著者:光瀬 龍

 この著者は、いつも文章が重厚で堅いので敬遠気味だった・・・。だがこうした時代ものならば、かなりその味を生かせると思った。またもともと時間テーマSFだということは分かっていたので、時代劇は前半だけかと思っていたのだが、延々と約70%は時代小説そのものであった。

 ただ闇に潜むような、不気味で強大な敵の存在に、チラりチラリとSFの影が見え隠れしていたことは間違いない。だが終盤になると、突如として携帯用タイムマシンが大活躍し、江戸~古代~現代~超未来や亜空間を行ったり来たりし始めるのである。そのギャップの激しさに、ここら辺からついてゆけない読者も現れるかもしれない。

 物語の背景は「大坂夏の陣」が終わって19年後の世界である。いまだ世情は収まらず、江戸の町には機会があれば倒幕を企てる勢力が暗躍していた。そんな折、北町奉行所与力・六波羅蜜たすくは、柳生但馬守の刺客に襲われてしまう。なぜ柳生に狙われたのか、その謎も不明のまま、次々と不可解な暗殺事件が起こるのだった・・・。

 また2系統の敵が存在し、双方が探している『さざれ石』と『女子』の謎の解明が、この小説最大のハイライトだと思うのだが、十分な解説がなされていないため、消化不良を起こしかねないところがやや残念である。
 それにしても、著者はハードメカや歴史背景などを重々しく描くのは得意なのだが、細かな心理描写は苦手なようである。しかしながら、上手に江戸時代の歴史背景を一捻りしながら、荒唐無稽な話の辻褄を合わせ、この小読を描き続けた著者も、『昭和無明筆?』の達人といえるのかもしれない。

評:蔵研人