著者:香納 諒一

 西澤保彦の『7回死んだ男』というミステリーがあるが、本書では主人公の斎木章が10回も死ぬのだ。基本はSFミステリーだと思うのだが、どちらかというとハードボイルドタッチでもある。
 死んでしまうと、また過去に戻ってやり直しが出来るのだが、何時間前に戻るのか判らないうえに、だんだん過去に戻る時間が短かくなってゆくのだ。従って取り戻せない失敗も発生してしまう。それがこの繰り返し小説を、飽きずに読ませる仕組みなのだろう。

 過去への繰返しを描いた小説の代表は、ケン・グリム・ウッドの『リプレイ』と、北村薫の『ターン』であろう。また映画では、何といってもビル・マーレーとアンディ・マクドウェルの『恋はデジャ・ヴ』の右に出るものはないだろう。
 ただ本作のようなハードボイルド系の繰返し作品は初めてであり、非常に楽しく読ませてもらった。また緻密に計算され尽されたスト一リー展開も見事である。

 だがやはり、10回もミスを犯して死んでしまう主人公にはイライラが募る。なんだかしつこい気もする。それに、せっかく美女が二人も登場するのに、濡れ場が全くないのも淋しいじゃないの・・・。
 繰返しのほうは10回ではなく、せめて5~6回位で十分である。もしかして、西澤保彦の「7回」に張り合って、10回に引き伸ばした訳ではないだろうな。

評:蔵研人