タイムトラベル 本と映画とマンガ

 本ブログは、タイムトラベルファンのために、タイムトラベルを扱った小説や論文、そして映画やマンガなどを紹介しています。ぜひ気楽に立ち寄って、ご一読ください。

2019年08月

タイムトリッパー 幻遊伝2

製作:2006年 日本、台湾 上映時間:102分 監督:チェン・イーウェン 主演:田中麗奈

 珍しい日本と台湾の合作映画。主演は田中麗奈で、その父親役に大杉漣がキャスティングされている。
 台湾で漢方薬局を営む父と二人暮しをしている小蝶は、日本へ帰ることばかり主張し、いつも父に反抗的でわがままな娘だ。
 ある夜に、友達と忍び込んだ屋敷で、突然体が二人に分裂し、一方の体が過去の世界へタイムスリップしてしまう。そこで瓜二つの女義賊と間違えられるのだった。

 そこで彼女は、脱獄した二人組の若者と、キョンシー二体を操る道士と知り合い冒険の旅を続けるのだ。現代に取り残されたもう一方の体は、眠ったまま動かず、父親が心配して見守っている。
 果たして彼女は現代の世界に戻って来ることが出来るのか。彼女が元に戻るには、過去と現代で同時に同じ呪文を唱えなくてはならないのだ。

 タイムスリップすること自体に意味があるのか疑問な作品。またアクションシーンも地味だし、ラストの捻り技もない。見所は中国語で喋る田中麗奈だけかな・・・。田中麗奈ファンにならお勧め出来るが、今一つ乗りの良くない映画である。

評:蔵研人

陽だまりの彼女4

著者:越谷オサム

 広告会社に勤務する奥田浩介は、クライアントの担当者との顔合わせで、偶然にも中学の幼馴染である真緒と10年振りで再会する。
 中学時代は少し頭の足りない少女だった真緒は、バリバリ仕事をこなす立派社会人に成長していた。大変身した真緒を目の当たりにした浩介は、次第に惹かれてゆき、ついには彼女の虜になってゆく。

 最初から最後まで、これでもかと言わんばかりの甘いムードと、イチャイチャの連続に、読んでいるほうが恥かしくなってしまう。だが主人公同様読者のほうも、少しずつ彼女の謎めいた行動が気になってくる。
 裸で町を歩いていたという少女時代の噂。里親に引取られる前の中学以前の記憶が全くないこと。あれほど低能だったのに、東大をめざすほど優秀になったこと。などなどまた浩介と結婚した後も、次々と不可解な行動をする真諸…。

 一体彼女は何者なのだろうか。異星人なのか、タイムトラべラーなのか、それとも何か特別な事情があるのか。中盤くらいまでは彼女の正体と、この小説の括り方に大いに興味を持った。

 だが結局は『鶴の恩返し』だったのだ。表紙をみればすぐ判るし、タイトルもそのことを示唆している。これでは余りにも素直過ぎるじゃないの、もう少し捻りの効いたエンディングを期待していたのにね。
 でも恋する嬉しさ、楽しさ、切なさ、哀しさがひしひしと伝わってくる、青春時代が甦る心温まるお話であることは確かである。このお話を読んだ読者は、きっと妻や恋人が愛しくなるはずである。

評:蔵研人

アインシュタインガール2

製作:2005年日本 上映時間:82分 監督:及川中

 大層なタイトルの割にはお気楽でマンガチックな作品である。主な出演者は、岩佐真悠子、小松愛、福士誠治といったところ。ことに主演の岩佐真悠子の我がまま振りが、演技というより地のままのようで、まさにはまり役であった。

 ユー力リが丘に住む女子高生の今西薫が、通学途上のモノレールの中で、1年前の世界へタイムスリップするお話である。またそれは母親が交通事故死する二日前の世界でもあった。
 二日後の母の死を阻止するため、薫は事故現場に向かうのだが、そこにはタイムスリップする前に何度か見かけた「髪の長い少女」が現われるのだった。この少女の顔はハッキリせず、なんとなく不気味なのだ・・・。

 SF、ホラー、学園ドラマをごちゃまぜにし、テーマの定まらない、訳の判らない作品に仕上げたスタッフたちの罪は大きいよな。またラストに「つづく」と表示されていたのも、全く意味不明である。

評:蔵研人

EVENT162

製作:2006年 ニュージーランド 上映時間:80分 監督:デレック・ピーアソン

 なんだか米国TVドラマシリーズのようなタイトルだが、れっきとしたニュージランドの完結作品である。評判の悪い作品であることは承知していたが、テーマが私の好きなタイムトラベルなので、見逃す訳にはゆかないのだ。

 オープニングで、三菱パジェロが掘りだされるシーンが飛び込んでくる。この理由は中盤に明かされるが、とにかく驚いたよね。つまり三菱自動車がスポンサーなのであろう。

 低予算映画ではあるが、セピア色の過去の世界はなかなか趣きがあった。ただタイムパラドックスには、余り期待しないほうが良いだろう。それから、腕輪をすることにより顔を変えられるという設定に至っては、もうハチャメチャである。分身の術よろしく三人の同一人物が、同画面に一斉に現われたり、未来の自分だったり、全く訳がわからない。
 観ていて退屈はしないが、ストーリー展開も演出も、まるで思い付きのようで、知らぬ間に終ってしまったという感じである。

評:蔵研人

TIME CRIMES4

製作:2007年 スペイン 上映時間:88分 監督:ナチョ・ビガロンド

 登場人物がたった4人という、超低予算のスペイン映画で、日本の劇場では未公開なのだが、なかなかアイデアが面白く見応えがあった。
 邦画で『サマータイムマシンブルース』という珍品があったが、似たような味わいがある。流石にプロの目は鋭く、すでにD・クローネンバーグ監督によるハリウッド版のリメイクも決定しているという。

