著者:貫井徳郎

 なんと綿密で用意周到なストーリーなのだろうか。ミステリーなのかSFなのか、最後の最後まで明かさないところがなかなか憎いね~。
 劇団『うさぎの眼』の一員である主人公和希は、未来からタイムスリップして来たと言い張る祐里とつき合ううちに、ある殺人事件に巻き込まれてしまう。
 この殺人事件の犯人が、なかなか判らない。終盤になって犯人が解明されると、なんだと思うくらい当たり前の人物が犯人だった。普通ならこいつが犯人だと思わせて、実は全く思いがけない人物が犯人だったりするものだが、このあっさりし過ぎた展開は、逆に新鮮に感じるから面白いものだ。

 またタイムトラベル中に、インターネット上のフリースペースを使うというアイデアが斬新で見事だったね。おそらく僕の知っている限りでは、初めて登場したタイムトリックである。
 ラストは実に切ない結末であるが、不思議と涙が出てこなかった。『さよならの代わりに』祐里が残した言葉が、明かるい別の未来での再会を暗示しているからであろうか。ヒシヒシと、心に染み込んで琴線に触れるような、しみじみとしたお話だった。

評:蔵研人