タイムトラベル 本と映画とマンガ

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2025年10月

侍タイムスリッパー4

侍タイムスリッパー

★★★★
製作:2024年 日本 上映時間:131分 監督:安田淳一

 本作はもともと自主製作映画として池袋シネマ・ロサの一館のみで静かに封切られた。ところが、口コミによって評判が広まり、やがてギャガが共同配給に加わることとなる。新宿ピカデリーやTOHOシネマズ日比谷をはじめ、全国百館以上での順次拡大公開へと発展し、異例の大ヒットを記録した。さらに第48回日本アカデミー賞では、ついに最優秀作品賞を受賞する快挙を成し遂げたのである。

 物語の舞台は幕末の京都。会津藩士・高坂新左衛門は、家老から長州藩士討伐の密命を受ける。標的の男と刃を交えた瞬間、落雷に見舞われ、彼は気を失ってしまう……。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所であった。新左衛門は自らが時を越えてしまったことに気づかぬまま、撮影の現場に紛れ込んでしまう。

 やがて彼は、江戸幕府がすでに滅び、時代が大きく変わったことを知り、愕然とする。一度は死を覚悟するが、心優しい僧侶夫婦に助けられ、やがて“時代劇の斬られ役”として新たな生を歩む決意を固めるのだった。

 自主製作ゆえに有名俳優の出演はないものの、主演の山口馬木也をはじめ、各俳優がそれぞれに味わい深い演技を見せている。特に僧侶夫婦の存在は『男はつらいよ』の“おいちゃん夫婦”を思わせ、観る者の頬を自然に緩ませる温かさがあった。

 侍の現代へのタイムスリップを描いた作品は『満月』や『ちょんまげぷりん』など過去にも存在するが、本作はそれらとは一線を画している。コメディの体裁をとりながらも主人公は終始真摯であり、終盤には真剣を手にした本格的な殺陣が展開される。その中で浮かび上がるのは、時代を超えて受け継がれる武士道精神の凛とした輝きである。

 衰退が囁かれる時代劇というジャンルにおいて、本作はまるで新風のような力強さと説得力を放っている。次回作では、もう少し潤沢な資金を得て、ぜひ“本物の時代劇”を堂々と撮り上げてほしい————そう願わずにはいられない。

評:蔵研人

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時帰りの神様3

時帰りの神様

著者:成田 名璃子

 北鎌倉の静かな一角に佇む、一条神社。参拝客もまばらなこの神社を切り盛りするのは、イケメン神主・若宮雅臣と、美しい妹巫女・汀子の兄妹である。一見なんの変哲もない、時代に取り残されたような古びた神社。だが、ここにはある特別な力が秘められている——それは「過去へ時帰り(タイムリープ)できる」という不思議な力である。

 本書は、雑誌に掲載された短編5話を収めた作品集であり、川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』の“喫茶店”を“神社”に置き換えたような構成とも言えるだろう。どの物語も、過去に戻り、やり直したい瞬間と向き合う人々の心の旅を描いている。

各話のあらすじ:

第1話『この胸キュンは誰のもの』
 女子高生の頃、思い切ってイケメンのクラスメートに告白したものの、その後悔を抱え続ける20代半ばの女性が、もう一度“あの日”の自分と向き合う物語。

第2話『想い出の苦いヴェール』
 管理職としての重責に疲弊し、平社員時代の自由を懐かしむ中年男性が、自らの初心と再会する物語。

第3話『高くついた買い言葉』
 初めての子育てに追い詰められ、夫との些細な言い争いを悔やむ女性。母となった自分の弱さと向き合いながら、夫婦の絆を見つめ直す女性の話。

第4話『永遠の縁日』
 転校が決まった親友と最後に夏祭りへ行けなかった——そんな後悔を胸に秘めた小学生が、子どもながらに友情の重みを知る一篇。

第5話『だいすき』
 事故で幼い娘を失った夫婦が、彼女と過ごした最後の日へと時帰りする。子どもを育てたことのある読者なら、きっと涙を禁じ得ないだろう。

 著者がライトノベル出身ということもあり、どの物語も重すぎず、暗さや陰惨さを極力避けた、優しく穏やかな語り口で貫かれている。心温まる雰囲気に包まれながら読み進められるのは、本作の大きな魅力の一つだろう。

 ただ、物語がすべて「過去の後悔を癒す」という同じ構図の繰り返しであるためか、読み終えた後にはやや物足りなさを感じたのも事実である。またもう一歩踏み込んだ心理描写や、想定外の展開があれば、より深みが増したのではないかとも思う。とはいえ、人生の機微にそっと寄り添うような、静かで優しい短編集として、多くの人の心に小さな余韻を残すことだろう。

評:蔵研人

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