タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

2019年10月

七瀬3部作4

著者:筒井康隆

 もうかなり前の作品だが、筒井康隆の書いた、『家族八景』、『七瀬ふたたび』、『エディプスの恋人』という小説群がある。この3作は、全作が火田七瀬という、テレパシー能力を持つ美女が主役のSFで、『七瀬3部作』とも言われている。

 『家族八景』は、七瀬が八軒の家のお手伝いさんをしていた頃のお話で、SF版『家政婦は見た』のようなオムニバス短編集である。彼女はテレパシー能力に勘づかれないよう、お手伝いさんとして8つの家庭を転々とする。超能力者ゆえに、それぞれの家庭に散在する欲望や狂気を読み取ってしまい、怒りと失望感を味わい葛藤してゆく。本書が三部作の中でも一番評価が高いようである。

 『七瀬ふたたび』は、その続編であり、七瀬がいろいろな超能力者と出合ってゆく話。ここでタイム・トラベルが可能な超能力者と出会う。これもある程度連続性のあるオムニバス作品である。また『七瀬ふたたび』については、2010年に芦名星主演で映画化されているが、残念ながら余り評価は高くなかった。

 そして最終巻の『エディプスの恋人』だけが、長(中)編で、作風もそれまでとは異なり、急にシリアスになってしまった。
 そしてラストは宇宙だの神だのと、スケールも大きくなってくるのだ。だから、従来の展開を期待した筒井ファンには、余り評判が良くないようである。但し私の評価は決して低くはない。いろいろな展開があっても良いし、長(中)編で、じっくりと謎を解いてゆくのも楽しいと思ったからである。

評:蔵研人

ミッション:8ミニッツ5

製作:2011年 米国 上映時間:93分 監督:ダンカン・ジョーンズ 主演:ジェイク・ギレンホール

 正確にはタイムトラべルではないのだが、『恋はデジャ・ブ』とか『ターン』とか『リプレイ』などのように、何度も時間を繰り返すストーリーである。私の大好きなテーマということもあり、ちょっと採点が甘いかもしれないが、最近観た映画の中では一番面白かった。

 テロによって、乗客全員が死亡する列車爆発事故が起こる。更なる犠牲を出さないため、政府の極秘ミッションが始動。「ある方法」によって犯人を探し出すというのだ。
 その「ある方法」とは、ある兵士の意識に、死亡した乗客の記憶を転送するという技術である。だがそのタイムリミットは8分間だという。つまり死者には、残像と同様に、絶命寸前8分間の記憶が残存しているという仮定による。
 だが8分間では何も出来ない。従ってこれを何度も繰り返すことによって、無駄を省き重要な事実だけを探り当てるのだ。ただ兵士の体力の限界もあるため、ある程度の回数しか繰り返すことは出来ない。

 実によく出来ている設定である。もしその8分間の中で、途中下車するなどして、事実と異なる行動をとったらどうなるのか。そして物語は核心に迫ってゆく…。またこの結末は、誰にも予測が困難だという。本作はタイムトラベルではなく、どちらかというとパラレルワールドだと言えば、何となく結未も予測出来るだろう。

 キャストは主役のコルター・スティーヴンス大尉に、『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』のジェイク・ギンレイホール。ヒロインのクリスティーナには、『デュー・デート』のミシェル・モナハンといったところ。
 双方ともなかなか役柄にはまっていたよね。またスクリーン上の主人公同様、初めは余り乗り気のしない女性だったミシェル・モナハンが、何度も繰り返して会っているうちに、だんだん愛しくなってきたから不思議である。
 この映画の内容については、余り詳しく語らないほうが良いだろう。とにかく決して損はないと思うので、劇場で観てもらうしかないね。

評:蔵研人

鬼神伝(アニメ)3

製作:2010年 日本 上映時間:98分 監督:川崎博嗣

 平安時代には鬼と人間が戦っていたという。鬼たちは妖怪達を味方につけているため、人間たちのほうが旗色が悪い。そこで超能力を駆使する密教僧・源雲は現代より、スサノオの子孫でやまとのおろちを操れる天童純をタイムスリップさせる。

 前半はなかなか興味深い展開だったのだが、鬼達の正体が分かってからは、なんとなくしらけてしまった。それは平安時代が魔術と超能力だけの世界に染まってしまったからである。
 人間にもそれほどの力があるのなら、そもそも純をタイムスリップさせる理由があったのか。鬼の仲間にさせないために、先手を打ったとも考えられるが、なにかすっきりしないんだなあ。

 平安京などの背景は、かなり丁寧に描かれていて、映像には全く文句のつけようがないのだが、あの滑稽な鬼一族の正体には、かなりボルテージが下がってしまったことも否めない。
 またタイムスリップそのものには、全く言及していないし、タイムパラドックスも皆無である。タイムスリップは、純を平安時代に運ぶための単なるアイテムに過ぎない。従ってこの作品は、正確にはタイムトラべルものとは言えないだろう。タイムトラべルものを期待していただけにちょっと残念だった。

