著者:長野まゆみ
表紙の写頁は、吉田美和子さん製作の「美少年人形」である。とても清楚で幻想的で、この小説のイメージにピッタリだと思う。なお各章の扉には、ノスタルジックな詩と、コメント付きの美しい写真も飾られている。
さてわずか147頁の薄っぺらな文庫本なのだが、なかなか丁寧に創ってあり、とても気分が良いのだ。
放浪癖のある父親と二人で生活し、短期間に転校を重ねる少年が、ある田舎町で遭遇した不思議なお話を描いたファンタジー小説である。その淡々として瑞々しい人物描写と、センチメンタルな郷愁に、なんとなく昔読んだ『つげ義春』のマンガを思い出してしまった。
また小柄な賢彦少年との巡りあいが、「バナナ檸檬水」というのも、古めかしさの中にお洒落な香りが漂っている。さらに父の名が「梓」で、少年の名が「岬」とは、二人ともなんと優しくロマンチックな名前ではないか。
そしてこの名前の由来と父の心が、時空を越えて見事に繋がり、そっと宝石箱を開くように、煌びやかに過去が解き明かされてゆく。それはなんとも、心地良い締め括りであろうか・・・。
評:蔵研人