 スト一リーはいたってシンプル…郊外に引っ越してきた小太りオヤジが、二階の窓から向かいの森を双眼鏡で覗くと、裸の美少女が写るのである。気になって仕方がないオヤジは、妻が外出するのを待って森の中に入ってゆく。
 そして森の中でスッポンポンの少女を見つけて近づくと、いきなりピンクの包帯を卷いた怪しい男に襲われるのだ。驚いたオヤジは必死で森の奥にある研究所に逃げ込む。

 そして研究員に言われるまま、白いマシンの中に身を隠すのである。このマシンこそ研究中のタイムマシンで、オヤジは1時間前の過去へ戻されてしまうのだ。
 このあと過去の自分を発見し、何度か同じことを繰り返すうち、今まで謎だった出来事が、序々に解明されてゆくのである。ストーリー自体はシンプルなのだが、自分が何人も登場したり、メビウスの輪のように捻れた構成なので、よく観ていないと意味が判らなくなるので注意しよう。

 それにしても、この精密なパズルのような作品をよく考えたものである。また主人公のオヤジのとぼけた行動が、なかなかいい味を出していたと思う。

評:蔵研人

ホワイトクリスマス 恋しくて、逢いたくて3

製作:1999年 韓国 上映時間:100分 監督:ソン・ヘソン

 原題は『カラー』なのだが、日本では花の名前を連想しないため、『ホワイトクリスマス』というありふれた邦題に変更したのだろう。『カラー』とは「歓喜、熱血、純潔」などの花言葉を持つアフリカ原産の清楚な花の名前だという。本作では主人公のキム・ソヌクのデスクに、謎の女性から毎朝届けられる花の名前でもある。

 オープニング…、イヴの夜にホテルのラウンジで女性が人質にされ、それをキム・ソヌクが助けようと必死で駈けつけるシーンで始まる。女性はソヌクと待ち合わせをしていた花屋のジヒであった。
 ジヒがどうなったかも明かさないまま、その後すぐに3年後のイヴの前日に話が飛んでしまう。そしてすぐに、3年前にソヌクがバスの中で、涙を流すジヒに一目ぼれしたシーンへと移るのだ。
 その後約30分間位、過去の回想シーンが続き、またオープニングの人質シーンへと戻る。そこで初めてジヒが殺されたことが判り、ソヌクは悲しみにくれる。

 そしてまたまた3年後に戻り、思い出のラウンジからエレべーターに乗るソヌク…。そこで「あの日をやり直し、彼女ともう一度逢いたい」と強く念じる。するとエレべーターが、一瞬6階から7階へ戻り、また6階に戻って静止するのだ。暫くして扉が開くのだが、そこは3年前の世界だった。
 この辺りまでは、過去と現在を頻繁に往復するため、一度観ただけでは何が何だかさっぱり判らない。従って映画館で観るより、DVDで観たほうがよいだろう。

 3年前の世界に戻ったソヌクは、ジヒを救うためにあらゆる手を尽くすのだが、なかなか思うように進展しない…。このあとジヒの同僚スジンの回想により、いままで不明だった物語の全貌が解明される。
 SFとラブストーリーとミステリーをミックスしたような作品で、なかなか凝った筋立てになっている。映像は美しいし、ロマンチックで切ない音楽にも、うっとりさせられてしまう。

 ただタイムトラべルに関しての検証が甘過ぎる。3年前に戻ったのは、ソヌクの意志だけなのか、それとも身体ごと戻ったのかはっきりしない。身体ごと戻ったのなら、3年前の自分と遭遇しないのはおかしいし、意志だけなら香港への出張命令がないのも変である。

 またストーリー展開からも、タイムトラべルものに仕立てる必要もなかったと思う。とにかくあれだけ回想シーンが多いのだから、そもそもタイムトラべルという技法は不要ではないだろうか。
 キム・ソヌク役のソン・スンホンは、本作が映画デビュー作の新人で、その甘いマスクは女性を虜にしそうである。だがさすがに演技のほうにも、あどけなさが漂うのは仕方ないか。

評:蔵研人


時空を超えて4

著者:亜沙木るか

 フランスのギヨーム・ミュッソが書いた同名小説とは全く別物で、本作は亜沙木るかが書くイラストを多用した講談社X文庫である。当然ながら、ティーンズ向けの「学園SFラブストーリー」といった風味だ。読み始めたときは、多少バカにしていたのだが、これが結構面白い。そして読み易いので、通勤の行き帰りで、あっという間に読破してしまった。

 彩木学園高校に入学した主人公の千尋は、部長の河世先輩に憧れて、全く興味のない「オカルト研」に入部してしまう。そして自分から河世に告ってつき合い始めるのだが、ひょんなことから未来にタイムスリップし、河世が事故で死んでしまう事を知る。これを阻止するため、千尋は今度は過去へ跳ぶ。

 タイムパラドックスが生じるため、過去は絶対変えられないとする理論が主流であるが、パラレルワールドの存在を認めることにより、過去は変えられるとする理論もある。
 では本作はどちらに属するのか。だがそれを明かしてしまうとネタバレになるので、そこは読んでのお楽しみということにしたい。楽しくちょぴり切ないお話が好きな女性に、是非お勧めしたい作品である。

評:蔵研人

ステップ4

著者:香納 諒一

 西澤保彦の『7回死んだ男』というミステリーがあるが、本書では主人公の斎木章が10回も死ぬのだ。基本はSFミステリーだと思うのだが、どちらかというとハードボイルドタッチでもある。
 死んでしまうと、また過去に戻ってやり直しが出来るのだが、何時間前に戻るのか判らないうえに、だんだん過去に戻る時間が短かくなってゆくのだ。従って取り戻せない失敗も発生してしまう。それがこの繰り返し小説を、飽きずに読ませる仕組みなのだろう。

