タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

2023年02月

古い腕時計 きのう逢えたら…

★★★☆
著者:蘇部健一

 不思議な古い腕時計。この時計をある時計屋に持ってゆき修理を依頼すると、なんと昨日をもう一度体験できるのである。そうした小話がアンソロジー形式で8話収録されている。

片想いの結末
 片想いしている彼女のハートを射止めるため、トラックに撥ねられた彼女を助けるために昨日に戻るのだが……

四番打者は逆転ホームランを打ったか?
 少年の命を救うため、前日の失敗を繰り返さないように、もう一度バッターボックスに立つ病身の四番打者

最後の舞台
 漫才グランプリに優勝するため、昨日に戻ってもう一度瀕死の相方と舞台に立つ漫才師

起死回生の大穴
 借金返済のため、結果の分かっている昨日の競馬レースに有り金をはたき、人生の全てを賭けて挑む男

おばあちゃんとの約束
 入院しているおばあちゃんと約束した「SF小説大賞」の結果を待つ男のこころ

明日に架ける橋
 ひき逃げ事件の犯人が、時効前日に銀行強盗に遭遇してしまう話

運命の予感
 最後のプロ棋士試験のプレーオフの日。対戦相手がやってこなかったため不戦勝となるのだが、なにかすっきりしない囲碁棋士が、もう一度昨日を繰り返す話

エビローク
 これは前述した『四番打者は逆転ホームランを打ったか?』の顛末である

 以上、昨日をやり直すことによって、人生が大きく変わってしまういろいろな男たちの話である。全話に不思議な時計屋さんが関わってくるところが、なんとなく『笑ゥせぇるすまん』のようで笑ってしまった。
 また平易な文体で読み易く、心が打たれて涙がこぼれる話もあり、そこそこ楽しめるはずである。ただ本書は連載物ではなく書下ろしだということで、短編集にするよりも、「群像劇風の長編」としてまとめたほうがもっと感動できる小説に仕上がったのでは、と思うのだがいかがであろうか。

評:蔵研人

ReLIFE リライフ

★★★☆
製作:2017年 日本 上映時間:119分 監督:古澤健

 またまた邦画の常とう手段であるマンガの実写映画化作品である。従ってかなりいい加減で荒唐無稽なストーリーなのだ。ただアニメ化されたくらいだから、そこそこ面白いということにしておこう。
 せっかく大学院を卒業したものの、新卒入社した会社を3カ月で自主退職してしまった海崎新太27歳。その後何度も再就職の面接を受けるのだが、前社を3カ月で退職したことが祟り、どこの会社でも不合格となってしまう。

 それでなんとかコンビニのバイトで生活の糧を凌いでいる海崎だったが、ある日「リライフ研究所」所員を名乗る謎の男が現れる。そして男は海崎に、薬で見た目だけ若返り、1年間高校生活を送るという実験をしないかと言う。
 余りにも胡散臭くて気が進まない海崎だったが、生活の保障が得られると聞いて、半ばヤケクソ気味に被験者になることを承諾。こうして27歳の男が、10歳年下の女子高校生との恋に頭を悩ませ、青春を謳歌する高校生活がスタートするのだった。

 それにしても、本作はタイムトラベルもののようで、実はそうではないみたいだ。つまり主人公が10年前にタイムスリップするのではなく、外見だけが10歳若くなり、そのまま現在の高校へ通うというだけではないか。従ってタイムトラベルものではなく、学園恋愛ものだと考えて観賞したほうが良いだろう。
 またこの実験が終わると、体験したことは全て主人公の記憶から消去されてしまう。さらに主人公と接触した人々の記憶の中からも、主人公の存在自体が喪失してしまうのである。
 どうもこの設定には無理があり過ぎる。主人公の記憶だけなら、薬や手術などで切り取ることが可能だが、クラスメイトや先生など、主人公と接した人すべての記憶を操作することは不可能ではないか。いくら原作がマンガだからと言っても、このあたりの矛盾はしっかりとフォローしておくべきだろう。

 またラストのどんでん返しは、ほぼ予想通りだったものの、清々しい気分になれるハッピーエンドで納得できるかもしれない。また主演の中川大志はじめ、クラスメイトの6人もそれぞれ個性的で、それなりに青春の匂いを漂わせていたので違和感もなかった。
 ということで、高校生はもちろん「青春時代をもう一度体験したい」と願っているおじさん、おばさんたちが観ても、そこそこ楽しめる映画に仕上がっていたことだけは間違いないと断言したい。


評:蔵研人

パーム・スプリングス

★★★☆
製作:2021年 米国 上映時間:90分 監督:マックス・バーバコウ

 タイトルの「パーム・スプリングス」とは、カリフォルニア州にある砂漠と山に囲まれたリゾート都市である。本作はそのパーム・スプリングスで行われる結婚式が舞台となっている。

