12単衣

★★★☆
製作:2020年 米国 上映時間:112分 監督:黒木瞳

 エンドロールを見て監督がなんと女優の黒木瞳と言うことで驚いたのだが、彼女が監督した映画は本作が3作目で、最近まですでに4作を数えていたのである。もうすでにりっぱな映画監督ではないか。

 京大合格の弟に劣等感を抱くフリーターの伊藤雷が、ひょんなことから源氏物語の世界にタイムスリップする話である。さて彼がタイムスリップしたときに持参していたものは、スマホと源氏物語冊子と薬のサンプルだけだったのだが、なんとそれが全て役に立って平安時代に陰陽師として生きることになるのだった。
 そして彼は持参していた風邪薬で、ときの皇后だった弘徽殿女御を病から救うことになり、彼女に仕えて行くうちにだんだん平安時代にも慣れてくる。さらには妻をめとり、子まで設けることになり、元の世界には帰りたくなくなるのだった。
 
 源氏物語では悪女として知られた弘徽殿女御。さしずめ現代なら超やり手女社長といった雰囲気で、強靭な心と冷静な分析力で息子の一宮を帝にしようと野心に燃え続けるのだが、彼女こそ多分あの『プラダを着た悪魔』のメリル・ストリープと重ね合わされたのだろう。まさに本作は、そのオマージュとして創られた平安時代版『十二単衣を着た悪魔』なのであろう。
 
 原作はなんとまあ、あの内館牧子の『十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞』という長編小説だと知って二度びっくり。それにしても、ダメ男がタイムスリップしていろいろ経験を積むうちに成長してゆき、元の世界に戻ると、過去の世界にいた人とそっくりの人と巡り合う……というタイムトラベル系のお約束をしっかり守った王道作品だったよね。
 
 
評:蔵研人