 過去への繰返しを描いた小説の代表は、ケン・グリム・ウッドの『リプレイ』と、北村薫の『ターン』であろう。また映画では、何といってもビル・マーレーとアンディ・マクドウェルの『恋はデジャ・ヴ』の右に出るものはないだろう。
 ただ本作のようなハードボイルド系の繰返し作品は初めてであり、非常に楽しく読ませてもらった。また緻密に計算され尽されたスト一リー展開も見事である。

 だがやはり、10回もミスを犯して死んでしまう主人公にはイライラが募る。なんだかしつこい気もする。それに、せっかく美女が二人も登場するのに、濡れ場が全くないのも淋しいじゃないの・・・。
 繰返しのほうは10回ではなく、せめて5~6回位で十分である。もしかして、西澤保彦の「7回」に張り合って、10回に引き伸ばした訳ではないだろうな。

評:蔵研人

時間をまきもどせ4

著者:ナンシー・エチメンディ 翻訳:吉上恭太

 誰にでも失敗したことを取り消して、もう一度やり直したいと切望するときがあるだろう。この作品は、パワー・オブ・アンという携帯用タイムマシンを使って、そうした願いを叶えようとする少年のお話である。とても心温まるファンタジー系SFジュブナイルといえよう。

 主人公の妹が、犬を追いかけてトラックにはねられてしまうのだが、この事件を抹消するために過去に戻る。だが、なかなか思うように軌道修正が出来ない。妹が助かっても別の犠牲が生じてしまうからだ。
 ゲームのコンテニューなら、何度も繰り返しているうちに確実にゲームを終了することが出来る。だが人の世界はそう簡単にはゆかない。なにかが異なれば、因果律が狂って別の結果を生み出してしまうからだ。

 これをパラレルワールドと呼ぶのだが、人生とはなかなか難しいものである。児童文学とはいえ、いろいろと考えさせられる作品であった。
 大きい文字で約210頁の中編であり、ハラハラさせるストーリー展開なので、通勤の行き帰りであっという間に読破してしまった。タイムトラべルに興味のない大人にも薦めたい一冊である。

評:蔵研人

名前探しの放課後4

著者:辻村深月

 原因不明のタイムスリップで、3ヵ月先の未来から戻ってきた高校生の依田いつか。彼は3ヵ月先に同級生が自殺するが、それが誰だったのかは、どうしてもは思い出せないと言う。そこで彼は、これから起こる自殺を阻止しようと、仲間たちと協力して自殺者の名前探しを始める。

 タイムスリップという超常現象からスタートするのだが、本作ではタイムパラドックスなどにはほとんど言及していない。だからSF系の小説ではなく、タイムスリップは単に未来の自殺を阻止する、というテーマのための小道具に過ぎないのだ。
 はっきり言えば、「学園ミステリー」そのものなのである。女性視点で味付けが薄いので、おじさんには少々物足りなかったが、女性や学生たちには、爽やかな味が美味しいのかもしれないね。

 読み処は、真摯で清楚な同級生坂崎あすなと、鉄道マニアの同級生河野との友情。そして美味しい洋食を提供するグリル・さか咲の存在かな…。
 全二巻で途中少し中だるみの感もあるが、終盤の急展開とラストの大ドンデン返しは、なかなか面白いし見事だったね。ただ注文を付ければ、せめて一冊にまとめる程度の長さにして欲しかった。

評:蔵研人

靖国への帰還4

著者:内田康夫

 大平洋戦争末期、米軍機の本土空襲を阻止するため、残り少ない戦闘機「月光」に勇んで搭乗する武者中尉。だが健闘むなしく、空中戦で被弾して厚木基地に不時着する。
 そのまま気を失って、気が付くと基地の病院のべッドの中であった…。ところが見た事もない蛍光灯という照明器具があるし、敵の米国兵もいる、どうも妙な違和感を感じるのだ。

 次第に判ってくるのだが、武者中尉は昭和20年から、現代の世界へ愛機月光ごとタイムスリップしてしまったのである。同乗していた部下は、着陸時に死亡してしまったという。そのために、自分の存在とタイムスリップを証言してくれる人間が不在となってしまった。
 だが月光の存在を含めて、武者の話を信じないと辻つまが合わなくなるため、国家としても武者のタイムスリップを信じざるを得なくなってくる。この件については、国家的極秘事項として扱われていたが、月光の墜落現場を見た者や米軍兵の口から、次第に噂が広まり、マスコミ達の興味を惹くことになってしまう。
 当然、武者の外出は禁止され、狭い基地内だけの不自由な日々が続いていた。ところが、突然中越大地震が勃発し、マスコミの興味がそちらに移ってしまったとき、やっと武者の外出が許可される。もちろん武者の最大の希望は、靖国神社参拝であった…。

 このあと、過去の軍人からみた靖国神社論が展開されるのだが、なかなか判り易く説得力のある論理である。またA級戦犯についても、戦争に負けたからこそ大罪人扱いされるが、もし日本が勝っていれば、マッカーサーこそA級戦犯になったはずだ…と小気味よく持論をぶちまける。
 そしてお国のために身も心も捧げ、靖国へ軍神として奉られることを信じながら、散っていった同胞たちの心情を吐露するのだ。読んでいるうちに、なるほどと妙に納得してしまう自分が怖かったが、この問題には正解がないことも真実であろう。