評:蔵研人

ミスター・ノーバディ3

製作:2009年 フランス他 上映時間:137分 監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル

 21世紀末の近未来では、人は死なない存在になっていた。そこでは肉は食わず、タバコも吸わず、セックスさえしない。そんな世界で最後の死ねる人間となったのが、ミスター・ノーバディ氏であった。
 彼は全ての記憶を失ってしまったのだが、死ぬ間際になって、催眠術により断片的な記憶を取り戻す。だがその記憶とは、もしあのときこうすれば、こうなっていたというパラレルワールドの世界だったのである。
 その原因となったのは、彼が5才のときに両親が離婚したことであり、そのときに彼が郊外に住む父親の元に残るか、母親と一緒に都会に出るかの厳しい選択だった。

 ここまでざっとあらすじを書いていると、あたかも分かり易い作品のようなのだが、実際にはかなり前衛的で難解な創り方をしているのである。従って最後までこの映画のメッセージを正確に受け止めることが出来なかった。
 だからといって決して駄作というわけではなく、それなりに面白いし、ヨーロッパ映画にしては製作費も使っているし映像も美しい。ただハリウッド風に時間の逆行やパラレルワールドという構成を意識し過ぎると、多少期待外れ感を抱くかもしれない。あくまでもヨーロッパ映画であることをお忘れなく。

評:蔵研人

パンドラの火花4

著者:黒武洋

 タイムトラべル小説なのだが、今だかつて読んだことのない展開であった。ある意味、罪と罰の根源を問うクライム・サスペンスともいえるだろう。従ってタイムトラべルファンではなくても、十分に読み応えのある重厚な作品に仕上がっている。

 背景は2040年。死刑制度が廃止になるのだが、すでに死刑執行が決定していた死刑因たちの処遇が宙に浮いていた。そこで政府は、すでに完成しているタイムマシンに模範死刑因を乗せて過去へ跳び、死刑因自身に過去の自分を説得するよう命じる。そして過去の凶行を未然に防げれば、死刑囚の罪は消えると言うのだった。

 かくして3台のタイムマシンが、それぞれ死刑因と監視員の2人ずつを乗せ、35年前の世界へと時空を跳び立ってゆくのである。ストーリーはこの三人の死刑因達の行動を、それぞれ角度を変えて描くオムニバス形式になっているが、ラストの帰還編とエピローグで見事に一つの話として繋がってゆく。実に興味深い話ではないか。

 また、この小説を原作にしたデジタルコミックもネットで発売されている。こちらのほうはまだ未読であるが、近藤崇氏の現実的な中におどろおどろしさを併せ持つ、魔化不思議なタッチの画が気になってしょうがない。こちらも是非一読してみたいものである。

評:蔵研人

届かぬ想い4

著者:蘇部健一

 イケメンパパの小早川は、美しい妻と可愛い娘に恵まれ、平和で幸福な日々を送っていた。ところがある日、娘が何者かに誘拐され、そのまま生死も確認出来ないまま行方不明となる。さらにそれを苦にした妻が自殺をし、彼はさらに苦境に追い込まれるのだった。

 その後にひょんなことから、彼は再婚することになるのだが、生まれてきた二人目の娘は、不治の病に侵されてしまう。度重なる悲劇に、彼は絶望の淵にたたされる。
 だが娘を難病から救う方法がひとつだけあるという。それは、何と秘密のタイムマシンに乗って未来へ行き、そこですでに完成している難病の薬を手に入れるという荒唐無稽な話だった。

 タイムトラべルにからむパラドックスが盛り沢山なのだが、広瀬正やハインラインなどの臭いが強烈にする。また人間として絶対にやってはいけないことを平然と描いているのも気になった。
 だから何となくキワモノの感があるのだが、タイムトラべルファンなら夢中になってあっという間に読破してしまうことだろう。

評:蔵研人

帰還4

著者:リチャード・マシスン



 実はキャメロン・ディアス主演の『運命のボタン』という映画を観て、どうもボタンを押した後の成り行きとか結末がはっきりしないのでリチャード・マシスンの原作を読むことにしたのである。ところがこの原作は、僅か17頁の超短編であり、結末も赤の他人ではなく自分の旦那が事故で死ぬのだ。しかも100万ドルではなく2万5千ドルの生命保険が手に入るという皮肉。さらに「知らない人が死ぬと言ったじゃないの!」と抗議すると、「あなたはほんとうにご主人のことをご存知だったと思いますか?」と問われる超皮肉。
 実にシンプルなのだが、だらだらとおかしな方向転換をしてしまった映画よりずっと出来が良い。そりゃあ原作だから当たり前か・・・。

 さてそんなわけで超短編の原作は、わずか10分程度で読み終わってしまったのだが、この『運命のボタン』以外にもマシスンの短編・中篇が以下の通り12篇収録されている。
『針』、『魔女戦線』、『わらが匂う』、『チャンネル・ゼロ』、『戸口に立つ少女』、『ショック・ウェーヴ』、『帰還』、『死の部屋の中で』、『子犬』、『四角い墓場』、『声なき叫び』、『二万フィートの悪夢』

 ほとんどがホラーまたはSFであり、どの作品もなかなか面白かった。その中で偶然タイムトラベルものが一作見つかったのである。タイムトラベルファンとしては嬉しくて小躍りしてしまった。『帰還』という作品である。

