ヴィルトゥス

著者:信濃川日出雄

 西暦185年の古代ロ-マ帝国では、暴君第17代皇帝・コンモドゥスが格闘技に明け暮れ、ローマ帝国は荒廃しつつあった。その行く先に憂いる側室・マルキアは、時を操る秘術を使い、失われたローマ人の魂『ヴィルトゥス』を抱く男を未来より召還する。その男こそ2008年に住む柔道世界一の日本人・鳴宮尊であった。
 
 本作のテーマは、未来より召喚された鳴宮尊が、悪政を続けるコンモドゥスを暗殺することだと思っていたのだが、どうも雲行きがおかしい。そもそも召喚されたのは鳴宮だけではなく、彼と同じ刑務所に収監されていた男たち数名なのだが、その半数以上は召喚されてすぐ殺害される。
 さらに鳴宮はじめ生き残った者たちも、強制的に奴隷闘士にさせられ、ギリシャの孤島にある悪名高い興行主ガムラの養成所に送られてしまうのであった。そしてコンモドゥス暗殺どころか、この孤島での訓練や鳴宮の過去についての話などに終始するばかりなのだ。
 またコンモドゥス暗殺は歴史通り元老院議員達によって実行されるのだが、裏切りなどが絡んでうまくゆかない。そして突然中途半端な形で、全5巻をもって終了してしまうのである。

 なんだなんだこの話は、と思ったら実はこの5巻までは第一部であり、 第二部としてタイトルを『古代ローマ格闘暗獄譚SIN 』と変更し、主人公を第一部ではいじめられっ子だった神尾心に替え、さらに掲載誌も週刊誌から月刊誌へ移行しているのだ。なぜこのような数々の変更がなされたのかは不明であるが、第二部は余り面白くなかったし全6巻で完結となっている。
 第一部と二部を通算しても僅か11巻にしかならないのだから、本来ならわざわざ大袈裟に二部構成にする必要もないはずである。もしかすると第一部の描き方などに何か問題が生じたのかもしれない。いずれにせよ原因不明のまま第一部は終了してしまったのである。

評:蔵研人