 どちらかといえば硬派な作品であるが、初恋の女性との再会に絡むストーリーは、なかなかロマンチックでかつ興味深い。そしておばあさんになってしまったが、いつまでも武者の面影を抱いて生き抜いてきた彼女がいじらしいのだ。
 ラストのまとめ方は定石通りだが、武者の心情を考えれば、あれ以外には方法はないだろう。自分を含めて、現代の軟弱な男性と比較すると、まるでサムライのような戦前の男性。戦争経験のあった亡父を思い出し、とどめなく涙が溢れ出してしまった。
 人生とは国家とはそして青春とは一体何かを問う感動小説である。日米戦争の存在さえ知らない現代の青年たちにこそ、是非一読してもらいたい作品ともいえよう。

評:蔵研人

虹の天象儀4

著者:瀬名秀明

 古いプラネタリウムを使って、過去にタイムトラべルするお話。確かにプラネタリウムは、その神秘的でメカニカルな形状が、まるでタイムマシンのようだし、天空を写し出すのだから、時空も操作出来るような気分になってしまいそうだ。

 世界初の光学的プラネタリウムの開発を行ったのが、ドイツのカール・ツァイス社であることや、その性能とマニュアルの素晴しさと、整備・調節の判り易さを述べている。また日本におけるプラネタリウムの歴史についてもかなり詳細な記述がある。
 我国の第1号機は、昭和12年に大阪市立電気科学館(大阪市立科学館)に設置されたカール・ツァイス社製の23号機であり、当時はアジアで唯一のプラネタリウムとして、大阪の象徴的存在でもあった。

 東京での最初のプラネタリウムは、翌昭和13年に、有楽町の東日天文館(毎日新聞社)に設置されたカール・ツァイス26号機だという。だがこの26号機は、昭和20年に米軍の空襲により焼失し、東京でプラネタリウムを楽しむには、戦後の昭和32年に渋谷に五島プラネタリウムがオープンするのを待たねばならなかったのだ。
 当時この五島プラネタリウムは大人気で、小学生の校外授業などにも使用されていた。だが残念なことに、東急文化会館取り壊しとともに、平成13年にその姿を消してしまったのである。

 そのほかにも、プラネタリウムに関するメカニカルな記述が詳細に述ベられている。薬学博士号を持つ著者ではあるが、それにしても、プラネタリウムに対する熱烈な愛情がなければ、これほどの知識は得られないだろう。
 物語のほうは、渋谷のプラネタリウム閉館式の後に不思議な少年が現われ、主人公のプラネタリウム技師を、過去の世界へ誘うというメルヘンチックな中編小説である。

 織田作之助をはじめ、懐かしい著名人の実名がバンバン登場する。これはもう、SFとかタイム卜ラベルと言うより、五島プラネタリウムへのオマージュであり、昭和ノスタルジーへの回想録と言ってもいい作品である。ある意味で「ムード小説」とでも呼ぼうか。なんとなくこれが、長野まゆみの『天然理科少年』とか、マンガ家・谷口ジローの『遥かな町へ』などと雰囲気が繋がるんだな…。

評:蔵研人

ポンコツタイムマシン騒動記4

著者:石川英輔

 町の発明家先生が、廃品回収した電機製品を利用してタイムマシンを作りあげ、娘のトキ子とラーメン屋の三郎少年を乗せて過去に旅立つ。コミカルなジュブナイルで、舞台はたったの2ヵ所、登場人物も10人以下という、映画ならばさしづめ「超B級低予算映画」といったところか。

 ストーリーも単純で、同じ場所を行ったり来たりするだけである。これは舞台劇にはおあつらえ向けだね。ところがタイムトラベルファンにとっては、この単調さがなかなか味わい深いのである。
 同じ場所といっても、時間軸と次元が異なるため、正確には違う場所になるのかもしれない。その同じような場所での微妙な変化を楽しむのが、タイムトラベルファンの醍醐味なのだ。

 これはバック・トゥ・ザ・フューチャーの、主人公マーティーを取り巻く人々の変化と、ある意味似ているよね。しかし決定的に違うのは、本作ではタイムマシンで跳ぶ世界は、全てがパラレルワールドだということである。この設定には少しイライラするのだが、現状の理論では一番矛盾の少ない設定なのだろう。
 ちなみに、バック・トゥ・ザ・フューチャーの場合も、ある意味パラレルワールドに近いのだが、両親が結ばれそうもなくなると、マーティーの写真が消えそうになる発想は、パラレルワールドではない感じでもあり、いまひとつはっきりしないんだね・・・。

 さてこの小説は、1979年に朝日ソノラマから出版され、その後の2003年に大幅に改訂して講談社から再版されたという。朝日ソノラマ版を読んでいないので、どの部分を手直ししたのかは判らない。
 しかしほのぼのとした時代背景はともかくとして、タイムトラベル理論には余り古さを感じないことからして、そのあたりを直したのかもしれないね。また、あさりよしとお氏が描くイラストの雰囲気も、本書のイメージにピッタリとはまっていると思う。

評:蔵研人

トムは真夜中の庭で5

著者:アン・フィリパ・ピアス  翻訳:高杉一郎

 ジュニア向けタイムトラベル小説の代表作である。中古書店ではどうしても手に入らなかった幻の名作。ところが図書館では簡単に借りることが出来てしまった。なんだ初めから図書館を探せばよかったんだな・・・。
 弟ピーターがはしかに罹ってしまったため、トムは夏休みに、親戚の家にあずけられてしまう。叔父さんと叔母さんしかいない親戚の家は、子供のトムにとっては退屈で、夜もなかなか寝付けない。すると、玄関の大時計が13時を打ち、家の外の世界は一変する。そこに大きなイチイの木と、広く美しい庭園が出現し、クラシカルな服装をした少女が遊んでいるではないか。

