著者:黒武洋

 タイムトラべル小説なのだが、今だかつて読んだことのない展開であった。ある意味、罪と罰の根源を問うクライム・サスペンスともいえるだろう。従ってタイムトラべルファンではなくても、十分に読み応えのある重厚な作品に仕上がっている。

 背景は2040年。死刑制度が廃止になるのだが、すでに死刑執行が決定していた死刑因たちの処遇が宙に浮いていた。そこで政府は、すでに完成しているタイムマシンに模範死刑因を乗せて過去へ跳び、死刑因自身に過去の自分を説得するよう命じる。そして過去の凶行を未然に防げれば、死刑囚の罪は消えると言うのだった。

 かくして3台のタイムマシンが、それぞれ死刑因と監視員の2人ずつを乗せ、35年前の世界へと時空を跳び立ってゆくのである。ストーリーはこの三人の死刑因達の行動を、それぞれ角度を変えて描くオムニバス形式になっているが、ラストの帰還編とエピローグで見事に一つの話として繋がってゆく。実に興味深い話ではないか。

 また、この小説を原作にしたデジタルコミックもネットで発売されている。こちらのほうはまだ未読であるが、近藤崇氏の現実的な中におどろおどろしさを併せ持つ、魔化不思議なタッチの画が気になってしょうがない。こちらも是非一読してみたいものである。

評:蔵研人