
著者:今野敏
自衛隊統合幕僚会議情報局の綾部は、米国防情報部から奇妙なレポートを受け取り困惑していた。そのレポートには、超常能力を持つ世界中の少年少女たちが同じ夢を見て怯えていると記されていたのである。そしてその夢とは、未だかつて見たこともない大爆発が延々と続き、地上の全てを焼き尽くし全ての人類が死に絶えるという恐怖の悪夢であった。
同じ頃、原盤制作会社社長の飯島は、親会社の命令で新人アイドル発掘業務にとりかかることになる。そこでオーデションなどを開催するのだが、なかなかこれといった新人が見つからない。そんな中で偶然に、かつてネパールの生き神様だったチアキ・チェスとAV女優の池沢ちあきに辿り着く。なんと彼女たちの共通する「チアキ」という名前は、あの悪夢を見た少年少女たちが、救世主と崇める人物の名と一致していたのだった。
とにかく構想が面白いし、文章が巧みで実に読み易い。そして自衛隊と芸能プロダクションとの異例な取り合わせや、その着眼点もただものではない気配を感じる。また会話の中で論じられる宇宙論や唯我論も、なかなか分かり易く興味深く解説されていた。著者の今野敏は実に多彩な知識ポケットを有しているようだ。ただひとつ文句を言えば、ラストが余りにも当たり前であっさりし過ぎていたことだろうか……。
評:蔵研人