著者:リチャード・マシスン

 短編ホラー作家のリチャード・マシスンが書いた二つの超次元恋愛長編小説のうちの一冊である。もう一冊はタイムトラベル恋愛小説の『ある日どこかで』で、両方とも映画化されている。
 本作は不慮の事故で命を落とした主人公クリスが「常夏の国」と呼ばれる天国へ辿り着くのだが、毎日のように最愛の妻アンのことばかり気になって落ち着かない状況が続く。そんな折現世では、やはり最愛の夫を亡くしたショックから立ち直れない妻のアンが自殺をしてしまうのだった。

 悲しいことに自殺をした者はすぐには天国へ向かうことが出来ない。そして長期間に亘って、自分の創り出した闇の世界である地獄に閉じ籠ってしまうのだ。
 そのことを知ったクリスは、愛するアンを地獄から助け出すために、恐ろしい闇の世界へと旅立つのである。だがその難行は未だかつて誰も成功したことがなかった。そして事実クリスも地獄では多くの苦難に遭遇し、やっと逢えたアンにも自分の存在を認めてもらえず、挫けそうになるのだった。

 熱烈な恋愛小説仕立てに調理しながら、実は『死後の世界』を科学的に説明してゆく構成は、かなりユニークな実験的手法と言えよう。そして見事にまとめられた思想的背景は、スウェーデン王国出身の科学者スウェーデンボルグが語った死後世界を彷彿させられる。またギリシャ神話や仏教にも染まっているように感じられる。

 いずれにせよ、死は誰にでも訪れるものである。だからこそ死に対して無頓着な人は少ないはず。本書は『死後世界の入門書』として、あるいは『死を恐れないための護符の書』として、全世界の人々にとって大いに役に立つはずである。死後世界について興味のある方、また逆に死後世界の存在を全く認めない方たちに、本書を一読されることをお薦めしたい。

 さて映画のほうはロビン・ウイリアムスの主演で1998年に上映されている。そしてクリストファー・リーヴ主演の『ある日どこかで』と同様かなり高評価のようだ。私はまだ映画化された『奇蹟の輝き』のほうは未観なので、是非ともレンタル屋でDVDを探し出そうと考えているところである。


評:蔵研人