山田太一の小説を読んでから、この作品が映画化されていることを知った。監督はファンタジー作品の大御所である大林宣彦監督で、主演は風間杜夫、恋人役に名取裕子、父親役は片岡鶴太郎、そして母親役に秋吉久美子と、ハマリ役揃いである。これではこの映画を観ない訳にはゆかない。ただこの映画が上映されたのが、1988年と古過ぎるため、レンタルビデオ店で探し出すのが一苦労だった。
映画の良いところは、昔ながらの浅草の街並や寄席の雰囲気を、ほのぼのとした映像で表現出来たことだろう。母役・秋吉久美子のアッパッパーやシュミーズ姿には、古きよき時代の懐かしさを感じて泣けてしまった。また自分より若いが頼りになる父役を、片岡鶴太郎がこの人しかいないという程見事に演じている。
この映画は原作に忠実で、ほぼ原作通りの展開なのだが、二つの大きな問題点があった。ひとつはネットで皆さんが指摘している通り、名取裕子と別れるシーンだ。あれは酷すぎる!せっかくすき焼き屋で流した熱い涙が、一辺に乾いてしまったではないか。そしてその時点で、B級ホラー映画に転落してしまったようだ。一体大林監督は何を考えていたのかと、首を傾けざるを得ない。
もう一つの問題点は、主人公が離婚して一人息子ともしっくりせず、狭いマンションで1人寂しく暮らしていた、というバックボーンをじっくり描いていないことである。この重要な事実を省略してしまったことは、致命的なミスである。つまり主人公のこうした心理的な疲労感がなければ、異人たちを呼び起こすこともなかったからに他ならない。これだけの俳優と名監督をしても、原作の小説には遥かに及ばなかったのが非常に残念である。
評:蔵研人