あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。

製作:2023年 日本 上映時間:127分 監督:成田洋一

 少々長めのタイトルではあるが、そこに込められた「あの花」とは、ヒロイン・百合の名に重なる白百合である。純白の花が風に揺れる丘――まるで天上の風景をそのまま地上に降ろしたかのような、穏やかで壮麗な光景が広がっていた。どこか夢と現実の狭間に浮かぶその丘は、静岡県袋井市久能にある「可睡ゆりの園」が舞台となっており、その広さはじつに三万坪。映像ではVFXによる幻想的な加工も施され、現実を超えた美を描き出している。

 戦中の建物や防空壕、町並みなどはオープンセットによって再現されたものもあるが、撮影には現存する風景も巧みに活用されており、ロケーションは、静岡、千葉、群馬、茨城、栃木と随所に及んでいる。異なる時代を一つの空間の中に溶け込ませるその演出には、細やかな工夫が光る。
 こうした丁寧なロケーションの選定と現地での協力体制は、「ロケーションジャパン大賞 撮影サポート部門賞」という形で高く評価された。

 物語は、母と口論し家出をした女子高校生・加納百合が、雨の夜に旧防空壕へと逃げ込み、そこで時を越える奇跡に巻き込まれることから始まる。目を覚ました彼女がいたのは、なんと終戦間近の1945年だった。
 偶然通りかかった若き特攻隊員・佐久間彰に助けられた百合は、時代も立場も違う中で、次第に彼に心を寄せていく。死を覚悟している彰は、自らの想いを抑えるように、百合を「妹」と思い込もうとするのだが……。

 戦火の時代に咲いた一瞬の恋――それは切なさを湛えながらも、純粋でまっすぐな情愛として胸に迫る。とりわけ終盤の展開には、言葉よりも涙が真実を語る瞬間がいくつもある。ただ俳優たちの衣装が新品のように光沢を放ち、まるでポリエステル素材のように見えたのは、当時の空気感とわずかに齟齬を来していたように思える。また空襲直後のシーンで、燃えていたはずの店がいつの間にか無傷で復活していたのも違和感を覚えた。さらに鶴屋で知り合った少女が、実は自分の祖母だったというような落ちがあっても物語にさらなる深みを与えたかもしれない。

 本作の原作は、汐見夏衛の同名小説。すでに続編『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』も刊行されており、2026年にはその映画化も予定されている。現代に戻った百合と、彰の“生まれ変わり”である転校生・宮原涼との再会――時空を超えた魂の巡り合わせが、また新たな物語を紡ぎ出すことだろう。その続きが、今から待ち遠しい。

評:蔵研人

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