作者:柏木ハルコ

 この作者の作品は、いつも悪女の存在がしつこいのと、主人公と思われる人物の主張がなかなか実現されないというイライラであろう。だからいつまでもストレスが発散出来ないのだが、次の展開が気になって続きを読みたくなるという矛盾した麻薬的な力を持っている。

 さてこのコミックのストーリーは、ワームホールを利用したタイムマシンの実験で、間違ってマシンに搭乗し、肉体は消滅したものの、心だけが末来に跳んでしまう女性研究員のお話である。
 この話の中で興味深かったのは、過去へのタイム卜ラベルは不可能というパラドックスを崩したことである。つまりタイムマシンで過去へ行けるなら、なぜ今まで未来人がタイムマシンでやって来なかったのか?という疑問が残る。
 その他よく言われる「親殺しのパラドックス」や、本人との遭遇などについては、無限にあるパラレルワールドの存在を認めることによって解消出来る。だが「なぜ今まで未来人が来なかったのか」の回答にだけは窮していたのである。

 ところが本作のタイムマシンは、過去と未来のワームホールの間しか移動出来ない。だから過去に行くにも、初めてワームホールが作られた日より以前には跳べないのである。
 これで「なぜ今まで未来人が来なかったのか」の回答が可能になるのだ。つまりタイムマシンもワームホールも、現状では発明されていないからだということである。いやはや簡単明瞭に解決したものだ。もし著者が考えたのなら大天才だが、多分どこかで仕入れた理論なのであろう。
 タイム卜ラベル・パラドックスが大好きな私にとって、このことだけで十分にこのマンガを読んだ価値があった。あとは読んでのお楽しみ。全5巻なので読み易くて気に入っている。

評:蔵研人