著者:綾崎隼
なんと超遅読者の私が、4冊に及ぶこの長編小説の全巻を、僅か1週間で読破してしまったのである。通常なら1冊だけでも1か月位かかって、のらりくらりと読み続けているだろうから、もの凄いスピードで読み抜いてしまったということになる。
登場人物も背景も限定的なのだが、この小説には麻薬のような中毒性が含まれているようだ。そうでなければ、こんな超人的な速読が出来るわけがない。
一番大切な人が死ぬと、激しい時震(地震と違い、物は揺れず、身体だけ揺れる)が起こり、過去にタイムリープしてしまうのであるが、次のようなルールが存在していた。
●過去に戻るのだから、死んだ一番大切な人は元に戻っているのだが、その引き換えに二番目に大切な人が消失してしまう。
●消失した人は5年前に突然消えてしまったことになり、5年前以降の存在は誰の記憶にも残っていない。だがタイムリープした人にだけは、全ての記憶が残されている。
●消失した人は基本的に元に戻らず、2回目のタイムリープが起こると、今度は三番目に大切な人が消失してしまう。3回目、4回目以降のタイムリープについても同様なので、タイムリープを繰り返すとどんどん大切な人が消失してしまう。
●タイムリープは無限にできる訳ではなく、時間の歪みによって生じた余剰時間分が限界となる。
●タイムリーパーは複数いるのだが、自分以外の人がタイムリープした場合は、通常人と同様記憶が残らない。
それにしても、よくこれだけいくつもルールを創り、それに合わせて物語を複雑かつ緻密に展開させたものである。改めて作者・綾崎隼の力量に脱帽する次第である。
さて本作が4巻で構成されていると前述したが、タイトルは全て『君と時計と嘘の塔』ではないのだ。「君と時計と」までは同じなのだが、正確には『君と時計と嘘の塔 第一幕』『君と時計と塔の雨 第二幕』『君と時計と雨の雛 第三幕』『君と時計と雛の嘘 第四幕』の4冊となっている。ただコミックスのほうは『君と時計と嘘の塔』で統一され1~3巻で発売されているのでご注意!。
主な登場人物は、主人公の杵城綜士のほか草薙千歳、織原芹愛、鈴鹿雛美の4人であるが、タイムリープできるのは杵城綜士、織原芹愛、鈴鹿雛美の3人の高校生であり、草薙千歳は天才的能力を持つ先輩である。またタイムリープする3人が、相互にいろいろな感情で縛られているところが興味深い。さらには前半は織原芹愛がヒロインだったのだが、実は全く眼中になかった鈴鹿雛美がヒロインに変ってゆく過程がかなり感動的なのである。またラストの大団円も、実に見事に決めているではないか・・・。
ああこれ以上書き続けていると、ネタバレになる恐れがあるのでここらで筆をおきたい。最後に一言、本書ではタイムリープが頻繁に起こるのだが、ただ過去に跳ぶだけではなく、何度も過去をやり直すことになるので、正確にはタイムループものと分類しても良いだろう。
評:蔵研人