 ところが朝になって外に出ると、そこにはあの庭園は存在せず、そこにはごみ捨て場と駐車場しかなかった。もちろんあの少女も住んでいるはずがない。あとで判ることだが、あの美しい不思議な庭園は、ヴィクトリア時代の庭園であり、真夜中の暗闇にしか存在しない世界だったのだ。
 少女の名前はハティといい、小さい頃に両親を亡くし、親戚の叔母さんのお屋敷に引取られた。彼女は三人の従兄弟たちと一緒に住んでいたが、年が離れていることもあり、いつも独りぼっちで遊んでいたのである。そしてなぜか彼女だけが、トムの姿を見たり、トムと話をする事が出来るのだった。

 トムはこの美しく広大な庭園が大好きになり、ハティと二人でいろいろな遊びを興じてゆく。こうしてトムは、毎晩皆が寝静まった頃、家のドアを開けて、この別世界でハティと一緒に遊ぶことになる。
 何度もこの世界を訪れているうち、トムはこの世界では時間が乖離していることに気付く。あるときはもっと小さい頃のハティ、そしてあるときは大人になったハティ。そしてどんな時でも、ハティはトムを待ってくれていた。
 なんだか、ジュニア版『牡丹灯篭』のような世界だが、決してハティは幽霊ではない。過去にハティが残したスケート靴が、トムの部屋の床下で発見されたのである。そのスケート靴を持って、トムは過去の世界で、ハティとアイススケートを楽しむことになる。

 それにしても、この小説は緻密に構成されているし、庭園やキャム川、イーリーの大聖堂などの描写も正確である。あとで判ったことだが、作者のフィリパ・ピアスは、この地方で、やはり大きく古いイチイの木が生えている家で育ったという。それでこの小説の舞台について、これだけ精密描写が出来たのだろう。

 ラストになって、トムがなぜこの不思議な世界へ進入することが出来たのかが解明されるが、ネタバレになるので、ここでは詳しく述べないことにしよう。ただトムが時を超えた世界を体験できたのは、子供の持つ純真な思いと無垢な愛情と想像力のお陰であるとだけ言っておこう。そして人は年をとるに従って、だんだんとまた子供の頃の心に戻ってゆくのである。
 いずれにせよその結末は実に感動的であり、いくつもの螺旋階段が見事一つに収束するかのような緻密な構造に誰もが驚くことだろう。最後にこの完成度の高い作品が、1958年のカーネギー賞に輝いていることを報告して筆を置く事にする。

評:蔵研人

ボトルネック4

著者:米澤穗信

 2年前に事故で東尋坊から墜落死した恋人を弔うために、同じ場所に立った嵯峨野リョウ。だが彼もバランスを崩して崖から落ちてしまうのだ。そして気がつくと、そこは彼女と初めて言葉を交わした金沢の公園であった。
 ところがそこは、彼が存在しない世界で、彼の世界では水子だった彼の姉が生きている世界だったのだ。姉のサキは想像力と行動力に優れ、全てにおいてリョウを凌いでいる。そして死んだ彼女も生きているし、最悪だった家庭も平和な状況だったのである。

 ここまでは、パラレルワールドの世界そのものだ。そしてリョウが存在する世界とサキが存在する世界を一つ一つ比較してゆく。
 なかなか面白い視点の小説だと思った。それでぐいぐいと引き込まれて、あっという間に読破してしまったのだが、終盤に再び東尋坊から帰ってきてからというものの、急に重苦しい展開となる。そしてタイトルのボトルネックの意味が解明されてゆくのだ。
 結局、作者は何を言いたかったのか。このタイトル通りに解釈するには、余りにもリョウが救われないではないか。単なるパラレルワールド小説に落ち着かなかったことは評価に値するかもしれないが、なんとも後味の良くない複雑な気分でもある。
 
評:蔵研人

ときのかけら 4

著者:君島孝文

 わずか180頁足らずなのに字が大きく、かつシンプルなお話なので、あっいうまに読み終えてしまった。はじめは、図書館の『時・特設コーナー』に展示していたことと、そのタイトルからタイムトラべル系のファンタジーかと思った。
 だがどちらかというと、大人も楽しめる青春ラブストーリーといったところか。タイトルの「時間」とのかかわりは、オープニングとエンディングだけなのだが、このちょっとした配慮がなかなか洒落ているんだな。

  そもそも時間とは不思議な存在だ。楽しいときの時間は、あっという間に過ぎてしまうし、辛いときは嫌になるほど長く感じてしまう。この感覚はたぶん誰もが共有している事実であろう。
 だから、冒頭で著者が言っているように、時間が不要な人の時間を保存して、使いたい人へ分け与えられたら効率的だとは思う。また時間の速度や方向をコントロールできたら面白いだろうなとも考える。それらが実現したら、全ての人々は苦悩も後悔もない極楽のような人生をおくれるのだろうか・・・。

 僕は決してそうは思わない。もちろん初めの頃は、嬉しくて楽しくてしょうがないだろう。だが、全てが予測出来てかつ変更出来る人生なんて、いずれは飽きてしまうに違いない。苦があるから楽があるように、初めは見えないものが見えるようになるから面白いのだ。・・・とは言ってみても、一度くらいは時間をコントロール出来たら嬉しいことも確かである。

 この小説がSFやファンタジーでないことは前述した通りだが、時間とのかかわりが重要なモチーフになっていることは確かである。「貴史が別れて淋しそうだったから、あたしも別れたの」という幼馴染み理香子の言葉が、最後まで胸に突き刺さって離れない。優柔不断だが優しい貴史の気持ちは判るようで判らない。でも最後には誰でも暖かい気持ちになれるのでご安心を。

評:蔵研人

15秒3

著者:安東能明

 僅か15秒の時間の遅れにより、鉄道、CATV、工場の機械に異変が起こり、2名が死亡してしまうことになる。ところがこの時間の遅れは、人為的に引き起こされたものであった。
 まるで神のように、時間を動かすことが出来る人間が存在するのか。完全時計とは一体何なのか。あたかもタイムマシーンのような装置を想像させる序盤の展開。

