タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

2023年11月

終わりに見た街

終わりに見た街
★★★☆
著者:山田太一

 多摩川を見下ろす東京近郊の住宅地に住む家族が、ある朝目覚めたら突然、家ごと太平洋戦争末期の昭和19年にタイムスリップしてしまうというお話である。家ごとタイムスリップする展開は珍しい。だが戦時下で家族全員が生きていくためには、未来の珍しい品物を売って食をつなぐしか方法がないため、こうした設定を考えたのであろう。従って家自体はすぐに炎上し、家財道具だけを持てるだけ持って各地を転々と移動するのであった。
 また物語に変化をつけるために、旧友の敏夫さんも息子と一緒にタイムスリップしてくるのである。この敏夫さんがなかなか逞しい人で、頼りない主人公に変わって、戦時下という苦境の中で生き抜く術を教えてくれるのだ。

 戦時下へタイムスリップする話は幾つか知っているが、本作のように恐ろしい話は初めてである。何が恐ろしいのか、敵の米軍よりもっと怖いのが、なんと味方である隣人たちや日本兵たちなのだ。隣人たちは自分の保全のため、変わった風体や言動のある者をお上にタレコミするからである。
 また憲兵や軍人たちは、有無を言わさず「お国のために働け!」と威張り腐って跋扈するばかり。ああーこんな時代に生まれなかっただけでも幸せだと、つくづく現在を生きていることに感謝してしまうのだ。いずれにせよ戦前生まれの著者だからこそ、救いようのない戦争の恐ろしさを表現できたのであろう。

 さてタイムトラベルものの楽しみの一つは、ラストはどのような形で締めくくるのか、またどんなどんでん返しが待っているのだろうかということである。果たして驚くべきどんでん返しが用意されていたのだが、いまひとつ状況が把握できないまま終わってしまった。まさしくタイトル通り『終わりに見た街』なのだが、パラレルワールドなのか、夢落ちなのか、もしかすると辻褄が合わない部分があるが、実は『猿の惑星』だったのだろうか。

評:蔵研人

ループ・ループ・ループ3

ループ・ループ・ループ

著者:桐山徹也

 桐山徹也のことは本作を読むまで全く知らなかったのだが、それもそのはず本作以外には『愚者のスプーンは曲がる』という作品しか発表していないようだ。
 本作はタイムループもので、毎日が何度も繰り返されるという学園小説である。最近似たような小説を時々読むのだが、事故に遭いそうな人がその事故を回避した場合には、その人も時間が繰り返していることに気づくという設定が斬新であった。

 ただストーリー自体には深みもなければ捻りも見つけられなかった。ただ最後まで興味を惹かれたのは、なぜこのようなループ現象が生じてしまったのかという一念のお陰であろう。ただしその結末も余り説得力がなかったが、平易な文体で読み易かったことも間違いない。まさにジュニア向けの作品なのであろうか。

評:蔵研人

通りゃんせ4

通りゃんせ

著者:宇江佐真理

 25歳の若手サラリーマンである大森連は、失恋の傷を癒すために休日になるとマウンテン・バイクで走りまくっていた。ところが小仏峠周辺で道に迷い、滝の裏に墜落してしまう。目が覚めると、なんとそこは天明6年の武蔵国中郡青畑村であった。
 連は時次郎とさな兄妹に助けてもらいながら、連吉と名を変えて時次郎の百姓仕事を手伝うことになる。さらに忙しい時次郎に変わって、領主である江戸の松平伝八郎のもとを訪れるのだった。

 宇江佐真理と言えば、吉川英治文学新人賞を受賞したり、何度ともなく直木賞候補に挙がっている時代小説の旗手である。ところがなんと本書は、現代っ子の若者が江戸時代にタイムスリップして、川の氾濫や天明の大飢饉で苦しむ村人たちを助けるというSF絡みの時代小説だったのだ。
 ただしSF時代劇と言っても『戦国自衛隊』や『戦国スナイパー』などのように未来人が未来の知識や武器を使ってヒーローになるような大それた話ではない。せいぜい汚れた井戸水の簡易ろ過装置を創ったり、整体やストレッチの知識を生かして感謝される程度の活躍をするだけである。それより何と言っても、主人公・連の優しさと誠実さが脈々と流れてくるような清々しく凛としたストーリーに心を奪われるだろう。

 またさすが本格時代小説家だと感じさせる的確な時代考証を土台にした、現代と江戸時代の風俗や社会構成の比較描写は実に見事であった。それに加えてワームホールなどのタイムスリップ理論や、過去の改変によって引き起こされるタイムパラドックスについても言及しているところに著者の真摯な勉強熱心さを感じた。
 ただ高校時代の友人坂本賢介の存在や行動が、説明不足かつ中途半端だったところだけが唯一気に入らない部分だったような気がする。またラストでの早苗との遭遇はよくある映画のパターンで、ほぼ私の予想通りであったのだが、ずっと暗く苦しかった連にそのくらいのご褒美はあげてもいいかな……。


評:蔵研人
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