著者:梶尾真治

 タイトルのクロノス・ジョウンターとは、正式名称を『物質過去射出機』という。人や物を過去の目的の時と場所へ放り込む装置、要するにタイムマシンである。ただその性能には幾つかの大きな問題があった。最大の問題は、人も物も過去では数分間しか滞在できないということである。後に過去での滞在時間を引き延ばす装置が発明されるのだが、それでもせいぜい数十時間しかもたない。

 しかも現在に引き戻されるのではなく、現代と過去の長さが長いほど、遠い未来へ跳ばされてしまうのである。いわば時間流に逆らった罰金のようなものであるが、跳ばされた人間は浦島太郎状態になってしまうのだ。さらに過去のものを未来に携帯できないという制約もあるらしい。

 本書はこんな開発途上のクロノス・ジョウンターを巡るタイムトラベルラブストーリー集であり、次の中編4話で構成されている。
第1話 吹原和彦の軌跡
 愛する女性を大惨事から救うために、まだ実験途中のクロノス・ジョウンターで、無理矢理過去へ跳んだ吹原和彦の話。この頃はクロノス・ジョウンターが開発されて間もない頃なので、過去では数分間しか滞在できず、彼は何度も搭乗を繰り返すことになる。

第2話 布川輝良の軌跡
 布川輝良がクロノス・ジョウンターに搭乗した頃は、当初より過去での滞在時間を引き延ばす装置が発明されたのだが、それでもせいぜい数十時間しかもたないという。彼の場合は吹原和彦と違って正式な実験に応募し、会社から未来へ戻った場合の保証も与えられている。また彼が過去へ跳ぶことを希望した理由は、過去にしか存在しない建物を見るためであった。さらに過去で偶然理想の女性と遭遇するのである。

外伝  朋恵の夢想時間
 本作だけはクロノス・ジョウンターではなく、クロノス・ジョウンターと並行して開発されていたクロノス・コンディショナーと呼ばれるタイムマシンに搭乗し、自分の忌まわしい過去を改変しようとした角田朋恵のお話。なおクロノス・コンディショナーは、物質を過去に運ぶのではなく、精神だけを過去の自分に送り込むという装置なので、クロノス・ジョウンターのように数時間後に反動で未来に跳ばされるようなことはない。

第3話 鈴谷樹里の軌跡
 子供の頃に病院で知り合ったヒー兄ちゃんは、難病「チャナ症候群」に罹って27年の生涯に終止符を打ってしまう。そして19年後、鈴谷樹里が女医となった頃に、「チャナ症候群」を治す薬品が開発されていた。彼女はその薬を携え、クロノス・コンディショナーに搭乗し、ヒー兄ちゃんを救いに19年前に跳ぶのであった。
 

評:蔵研人