タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

2024年10月

思い出エレベーター

時ひらく
★★★☆
著者:辻村深月

 子供の頃、家族と過ごしたデパートでの楽しかった瞬間が蘇る。デパートの食堂のお子様ランチや屋上の遊園地が懐かしい。それになぜか今は亡き、大好きだったじいちゃんまでいるではないか。
 なんと摩訶不思議でほんわりとする感覚が漂ってくる。このデパートのエレベーターは、タイムマシンだったのだろうか。知らない間にじわっと涙が滲んでくるではないか。

 そう今でこそ衰退しているが、昔のデパートには夢と希望があった。そして老若男女全員の憩いの場だったのである。本作の舞台になったデパートは日本橋三越百貨店であるが、ぼくは世田谷に住んでいたので、バスで行ける渋谷の『東横デパート』に家族揃って出かけたものである。その時代の東横デパートの屋上はなんと遊園地どころか渋谷駅前の空中を横断するロープウェイまであった。

 なお本作は短編であり、三越を舞台にしたアンソロジー集『時ひらく』の中に収録されており、その中には本作のほか、伊坂幸太郎、阿川佐和子、恩田陸、柚木麻子、東野圭吾の短編も収められている。またカバーデザインが、三越の包装紙と同じなのがなかなかユニークではないか。

評:蔵研人

君と僕のアシアト3

君と僕のアシアト
著者:よしづきくみち

 サブタイトルが「タイムトラベル春日研究所」と記されているように、本作はタイムトラベル系のマンガである。ただタイムマシンで過去や未来に自由に跳び回るのではなく、春日市内に固定された「脳内タイムトラベル」であり、過去20年間に収集したデーターを利用するため、タイムトラベル範囲は過去20年間に限定されているのだ。

 主役は脳内タイムトラベル春日研究所所長の風見鶏亜紀という美女だが、脳内タイムトラベル装置を発明したのは彼女の亡父である。この脳内タイムトラベルサービスを利用するには1回40万円かかるのだが、荒唐無稽で信じる人が少ないためか、宣伝が行き届いていないためか、利用客は極端に少なく破産寸前といった状況なのである。

 たまに訪れる客の悩みと脳内タイムトラベルの話がいくつか続いて行くというパターンでコミック誌に連載されていたのであるが、「死んだ妹が実は生きているのでは、それどころか姉まで存在していた」といったテーマとも繋がっているのだった。結局はタイムトラベルだけではなく、パラレルワールドも絡んでくるのだが、だんだん複雑になってきてラストはなんだかよく分からないまま終わってしまった。
 それにしても著者のよしづきくみちの画風は丁寧で美しい。ことに美少女の絵が実に美麗である。やはりイラストレーター出身だからであろうか……。

評:蔵研人

幻告3

幻告

★★★
著者:五十嵐律人

 著者は弁護士の傍ら創作活動を続けている小説家である。従ってその作品のほとんどが、法廷をバックバーンに描かれているようだ。本作も三つの裁判とその相互関係を紐解きながら、自殺した父親に関わる謎を紐解いて行くという話に終始している。
 ただ法律家のためか専門的な話が多く、文章も堅いのでかなり読み辛かったことも否めない。さらに法廷ものにしては珍しいタイムスリップの要素が絡んでくるため、さらに難解になっている。

 主役は裁判所書記官の宇久井傑で、ある日突然法廷で意識を失って目覚めると、五年前に父親が有罪判決を受けた裁判のさなかだった。という設定ではじまるのである。そこで父親の冤罪の可能性に気がついた傑は、タイムリープを繰り返しながら真相を探り始めるという流れになっている。それは多分、確定した判決は再度審理ができないという『一時不再理の効力』に疑問を感じた著者が、タイムスリップを利用することによって判決を覆すという離れ業を繰り出したのだろう。

 さすが弁護士だけあって、法廷での細かい仕組みや慣習についての描写は巧みであり、いろいろ勉強させてもらった。ただとくに複雑な人間ドラマに深入りすることもなく、パズルを解くような話の流れと予測した範囲での結論で締めくくられているので、のめり込んだり感動に打ち震えることはなかった。それで途中退屈感のため、何度も眠気に襲われてしまったのだが、結末が知りたくてなんとか読破することができ、義務を果たしたと言う満足感だけは得られたようだ。

評:蔵研人

マンガで読むタイムマシンの話2

マンガで読むタイムマシンの話
画:秋鹿さくら

 過去に物理学者の都筑卓司がブルーバックスで著した『タイムマシンの話』をマンガ化したものである。そのご本家都筑卓司氏の『タイムマシンの話』はかなり昔に読んだことがあるのだが、かなり難解だったのでマンガ版なら分かり易いだろうと思って買ってみた。

 ところが残念ながら肝心のタイムトラベル理論の部分になると、マンガと言うよりは図説のオンパレードとなり、ご本家の原作本の図をそのまま転用しているだけに終始しているのだ。また余計なマンガストーリーが組み込まれているばかりか、ページ数もかなり省エネ化しているため、大幅に省略された内容に成り下がっていた。

 これでは逆に、ご本家の原作本のほうが分かり易いではないか。もっとも難しいものを易しく解説するということは、それなりに難しい作業であり、十分な知識を有している必要がある。それを銀杏社構成とされているものの、物理学素人の漫画家に委ねること自体に無理があったのかもしれないね。読者に易しく分かり易く説明するという使命より、マンガなら売れるだろうという安易な発想が残念であった。


評:蔵研人
 
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