著者:フィリップ・K・ディック
医師のパーソンズは、ある日突然25世紀の未来へタイムスリップしてしまう。そこでは人種の混交が進んでいて、白人社会ではなく黄色人種が支配する世界に変貌していた。
また平均寿命は15歳で、廷命するための医療行為が重大な罪とされていたのである。だがこの変態的社会に異を唱える種族もいて、パーソンズは彼等によってタイムスリップさせられたのであった。
ディックの作品としては、余りにも遅過ぎる翻訳本であるが、読んでいて何となくその理由が理解出来た。つまりありていに言えば、ディック自身がほとんど評価していないほど、彼の駄作の一つだからである。
確かにストーリー全体の構成がちぐはぐだし、人物描写にも深味がない。だが後半になって、冷凍保存されているコリスをどうしても救えない謎に惹かれた。また過去へのタイムトラべルにおけるパラドックスとのしがらみも巧く描かれているではないか。
まるでこの後半のために無理やり創ったお話という気がしないでもない。そんなタッチのSF小説であるが、タイムトラべルファンなら、一度読んでおいたほうが良いだろう。
評:蔵研人