 だが結局は、かったるい小説だった。鉄道員の実態に鋭いメスを入れたまでは良かったのだが、それ以上のストーリーがなさ過ぎる。
 だから小説を読んでいる気がしない。鉄道と無線マニアの解説書を読んでいる気分なのだ。文節が極端に短い文章が、それに拍車をかけるようでもあった。アイデアは悪くないのだが、遺憾せん小説になっていないのが悔やまれる。

 とどのつまりミステリーであリながら、全くドキドキすることもなく、高揚感も味わないままラストを迎えてしまった。一体この小説で何を描きたかったのか、何を主張したかったのかが、よく見えてこない作品だったな・・・。

評:蔵研人


真っ白な図面とタイムマシン3

著者:笠原哲平

 原案はシンガーソングライターユニットの『Goose house』のアルバムである。また著者の笠原哲平は劇団TEAM-ODACの専属脚本・演出家であり、本作は青山円形劇場にて公演されている。どちらかというと小説というより脚本のような本である。

 引きこもり高校生が、事故で死んだ兄に会うためタイムマシンを創って過去に跳ぼうと決心するお話である。そこに兄の恋人、カフェの女主人、商店会理事長の娘、工場勤務のおじさんなどが協力者として関与し、なんとなく群像劇ぽいのだが、あまり深く追求せず、あっさりかつ淡々と話は展開してゆく。

 文字が大きく文章も平易で237頁程度の中編なので、あっという間に読破してしまったのだが、とうとうタイムマシンは完成せずに終了してしまった。過去へのタイムトラベルを期待していたためか、なんだか裏切られたようで拍子抜けしてしまうのだ。
 ただよく考えてみれば、これはあくまでも舞台劇用の脚本であって純粋な小説ではない。まあそう考えれば、そこそこ面白かった訳だし、腹も立たないであろう。

評:蔵研人

僕の彼女はサイボーグ4

製作:2008年日本 上映時間:120分 監督:クァク・ジェヨン 主演:綾瀬はるか、小出恵介
 

 未来からやって来たサイボーグとへタレ男のラブストーリー。大人版の『どらえもん』といったところだろうか。
 だが決して馬鹿にしてはいけない。笑いあり、涙あり、ド派手なアクションとSFXあり、そして音楽も良い、まさに娯楽の殿堂、究極のエンタメ映画に仕上がっているのだ。

 なんだ、なんだ!邦画でもここまで出来るじゃないか!と思わず唸ってしまった。また俳優もSFXも製作も日本人だが、監督だけが韓国人のクァク・ジェヨンという変り種の映画である。ということは、今まで優れたエンタメ邦画がなかったのは、全て監督のせいだという証明になるよね。
 『ゴジラ』、『デビルマン』、『あずみ』、『鉄人28号』、『少林少女』の監督たちは、この映画を観て大いに勉強してくれ給え。

 またこの映画の中で、主人公が故郷を訪れるシーンがあるが、これには思わず涙せずにはいられなかった。人は誰でも故郷があり、ノスタルジーを追い求める本能であろうか。
 知らぬ間に涙が溢れ出して、僕の心は熱くて熱くて堪らなかった。おばあちゃん、お母さん、そして故郷の町と、少年時代の友だちの姿が、僕の脳裏に津波の如く押し寄せてくる。だから、この過去のシーンだけは、全く別の映画を観ている感があったね。 

 それにしてもサイボーグ役のはるかちゃんが可愛い!おじさんは、この映画を観るまで彼女の存在を知らなかった。女優というより、アイドル系という感もあるが、かなりアクションをこなせるようだね。
 近々上映される『女座頭市』が楽しみになってきた。きっと彼女は、この映画を手始めにして、大ブレイクするに違いない。いずれ、今のところ第二部で頓挫している『あずみ』も演じて欲しいなあ…。と10年以上前につぶやいていたのだが、やはり彼女は大女優に成長してしまったよね。

 最後にタイムトラべルにつきものの、タイムパラドックスについて一言。はじめのうち、第1回目のタイムトラべルの意味が全く判らなかったが、終盤で見事に2回目との因果関係を解き明かしている。このあたりでも、僕の瞳は濡れっ放しだったよな。
 ところがラストシーンでの、3回目のタイムトラべルは、余計なお世話である。このあとの展開を、あえて描かないところは憎いが、もしハッピーなら未来への繋がりが消失する可能性が高いじゃないか!。そうすると現在の状況もなく、3回目のタイムトラべルもあり得ないことになる。
 それなら、はじめから無意味なラストシーンは不要だということになる。もしこのラストがなければ、満点を付けるつもりだっただけに、とても残念である。しかしそれにしても、素晴らしい映画であることには、変りがない。ホント、実はこんな邦画を一度観たかったんだよね!