 愛する妻を残して、タイムマシン(時間転移機)で500年後の未来に跳び立つ男の話だが、ちょっとしたミスから安全ベルトが外れてしまう。しばらくして気が付くと500年後の世界にたどり着いているのだが、そこの住人に元の世界には戻れないと言われる。だが彼はもう一度愛妻に逢いたくて、無理やり元の世界を目指すのだった。
 といったお話であり、その後マシスンは同じ設定のタイムマシンを使った連作中篇シリーズを思いつき、『ショック・・・・・・』、『旅人』などを書いたという。なんとなく梶尾真治の『クロノス・ジョウンターの伝説』みたいだな。是非この二作も読んでみたいのだが、絶版なのかなかなかみつからないのが残念である。

評:蔵研人

失われた七日間4

製作:2006年 韓国 監督:ムン・ヨンジン 主演:ユン・サンヒョン

 韓国のTVドラマで、主演は韓国のキムタクことユン・サンヒョンである。タイトルのイメージから、記憶喪失を題材にしたドラマのように感じるが、一週間が逆に過ぎてゆくというミステリアス・ファンタジーなのだ。

 毎日が繰り返すという設定の作品は幾つかあるが、毎日が逆に進んでゆくというのは初めてである。あらゆる種類のドラマで氾濫している韓国ならではの、苦肉のアイデア作品なのであろう。それにしても上手に明日から今日へ、今日から昨日に繋がるストーリー展開が、良く出来ているので感心してしまった。こうした作品は、いつの間にか韓国のお家芸になってしまったようである。

評:蔵研人

未来医師3

著者:フィリップ・K・ディック

 医師のパーソンズは、ある日突然25世紀の未来へタイムスリップしてしまう。そこでは人種の混交が進んでいて、白人社会ではなく黄色人種が支配する世界に変貌していた。
 また平均寿命は15歳で、廷命するための医療行為が重大な罪とされていたのである。だがこの変態的社会に異を唱える種族もいて、パーソンズは彼等によってタイムスリップさせられたのであった。

 ディックの作品としては、余りにも遅過ぎる翻訳本であるが、読んでいて何となくその理由が理解出来た。つまりありていに言えば、ディック自身がほとんど評価していないほど、彼の駄作の一つだからである。

 確かにストーリー全体の構成がちぐはぐだし、人物描写にも深味がない。だが後半になって、冷凍保存されているコリスをどうしても救えない謎に惹かれた。また過去へのタイムトラべルにおけるパラドックスとのしがらみも巧く描かれているではないか。
 まるでこの後半のために無理やり創ったお話という気がしないでもない。そんなタッチのSF小説であるが、タイムトラべルファンなら、一度読んでおいたほうが良いだろう。

評:蔵研人

虹色ほたる3

著者:川口雅幸

 上下巻を合併しても約500頁程度の小説だが、なぜ上・下二冊に分冊したのだろうか。出版社側の経営判断なのだと思うが、文庫本を二冊合計して1000円を超える価格はちょっと読者側には厳しいね。だがそれにしても、どの書店にも平積されているところをみれば、かなり売れているのだろう。

 著者の川口雅幸氏は、1971年生まれの中年男性であるが、ホームページ上で本作を連載していたという。それをアルファポリス社に見い出されて、2007年に単行本として上梓され、出版界にデビューしたという。最近こうした作家が増えてきたことは、同様の志を持つブロガーとしては実に喜ばしい限りである。

 さてストーリーのほうだが、夏休みのある日、小学6年生のユウタは、亡父との思い出の残る山奥のダムを一人訪れる。そこでユウタは突然雷雨に襲われ、足を滑らせて気を失ってしまう。気がつくとそこは1970年代の村の中であり、まだダムも作られてはいなかった。
 そこにはカブト虫やクワガタ虫がうじゃうじゃ生息し、蛍もたくさん飛び交っている。まさに失われた日本の原風景が目前に展開されていたのだ。そしてその世界では、同年令のケンゾーとの冒険、そして妹のような謎の少女・さえ子との出会いがある。

 いずれは元の世界に戻らねばならない運命のユウタは、夏休みを思い切りこの不思議な村で遊びほうけることに決める。そしてやがてやってくる友たちとの別れの日…。
 ラストはいきなり10年後の世界だ。そこで感動のクライマックスを迎えることになる。本作は、誰の心の中にも存在するノスタルジーを、甘く切ないオブラートで包んだファンタジー作品と言えよう。

 やや子供向けの作品であるが、大人が読んでも十分楽しめるだろう。ただ少し残念なのは、過去にも未来にも亡父が現われないことである。そのあたりも含めて、余りにもべタ過ぎる展開が物足りない。無印良品ではあるが、ファンタジーとしては、もうひと捻りが不足していたのではないだろうか。

評:蔵研人

きみがぼくを見つけた日3

製作:2009年 米国 上映時間:110分 監督:ロベルト・シュヴェンケ 原作:オードリー・ニッフェネガー

 この映画を観て、原題が『ザ・タイムトラべラーズ・ワイフ』だということを知って驚いてしまった。この原作本は、かなり前から私の蔵書に加わっているのだが、長い間未読のまま本棚の奥深く眠っていた。だから『きみがぼくを見つけた日』、というタイトルの本が出たとき、同じ小説とは知らずにダブって購入してしまい、これまた未読のまま私の書斎で眠っていたのである。

