著者:小林信彦
なぜこんな長ったらしく、気取ったタイトルをつけたのだろうか?。その疑問はラストのどんでん返しで解けるので、絶対に最後まで読んでみよう。
著者の小林信彦氏は昭和7年生まれだ。そしてこの小説が書かれたのは、平成に入ってからなので、当時著者は50代後半である。それにしてはなかなか『粋なおじさん』だったんだと妙に感心してしまった。
さてストーリーのほうは、主人公の高校生が、平成初期から昭和34年にタイムスリップし、そこで見様見真似の『危うい生活』を送る話が中心となっている。そして未来のTVで観たお笑いギャグを利用して、一躍売れっ子のTV作家になってしてしまうのだ。なかなかひょうきんでユニークな発想じゃないか。
また古き良き昭和30年代の描写が、なかなか凝りまくっている。当時の著者は花の20代。たぶんかなり思い入れの強かった時代なのだろう。まるで彼の思い出話を、とくとくと聞いているようでとても微笑ましい。
懐かしい東京風景はもちろんだが、主人公の育ての親である、多佳子伯母との再会のくだりが一番印象的だ。ことに若い伯母に迫られるシーンは、複雑な心境になってしまうだろう。自分だったら冷静でいられたかどうか余り自信がないね。
途中までは、浅田次郎の『地下鉄(メトロ)に乗って』を髣髴させる展開であったが、甘く切ない浅田節とは異なって、明かるくバタくさいノスタルジーを感じた。
ラスト近くになってタイムパトロールが登場するのだが、これが僕には気に入らない。それまで、せっかくノスタルジーの小部屋で甘い気分に浸っていたのに、土足で踏みにじられた感じがした。
ところがこの展開は、Part2『ミート・ザ・ビートルズ』への複線だったんだね。
『ミート・ザ・ビートルズ』では、ビートルズとホテルの一室で、念願の直接会話を果たすのである。そしてそれが、父と母のめぐり逢いの還流となるのだ。
このPart2は、第一作には及ばないとしても、ことにビートルズファンには、味わい深いストーリー仕掛けとなっているはず。絶版になっているようだが、もし古本屋で見つけたら、是非「2本立て」で続けて読んでみようではないか。
評:蔵研人