タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

2023年06月

時空の巫女4

著者:今野敏

 自衛隊統合幕僚会議情報局の綾部は、米国防情報部から奇妙なレポートを受け取り困惑していた。そのレポートには、超常能力を持つ世界中の少年少女たちが同じ夢を見て怯えていると記されていたのである。そしてその夢とは、未だかつて見たこともない大爆発が延々と続き、地上の全てを焼き尽くし全ての人類が死に絶えるという恐怖の悪夢であった。
 同じ頃、原盤制作会社社長の飯島は、親会社の命令で新人アイドル発掘業務にとりかかることになる。そこでオーデションなどを開催するのだが、なかなかこれといった新人が見つからない。そんな中で偶然に、かつてネパールの生き神様だったチアキ・チェスとAV女優の池沢ちあきに辿り着く。なんと彼女たちの共通する「チアキ」という名前は、あの悪夢を見た少年少女たちが、救世主と崇める人物の名と一致していたのだった。

 とにかく構想が面白いし、文章が巧みで実に読み易い。そして自衛隊と芸能プロダクションとの異例な取り合わせや、その着眼点もただものではない気配を感じる。また会話の中で論じられる宇宙論や唯我論も、なかなか分かり易く興味深く解説されていた。著者の今野敏は実に多彩な知識ポケットを有しているようだ。ただひとつ文句を言えば、ラストが余りにも当たり前であっさりし過ぎていたことだろうか……。


評:蔵研人

サクラ咲く


著者:辻村深月
★★★☆
 本書は光文社の『BOOK WITH YOU』として発行されているので、対象読者は中高校生ということになる。だから非常に読み易く読書が苦手な人でも、あっという間に読破してしまうことだろう。
 また本書にはタイトルの『サクラ咲く』のほか『約束の場所、約束の時間』と『世界で一番美しい宝石』の三篇の中編が掲載されている。この中の『サクラ咲く』と『約束の場所、約束の時間』は中学生が主人公でやや児童書といった感が拭えないが、『世界で一番美しい宝石』は高校生が主人公で、内容的にも大人が読んでも全く違和感がないだろう。
 
 この本を買った動機は、タイムトラベル系の話だと知ったからである。ただ三作のうち『約束の場所、約束の時間』だけがタイムトラベル系のストーリーであり、タイムマシンで未来から跳んできた少年と現代の少年との心温まる友情の話であった。
 また『サクラ咲く』は、中学生の男女グループの友情と淡い恋心に、図書室の本に挟まれていたメモの謎がからんだちょっぴりミステリアスな話だったが、ラストに合唱する歌の歌詞がなかなか良かったね。
 そして『世界で一番美しい宝石』では、高校の映画同好会の部長が、「図書室の君」と呼ばれる立花亜麻里に製作映画のヒロインを依頼するのだが、何度頼んでもなかなか引き受けてくれない。それでも小さいときに読んだ「宝石職人の話」が描かれている児童書を探してくれたら、OKしてもよいという返事をもらうのだったが……。

 なんとこの立花亜麻里と、『サクラ咲く』に登場した図書室のメモを書いた謎の人物がなんとなくダブってくるのだ。もしかすると彼女たちは、若かりし頃の辻村深月の分身なのではないだろうか。ジュニア向けの中編集であるが、いい年をしたおじさんにも楽しめたのは嬉しかったね。

評:蔵研人

天使の歩廊4

著者:中村弦

 時代背景は明治末期から昭和初期まで、主人公は笠井泉二という建築家である。だが笠井は単なる建築家ではなく、悪魔的というか幻想的というのか、とにかく摩訶不思議な建物を設計するのだった。本書はその笠井泉二と彼が創作した建物を取り巻く話六作を繋いだ連作短編集である。

 著者の中村弦は本作にてデビューし、同時に「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞し、選考委員たちから絶賛のエールを送られたという。それにしてもひとつひとつのストーリーは丁寧な構成で味わい深く、江戸川乱歩のようなおどろおどろしさや、SF的異次元世界の壮大感も漂ってくるではないか。
 ただ洗濯屋の次男として生まれた主人公が、なぜこれほど超天才的な能力を発揮できたのかの説明は一切なされていないし、ラストも曖昧なまま無理矢理閉めた感がある。もちろん謎めいた存在感に満ちているからこそファンタジーなのだが、一抹の違和感は拭いきれない。

 建築物自体はまさに物質の塊なのだが、そこにはなんとなく怨念や異様な雰囲気を感じることがある。それはある意味「別世界への入口」に通じるからなのだろうか。そして小説のメインテーマに特殊な建物を選んだことが、前述した選考委員たちの絶賛を浴びた一因なのかもしれない。それにしても、著者も本作の主人公同様ある種の天才なのだろう。

評:蔵研人

風が吹けば3

著者:加藤実秋

 高校生の健太が2009年から1984年にタイムスリップし、バイト先の雇用主である女性カメラマン和希の少女時代に遭遇し恋心を抱くという青春物語である。現代が2009年では既にもう現代自体も、過去の遺物になってしまっているのだが、古本なのでしかたがないのだ。
 また過去に跳んだ先で知り合ったのが暴走族たちで、健太も知らず知らずにその仲間になってしまう。そしてその仲間たちの一人が少女時代の和希であり、健太はその和希にほのかな恋心を抱いてしまう。また何人かの気になる友人たちもできるのである。またタイトルの意味は、ある風が吹くと共にタイムスリップするからであろう。

 さて本作の大半は、過去で健太が遭遇するベタな経験なのだが、本当の読み処はそれら過去の出来事ではない。終盤になって健太が現代に戻ったとき、過去に知り合った仲間たちがどのように成長しているのかと言うことに興味を惹かれるのだ。とは言っても、まあ大方が想像通りの展開だったのであるが、それがまた一番安心できる展開だったとも言えるだろう。
 いずれにせよ余り捻りのない素直なストーリーなので、ある意味『お子様ランチ』かもしれない。ただ実に読み易く、1984年を垣間見ながら一気に読めてしまうところがサッパリしていてベターだったかもしれない。ただなぜ1984年なのだろうか、それは著者が18歳の青春時代だったからであろう。従って1984年に思い入れのない人には、余り郷愁は感じられないかもしれないね……。

評:蔵研人
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