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著者:亀和田武

 なんとロマンチックで、ファンタジックな響きを持ったタイトルなのだろうか。絶版になってしまった古い本だが、是我非でも読みたいという欲望に駆られてしまった。
 そこであちこちの古本店を探したが、なかなかこの本に巡り逢えない・・・。諦めかけていたとき、偶然ブック・オフでこの本を見つけた時は、思わず小踊りしてしまった。

 著者の亀和田武は、かなり昔に『劇画アリス』というエロ漫画雑誌の編集長をしていた時期がある。当時この雑誌は、自販機販売という画期的な販売方法を取り入れ、エロ御三家としてマニアの間では評価の高いエロ漫画雑誌だった。
 それらは、全て若かりし日の亀和田の手腕と人脈によるものだという。その後彼は、当時流行していたSF作家になり、その後ワイドショーのコメンテーターのような仕事もしていたようである。

 彼の作品は、ほとんどが短編であり、幻想的でシリアスなタッチと、荒唐無稽なドタバタ調の二つの味がある。シリアスなほうは、まるで文学青年が書いた私小説ような感じがして、とても清々しい味がする。それでなんとなく彼が寡作だった意味も分かった。
 さて本書は、わずか281頁の手軽な厚さであるが、その中には超短編も含めて、15編の作品が掲載されている。そのうち時間テーマSFと呼べるものは、『1966年冬、ハートブレイク・ホテル』、『時の因人』、『嫌われ者のルーツ』、『時間と街路』の4作だけである。

 『時間街への招待状』というタイトルから、全ての作品が時間テ一マSFだと思い込んでいたので、期待を外されてしまった。しかしながら、時間テ一マ以外の作品にも、かなり傑作が含まれていたので許すことにしよう。
 ことに、『海獣島』、『目覚めよと呼ぶ声あり』、『ア・ロング・バケーション』が、私のお気に入りである。時間テ一マのほうは、『時の因人』、『嫌われ者のルーツ』が、ドタバタ調で、『1966年冬、ハートブレイク・ホテル』、『時間と街路』がロマン私小説風という感じだ。
 私の趣味は、後者の二作のほうである。ともに青春時代に失った彼女への思いが、現在に繋がってくるお話だが、ストーリーとして優れている『時間と街路』より、むしろ『1966年冬、ハートブレイク・ホテル』のほうを選びたい。前者は切なくて心を打たれるものの、後者の「これから何かが変わりそう」な結末が好きだからである。

評:蔵研人