自然な説得力をもたらしている。
オリジナルの鮮烈な仕掛けを知っている観客にとっては驚きが弱まる一方で、日本版は人物の心の揺らぎや孤独の質感を丁寧に描き出し、別種の余韻を残す作品へと仕上がっている。男女を入れ替えた判断は、単なる設定変更ではなく、物語の感触そのものを刷新する効果をもたらしたと言えるだろう。
評:蔵研人
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