著者:梶尾真治
藤子不二雄原作で、工藤静香主演の『未来の想い出』という、タイムスリップものの映画があるが、それと本作品は全く別物なので間違えないで欲しい。本作は『黄泉がえり』の原作者である梶尾真治の、SFファンタジー小説である。
デザイナーの滝水浩一と27年後の美女「藤枝沙穂流」は、白鳥山頂で突然起こった時空のゆがみに巻き込まれ、時を超えてめぐり逢うことになる。そのときは時空を超えたことにも気付かず、短かい会話を交しただけで別れた二人だったが、それぞれが元の世界に戻ると、お互いに忘れられない存在となるのである。
ただいつも未来と過去の時空が繋がっている訳ではなく、その後はなかなか逢うことができない。ところが山頂のある場所だけは、時空が重なっているのか、物体だけが時空移動が出来ることに気が付くのである。
そこで二人が考えたのが、箱の中に手紙を入れて、「時空文通」をすることだった。どちらがパクッたのかは不明だが、このアイデアは韓国映画『イルマーレ』と全く同じなのでニヤリとしてしまう。
このストーリーの後半、27年後の世界で沙穂流が、滝水の友人だった長者原という初老の男に会った時点で、全ての結末が推測出来てしまった。もう少しドキドキ・ハラハラさせて、ラストにどんでん返しがあっても良かったのではないか。余りにも予想通りにサクサク進んでしまったのが少し残念だ、もうひと捻りの工夫が欲しかったね。
文庫本で239頁、そのうえ活字が大きく行間もゆったりしている。さらに平易で判り易い文章なので、通勤の行き帰りにあっという間に読破してしまった。多少もの足りなさを感じたが、タイムスリップものが好きで、清潔な純愛に憧れている人なら、爽やかな感動を味わうことが出来るはずである。
評:蔵研人