著者:大沢在昌

 主人公は亡父のあとを継いで警官になった志麻由子という美人婦警である。彼女は連続殺人事件の犯人逮捕のため、公園でおとりになっていたのだが、突然背後から犯人らしき人物に首を絞められてしまい意識を失ってしまう。
 その後彼女が目覚めた場所は、なんと光和27年という聞いたこともない時代だった。ただその時代背景や闇市が幅を利かせている街の雰囲気などは、まさに太平洋戦争直後の東京にそっくりなのだ。だが歴史や地名などが微妙に異なることから、過去にタイムスリップしたのではなく、全くの別世界つまりパラレルワールドに迷い込んでしまったのであろうか…。

 また現代では巡査部長でお荷物的存在だった由子だったが、この奇妙な世界では大出世して警視まで昇りつめている切れ者刑事だったのだ。ところがこの世界の由子は全く見当たらない。もしかすると由子の精神だけが、この世界の由子に転移してしまったのだろうか。いずれにせよ元の世界に帰れないのなら、なんとかこの世界で生き抜いて行くしかないと由子は決心するのだった。

 パラレルワールドと言えばSF小説のテリトリーなのだが、本作はSFというよりは「刑事もののミステリー小説」なのだと考えたい。たまたまパラレルワールドを「舞台装置」に使ったというだけなのであろう。そう考えないと余りにもSFらしくない顛末だし、超小型タイムマシンの発想はまるでドラエモンで、余りにもお粗末だからである。

 ただ本書はなんと500頁を超える分厚い単行本なのだが、あっという間に読了してしまうほど面白いことだけは保証しても良いだろう。それはドキドキワクワクさせるアクション系の際どいストーリーに加え、パラレルワールドはなぜ出現したのか、果たして由子は現代に戻れるのだろうか、もう一人の由子とは対面できるのだろうか、また連続殺人事件の犯人は逮捕されるのだろうか、などなどの謎を解明したいという読者心理をわしづかみにしているからである。まあいずれにせよ近いうちにTVドラマか映画化されるような気がしてたまらない。

評:蔵研人