著者:田中哲弥

 江戸時代から現代に、千両箱を持ってやってくる、アロハシャツの大男の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』である。それにしても、このタイトルは意味不明だ。
 この話は5話の短編で構成され、それぞれ主人公が微妙に入れ替わる、一種のオムニバスである。

 第1話「干両箱とアロハシャツ」は、栗原守という青年が主人公で、何やらヤーさんの抗争に巻き込まれてしまう。それから、「ドブさん」という正体不明の変なおじさんが登場し、落語のような雰囲気で話が進んでゆく。
 第2話「ラプソディー・イン・ブルー」も、栗原守が主人公だが、第1話との関連性がない。どちらかというとラブコメ風のタッチだが、文体は筒井康隆風のハチャメチャ・ナンセンス調である。大村井君という気持ちの悪い、オタク風の友人が登場するが、5話中一番面白かった。
 第3話「秘剣神隠し」は、江戸時代の悲恋物語。ここで、タイムスリップしてくるアロハシャツの正体が、寺尾俊介という巨漢武士であることが判明する。
 第4話「マイ・ブルー・へヴン」は、近未来の話。訳の判らん大阪府知事が、極端な独裁体制を敷く。余りにも非現実的で、残虐なので一番嫌いな話だ。
 第5話「干両は続くよどこまでも」は、また現代に戻った寺尾俊介が、このタイムトラベルの解明をする。しかしこの収束には不満が多い。

 小説で一番いけないのは、実は夢だった。という終わり方だ。この話が夢だった訳ではないが、結果としては似たような結末になるのである。またせっかくドブさんや大村井君というユニークなキャラを登場させたのに、彼等は正体不明のまま中途半端に切捨てられている。
 第1話から第3話までは、かなりお面白く読ませてもらったが、どうもそれ以降の話が退屈で最後の収束もいい加減な感じがする。
 この田中哲弥という作家、どうも基本的になまけもののようである。適当にストーリーをはしょるので、長編ものは書けそうも無いし、15年間で本書以外に4冊位しか書いていないのだ。たぶん本気になって小説に取り組めば、味の良い短編が書けると思うのだが・・・。

評:蔵研人