著者:梶尾 真治
ある場所から、6人の男女が同時に20年前の世界にタイムスリップする。その6人は、どうしても過去に戻ってやり直したいことがあるということで共通していた。本作はこのタイムスリップした6人それぞれの行動を、5つのショートストーリーに分割して描いた群像劇ということになる。
正式な原作は梶尾真治の『クロノス・ジョウンターの伝説』で、それを同著者が映画化を睨んでノべライズとしてアレンジしたものらしい。従ってストーリーは、ほとんど映画と変わらないのだが、重要な部分が映画では省略されていたり、変更されていたことが判った。
また映画ではタイムスリップしたのが4人だったが、小説のほうでは6人なのである。正確にいうと、省略された2人はカップルだったので、お話としては1つのストーリーがカットされたことになる。
たった1つのストーリーだが、このお話は5つのストーリーの中でも2番目に素晴しい話で、かなり泣ける話でもある。そして、このストーリーの拠点となる鈴谷旅館とも接点を持ち、ラストの展開にも影響することになるのだからかなり重要なのだ。
もう1つはラストシーンが、大きく異なっていることである。映画では大不評だったラストと異って、小説のほうは実に見事な締めくくりを施しているではないか。
それから映画の中では、タイムスリップやパラドックスに関わる論理が全く不在だったが、小説のほうでは多少無理はあるものの、それなりに納得出来る理論をちりばめていた。さすが小説は素晴しい・・・というよりは、これを映画化した監督と脚本家のセンスのなさに改めて呆れてしまった。
タイムパラドックスを扱った似たような映画といえば、『いま、会いにゆきます』がある。これも映画、マンガ、小説のハシゴをしたが、こちらは映画のほうに軍配をあげたい。例え原作ものでも、創り方次第では映画が勝つことも出来るのである。
評:蔵研人