 タイムトラべルファンとしては、この映画が上映されたときも、非常に気になっていたのだが、いろいろ事情があって劇場で観ることが出来なかった。それでDVDが出るまでじっと待ち続けたのだが、かなりレンタル中が続き、やっと今頃になって手にすることが叶った訳である。
 そこで初めて原題を知ったと同時に、タイトルは異なるが、内容が全く同じである蔵書が二冊あることにも気付いたのである。上・下巻あるので、正確には四冊ということになるけどね。

 そしてDVDで映画は観たものの、いまだにこの原作は、書斎で眠り続けているありさまだ。ストーリーの大きな流れとしては、自分の意思とは関係なく、過去や未来にタイムスリップしてしまう、時間障害という不思議な体質を持った男と、その妻の半生を描いた奇妙なお話といったところか。『ベンジャミン・バトン』同様、特異体質を持つ男の切ないラブストーリーなのである。

 ただ映画には「おおむね2時間」という時間制限が伴うため、半生や一生を描く作品をその時間内に収めるのは至難の技であろう。だからといって、よほどの大作でもない限り、三部作などという贅沢は不可能である。従って、ある程度無理を承知で映画化したに違いない。そのせいか、ストーリーの一部に理解し難い部分があった。

 
 それで急遽、原作を読んでみることにしたわけである。原作のほうは、前半は何度もヘンリーがクレアのもとを訪れる。ヘンリーが時空を跳んでくるたびに、クレアは成長してゆくのだが、ヘンリーのほうは中年だったり、若かったりと転々バラバラで、一定の法則もないようだ。とにかく嫌になるほど頻繁にタイムスリップを繰り返すのだ。

 だがどんなに若くとも、現実のへンリーが始めてクレアとめぐり合った27才より若いということはないのだ。この現象はたぶん、タイムスリップする原因とも関わってくるのであろう。
 つまりへンリーがタイムスリップする場所は、彼が大切に思っている人がいる場所ということになる。だからこそ最愛のクレアのもとに何度も現われるのだろうか。

 上巻はへンリーとクレアが無事結婚式を終えるまでを描くのだが、余りにも執拗なタイムスリップに辟易してしまう。まだなぜ自分の意志とは無関係に、全裸でタイムスリップしてしまうのかは明かされていない。タイムスリップのつど服を探すという奇妙な展開が執拗に続くことに辟易してしまう。
 下巻を読み終えるにはかなり時間がかかってしまった。上巻の愁眉はへンリーとクレアの結婚であったが、下巻では二人の子供を生むことが焦点となっている。

 つまり子供にもへンリーの遺伝子が承継されるため、胎児の時代からタイムスリップしてしまい、結局母体を損傷した挙句に流産となってしまうからである。だが胎児がどこにタイムスリップしてしまったのかまでは描かれていない。
 結局へンリーがタイムスリップしてしまう原因は不明のまま、多分特殊な遺伝子のために起こるのだという訳の判らない理屈の中に封じ込められてしまうのだ。こうして延々と出口の見つからないホームドラマが続くので、途中でだんだん嫌気がさしてくる。

 ただしラストの収束だけは実に見事で、ここでタイムスリップと永遠の愛が繋がってくる。ただゴメスとクレアの不倫だけは、全く意味が無いしこの永遠の愛に水をさす行為にしか写らないのが残念である。
 映画のほうはだいぶ原作アレンジしているが、実によくまとめている。皮肉めいているが、それがこの長ったらしい原作をやっと読み終わって、得た収穫かもしれない。

評:蔵研人

プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂4

製作:2010年 米国 上映時間:117分 監督:マイク・ニューウェル 主演:ジェイク・ギレンホール

 舞台は古代ペルシャ。時間を遡って過去へ行ける「時間の砂」をめぐっての、アクションアドべンチャー映画である。めまぐるしいアクションはもちらんのこと、古代ペルシャの街や城の映像もすごい。

 また親子愛・兄弟愛・お姫さまとの冒険に、ちょっとしたタイムトラべル。神秘的で壮大なストーリー、そして懲悪勧善で安心して観られるラストシーン。さすがディズニーと手を叩きたくなるほどの出来映えであった。

 主演はジェィク・ギンレイホールで、なかなかスピード感があり、セクシーでかっこよいね。またお姫さま役の女優もなかなか可愛いじゃないの。
 僕はだいたいインディージョーンズとかハムナプトラといったアドべンチャー系が苦手なのだけれど、本作に限っては十分楽しく鑑賞出来た。やはりタイムトラべルがからむからであろうか。 

評:蔵研人

セブンティーン・アゲイン4

製作:2009年 米国 上映時間:102分 監督:バー・スティアーズ

 高校バスケットボールのスター選手マイクは、大学のスカウトが見守る大事な試合を投げ出し、恋人・スカーレットの元へ走る。スカーレットが妊娠したためである。
 だがそのために、大学進学は不可能となり、過去の栄光も水の泡。20年間、毎日それを悔やむ人生を続けたため、妻子に見捨てられ、家庭は崩壊寸前。そのうえ会社での昇進も、完璧に絶望的な状態となる。
 八方塞がりのマイクには、もしもう一度青春時代に戻れたらと、強く悔やみ・念ずる以外に成すすべがない。ところがその願いが通じたのか、ある大雨の日に17歳の姿に戻っている自分を発見して驚愕する。

