著者:リチャード・マシスン 訳:尾之上浩司
 映画のほうは、ご存知スーパーマンことクリストファー・リーブ主演で1980年に上映され好評だった。ところがリチャード・マシスンの原作本のほうは、世界幻想文学大賞を受賞したにもかかわらず、邦文翻訳されたのが2002年だというのである。
 従って私もこの本を手にするまでは、原作者がマシスンだとは思わなかった。マシスンといえば、ミステリーゾーンの脚本や『激突』、『縮みゆく人間』、『地獄の家』などで名を馳せており、まさか本書のようなラブファンタジーを書くとは思えない作風だからである。

 まずストーリーを簡単に紹介してみよう。
 脳腫瘍に冒され余命数ヶ月の主人公R・C・コリアは、あてのない旅の途中で立ち寄った古いホテルで、1896年にそのホテルの劇場の舞台に立った女優エリ一ズ・マッケナのポートレイトを見て一目惚れしてしまう。そして彼は、彼女のことやその時代のことをいろいろとと調べるうちに、75年前にこのホテルの宿泊者名簿に自分の名前を見つけるのだった。
 そのことがきっかけとなり、彼は必死で75年前に遡るように念じて、望み通りに過去にタイムスリップするのである。そしてついにホテルの近くにある海岸通リで、美貌の女優・エリーズに巡り合うことになるのだ。

 もしタイムスリップという現象さえなければ、この作品は恥しいほどバリバリの恋愛小説といえよう。またR・C・コリアがエリーズを求め続ける心の葛藤や、エリーズの乙女心が少しずつ変化してゆき、完全燃焼してゆくまでの描き方も実に見事である。
 これらの心理描写は、映画ではなかなか表現出来ない。まさに本書は、美しい映像で映画を観たあとに、じっくりと読み返して再び感動を得るためのアイテムといえるだろう。この際もう一度映画のほうも観直しておこうと思う。

評:蔵研人