著者:梶尾真治

 クロノスジョウンターとは、簡単に言えば「タイムマシン」のことである。命名したのは梶尾真治だが、クロノスとは時間の神であり、ジョウンターは、A・べスターのSF『虎よ虎よ』に書かれたジョウント(瞬間移動)をもじっているらしい。
 ストーリ一は、このクロノスジョウンターに試乗した4人の軌跡を、オムニバス風に4つの短編に分割して描いている。クロノスジョウンターは、タイムマシンであるが、過去に行くには限界がある。そして過去に滞在している時間が限られており、時間がくると自動的に未来に飛ばされてしまうのだ。

 また過去に行くほど、その反動が強くなり、より遠くの未来に飛ばされる仕組みになっている。それがこの物語を面白くしている最大要因であろう。だから背景は同じでも、どの作品にも独特の雰囲気があり、どれもが同じくらい面白いのだ。
 一作目は、一目惚れした女性を救うために、1時間前にタイムスリップする男の話。
 二作目は、取り壊されてしまった骨董品的な古い旅館を観るために、5年前に戻る男の話。
 三作目は、少女時代にあこがれた青年の命を救うために、完成された薬を持って過去へ戻る女医の話。
 そして最後の四作目は、他の三作とはやや異なり、『クロノス・コンディショナー』という、過去の自分の体に心だけが戻る、というマシンを体験した女性の話で、外伝扱いとなっている。

 どれもがファンタジックな恋愛物語で、しかもどの作品を読んでも、心がハッピーになれるのが嬉しい。
 最近、昔の時間テーマアンソロジーを読んだが、ほとんどがドタバタタッチの短編SFでうんざりしてしまった。ところが梶尾真治の時間テーマものは、SFというよりファンタジーの香りが強い。そしてリリカルでロマンチックである。もちろん好みの問題であるが、僕はそんな味が大好きなのである。
 それから映画用ということで、この『クロノスジョウンターの伝説』を大幅に書き直した作品が、ノベライズの『この胸いっぱいの愛を』であることを付け加えておこう。

評:蔵研人