 このお話は『リプレイ』のように、若かりし日にタイムスリップするのではなく、同時代に体だけが若返るのである。だから人生をやり直すといっても、昔と同じ環境で再出発するわけではないのだ。
 従って、マイクの感性は現代高校生としては、古過ぎてオジン臭い。そのうえ編入する高校には、娘と息子も通学しているのである。いってみれば、トム・ハンクスの『ビック』の逆バージョンなのだ。
 そこがなかなか面白いし、若かりし日のマイクを演じたザック・エフロンの好演も光っていたね。また彼のクールなイケ面とオジンの感性がブレンドされ、なかなか好感の持てる青年に仕上がっているじゃないの。僕はゲイじゃないけど、オジさんからみても惚々するほどカッコ良くみえたね。

 お決まりのパターンかもしれないけれど、息子との友情と妻への愛情にはウルウルとなってしまった。さらに娘に迫られて、必死に逃げ回わるシーンには大笑い。
 そしてラストシーンは、100%予想通りの展開であったが、それでも胸にジーンときてしまう。ハラハラ・ドキドキ、笑いあり涙ありで、おまけに「後ばかり振り返らず、前を見よう!」という教訓付、絵に描いたようなハッピーエンド。いくつか辻褄の合わない部分もあるが、僕はこういう話に心が癒される気質なのだから、楽しくて嬉しくてしょうがない。

評:蔵研人

たんぽぽ娘4

著者:ロバート・F・ヤング

 1962年にロバート・F・ヤングが発表したラブファンタジー作品。ロマンチックSF短編の旗手である梶尾真治が影響を受けた作品だという。だからファンタジーSFファンには堪らない魅力を持つ短編なのだ。
 ところが残念なことに絶版で手に入り難い。こうなると益々欲しくなるのがファン心理なのである。それでアマゾンマーケットプレイスで探したら、『たんぽぽ娘ー海外ロマンチックSF傑作選2』が、何と中古品で15,000円也!
 さすがの私も15,000円払うほどオタクではない。そもそも短編なので、ほかのタイトルで収録されている書籍があるはずである。そう考えて調べたところ、文春文庫の『奇妙なはなし』というタイトルの中に、『たんぽぽ娘』が収録されているではないか!。
 ところがこちらも絶版で、やはりアマゾンで中古品が2,600円~8,500円とある。みんな良く知っているのだ。それで地元の図書館の蔵書をネットで検索したら、あったあった!やっと見付けて貸出予約をすることが出来たのである。

 てなわけで、やっと手にした『たんぽぽ娘』は、期待にたがわず、実に素晴らしい「珠玉の名作」であった。そしてストーリーは判り易く、ポエムのように美しく流れて、あっという間に読了してしまった。

 主人公は法律事務所を経営するマークという44歳の男性である。彼は毎年四週間の夏休みのうち、前半の二週間は、妻と息子が選ぶ避暑地で親子水入らずで過ごし、後半の二週間は、湖のほとりにある山小屋で妻のアンと二人で過ごす習慣になっていた。
 ところが今年は、アンに陪審員の役が回ってきたため、マークは一人ぽっちで、山小屋で過ごさなくてならない。だがそのお陰で彼は不思議な体験をすることになる。

 それは彼が、湖の先にある森を抜けたところにある丘を散策しているときに起った。そこには古風な白いドレスを身につけ、たんぽぽ色の長い髪を風になびかせている若い女が佇んでいたのだ。
 彼女の名前はジュリーといい、未来からタイムマシンに乗ってやってきたという…。その日から、マークとジュリーは毎日のように丘の上で逢う。そしてマークは年がいもなく、彼女に淡い恋心を抱き始めるのだった。

 ここまで書けば、だいたいの成り行きがわかるだろう。決して不倫小説ではないので念のため。本作は恥しくなるほど純情で優しい、リリカルなラブファンタジーなのだから。
 そして忙しい現代では、いつの間にか忘れ去ってしまった清らかな心を蘇らせてくれる。さらに感動のラストシーンは、タイムトラべルによる循環の輪によって、実に見事に収束されているではないか。

 かなり古い本ではあるが、それこそ時代を超えた珠玉の名作といえよう。さらに付け加えると、この『奇妙なはなし』には、本作のほか福島正美『過去への電話』、つげ義春『猫町紀行』、江戸川乱歩『防空壕』、谷崎潤一郎『人面疸』など、そうそうたる19作の短編が収められている。なぜこんな凄い短編集が絶版なのか、つくづく不思議でならない。

※本評は9年前に書いたものであり、現在『たんぽぽ娘』は復刊している。ただし『奇妙なはなし』のほうは絶版のままのようである。念のため・・・。

評:蔵研人

エロス もう一つの過去4


著者:広瀬正

 アダルトなイメージを彷彿させられるタイトルだが、決してエロ小説ではないので念のため。タイトルは歌の題名なのである。
 著者の広瀬正氏は、タイムトラべルテーマにとりつかれた作家だつたが、残念なことに、1972年に、40代で鬼籍に入ってしまった。生前はジャズバンドのリーダーをしたり、オーディオに凝ったり、クラシッカーの製作を手がけたりと、多才な文化人だったという。

