
★★★☆
著者:辻村深月
子供の頃、家族と過ごしたデパートでの楽しかった瞬間が蘇る。デパートの食堂のお子様ランチや屋上の遊園地が懐かしい。それになぜか今は亡き、大好きだったじいちゃんまでいるではないか。
なんと摩訶不思議でほんわりとする感覚が漂ってくる。このデパートのエレベーターは、タイムマシンだったのだろうか。知らない間にじわっと涙が滲んでくるではないか。
そう今でこそ衰退しているが、昔のデパートには夢と希望があった。そして老若男女全員の憩いの場だったのである。本作の舞台になったデパートは日本橋三越百貨店であるが、ぼくは世田谷に住んでいたので、バスで行ける渋谷の『東横デパート』に家族揃って出かけたものである。その時代の東横デパートの屋上はなんと遊園地どころか渋谷駅前の空中を横断するロープウェイまであった。
なお本作は短編であり、三越を舞台にしたアンソロジー集『時ひらく』の中に収録されており、その中には本作のほか、伊坂幸太郎、阿川佐和子、恩田陸、柚木麻子、東野圭吾の短編も収められている。またカバーデザインが、三越の包装紙と同じなのがなかなかユニークではないか。
評:蔵研人