タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

2023年10月

月の満ち欠け

【Amazon.co.jp限定】『月の満ち欠け』通常版DVD ※特典 : ペーパーコースター 付き [DVD]
★★★☆
著者:佐藤正午

 佐藤正午の作品を読むのは今回で二回目である。初めて読んだのは『Y』という小説なのだが、その妙な『Y』というタイトルの意味は、人生の分岐点と考えるらしい。あの日あのとき、もし別の選択をしていたら、現状とは全く異なる人生を歩んだかもしれない……。つまり「あの時に戻ってやり直しをしたい」という、人間の永遠のテーマを描いたファンタジックなストーリーであった。

 一方本作のほうは、輪廻転生のスピリチュアル・ラブ・ストーリーで、三人の男性と月の満ち欠けのように何度も生まれ変わるヒロイン瑠璃が紡ぐ30余年におよぶ時の流れと、さまよい続ける魂の物語といえるだろう。なお本作は第157回直木賞受賞作品であり、2022年に大泉洋、有村架純などのキャスティングで映画化されている。映画のほうは本作を読んでから気付いたため、残念ながら今のところは未鑑賞であるが、できればすぐにでもDVDで観賞したいものである。

 とにかく本作はパズルのような時間の繋ぎ方をしながら進行してゆくため、じっくり読んでゆかないと登場人物たちの関連性を把握できない。できれば登場人物の相関図を創って欲しかったよね。ただ結末が気になって気になって、終盤は猛スピードで読み切ってしまった。その割りにはややあっけない結末だと感じたのは、私の読解力が不足しているためであろうか。もしかすると、二度読みする必要があるのかもしれない……。


評:蔵研人

この嘘がばれないうちに3

この嘘

著者:川口俊和

 2017年に本屋大賞にノミネートされ翌年映画化された『コーヒーが冷めないうちに』のシリーズ2作目の作品である。今回も第1作同様、登場人物が過去に戻り、家族や友人恋人に伝えたい願いや想いを綴ってゆく。『親友』、『親子』、『恋人』、『夫婦』の4話で構成されているのだが、『恋人』だけは過去ではなく未来に跳んでゆくお話であった。

 やはりシリーズ化してしまうと、初回作のときのような驚きがないため、いささかマンネリ感が漂ってしまうようだ。また読み易くてほのぼのとした優しさは感じるものの、反面大きな刺激や躍動感のようなものが足りないし、びっくりするようなどんでん返しも用意されていない。だから面白くて次々と頁をめくって行くと言うよりは、なんとなく義務感にせっつかされて読んだ感があった。
 このシリーズは、本作以降に『思い出が消えないうちに』、『さよならも言えないうちに』、『やさしさを忘れぬうちに』と似たようなタイトルが3作続く。ただ本作を読んだ限りでは、何となくその内容が想像がつくので、もう本作で打ち止めにしようかと考えている。

評:蔵研人

イニシエーション・ラブ

イニシエーション・ラブ [レンタル落ち]
★★★☆

著者:乾くるみ

 イニシエーションとは「通過儀礼」のことである。従ってタイトルの『イニシエーション・ラブ』とは永遠の恋ではなく、大人になる前の一時の恋ということになるのだろうか。また本書はバリバリの恋愛小説だと思っていたのだが、実は「必ず二回読みしたくなる」と絶賛された傑作ミステリーであった。
 本書の裏表紙にある内容紹介文には、「甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説----と思いきや、最後から二行目(絶対先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。」と綴られているのである。

 これは一体何を意味しているのだろうか、ネタバレになるのでここでは解説は避けることにするが、いくつかのヒントだけ紹介しよう。第一のヒントはこの小説のタイトルである。そして第一章、第二章という区分ではなく、かつてのカセットテープのようなside-Aとside-Bという区分も意味深ではないか。さらにside-Aではしつこいくらい細かくじっくりと丁寧な描写に終始しているのだが、side-Bではテンポの速い展開に変化しているのだ。
 また本作はタイムトラベル系の小説ではないのだが、時系列をゆがめて描いているため、二度読みが必要だということ……。まだほかにも矛盾することがいろいろあるのだが、これ以上記すとネタバレになってしまう恐れがあるのでこのへんで止めておこう。

 なお本作はなかなか映像化し難い部分があるのだが、なんとそれを巧みに凌ぎながら2015年に映画化されているようである。ちなみに監督は堤幸彦で、主演は松田翔太と前田敦子になっている。機会があったら是非観てみたいものである。

評:蔵研人

スリープ

スリープ

★★★☆
著者:乾くるみ

 主人公は中学生ながらTVの人気レポーター役として活躍する頭脳明晰な美少女・亜里沙である。彼女は取材で『未来科学研究所』を訪れるのだが、そこで立入禁止区域に迷い込んでしまい、見てはいけないものを見てしまう。
 ここまで到達するまで、亜里沙の紹介や未来科学研究所の説明などに全体の約1/3である100頁も要して、かなり退屈感が募ってくるのだが、ここから先は30年後の世界となり、俄然面白くなるので安心して欲しい。

 亜里沙は30年後の世界で目覚めるのだが、本書ではその30年後の世界について詳しく描写されているところが素晴らしい。ただしSF映画のように空飛ぶ車が跋扈している派手な世界に変貌しているわけではない。本作では、生活の中の細かな仕様や、政治経済などの分野が急激に進化しているのである。
 例えば風呂場と洗濯機を一体化して、服のままで風呂に入っても一瞬にして消毒・乾燥できるシステムが普及していたり、駅のホームが透明の壁で完全に囲まれていることとか、経済的には1ドル40円前後の円高が続き物価が下がっていたり、政治の世界では大統領制が確立し道州制が導入されているのである。このほかにもいろいろな未来描写がなされているのだが、どれも将来現実に起こりそうな事象が多く、著者の慧眼に思わず膝を叩いてしまうことだろう。

 ただストーリー的には、亜里沙が目覚めてからの時間が短すぎて、ことさら大きな進展がないのである。……と思っていたら、九章『胡蝶の夢』から謎の急展開が始まるのだった。もしかしてパラレルワールドなのだろうか、タイトル通りの単なる夢なのだろうか、と考えているうちに最終章に突入して、いきなり「序盤のあの時」と繋がってしまうのだ。なるほど、実に見事な予測不能のドンデン返しではないか。


評:蔵研人

夢工場ラムレス

夢工場

★★★☆
著者:川邉徹

 著者の川邉徹は、WEAVERというロックバンドのドラマーで、ほぼ全ての楽曲の作詞も担当していた。その作詞の才能をさらに生かして、2018年に本作を書き上げて小説家デビューを果たしたという。また本作のほかにも『流星コーリング』など6作の小説を書き、漫画や写真集も上梓し、多彩な才能を披露している。

 夢の中で夢を夢だと認識したとき、もし青色の小さな扉を見つけたら、そこは夢をコントロールできる夢工場の入口なのだという。そしてそこで夢を修正することによって、現実も変えられるというファンタジックなお話集なのである。

 その中身は『未来の夢』、『過去の夢』、『理想の夢』、『他人の夢』、『管理人の夢』の5つのショートストーリを、オムニバス方式で繋ぎ合わせた構成になっている。また最終章では4つのストーリーを括りながら、夢工場の管理人の正体も明かされることになる。なかなかよくまとまった作風で、まさにデビュー作に相応しい堅実な出来栄えと言えよう。

 なお本作はタイムトラベルとは直接関係ないが、「夢の世界は過去も未来も思うが儘」ということになるので、あえてタイムトラベル系列の中に含ませてもらった次第である。

評:蔵研人
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