 彼の代表作は、タイムマシンがテーマになっている、『マイナス・ゼロ』というほのぼのとしたユーモアSFで、当時直木賞の候補にもなった。本作はSFといえるかどうか、わからないが、「もしあの時、こうしていれば、こういう別の過去があった」というお話で、これを『パラレルワールド』と考えれば確かにSFと呼べるかもしれない。

 ストーリーはかなり地味だが、いつもながら昔懐かしい、心暖まる昭和ラブストーリーだった。ある意味『マイナスゼロ』のサイドストーリーといっても良いだろう。
 確かに時代背景と場所と一部の登場人物は、『マイナスゼロ』と全く同じだった。それに少年時代の作者自身まで登場するので笑ってしまう。これら一連の流れも、一種の『広瀬流循環作用』なのだろうか。 

 もしあのとき、そうしていれば人生が変わっていたとは、誰もが一度は考えるに違いない。本作でも主人公の橘百合子(赤井みつ子)が、もし映画を観に行かなければ、歌手になれずヌードモデルになっていたというのである。それで現在・過去・現在・もう一つの過去・現在・過去…と小刻みに話が揺れ動いててゆく。もうひとつの過去のほうで、『マイナス・ゼロ』のタイムマシンで跳んだ時代と場所がリンクし、大工のカシラ一家と出会うことになるのだ。

 『マイナス・ゼロ』でも言えることだが、本作の見どころは、過去の分岐だけではなく、昭和初期の様子を余すところなく書き連ねていることだろう。それにしても広瀬正という人は、几帳面というか凝り性というか、当時の有名人から物価まで、念入りによく調べあげたものである。
 当時の市電やタクシーの状況、ラジオや初期の自動車、TVの開発、東京の家賃、ヒットした映画など生活に密着したデーターが満載。さらに阿部定事件から、二・二六事件、支那事変、東京オリンピック中止騒動など、次々と有名な事件が描かれてゆく。

 もちろんストーリー的にも十分面白いのだが、知らず知らずに「昭和東京史」の知識が身に付いてしまうのである。過去に『マイナス・ゼロ』の映画化が企画されたが、余りにも製作費がかかり過ぎるということで没になったという。今なら、『三丁目のタ日』のスタッフ達で映画化することも可能だろうが、知名度の点で実現はちょいと難しいだろうな・・・。
 ちなみに、主人公・橘百合子のモデルになった大物女性歌手とは、たぶん「淡谷のり子さん」なのではないだろうか。

評:蔵研人

タイムトラべラー ~戦場に舞い降りた少年~4

製作:2002年 英国 上映時間:95分 監督:ハーレイ・コークリス
 

 邦題の大げさなタイトルに比べると、原題は『メイの天使』とシンプルで、この映画の全てを語っているかのようだ。なぜこんな長ったらしく、派手な邦題を付けてしまったのだろうか。

 トムの母親は、トムが所属するサッ力ーチームのコーチと愛し合う仲だ。彼女は別居中の夫と正式に離婚し、コーチとの結婚を望んでいる。そんな関係を知っているチームメイトたちに冷かされ、トムはふてくされて、コーチや母親に対しても反抗的だ。
 ある日トムが、奇妙な犬の後をつけて森の中に入ると、そこには暖炉のある廃墟があった。犬に体当たりされたトムが、暖炉の中に転げこむと、なんとそこは第二次世界大戦中の世界だったのだ。

 そこでトムは、孤児で変人のメイという少女と出会い、彼女や彼女の保護者達と数日間一緒に暮らすことになる。人見知り癖のあるメイであったが、なぜかトムにはすぐなついてしまったのだ。彼女にとって、不思議な感じのするトムは、まるで天使のようであったのだろう。だがトムのほうは、次第に元の世界に戻りたくなり、稲妻の光る晩に、現代に再びタイムスリップするのだった。

 せっかく元の世界に戻ってきたトムだったが、現代で「あの時代の衝撃的な事実」を知り、再びメイのいる時代へ跳んでゆく決心をする。タイムスリップするためには、廃墟の暖炉とあの奇妙な犬と稲妻が必要だ。トムが森の中に入ると、廃墟の暖炉の前に薄汚れた老婆が犬と戯れているではないか…。

 この老婆の存在は、映画好きの人ならすぐに、クリストファー・リーヴの『ある日どこかで』を思い出すに違いない。だがこちらの作品のエンディングはハッピーなので、きっと誰もがホッとするはずだ。
 主人公も少年・少女だし、戦闘シーンも兵隊もほとんど登場しない。そのうえハッピーエンドとくれば、これはジュニア向けの作品なのかもしれない。だが大人でも十分楽しめる心温まるファンタジーに仕上っているので、DVDをレンタルしても決っして損はしないだろう。

評:蔵研人


時をかける少女 実写3

製作:2010年 日本 上映時間:122分 監督:谷口正晃 主演:仲里依紗

 今までこのタイトルの映画を何度観ただろうか。筒井康隆の原作が初めて世に出たのは昭和40年代であるが、昭和58年の大林監督作品を皮切りに、なんと4回も映画化されているのだ。
 SFファンタジーなので、余り時の経過が長過ぎると陳腐化してしまう。それで4年前に上映されたアニメ版では、原作を大幅に改ざんして、「原作の主人公の姪」が主人公になり、時代背景も原作から約40年後という設定に変えられた。
 そのお陰で、主人公の女子高生が超ミニをはいても違和感がなく、テンポもよくストーリー的にもかなり好評で、期待以上の興行収入をあげたようである。二匹目のドジョウを狙ったのか、本作も時代背景が現代となり、主人公は「原作の主人公の娘」という設定になっている。

