著者:筒井康隆
もうかなり前の作品だが、筒井康隆の書いた、『家族八景』、『七瀬ふたたび』、『エディプスの恋人』という小説群がある。この3作は、全作が火田七瀬という、テレパシー能力を持つ美女が主役のSFで、『七瀬3部作』とも言われている。
『家族八景』は、七瀬が八軒の家のお手伝いさんをしていた頃のお話で、SF版『家政婦は見た』のようなオムニバス短編集である。彼女はテレパシー能力に勘づかれないよう、お手伝いさんとして8つの家庭を転々とする。超能力者ゆえに、それぞれの家庭に散在する欲望や狂気を読み取ってしまい、怒りと失望感を味わい葛藤してゆく。本書が三部作の中でも一番評価が高いようである。
『七瀬ふたたび』は、その続編であり、七瀬がいろいろな超能力者と出合ってゆく話。ここでタイム・トラベルが可能な超能力者と出会う。これもある程度連続性のあるオムニバス作品である。また『七瀬ふたたび』については、2010年に芦名星主演で映画化されているが、残念ながら余り評価は高くなかった。
そして最終巻の『エディプスの恋人』だけが、長(中)編で、作風もそれまでとは異なり、急にシリアスになってしまった。
そしてラストは宇宙だの神だのと、スケールも大きくなってくるのだ。だから、従来の展開を期待した筒井ファンには、余り評判が良くないようである。但し私の評価は決して低くはない。いろいろな展開があっても良いし、長(中)編で、じっくりと謎を解いてゆくのも楽しいと思ったからである。
評:蔵研人