製作:2006年 英国 上映時間:102分 監督:ショーン・エリス
現在はもう閉館になっているが、当時東京でこの作品を上映していた映画館は、渋谷QーAXシネマだけであった。この映画館は、カフェスタイルの飲食店が同居し、2つのスクリーンを持つユニークな映画館だったのだが、残念ながら僅か数年で閉館となってしまった。
理由は定かではないが、駅からやや遠いこと、周囲にラブホテルが多いことなどが難点だったのかもしれない。しかし小綺麗でお洒落な雰囲気と、音響・映像においては、当時最高水準のTHXを採用していたようである。
さて本作上映時には、264席ある館内は、ほぼ満席であった。これはこの作品に対する注目度なのか、映画デーの特別割引のお陰なのか、単館上映だったためなのかは不明である。
そもそもこの作品は、2006年のアカデミー短編実写賞にノミネートされた18分の短編作品だった。それを商業べースで上映するために、102分に引き伸ばして再製作したのだという。
当初の短編映画を観ていないので、比較は出来ないものの、やはり多少違和感を感じてしまった。
おそらくスーパーの店員たちの「おふざけドラマ」や「少年時代の回想」などが追加シーンなのであろう。「少年時代の回想」はともかくとして、店員たちのドタバタシーンがなければ、この映画はもっと芸術的かつ幻想的な作品に仕上がっていたはずである。
失恋のショックで不眠症に陥り、時間の概念にひずみが生じる。そしてあるとき、スーパーマーケットの中で、自分以外の時間が止まってしまう。
そこまではとても秀逸な発想であり、時間が静止したときの映像も、二次元世界のようで幻想的だ。フォトグラファーである監督の手腕が、十分に発揮されたシーンであった。
そして、最初はレジのおばさんにしか見えなかったシャロンが、だんだん美しくなってゆく。主人公の心の動きと、観客の視線を同調させたテクニックは実に見事である。
だが、ファンタジーを、エロティックコメディーへとチェンジしてしまった感性はいただけない。ところどころで少数の人が、大声で笑うのだが、観客のほとんどはしらけ切っていた。
ラストになって、今度はロマンチックなラブストーリー仕立てに軌道修正し、そこで観客の冷めた気持ちを温めて、ジ・エンドとなる。
なんだか狐につままれた気分だが、「良い映画だったな」と満足して帰路につく観客たち。だが冷静に考えると、やはりなにか歯車が絡み合わない気がするのだ。
評:蔵研人