評:蔵研人

カレンダーボーイ3

著者:小路 幸也

 『カレンダー・ガールズ』という英国映画があったが、本作は全くそれとは関係がないので念のため…。本作は、中年の男性2人が、同時に少年時代にタイムスリップして、あの3億円事件を阻止し、クラスメートの少女を救うというお話である。

 タイムスリップものは数々あれど、2人同時に心だけがタイムスリップし、毎日寝るたびに過去と現在を往復するという話は珍しい。浅田次郎の『地下鉄に乗って』とやや似てはいるが、心だけタイムスリップというところが全く異なっている。なおタイムスリップして三億円事件に関与するという展開では、清水義範の『三億の郷愁』そのものだが、犯人側と阻止する側という根本的な違いがある。

 また昭和時代のノスタルジーに浸るという展開では、広瀬正の『マイナスゼロ』を彷彿してしまう。なかなか楽しくて、一体どのような結末を迎えるのか、ワクワクしながらページをめくり続けた。
 だがラストの収束がかなり大雑把で判り難いのだ。なんだか急に面倒くさくなって、適当に幕を下ろしてしまった感がある。それまでは、かなり面白い話だったので、非常に残念な気分になってしまった。アイデアは素晴らしいし、実にもったいない作品である。本ブログの評点システムは、中間点が付けられないのだが、正確には★★★☆(3.5)くらいかもしれない。

評:蔵研人

シーオグの祈り4

著者:ジェイムズ・へネガン

 13才の少年が主人公で、少女マンガチックなカバーイラスト。あきらかにこの作品がSFジュヴナイルであることを語っている。
 過去と現在を行ったり来たりするお話なのだから、SFであることは間違いない。またジュヴナイルではあるが、大人が読んでも全く違和感がない。それどころか、1847年のアイルランド人迫害と彼等の貧困生活に、きっと大人達も心を痛めてしまうだろう。

 主人公のトムは、生まれながらの孤児であるが、里親に悪態をつき、食べ物は平然と店で盗み、何人もの里親の間を転々するたくましい少年だ。
 リバプールに住む彼は、同じ孤児のブランドンを伴って、教会裏にある墓地に忍び込むのだが。そこで自分だけが、ブラックホールのような、大きな穴の中に吸い込まれてしまうのだ。気が付くとそこは約120年前のアイルランドであった。

 過去で彼は、自分と瓜二つのダリーという少年の命を助け、ダリーの妹ハナや、彼等の優しい両親と知り合うのだ。そして過去の世界で、彼等と家族同様の生活を過ごすのだが、あるとき再び現代にタイムスリップしてしまう。
 何度か現代と過去を往復するのだが、その都度トムは成長し、いまだかつて経験したことのない人の愛情に触れることになる。
 そしてラストの大団円。これがなんとも嬉しい結末で、思わず涙ぐんでしまった。とにかく、心温まる良い作品に仕上がっている。

評:蔵研人

ルイスと未来泥棒3

製作:2007年 米国 上映時間:95分 監督:スティーヴン・J・アンダーソン  ジャンル:SFアニメ
 
 養護施設に捨てられた少年ルイスは、子供ながらに超発明狂で、マイペース人間。だがいつも、ロクでもないものしか発明出来ない。そのために、何度も養子縁組のチャンスを逃しているのだった。
 ある日、「忘れた記憶を呼び戻す」という奇跡的な発明をするのだが、タイムマシンで未来からやってきた山高帽の男に、その発明品を盗まれてしまう。それでルイスは、その泥棒を追いかけて未来へと跳んでゆくのだった。

 結局のところ楽しくて良心的な映画だったのだが、中盤までの退屈感は一体何だったのだろうか。前半「お子様ランチ」で、後半「お刺身定食」に、メニュー変更したのが原因かもしれない。
 それにしても、あの大雑把でカクカクした絵も余り好きじゃない。DVDでの鑑賞なので、3D仕様を楽しめなかったことも、かなり影響しているかもしれない…。

 いきなり文句ばかり垂れてしまったが、決して悪い映画ではないので誤解のなきよう。テーマが僕の大好きなタイムトラベルものだったので、期待過剰になり過ぎたのだ。
 かなり『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』を意識して作られているが、その結末においては異なっていたし、ディズニーらしい良い味を出していたと思う。

 ただ映画館での一回こっきりの鑑賞では、かなり判り辛いだろう。僕は幸いDVDだったので、何度か繰り返して観ているうちに、ストーリ一の全貌と製作者の狙いを理解することが出来た。
 とどのつまり、お子ちゃまには少し不向きかな。だからといって、大人にも諸手をあげて楽しめる作品とも言い難い。天下のディズニーにしては、珍しく中途半端なアニメを創ってしまったものである。

評:蔵研人

小袖日記3

著者:柴田よしき

 わたしは30歳目前のOL。上司との不倫が破局し、失意のどん底へ。さらに雷を浴びて、現代から平安時代に心だけがタイムスリップ。心の移動先は、紫式部の侍女である小袖ちゃんという設定である。この小袖ちゃんが紫式部の私設秘書となって、『源氏物語』の取材に飛び回るのだ。
 かくして著者のオリジナル・珍訳『源氏物語』の始まり始まり。さてその中味は、『夕顔』、『末摘花』、『葵』、『明石』、『若紫』の五作を並ベた連作短編シリーズになっているじゃないの。

 著者は男のような名前だが、れっきとした女流作家。おっと女流などと言おうものなら、「女性蔑視だ」などと騒ぎ出しそうな雰囲気がある。
 このウーマン・リブ系の著者は、よほど『源氏物語』が気に入らないらしい。そりゃあそうだ、世界最古の長編小説といえども、ぶっちゃけ光源氏というプレイボーイの女遊びを正当化したようなお話の集大成だからね。ウーマン・リブ思想の女性にとっては耐え難い屈辱なのだろう。

 ということで、本作はタイムスリップものとしては、ど素人の作品でSF的な構想は全くない。つまるところ『源氏物語』の気に入らない部分を自分流に手直しして、よしき版『源氏物語』を創ってしまったのである。
 これが著者の最大の狙いであり、これで彼女はだいぶ溜飲を下げたのではないだろうか。などと、勝手に著者のメッセージを解釈してしまったが、勘違いだったらごめんなさい。

