タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

2025年09月

タイムマシンでは、行けない明日

タイムマシンでは、行けない明日

★★★☆
著者:畑野 智美

 畑野智美作品を手に取ったのは本作が初めてである。1979年、東京都に生まれた彼女は、2010年『国道沿いのファミレス』で第23回小説すばる新人賞を受賞し、文壇に登場した。以降、青春小説や群像劇、恋愛や人間関係を主題にした作品を多く発表し、『海の見える街』などでは吉川英治文学新人賞の候補にもなっている。
 彼女の文体は、堅苦しさがなく平易でありながら、読後にはどこかに残る“余韻”のようなものを湛えているという評価が多い。比喩や描写も丁寧で、登場人物の内面や情景の陰翳を細やかに描き出す力量を感じさせる、との声もある。

 ただ、本作に限って言えば、一人称という形式ゆえか、どこか日記風の口調が強く、文体がやや粗く感じられる場面もあった。とはいえ、それが作品の魅力を損ねているわけではなく、むしろ、語り手の素直な感情がページを通じて直接伝わってくる。気づけば、物語に引き込まれ、一気に読了してしまった。

 タイムマシンによって過去に戻り、かつて事故に遭った彼女を救おうとする——そんな冒頭の設定から、読者は本作を典型的なSFだと受け取るかもしれない。しかし、早々に「過去は変えられない」という現実的な結論が突きつけられ、そのテーマはやがて静かに幕を下ろす。そして物語は、主人公がまったく異なる人生を歩む展開へと移っていく。
 それが幸福なのか、不幸なのか。明確な答えは提示されない。ただ、読後に残るのは、「何かが足りない」という、わずかな喪失感である。

 過去への介入の不確かさを、パラレルワールドという構造で補完しようとする姿勢には、誠実さを感じる。だが、物語全体としてはやや焦点が定まらず、テーマも拡散していく印象が否めない。ラストも、解釈の幅を持たせたかったのだろうが、やや説明不足のまま終わってしまった感がある。
 とはいえ、登場人物たちの心の動きや、選択の重みを静かに描き出そうとする筆致には、著者ならではの視点が確かに息づいている。他の作品にも触れてみたくなる、そんな余韻を残す一冊だった。
 

評:蔵研人

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刻刻 全8巻

刻刻

★★★☆
著者:堀尾省太

 活発な女性・佑河樹里は、誘拐された兄と甥を救うため、「止界術(しかいじゅつ)」という不思議な術を操る祖父とともに、時間が静止した世界---“止界”へと踏み込む。止まった時の中で救出を果たすつもりだったが、それは実愛会という新興宗教団体が仕掛けた罠であった。

 止界の中には、樹里と祖父のほかにも、時間の止まった世界で自由に動ける実愛会の信者たちが大勢潜んでいた。絶体絶命の状況の中、祖父の瞬間移動術と、「神ノ離忍(カヌリニ)」と呼ばれる管理人の怪物的存在の登場によって、樹里たちは辛くも危機を脱する。そして、この永遠に終わらない一日の世界で、佑河家と実愛会の、終わりなき戦いが幕を開ける。

 作画や作品全体の雰囲気には、どこか岩明均の『寄生獣』を想起させるものがある。ただし、『刻刻』の物語の大半は同じ舞台での戦いに終始しており、『寄生獣』のように強烈なテーマ性や普遍的メッセージが込められているわけではない。

 そのため、総合的な完成度では『寄生獣』には及ばないものの、「止界での戦い」に特化したユニークな設定と、全8巻という手頃なボリュームには好感が持てる。しかしながら、クライマックスにおける樹里の止界脱出方法にはやや唐突さがあり、物語の締めくくりとしては力不足に感じられたのが惜しまれる。


評:蔵研人

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カラダ探し

カラダ

★★☆

製作:2022年 日本 上映時間:102分 監督:羽住英一郎

 逢魔ヶ刻に語り継がれる学園怪談、「カラダ探し」。ただの都市伝説と笑い飛ばしていたはずが、ある日、6人の高校生がクラスメイト・三神遥の幽霊に「私のカラダを探して」と懇願される。その声に応じたのは、明日香、高広、留美子、翔太、理恵、健司の6人だった。

 その夜から、彼らは異様な儀式の渦中に巻き込まれてゆく。舞台は、夜の闇に沈む校舎。そこに現れるのは、血に塗れた恐怖の化身「赤い人」。バラバラにされた遥の体の一部を見つけるたびに、彼らは追われ、襲われ、殺され、そしてまた朝に戻る。死の連鎖と時間のループ。それはまるで、生きながら悪夢を何度も見せられているような感覚だ。

 なぜこの6人が選ばれたのか──。いじめや無視といった陰影を抱えた彼らの内面には、それぞれ秘密や罪、後悔といった澱のような感情が沈んでいる。物語が進むにつれ、それらの過去が静かに浮かび上がり、怪異との接点をかすかに照らしていく。

「赤い人」の存在は不気味で、圧倒的な暴力とともにスプラッター的惨劇を繰り広げるが、その恐怖の持続力にはやや疑問が残る。同じ夜を繰り返す構造が、次第に新鮮さを失い、物語全体に単調さが漂ってくるのも否めない。

 とはいえ、最後まで観る価値はあるかもしれない。エンドロール後には、思わず息を呑むようなどんでん返しが用意されている。決して早まって席を立つべきではない。


評:蔵研人

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