 今回は、原作の主人公(母)が高校生だった時代にタイムスリップするという思い切りの良い設定には好感が持てた。また主人公の仲里依紗は、序盤こそぎこちない演技であったが、切なさと爽快感の双方を併せたような存在感が可愛かったね。それに、『純喫茶磯辺』や『パンドラの匣』のときはポッチャリしていたのに、かなりスリムになりキュートになった気がする。
 それと、中尾明慶扮する涼太の風貌が、昭和40年代の青年そのものであったことには笑えたな。彼はまさに私の青年時代の友人と、そっくりだったのである。

 ただ残念なことに、低製作費のためか、ボロアパートを除けば、ほとんど昭和40年代の風景が出現しない。それからタイムスリップ時の映像も、大昔のTVドラマ風でかなりチープである。また中だるみというのか、恋愛ドラマに力点を置き過ぎた結果なのか、母から頼まれた人物探しも中途半瑞だった。
 しかしながら、探していた人物が登場してからは、急にテンポが良くなり、ストーリー展開も面白くなる。ただタイムトラべルファンとしては、もっとパラドックス風味も織り込んで欲しかったな。もしかすると、脚本創りをした人が、タイムトラべルには余り興味がなかったのかもしれないね・・・。

評:蔵研人

ジョゼフィンと魔法のペンダント3

製作:2005年 デンマーク 上映時間:80分 監督:カルステン・マイラルップ

 まさにお子様ランチとしか言いようのないほど、安上がりなデンマークのファンタジー作品であった。オープニングでは、少女ジョゼフィンがタイムマシンで、少年時代のキリストに会い、友達になったとナレーターが告げるのだが…。

 そしてまた悪魔のタイムマシンを使って、BFのオスカーと一緒に過去の世界へ旅立つ。このタイムマシンは、ただのペンダントで、これを身につけて過去の時代の品物に手を触れると、その品物が存在していた時代に跳んでゆけるという魔法のような代物である。また現代に戻るには、単にペンダントに触れればよいという、非常にシンプルで便利なタイムマシンなのだが三回しか使えないのだ。

 さて果して前作があったのか不明だが、少なくとも本作では、キリストと友人になったという前置きは、全く意味を持たない。それにしても、TVドラマ並の低予算で雑な脚本なのだが、タイムトラべルファンなら、一応タイムパラドクスも設定されているので、そこそこ楽しめるだろう。

 タイムスリップした場所は、オスカーの祖先が住んでいた場所であり、そこで病死したはずの少女を救ってしまうのだ。歴史を改編してしまったために、現代に戻るとオスカーの祖父が生まれていない事になってしまった。当然オスカーも生まれるはずがないので、彼の姿がだんだん消え始めるのだ。ここいらは、完全にバック・トウ・ザ・フィーチャーのパクリだろうね。
 それでもう一度過去に戻るのだが、今度は現代の薬を持ちこんだジョゼフィンが魔女裁判にかけられ、火あぶりの刑に処せられることになってしまうのだ。さてジョゼフィンの運命やいかに…。

評:蔵研人

13ラブ304

製作:2004年 米国 上映時間:98分 監督:ゲイリー・ウィニック

 2004年に製作された作品で、全米でヒットを記録したのに、なぜか日本では劇場未公開だったようだ。13歳の少女が大人に憧れるうち、少女の心のまま、30歳の自分に乗り移ってしまうという、ラブファンタジー作品である。

 過去にトム・ハンクスが演じた『ビッグ』という似たような映画があるが、本作は『ビッグ』のように自分が大人の体になるだけではなく、周囲も同じように変化しているということ。つまり17年後の世界の自分に、精神だけタイムスリップしてしまうというお話なのである。

 タイムスリップ理論からすると、いろいろとあげ足取りが出来る展開なのだが、コメディーなので、この際細かい事にこだわらずに、気楽な気持ちで鑑賞しようではないか。マドンナやマイケルの曲も、実にノリが良く楽しかったぜ。

 もしもあの時こうすれば、と後悔しても時間は戻せない。だがこの映画では、そんな後悔やストレスも吹き飛ばしてくれるので、とても幸せな気分になれる。そして主演のジェニファー・ガーナーが、とてもキュートで可愛いのだ。
 笑いあり、涙あり、その中にちょっぴり教訓もあって、逆転また大逆転の展開も納得出来てしまう。よかったら、DVDをレンタルして、恋人と一緒に観てみようではないか。

評:蔵研人

未来形J 3

著者:大沢在昌

 携帯電話配信で連載された小説だという。著者の大沢在昌の作品は初めて読んだのだが、私には余り縁のないハードボイルド系の『新宿鮫 無間人形』で第110回直木賞を受賞している。
 本作はハードボイルドではなく、ファンタジーなのだが、終盤になってヤクザが登場すると、それまでおとなしかった文章がたちまち活々としてきた。やっぱり著者はハードボイルド作家なんだね。