 妹の結婚式だというのに、姉のサラだけは1人だけ浮かない面持ちであった。そこにお調子者で少し変わった男・ナイルズが登場。二人はいいムードになり、もう少しでSEXというときに突然弓を放つ男が現れる。それで謎の洞窟に逃げ込むと急に目覚め、毎日結婚式の朝に戻る「タイムループ」に閉じ込められてしまうのであった。一方のナイルズは、かなり以前からループにハマっており、今日までに数えきれないほど結婚式の日を繰り返していたのである。

 毎日同じ一日を繰り返すというタイム・ループもので、ファンタジーラブコメと言えば、1993年に公開された『恋はデジャ・ブ』を思い出す。ただ『恋はデジャ・ブ』のほうは、ループするのが主人公を演じたビル・マーレイ一人だったのに対し、本作ではなんと三人がループしているのだ。また少しおバカで下品な感があった。それにループを利用して、前回の失敗を回避するようなシーンが少なかったのが物足りない。

 それにしてもタイム・ループってどうして起こるのだろうか。それにループしている人は何度もやり直せるけど、ループしていない人たちの人生はどうなってしまうのだろうか。結局はいくつものパラレルワールドが存在することになるわけだが、なんだか理解不能だね。
 またループしている間は死なないし年を取らないし、金も恋人も自由自在のスーパーマンなのだから、現実に戻りたくないと考えたくなる。ただもしループが永遠に続くとしたら、やはり退屈になってしまうのだろうね。でももしそのループ周期が1日ではなく、『リプレイ』のように10年以上だとしたらどうかな……。

評:蔵研人

HELLO WORLD

★★★☆

製作:2019年 日本 上映時間:98分 監督:伊藤智彦

 『時をかける少女』や『サマーウォーズ』で助監督を務め、『ソードアート・オンライン』を手掛けた伊藤智彦監督によるSF系アニメである。前半は学園ロマンなのだが、後半になって「狐面」が登場すると、急遽ガチガチのSFに変貌してしまう。どちらかと言えば前半のほうが楽しく、後半は理解不能のハラハラドキドキ展開に終始すると言ってもよいだろう。

 2027年の京都。人見知りで引っ込み思案な男子高校生の堅書直実は、クラスメイトに馴染めず本だけが友達だった。だがクラスで、一行瑠璃という不愛想な少女と一緒に図書委員に選ばる。そして彼女と一緒に図書委員の仕事をしているうちに、だんだん彼女との距離が縮まってくるのだった。このあたりはまさに学園ロマンなのだ。

 そんな折にナオミという青年と出会う。ここらからだんだんSFの臭いが漂ってくる。さてそのナオミこそ、10年後の世界からやってきた未来の自分であった。彼は未来で瑠璃と結ばれるが、彼女を事故で失ってしまったのだという。直美はナオミと協力して、事故に遭った瑠璃の運命を変えようとするのだが……。このあと暫くすると、謎の狐面が登場し、学園ロマンは難解なSFものに衣替えしてしまうのだ。そして京都駅での大アクションシーンへと繋がってゆき、なんとSFパニックアニメへと昇華してゆくのである。

 本作は世界をデーターが集合した仮想空間とみなし、その不都合なデーターを書き換えよう試みるストーリーなのだが、斬新なようで斬新でもなく、分かり易いようで分かり難いのだ。ぶっちゃけあの『マトリックス』と『エヴァンゲリオン』と『インセプション』をごちゃまぜにした作品だと言えばどうだろうか。壮大なテーマを含んだストーリーとも言えるが、観客置いてけぼりの独りよがりの脚本とも言えそうである。

評:蔵研人

チョウたちの時間

★★☆
著者:山田正紀

 時間の本質とは何なのか、また超時空間なるものは存在するのかを問う、ある意味、哲学的なハードSF小説であった。と書けばかなり格好良いのだが、ぶっちゃけ風呂敷を広げ過ぎて収拾がつかなくなったと言えないこともない。

 本作はラノベということで文章は平易なものの、現実世界よりも未知の時空間での描写に終始し過ぎて、かなり難解な理論展開がなされるため、一度読んだくらいでは、なかなか理解出来ないかもしれない。従って「現代を描いた序盤」以外は殆ど理解不能、ストーリーも全く感情移入できず退屈極まりなかった。よくもまあ途中で投げ出さず、最後まで活字を追いかけた自分に拍手・拍手である。

 本作のタイトルもそうだが、なぜか時間とチョウを関連付けるようなSF小説や映画が多い。まるでチョウたちが、時間という蜜を探し求めてやって来るかのようである。ダジャレじゃないけれど、チョウには超能力があるのだろうか。

評:蔵研人

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