著者:梶尾真治
 
 梶尾真治の短編はかなり好評である。ただ彼の書く短編には、二通りの風味がある。一つは筒井康隆流のドタバタ味、いま一つは叙情詩のようなリリカル味だ。私の好みは、断然後者のリリカル味であり、幸い本作はその代表作でもある。

 本作は未来だけに一方通行する航時機(タイムマシン)に乗ってしまった恋人を、外から何十年も見つめ続ける女性の切ない恋心を見事に描いている。このお話の中では、彼女が彼にもらった『真珠』の存在がキーになっているようだ。そしてラストのどんでん返しも、この『真珠』によって表現されているのである。

 なんと切なく美しい小説なのだろう。だがこのラストの描写の中で「七色に輝く真珠は殖え続けていたのです。」という記述が、何度読み返してもどうしても理解出来なかった。航時機の中での時間の経過が異常に遅いので、落ちてゆく真珠の残像がそう見えるのだろうか。自分の貧弱な読解力に、ちょっと悲しくなってしまった。
 本作は短編集『美亜へ贈る真珠』に収められているが、その中に本作と似た味がする『詩帆が去る夏』も掲載されている。こちらはタイ厶テーマではなく、愛する女性のクローンを育てる話だが、本作よりも判り易くもっともっと切ないお話だった。

評:蔵研人