著者:大下英司
10年前に宮崎空港を飛び立ったまま消息不明になっていたYS-11機と乗客68人が、突然羽田空港に戻って来たからさあ大変!。
実は10年前にマイクロブラックホールに吸い込まれ、10年の時空を超えて再び地上に降り立ったのだと言う。たちまちこの大ニュースは、世界中を激震することになってしまうのだった。
ただこの事態を予測していた天才加藤教授によると、生還したYS-11機もろとも乗客全員が、3日後に再び消失してしまうというのだ。教授の理論が正しいのか、はたまた別の奇跡が起こるのか。
『この胸いっぱいの愛を』と似たような展開だが、こららのほうが圧倒的にスケールが大きい。なにせ主な乗客・乗務員達の生還後のストーリーをパラレルに描いてゆくのだから・・・。
著者の大下英司は、航空機に造詣が深く著書には戦記物が多い。だからメカニカルな説明も多く退屈な部分がある反面、説得力と迫真力が感じられる。
タイトルの『神はサイコロを振らない』の由来は、アインシュタインが「偶然」を要素とする当時の量子力学を皮肉った言葉のようだ。
日本の小説には珍しく、巻頭に登場人物の名前と特長が記されていたが、あとでそれがかなり役立つことになった。それだけ登場人物が多くて、名前とそのバックボーンを覚えることが大変なのである。
またそれが、この作品の評価を分けることになるのだろう。スケールが大きくいろいろなサイドストーリーを楽しみたい人にはお薦めだが、心理描写や感情移入を楽しみたい人には、少し退屈で物足りないかもしれない。
なお2006年に本作を原作とした連続TVドラマが放映されており、原作小説よりも評判が良いので、興味の湧いた方はDVDをレンタルしてみてはいかがであろうか。
評:蔵研人