 お話のほうは、こんな解釈もあったのかと思わせる構成の巧さに脱帽したし、文章も平易で現代流に綴っているので一気に読破してしまった。ことに『末摘花』の赤鼻の原因や『明石』の正体などは、一捻りした面白い解釈じゃないの。
 また庭を流れる小川が当時の水洗便所だったり、女性達はめったに立たず、膝を使って這うように移動したりと、平安時代の生活様式が判り易く紹介されていたのが印象的だった。
 ただ雷でタイムスリップをする、『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』そのままのパクリは、ちと安易過ぎるというか、全搬的にSFについてはやや勉強不足ですぞ…。

評:蔵研人

ふしぎの国の安兵衛4

著者:荒木 源
 江戸時代の武士が、現代にタイムスリップしてきて、現代女性と知り合い、そしてマスコミの寵児となる。このパターンは原田泰子の『満月』と全く同じではないか。
 ただ『満月』が甘く切ない純粋なラブストーリー仕立てなのに対して、本作はユーモア溢れるホームドラマという趣向である。基本的な構成は『満月』のパクリに近いが、本作は『満月』以上に面白い。だから二時間程度であっという間に読破してしまった。

 ストーリーは、キャリアウーマンのひろ子と息子の友也が、江戸時代からタイムスリップして、途方に暮れていた安兵衛を助けるところから始まる。その後安兵衛は恩返しのため、友也の世話と家事一切を引き受け、ひろ子にとって彼は必要不可欠な存在となるのだった。

 とにかく楽しく読ませながらも、一方では軟弱になった現代家庭をピリリと皮肉っているところに味がある。そしてさりげないラストの括り方もなかなか見事だったね。
 ところでこの本のセンスのないカバーデザィンにだけは参ったね。ちょんまげ姿のじゃがいも小僧が、寝ころんでいるイラストに、水色と黄色の背景というダサイセンス。最初このカバーをみて、思わず読むのをやめようかと思ったくらいだもの…。

 本書の著者である荒木源氏は、ほとんど無名の作家であるが、朝日新聞社を退社し、2003年に『骨ん中』という社会派ミステリーでデビューしている脱サラ作家である。今後の活躍を祈りたい。なお本作を原作とした映画『ちょんまげぷりん』が2010年に製作され、とても評価が高いので併せて鑑賞してみてはどうだろうか。

評:蔵研人


NEXT -ネクスト-3

製作:2007年 米国 上映時間:95分 監督:リー・タマホリ 主演:ニコラス・ケイジ

 2分先の世界が見透せる男が、テロの隠し持つ核弾頭を探し出し、アメリカ人200万人を救うために大奮闘するという荒唐無稽なお話である。まさしくアメリカンで大味で痛快な設定じゃあないの。

 ニコラス・ケイジ扮するショボイ奇術師クリスが、実はこのスーパーヒーローなのだが、正体がバレないよう、なるべく派手な行動は謹んでいる。このあたりのくだりは、まさしくスーパーマンのクラークケントだよね。
 ところがなぜか、FBIとテロ一味には、彼が未来を覗ける超能力者だと判っているのだ。映画のテンポを早めるためだと思うが、これがなんとも腑に落ちない設定なのよね。

 そんな訳で、結局スーパーヒーローとして超能力を十分に発揮するのは、終盤のほうに後回しとなる。それまでは、FBIとテロ一味につきまとわれての「鬼ごっこ」と落ちつかない。
 ただ、レストランでリズという美女と知り合いになるために、超能力を何度も繰り出すくだりはとても楽しいよね。だがそのあとすぐにべットインはないだろうな。まあ、とても可愛い彼女だったから不問に付してもいいけどね…。

 ところで、『ゴーストライダー』のときにも感じたけれど、もうそろそろニコラス・ケイジに派手なアクションは似合わなくなってしまったね。だって走っているときに、少しヨロヨロしていたじゃないの。ニコラス・ケイジファンのかた、ごめんなさいね。でも僕も彼のファンなのですよ。
 また、自分のことは2分先迄しか見えないのに、どうして彼女がかかわることは、ずっと先の未来まで見えるのだろうか。つまりそれが、「愛の力なのだよ」と言いたいのね。

評:蔵研人

秋の牢獄5

著者:恒川光太郎

 この本には三つの話が詰め込まれている。タイトルの『秋の牢獄』のほか、『神家没落』、『幻は夜に成長する』の三篇である。
 著者の恒川光太郎は2005年に『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞し、いきなり直木賞候補となった脅威の新人である。そのじっとりした美しい文体から繰り出す、ノスタルジックな世界観はやみつきになりそうだ。

 さて三つの話は、全く関連性のない別の話である。しかし全ての作品には、「監禁される」というテーマが根底に流れている。
 『秋の牢獄』は、映画の『恋はデジャ・ブ』や北村薫の『ターン』と同様に、同じ毎日が繰り返されてしまう話である。ただこの奇妙な世界に迷い込んだのは、主人公1人だけではなかった。
 そこには同じ状態の漂流者が何人も存在し、彼等はグループを形成していた、という設定が前述の映画や小説と異なる展開である。11月7日から翌日に行けないということから、ある意味11月7日の中に監禁されていると考えることができるだろう。

 『神家没落』に登場する古い家は、誰かが残らない限り、一度入ると絶体に外に出られない。そして代々誰かが犠牲になって、この家を守ってきた。外の人々は、その住人を神と呼ぶ。もちろん、これこそ監禁以外の何物でもないよね。
 『幻は夜に成長する』は、三作の中では一番もの悲しい作品だ。祖母から超能力を与えられた少女が、ある宗教団体の生き神様として、監禁されて生きるようになった過程を描く。きっと読者たちには、少女の不安と孤独と絶望感がひしひしと伝わってくるはずである。

 それにしても、本書の著者である恒川光太郎の力量は計り知れない。既存の作家にはない独特の感性とパワーバランスに酔いしれてしまった。1973年生まれと、まだ若いのでこれからが楽しみな作家である。

評:蔵研人

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