著者:梶尾真治

 タイムトラベルロマンスの第一人者である著者が、満を持して放った久々の『リリカル・ファンタジー・ロマンス小説』である。なんと本作を書き下ろしたのは、著者が70歳を目前とした2016年だ。それにしてもよくこの年齢で、こんな純情な恋愛物語を紡ぐことが出来るものだと感心してしまった。きっと著者はいつまでも若く、澄んだ心の持ち主なのであろう。

 春休みのことである。ぼくは祖父母が暮らす天草西の海沿いにある小さな町を訪れた。その町の外れにある『春待岬』には、町の人々との交流を拒絶するかのように、ひっそりと洋館が佇んでいた。
 だがその洋館には、大きな瞳に長く黒い睫毛をたたえた美しく優雅な、まるで妖精のような少女が住んでいたのである。
 ぼくは息を飲み、あっという間に彼女の瞳に吸い込まれそうになった。これがぼくの初恋、いや永遠の恋の始まりだったのである。
 だがその少女と逢えるのは、桜の咲いている間だけであり、さらに彼女はほとんど年を取らなかった。ぼくは時の檻に閉じ込められている彼女を、なんとしても救い出そうと必死に努力したのだが…。

 こんな感じでストーリーは進んで行き、一体これからどうなるのかと、するすると頁をめくり続けあっという間に読了してしまった。だが少女は年を取らないのに、ぼくだけがどんどん老けて行くのである。なんとも淋しくて切なくて、とうにもやり切れない。終盤のどんでん返しは用意されてはいるものの、やはり哀しい気分は晴れなかった。

評:蔵研人