 ストーリーのほうは、未来世界から助けを求める「Jという名の少女」を救うため、物理学者・小説家・占い師・高校生・女子中学生の5人が結束して謎を追う、という展開である。なぜこの5人が選ばれたのかは、読んでのお楽しみだが、それぞれの特技を生かすためとだけ言っておこう。
 正直言って、SFとかファンタージーとしての完成度は余り高くはない。なんだか、大人を巻き込んだ「学園ミステリードラマ」といった香りもする。だが最終章を一般公募するという、画期的な企画により、ラストでだいぶSF色を施し、やっと少し挽回することが出来たようだ。

評:蔵研人

フィッシュストーリー 映画4

製作:2009年 日本 上映時間:112分 監督:中村義洋  原作:伊坂幸太郎

 1975年に、先取りし過ぎてヒットしなかったパンクバンド「逆鱗」の、最後の曲が『FISH STORY』。この曲の途中には約1分の空白があり、その空白の中で女性の叫び声を聞いた者は、将来世界を救う英雄になるという。

 1982年には、お人良しで気弱な大学生が、合コンで知り合った霊感女に、いつか世界を救うと予言される。そして帰りの車中で、『FISH STORY』を聞き、曲の空白の部分で女性の叫び声を聞く。奇妙に思い車外に出ると、近くの暗闇で意外な出来事に遭遇してしまう。

 そして2009年、小さい頃から「正義の味方」になる訓練を続けていた青年と、女子高生が船上で知り合う。そこでいきなりシージャックに巻き込まれ、女子高生は犯人にピストルを付きつけられるのだった。

 いよいよ運命の2012年、彗星と地球の衝突まであと5時間と迫る。人類は確実に滅びるはずだ。ただ唯一残された希望は、5人の正義の味方の登場と心を打つ音楽だという。

 そしてこの4つの時空がリンクし、見事な結末を迎えることになるのだ。荒唐無稽な発想と、各所に散りばめられた謎、そしてラストにそれらを全て巧みに収束させる。まさに伊坂ワールド全開の、巧妙な脚本と演出ではないか。
 ちなみに『フィッシュストーリー』とは、「魚物語」ではなく、「ホラ話」という意味である。まさに本編そのもの!。

評:蔵研人

マジカル・ドロップス4

著者:風野潮

 中学時代に、今は亡き親友が、タイム・カプセルに遺した40粒の魔法のドロップ。オバさんになった菜穗子がこれを舐めると、甘い想い出とともに、肉体は中学生に逆戻りしてしまうのだ。だが一粒一回の効果は、たった2時間17分だけであった。
 そしてひょんなことから、息子の要が所属するバンドに、ボーカルとして参加することになってしまう。若かりし日の夢が叶うことは嬉しいのだが、たった2時間17分だけのシンデレラなのである。だがこの「2時間17分」というのがポイントなのだ。もっと長い間戻らなければ帰る家もなく、自分を知っている人もない「浦島太郎」のような孤独な世界に放り出されてしまうからである。

 このドロップの魔力は、タイムスリップという訳ではなく、肉体を一時的に若返させてくれるだけ。だから過去の時代に戻るのではなく、現在の自分の精神のまま肉体だけが若返るというしかけである。
 野部利雄の『タイムスリッパー』というコミックでも、やはり中年の主婦が急に高校生になってしまうのだが、こちらは肉体だけではなく、記憶や精神も過去の自分に入れ替ってしまうという設定だ。つまり過去の自分が現在(過去の自分からみれば未来に)タイムスリップしてくる(同時に現在の自分は別の時代にタイムスリップしてしまう)ということであり、本作の設定よりはかなり複雑である。

 逆にいえば本作の設定は単純で、どちらかといえばジュブナイル・ファンタジーの勾いがする。著者の風野潮は、1998年に『ビート・キッズ』で講談社児童文学新人賞を受賞しているので、彼の作風からして当然といえば当然なのかもしれない。
 タイムスリップものを期待すると裏切られることになるが、青春時代にやり残したことをやり遂げてみたいと考えている人には、必ず愛しい作品になるはずである。もしこんな魔法のドロップがあったら、貴方ならどう活用するかな?僕の場合は、若返りではなく一時的に「時間のスピードを変えるドロップ」か「スーパーマンになるドロップ」が欲しいな。

評:蔵研人

バタフライ・エフェクト3/最後の選択3

製作:2009年 米国 上映時間:90分 監督:セス・グロスマン

 第1作目が秀作であったため、いつの間にかシリーズ化されてしまったが、第1作目以外は全く別のコンセプトを感じる。第2作は罵倒され、本作はやや持ち直しとのレヴューが多いが、第2作も第3作もともに期待外れであることに変わりがない。
 本作はSFとかファンタジーではなく、スプラッターホラーに成り下がってしまった。またエログロはいただけないし、全く必然性も感じられない。単に監督の好みなのだろうか。

 それから、タイムスリップするためのインフラも、初めはバスタブとコードとパソコンが必要だったのに、いつの間にかバスタブと氷だけになり、最後は何もないところでタイムスリップしてしまうのだ。一環性が全くなく、ラストも夢落ちのような、ホラーのラストシーンのようなあいまいな幕の引きだった。
 第1作のネームバリューだけに頼って、レべルの低い続編を出し続けられるのも、多分もう一回だけだな。私はもうこれでこのシリーズは見納めにしたい。といいつつも、結局もう一回位は観ることになるのだろうか。

評:蔵研人

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