著者:大江健三郎
ノーべル賞作家「大江健三郎」が書いたとは思えない不思議なタッチの本である。恐らく彼がこのような小説を書くのは、最初で最後になるであろう。
「二百年の子供」というタイトルは、120年前の過去と80年後の未来をタイムトラベルした3人兄弟の話だからなんだね。これはSFとかファンタジーというよりも、お伽ばなしというほうが似合っているかもしれない。
三人でシイの木のウロに入って、手を繋いで同じことを念じると、その念じた時代にタイムリープするのだ。本当にタイムトラべルしているのか、はたまた同じ夢を観ているのかは最後まで謎のままである。
ただ薬やナイフを置いてきたり、手紙や石笛を持ってきたり出来たのだから、夢ではないのだろう。しかし複数で同時に見るリアルな夢が、実はタイムトラベルなのかもしれない、というアイデアは仲々面白いよね。
兄は知的障害者、兄思いの妹は感情の起伏が激しく、弟は機敏で老成している。とても個性のある兄弟達だが、三人三様で見事にジョイントするのだ。そして妹も弟も、兄のことを「真木さん」呼ぶのもユニークである。
この小説は、2003年1月から10月まで、読売土曜朝刊に掲載されたジュブナイルである。これより9年前に大江氏は、ノーべル文学賞を受賞し、作家としての締めくくりを迎えたのであろうか。
この作品では、子供と老人との関わりや、今という時間の大切さを優しく書き綴っている。少年少女向けと言いならがら、なかなか味のあるテーマと文章で紡ぎ込まれてあった。
読み易いのであっという間に読了してしまう。まだ未読の方は、機会があれば是非読んでみて欲しいね。
評:蔵研人